ビジネスとオープンソースライセンス(前編)

オープンソースの理念を守り、コミュニティに貢献しつつビジネスを行うにはどうすればいいのだろうか。そして、そもそも無料であるオープンソースでビジネスをするとはどういうことなのか。

宮本和明
株式会社ホライズン・デジタル・エンタープライズ
2000/9/6

今回のおもな内容
オープンソースの起源
オープンソースライセンス、9つの条件
「オープンソースビジネス」とは、 「オープンソース周辺ビジネス」である
オープンソースビジネスのどこで儲けるか
コミュニティへ敬意を示すには
   オープンソースの起源

 どの分野でも、「お金儲けのためにモノをつくっている人」と、「お金儲けを考えずに、いいモノさえつくればよいと考えている人」がいる。今は経済社会なので、「お金儲けのためにモノをつくっている人」のほうが、何かと存在感が強い。流通を握っているのも「お金儲けのためにモノをつくっている人たち」である。だから、商用ソフトウェアはあっという間に市場に広まった。というよりは、ソフトウェア市場、という市場をつくってしまった。

 ところがインターネットが登場し、「お金儲けのためにモノをつくっている人」でなくても、簡単にモノを流通させることができるようになった。ただし、インターネットで流通させることができるものであれば、という条件付きだ。

 ソフトウェアはインターネットで流通できる。だから、インターネットの普及にともなって、「お金儲けを考えずに、いいモノさえつくればよいと考えている人」のいいソフトウェアが、世の中にかなりの存在感をもって流通し、台頭しはじめた。これが、商用ソフトウェアとオープンソースソフトウェアの確執の始まりだ。

 大事なところをずいぶんはしょったが、降ってわいたようなオープンソースのブームは、こんな感じで、起こるべくして起こったのである。

   オープンソースライセンス、9つの条件

 ここではまず、改めて「オープンソースソフトウェア」(以下、「オープンソース」と略す)とは何かを説明しよう。

 オープンソースとは、簡単にはソースコードが公開されているソフトウェアらしい、ということは、この記事の読者であれば分かっているのではないかと思う。しかし、正確にはどのような定義を持っているのか。Opensource.Orgに掲載されている定義の原文を要約しながら追ってみよう。

Opensource.Orgによるオープンソースの定義

 これによると、オープンソースの定義は9つのポイントにまとめられる。

1.再配布は自由。その際にライセンス料などを要求してはならない

2.プログラムはソースコードを含んでいなければならない。ソースコードでの配布も許可されていなければならない

 フリー、かつ、オープン。この2つがキモとなる部分である。この2点だけでオープンソースであるといわれることもあるが、厳密にはこの2点を満たしただけではオープンソースとは名乗れない。オープンソースの思想はソフトウェアが発展することを目指しているので、さらに発展が妨げられないような以下の条項が追加される。

3.派生ソフトウェアの作成を禁止してはならない。また、派生ソフトウェアを元のソフトウェアと同じライセンスの下で配布することを禁止してはならない

 オープンソースを基に改造した「派生ソフトウェア」は、どんなライセンスに従ってもよいが、同じライセンスでの配布を「禁止してはならない」ことになっている。のちほど触れるが、オープンソースライセンスの中でも最も理想的とされるGNU GPL(GNU Geleral Public License)ではさらにここが厳しくなっており、「派生ソフトウェアも、同じライセンスでの配布しか認めない」となる。

 そして派生ソフトウェアが発生したとき、どこまでが誰の名誉となるかを明確にするような条項も追加されている。それが次の4番である。

4.作者のソースコードの完全性を保つこと(改変に際して、オリジナルなソースが分かるようにしなければならない)

 さらに、ソフトウェアの発展を妨げる可能性のあるものや、ライセンスを悪意をもって回避しようとする方法を封じる条項がつづく。

5.個人やグループに対して差別してはならない

6.使用する分野に対して差別してはならない

7.何らかの追加的ライセンスに同意することを必要としてはならない

8.特定製品でのみ有効なライセンスとなってはならない

 最後に、他のソフトウェアには影響を及ぼさないことを記している。

9.他のソフトウェアのライセンスに干渉してはならない

 最後の条項が追加されている理由は2つあると考えられる。1つにはオープンソースのライセンス同士がコンフリクト(干渉)することを避けたということ、そして現実問題として、オープンソースそのものを利用しやすくしよう、という目的だろう。

 以上、9つの項目を満たす「オープンソースライセンス」はいくつかある。代表的なものとしては、「GNU GPL」や、「BSDコピーライト」がある。

おもなオープンライセンス 概要
GNU General Public License(GNU GPL) オープンソースライセンスの中でももっとも有名なライセンス
GNU Lesser General Public License(GNU LGPL) 非フリーなモジュールとのリンクを許可するなど、GNU GPLの条件をゆるやかにしたもの
X11ライセンス Xウィンドウシステムで使われている、単純かつ制限のゆるいフリーソフトウェアライセンス
BSDコピーライト 元々はカリフォルニア大学バークレイ校が開発したBSD OSのためのライセンス
Netscape Public License(NPL) ネットスケープのための追加条項などが加わっている

参考: http://www.gnu.org/philosophy/license-list.ja.htmlこのURLでは、オープンソース系のさまざまなライセンスについて解説している
GNU GPLを解説したWebページ
http://www.gnu.org/copyleft/gpl.ja.html

 一番完成されたオープンソースのライセンスは、GNU GPLであるといわれている。GNU GPLが前述のオープンソースの定義より厳しくなっている点は大きく2点ある。1つは、配布時にソースコードの添付を義務付けていること。もう1つは、一度GNU GPLのライセンスに従うと、そのソフトウェアの派生物は、未来永劫オープンソースでありつづけなければならないことである。

 後者に関しては、元となるソフトウェアを書いた作者自身が派生ソフトウェアを作成する場合も同様である。この点は、この先で触れる「オープンソースビジネス」に深く関係してくる部分だ。

オープンソースライセンスとしてよく知られる2つのライセンスの違い。BSDコピーライトのほうが制約がゆるい

 

   「オープンソースビジネス」とは、
 「オープンソース周辺ビジネス」である

 ライセンスについて理解していただいたところで、オープンソースビジネスの話をしよう。1年ほど前、Eric Raymondが、Linuxなどのオープンソースがなぜ今日のように成功したのかを論じた「The Cathedral and the Bazaar」(伽藍とバザール)が日本語に翻訳された。このあたりから、日本でもオープンソースビジネスの話題が増えはじめた。

 もちろん海外ではLinuxが盛り上がり、Netscape Communicatorがオープンソース化され、そして衰退し、などといった取り上げられ方も多く、日本でもその流れを受けてか一時期よりもオープンソースの勢いがやや停滞している感は否めない。研究者的な盛り上がりから、ビジネス的な盛り上がりへ移行しようとして、うまくいったという事例が示せなかったというのもある。

 しかしそもそも、オープンソース自体はやはり「ビジネスにならない」のである。

 なぜビジネスにならないかというと、それは至極単純なことで、無料で手に入るものだからだ。SendmailやApacheを有料でダウンロードできるサイトを立ち上げたとしても、誰もお金を払って購入などしないだろう(ちなみに、こういった販売は必ずしもGNU GPLに抵触しない。ただしライセンス料という名目での課金ではダメだ)。そのダウンロードサービスに、「セキュリティ保証」や「ダウンロード用回線確保」の付加価値が付けば、それへの対価を支払う人が出てきてビジネスになるかもしれない。しかし、それらはオープンソース自体に付いた値段ではなくて、「保証」や「回線確保」といったサービスに対する料金であり、つまり「オープンソース周辺ビジネス」である。

 オープンソースでビジネスをしようと言ったとき、業界内でまず考えられたモデルは「サポートビジネス」であった。オープンソースに関する質問を電話で年何回まで受ける、あるいは、オープンソースに関するコンサルティングおよび運用代行といったビジネスがあり得ると考えられた。これも「オープンソース周辺ビジネス」である。

 オープンソース周辺ビジネスは、実はすでに結構ある。出版はその最たる例で、ApacheやSendmailやPerlについての解説本は書店のコンピュータ関係の書棚に行けばあふれるほどある。同様に書籍ほどではないが、有料の技術セミナーについても、オープンソースまわりをテーマとしたものを見かける。

 一般的に「オープンソースビジネス」と言ったときに挙げられるものの多くは「オープンソース周辺ビジネス」であり、それらはすでに成立しているし、収益を上げているものもある。このことは私たちがオープンソースビジネスをとらえるときに前提として考えなければならない。
 その上で、ビジネスとしてオープンソースのソフトウェアそのものにかかわるのか、それともオープンソース周辺ビジネスにかかわるのかを決定する必要がある。

   オープンソースビジネスのどこで儲けるのか

 まずは、オープンソース周辺ビジネスについて考えてみよう。オープンソース周辺ビジネスにかかわるには、単純に「どこで儲けるか?」が明確になっていなければならない。
 例えば、

どこで儲けるか? オープンソースをどう利用するか?
本を売ることがメインのビジネス   テーマがオープンソース
サービス業務がメインのビジネス サービスを支援する対象がオープンソース
セミナー開催がメインのビジネス セミナーの教材となるのがオープンソース
別の商用サーバーソフトがメイン商品 クライアントソフトは自社製オープンソース

 といった具合である。

 あとは、メインとなる出版業やサービス業、セミナー業そのものに競争力などがあるかどうかが問題なのだ。オープンソースソフトウェアをテーマに選んだからといって面倒になる点は少ない。LinuxのサポートビジネスをすることをLinuxのライセンスが阻んだりはしないし、ビジネスを進めていく際に、Linuxの問題点を究明する必要があったとしても、その過程でどこかの会社に多額のお金を支払ったりする必要もない。儲かるビジネスになるかどうかは別にして、こうした意味では、例えばLinuxのサポートビジネスは、Windowsのサポートビジネスよりはるかに始めやすいと言えるだろう。

 そしてビジネスが実際に回りはじめると、今売っている商品の次に販売するべき商品、次に目指すべき市場が見えてくるものである。そうなったときのビジネスのスケーラビリティに関しては、オープンソースをテーマにした場合にはまだいくつか考慮すべき点がある。それは大きなテーマなので、次回にまわしたい。

   コミュニティへ敬意を示すには

 オープンソース周辺ビジネスに携わるにあたって、もう1つ触れるべき点があるとすれば、オープンソースを提供してくれた人々に対する感謝をどのように示せばよいかということだ。当社もオープンソースを利用して、ソフトウェア開発をしたり、システム構築をしたりしている。Apache、PHP、Perl、PostgreSQLといったソフトウェアを利用しているし、Linuxカーネルももちろん同様に利用している。

 これらのオープンソースソフトウェアはいまだに成長しつづけているし、そのために国内外の優秀な技術者が無償(またはそれに近い形)で動いている。メーリングリストに加入すれば彼らの声が聞けるし、問題を解決している姿が見えるし、実際に自分たちが直面した問題を解決してくれる場合もある。

 彼らは個人であることが多く、我々のような法人が個人に対して感謝を示すのは意外と難しい。彼らはオープンソースの精神にのっとって活動をしており、金銭の提供を個人として受けることは拒まれることが多い。オープンソースのリソースを使っていて、それをコミュニティに還元したいと思っていても、適切な方法が分からない法人は多いのではないだろうか。

 この解決方法として、「ユーザー会」といわれる非営利団体に対するサポートが行われることが多くなった。法人としてコミュニティへの感謝を示す場として、ユーザー会なるものがあれば、法人としても寄付がしやすいし、実際にオープンソースのコードを書いている人にも還元がしやすい。

 とはいえ、こうしたユーザー会のような非営利団体に対して、「お金のたまり場になって、よくないことが起こる可能性があるのではないか」と疑問視される方がいらっしゃるかもしれない。しかし、現在のところオープンソースコミュニティのユーザー会でそのようなことが起こったという話は聞いたことがない。彼らはお金のためではなくて自分の趣味や名声のために動いているし、万が一問題が発生しても、そうしたよくない噂はインターネットであっという間に広まることをちゃんと知っているのである。

 今回はオープンソースソフトウェアの定義と、オープンソースの周辺ビジネスについて述べてきた。次回は、自社製品の一部としてオープンソースソフトウェアを販売するような場合について考えてみる。

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Profile
宮本 和明 (みやもと かずあき)
株式会社ホライズン・デジタル・エンタープライズ代表取締役副社長。 東京大学文学部卒。在学中に黎明期のホライズン・デジタル・エンタープライズに参加。 97年11月、代表取締役就任。現行プロダクツの前身となるものを企画・開発。 現在は危機管理を中心として、全社的な管理業務を担当する。オープンソースソフトウェア の取扱いは重要な管理課題の1つであるという。

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