Analysis
携帯電話サービスの閉じた世界とオープンな世界
2008/03/10
日本の携帯電話端末ガラパゴス論は、ある意味で携帯電話端末メーカーをバカにした議論だ。日本の携帯電話端末メーカーにとって携帯電話端末は数ある事業分野の1つでしかない。最終的にはもうかればやるし、もうからなければやめればいいのであり、最近では実際に、一部のメーカーから撤退発表が相次いでいる。さらに付け加えるならば、日本の携帯電話サービス事業者と付き合わずに、海外の事業者とだけビジネスをするという選択肢すらあるはずだ。
これらメーカーのつくる端末が日本以外であまり売れていないことを批判する必要はどこにあるのか。日本のケータイサービスは独自の進化を遂げてきており、その過程でハードウェアの進化も大きな役割を果たしてきた。イー・モバイル代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏は音声対応端末投入の記者会見で、日本固有の機能について「あれはグリコのおまけのようなものだ。そんなものを作っているから(日本の携帯電話端末の)国際競争力がなくなる」と答えたそうだが、日本だけの機能を備えることが悪いと批判するのは的外れなのではないか。批判されるべきとすれば、さまざまな形で携帯電話サービス事業者が端末メーカーに行使してきた支配力であるはずだ。
少なくとも国内では、iモードをはじめとするケータイコンテンツが大きく伸びたし、ケータイへの音楽配信の人気も高い。おサイフケータイのようなサービスを重宝だと考えている人も多い。こうしたサービスの開発は、携帯電話サービス事業者にとって当然のことであり、収益モデル多様化に向けた努力の表れともいえる。結果として日本が携帯電話サービスの高度化という点で世界でも傑出した存在になっていることを否定する人はいないだろう。
今後の携帯電話サービスと携帯電話端末を考える場合に、携帯電話サービス事業者における収益モデルの多様化はますます重要な意味を帯びてくる。問題は、「閉じた」サービスと「インターネット的」あるいは「オープン」なサービスからの収益をそれぞれどのように伸ばしていくかという点だ。
ソフトバンクモバイルの代表取締役社長兼CEO 孫正義氏は2月7日の記者会見で、当面は契約数拡大に力を入れるとしながらも、持論である「携帯のインターネット・マシン化」を改めて語った。しかし、単純に携帯電話からの自由なインターネットへのアクセスを実現するだけでは、ただでさえ料金競争で減少するARPU(1ユーザー当たりの平均利用金額)を引き上げることが難しい。
これについて孫氏は新たな収益源の例として、2006年3月のボーダフォン買収記者会見で、ヤフージャパンのショッピングやオークションからの決済手数料収入を挙げている。「インターネット的」でありながらもヤフーの日本法人をグループに持つ企業だからこそ実現できる手法だ。
これに対し、グーグルが推進する携帯電話端末用SDK「Android」は、あらゆるアプリケーションを平等に扱うオープンなプラットフォームであることがウリで、理想的に使われれば「インターネット的」で「オープン」と呼ぶにふさわしい。ユーザー同士が携帯電話サービス事業者の枠を越えて共通のアプリケーションを自在に使えるようになれば、ユーザーにとっては面白いし、グーグルだけを利するようなプロプライエタリな仕組みがAndroidに組み込まれていることはあり得ないので、携帯電話上でグーグルを含めた誰もが平等に「インターネット的な」サービスを競い合える場を作り出せるはずだ。
だが、グーグルが広告モデルをベースに、携帯電話サービスの土管化にもつながりかねない動きを仕掛けてくるとき、日本の携帯電話事業者はどう対応するのか。ソフトバンクモバイルははっきりと、グーグルはライバルだと明言している。ではグーグルと部分的ながら提携しているNTTドコモとKDDIはどうするのか。2社ともAndroidを推進する団体Open Handset Allianceにメンバーとして名を連ねているが、どこまで本気なのだろうか。この2社は、「インターネット的」なものから、どう収益を得ようとしているのだろうか。
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