[コラム:Spencer F. Katt]
ビッグブラザーが見ている

2005/6/21


 「さあ、出発だ」と、リムジンバスのドライバーに命じたのだが、彼は吾輩がジョン・ウェインを気取っていることなど、まったく意に介していなかったようだ。プログレス・ソフトウェアのExchangeカンファレンスのあったウォルト・ディズニー・ワールド・ドルフィン・ホテルから、マイクロソフトのTechEdが開かれているオーランド・コンベンションセンターまで、吾輩は先を急いだ。TechEdの会場に到着してみると、吾輩はセンター内部がフロリダの夏以上の熱気に溢れていることに気づいた。

 来場者たちの体温が上昇していたのは、胸のネームホルダーにRFIDタグを内蔵したラベルが付いていたからかもしれない。マイクロソフトの関係者が配っていた説明書には、「このラベルは個人を特定できるいかなる情報も含んでいません」と書いてあった。そしてRFIDデバイスは、「基調講演のデモンストレーションで利用されるだけです」ということだった。しかし、説明書は一方で、このデバイスがコンベンションセンターの体験ラボ、食堂、基調講演会場などでアクティブになるとも書いてあった。そのとき吾輩の脳裏には、ジョージ・オーウェルの「1984年」に描かれていた“二重思考(ダブルシンク)”の定義が浮かんだ。たしか、“対立する2つの意見を同時に持ち、矛盾を承知しながら双方とも受け入れる思考法”だったかな……。

 RFIDタグをつけた来場者には、抽選で5人にPortable Media Centerが当たるチャンスがあった。が、決してモニタリングしていないというマイクロソフトの説明を信用せず、ラベルをはがして捨てる人も少なくなかった。「来場者数が1万1000人ほどらしいから、Media Centerが当たる確率は、そうだな、マイクロソフトが“Longhorn”を予定通り出荷する確率と同じくらいか」と、ある来場者は吾輩に話した。

 妙に納得していると、ビッグブラザーへの不信感をかき消すかのように、吾輩の携帯電話からアラン・パーソンズ・プロジェクトの「Eye in the Sky」のメロディが流れた。電話をかけてきた情報屋の話によると、サーベガが大手スイッチ・ベンダと急きょ、OEM交渉を始めたらしい。同社のXML関連のセキュリティ、ルーティングおよびプロセッシング技術をベンダの製品に組み込ませるそうだ。シスコが先週、自社のスイッチ製品にタラリのXML技術を搭載すると発表したからな。そりゃ慌てるだろう。

 セッション会場に向かって広大なホールの中を歩いていると、同行の来場者たちが、どうしてセッションはどれもこれもホールの一番遠いところでやってるんだ、と口々に文句を言うので、彼らの怨嗟の声が聞こえないように、吾輩はiPodの音量を上げた。ちょうどロックウェルの「Somebody's Watching Me」をハモっているとき、デンバーのHP Software Forumを取材している同僚からインスタント・メッセージが入った。

 それによると、OpenViewのゼネラルマネジャー、トッド・デローターは、基調講演でこう話したそうだ。「HPはソフトウェア・ビジネスから撤退しつつある、などと真顔で言うアナリストがいたら、そんなことありえないってHPが断言してましたよ、と笑ってやりなさい」。デンバーでは、BMCソフトウェアがMainViewを捨て、メインフレーム管理ソフトウェア市場から撤退する、というウワサも飛び交っていたらしい。

 ジフ・デービスがノベルティに作ったオフィシャル万歩計を持ってくればよかったな、などと思いながら、吾輩は映画「オレゴンの勇者」に登場するデュークのように、セッションからセッションへと苦難の道を歩いた。きっとマイクロソフトは、会場で遭難する人が続出することを想定して、例のタグを配布していたに違いない。

*Spencer F. Kattのコラムは毎週月曜日(月曜日休日の場合は火曜日)の更新予定です

[英文記事]
Tag, You're It

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