連載

Mobile Insider

第6回 ギネスにも登録されたPocket PC「iPAQ」の使い勝手

塩田紳二
2001/05/30

米国でWindows CEのシェアを押し上げたPocket PC

 最近の調査によると、米国のPDA市場では、Windows CE採用のPocket PCのシェアが1%程度上昇したという。その要因として、Compaqの「iPAQ Pocket PCH3600シリーズ(以下、iPAQ)」が好調であることが挙げられている。iPAQは、プロセッサにIntelのStrongARM-206MHzを採用したPocket PCで、ケース自体は小型でありながら、「ジャケット」と呼ぶ拡張モジュールによって、PCカードやコンパクトフラッシュなどのカード・スロットを増設できるという特徴を持つ(コンパックのiPAQの製品紹介ページ)。高速なプロセッサの採用によって、アプリケーションが高速に動作するため、従来のWindows CE採用マシンにあった「反応が鈍い」「動作が遅い」などのイメージが払拭され、企業向け販売などが好調であるという。2001年4月には、ギネスブックに「World's Most Powerful PDA(世界最速のPDA)」として登録されたほどだ。

 さらにこのiPAQは、フラッシュメモリにLinuxを入れてLinuxマシンとすることもできるなど、マニアックなユーザーにも十分受け入れられる素養を持っている(iPAQ対応Linuxのダウンロード・ページ)。

金属的なイメージで作られたiPAQ
写真を見ても分かるように、ジャケットを付けないと、かなりスマートな本体になる。拡張性をそれほど必要としないのならば、この状態で持ち歩けばよい。

 そのため、米国では、慢性的に品不足で、昨年から何度も米国に行った際に、いろいろなPCショップを探したものの、どこにも在庫がなかったほどだ。インターネットの通販サイトでも、最低でも5〜7週間待ちとなっているが、実際に注文してみると「いつ入荷するかまったく不明、それでもオーダーするのか?」と確認される始末。筆者も、今年初め、米国のサイトに注文を出してみたが、3カ月以上も音沙汰がなく、そうこうしているうちに、米国に遅れること約1年、4月11日に日本語版がついに発表されてしまった(コンパックの「iPAQ発表に関するニュースリリース」)。そこで米国にオーダーしていた分をキャンセルし、日本語版を入手することにした。日本国内でも、iPAQは品不足のようで入手に若干時間がかかってしまった。今回は、やっと入手したiPAQの日本語版の使い勝手を紹介しよう。なおiPAQでは、32Mbytesのメモリを搭載する「H3630」と64Mbytesを搭載する「H3660」の2モデルが用意されている。両モデルは内蔵メモリの容量以外の違いはない。価格はオープン・プライスだが、ダイレクト・プラス(コンパックの直販)では、H3630が5万9800円、H3660が8万9800円である。今回は、H3630を評価している。

各所に工夫が見られるiPAQのハードウェア

iPAQの正面
バックライト付きの反射型液晶パネルを採用したことで、屋内屋外ともに見やすくなっている。ボタン類もすっきりとまとまっており、デザインも比較的よい。

 本体は、全体的に「金属」をイメージするデザインとなっており、ケースはツヤ消しの銀色、ボタン類は光沢がある銀色(どちらもプラスチックに塗装、またはメッキしたもののようだが)だ。本体上部には、イヤホン・ジャック、IrDA受発光部、スタイラス・ペン・ホルダがある。正面には、バックライト付き反射型カラー液晶パネル(解像度240×320ドット、4096色表示)とボタン類、インジケータ類が配置されている。

 反射型液晶パネルというと、暗いところでは見にくいのでは、という印象を持つが、iPAQでは自動調光機能付き(手動による調整も可能)のため、そういった心配は無用だ。バックライトの輝度は、輝度センサーによって自動的に5段階で調整される。暗いところではバックライトが自動的にオンになるため、これまでのPocket PCなどに比べても格段に見やすくなっている。また、反射型液晶であるため、屋外の直射日光が当たるような場所でも比較的見やすい。こういった面もiPAQが米国でウケている理由の1つなのだろう。

 
iPAQの本体下部にあるボタン部分
真ん中のナビゲーションボタンはスピーカを兼ねている。上下左右のカーソル・キーとして機能すると同時に、全体を押し込むことで実行ボタンの働きを持つ。

 ボタンにも工夫がなされている。iPAQは、側面にボイス・レコーダ用ボタンが1つ、正面に「予定表」「連絡先」「Qメニュー」「Qスタート」の4つのアプリケーション・ボタンと、スピーカ兼用の「ナビゲーションボタン」が装備されている。ナビゲーションボタンは、4方向に傾けることで、その方向へのカーソル移動キーとなり、全体を押し込むことで実行ボタン(リターン・キー)として動作する。中心部分にはスリットがあり、ここから音が出るようになっている。

 
付属のUSBクレードル
このクレードルは、ジャケットを装着していても、していなくても接続できるように工夫されている。付属のACアダプタをつないでおけば、このクレードルに置くだけで充電が行える。

 本体底面には、通信ポートや拡張コネクタ、電源コネクタなどが配置されている。付属のクレードルを使えば、PCとUSBによる接続が可能となる。オプションでシリアル・ケーブルやシリアル接続のクレードルも用意される(コンパックの「iPAQのオプション紹介ページ」)。このクレードルは、充電器にもなっており、iPAQをクレードルに置くことで充電しておくことも可能だ(直接ACアダプタ・ケーブルをiPAQに接続して充電することもできる)。バッテリ駆動時間は、カタログ値で12時間となっているが、一般的な使い方ならほぼ1日充電なしで使える。外出時にクレードルから外し、帰ってきたらクレードルにiPAQを置き、データのシンクロと充電を行うという使い方をしていれば、バッテリの残量を気にする必要はほとんどないだろう。

 
付属のコンパクトフラッシュ・スロット装備のジャケット
ジャケットは、本体を後ろから包み込むように装着し、本体下部にあるコネクタで接続する。米国では、PCカード・スロットが2つ装備された「Dual-Slot PC Card Expansion Pack」が販売されている。

 iPAQの最大の特徴ともいえるジャケットは、本体を背面から包み込むように装着する。接続用のスロットは本体の裏側に配置されている。標準では、コンパクトフラッシュ・スロットを持つジャケットが添付されるが、オプションには、PCカード・スロットを持つジャケットもある。こちらは、充電可能なバッテリを内蔵しており、PCカードに対して電力を供給できる。無線LANカードなどのようにPCカードの中には、意外と消費電力が大きなものがあるため、本体内蔵バッテリだけでは、すぐに電力が足りなくなる場合があるため、このようにジャケット側にもバッテリを装備したのだろう。は、コンパックでは、後述のように無線LANカードなども用意しており、これを使うことで、無線LANでネットワークに接続したまま、オフィスの中などを動き回ることも可能だ。なお、PCカード・スロットのジャケットは、クレードル経由での充電も可能だ(ジャケットを付けた状態でクレードルに置くことができる)。また、ACアダプタ・ケーブルを直接iPAQに接続して充電する場合には、PCカード・スロットのジャケットに付属する2又ケーブルを使うことで、本体と同時に充電を行わせることもできる。

 
iPAQの本体の上部
ここには、スタイラスを格納しておく場所があり、横のボタンを押すとスタイラスが飛び出すようになっている。真ん中に見えるのは、IrDAの受発光部。右側はヘッドホン・ジャック。

 コンパックでは、このジャケットの仕様をサードパーティに無償で公開しているという。発表会では、韓国のベンチャー企業が開発しているクレジット・カードの認証端末(クレジット・カード・リーダと小型ロール紙プリンタを搭載している)を実現したジャケットを紹介した。こうした拡張性の高さも、これまでのPocket PCになかったiPAQのメリットといえるだろう。

 全体のデザインが金属的なこともあるが、例えばボタンを押すとスタイラス・ペンが飛び出すなど、凝った仕掛けがあったり、簡単にジャケットを装着できたりするあたりも、妙に機械好きを刺激する。品切れが続く、米国での人気が分からないでもない。

ソフトウェアはCD-ROMで提供

 iPAQには、コンパック製のアプリケーション・ランチャー・ソフトウェア(Qスタート)やユーティリティ(Qメニュー)が用意されている。これらは、標準で本体正面のアプリケーション・ボタンに登録されており、簡単に呼び出すことができる。さらにPocket PCの標準ソフトウェアであるPocket Outlook、Pocket Excel、Pocket Word、Pocket IEなどに加え、いくつかのサードパーティ製アプリケーションが付属している。

アプリケーション名 機能
PVPlayer v2.0 MPEG-4の動画ストリーミングに対応したビデオ・プレイヤ
NetFront 2.6 for Pocket PC JavaScript、SSL1.1/1.2(128bit)対応のWebブラウザ
EasyViewer for iPAQ デジタル・カメラなどの画像管理ソフトウェア
Beatnik Player for Pocket PC MP3、MIDI、RMFなどのサウンド・ファイル対応のプレイヤ
DMoney V3.5 小遣い帳ソフトウェア
JRトラベルナビゲータ Pocket PC対応 路線検索ユーティリティ
WordLinker for Pocket PC インターネット検索ツール
iPAQに付属のサードパーティ製ソフトウェア

 これらのサードパーティ製アプリケーションは、すべて付属のCD-ROMに収められており、購入後にユーザーがインストールを行う必要がある。これは、メモリ容量に制限があり、すべてのアプリケーションをインストールすると、ワークエリアやデータ領域が制限されてしまうためだろう。

大きな画面へ 大きな画面へ 大きな画面へ 大きな画面へ
iPAQに標準インストールされているPocket Outlookの画面
スケジュール・ソフトウェアのPocket Outlookの左から1日、1週間、1月、1年の表示画面。表示の仕方は、ほとんどPalm系PDAと一緒である。できれば、用件などをアイコン表示可能にするなど、1週間表示や1月表示はもう少し工夫がほしい。

手書き入力の画面
日本語版では、日本語の手書き認識文字入力も可能だ。

 iPAQの日本語版では、日本語の手書き認識入力もサポートしている。プロセッサが高速なこともあり、ひらがなやカタカナでは、書いた先から自動的に認識が行われ、認識率も高く、十分に実用になると感じた。ただ、漢字の入力に関しては、筆者の筆順が悪いのか、思ったよりも認識率は高くなかった。アドレス帳に住所を入力したり、メモを取ったりするような場合、ひらがなで入力して、漢字変換を行った方が早いかもしれない。


iPAQの最大の特徴「ジャケット」

コンパクトフラッシュ・スロット装備のジャケット
コンパクトフラッシュ・スロット装備のジャケットは、TYPE IIにも対応しており、MicroDriveやNTTドコモのP-in Comp@ctなどが装着可能だ。

 前述のように標準では、コンパクトフラッシュ・スロットを持つジャケットが付属する。スロットは、コンパクトフラッシュ TYPE IIに対応しており、P-in Comp@ct(NTTドコモのPHS対応のデータ通信カード)やMicroDrive(日本IBMのコンパクトフラッシュ TYPE II対応の小型ハードディスク)も利用可能だ。P-in Comp@ctを使って、So-netとMoperaのそれぞれによるインターネット接続を試みたが、標準的な設定のみで行えた。画面が若干狭いことを除けば、Webのブラウズも快適で、外出先で地図を確認したり、ニュースを読んだりすることも十分に可能だ。

 オプションで販売されているPCカード・スロットを持つジャケットは、充電バッテリを内蔵しているため、カードを装着しても長時間の運用が行える。試しにMicroDriveを装着して、Windows Media Playerを動かしてみたところ、4時間近くの再生が可能だった。コンパクトフラッシュのジャケットでは、2時間程度だったことを考えると、約2倍のバッテリ駆動が行えることになる。付属のWindows Media PlayerでMicroDrive上のファイルを再生させると、ほとんどMicroDriveのモータが回りっぱなしの状態になるので、消費電力はかなり高いことが予想できる。フラッシュメモリ・カードならば、さらに長時間のバッテリによる運用が可能だろう。

無線LANでネットワーク端末に

 オプションで用意されている無線LANカード「WL100」は、同社のノートPCなどでも利用可能なものだ。iPAQにPCカード・スロットのジャケットを装着することで利用可能となる。なお、iPAQ用のデバイス・ドライバは、WL100には同梱されておらず、米国のサイトからダウンロードする必要がある(iPAQ用WL100ドライバのダウンロード・ページ)。これは、付属のマニュアルにではなく、「Read This First」とタイトルのある紙に記載されていた。この紙は、英語やフランス語などによる記載はあるものの、日本語ではいっさい書かれておらず、気付きにくい。日本でもiPAQの販売を開始した以上、日本語で書かれた注意書きを同梱する必要があるのではないだろうか。

 ドライバをダウンロードしたら、デスクトップPCとiPAQをクレードルなどで接続状態にしたのち、インストールを行えば、ドライバとユーティリティが組み込まれる。なおこのWL100は、IntersilのPrismチップセットを使っているようである(Intersilの「Prismチップセットの情報ページ」)。試しに別のPrismチップセット採用の無線LANカードを、iPAQに差してみたところ、WL100のユーティリティで動いてしまった(あくまでもテストのためであり、ライセンス上はWL100のドライバでほかの無線LANカードを運用することは許されない)。これは、おそらくIntersilが提供するユーティリティそのままだからであろう。

 無線LANのドライバをインストールしたのち、WL100をPCカード・スロットに装着すると、ユーティリティが起動して、初期設定を行う。基本的には、ベース・ステーションなどと同じESS-IDや暗号化の設定などを行うだけでよい。なお、WL100は、IEEE 802.11bに準拠した11Mbits/sの無線LANカードであり、他社のIEEE802.11b対応無線LANシステムと組み合わせて利用することも可能だ。

 無線LANカードが動作するとiPAQは、ActiveSyncやPocket IE、受信ボックス(電子メール)などで、接続操作なしにLAN側のサーバがアクセス可能になる。無線LANカードを付けて持ち歩くと、無線LANが使える範囲内では、ノートPCなどと同様、Webブラウズや電子メールの読み書きが可能になる。また、ネットワーク経由でActiveSyncをインストールしたマシンとのシンクロが可能になるので、使い勝手は向上する。

 これは、実際に使ってみると結構便利で、家のどこにいても電子メールをチェックしたり、ちょっと気になったことをWebで調べたりできる。また、予定やメモを書き込んだとしても、すぐにシンクロさせて、デスクトップPCに反映させることができ、いちいち机まで戻らなくてもいいのも、無精な筆者にとっては便利このうえなかった。オプションで提供されているiPAQの「IPP 拡張ケース」は、大きさに余裕があるため、無線LANカードを付けたままケースに入れることができる。これをベルトに付けておくと、常に持ち歩くことが可能だ。

 iPAQは、ハードウェアについてかなり完成された印象を受けるのだが、残念なことにPocket PC付属のPocket Outlookなどの使い勝手がいまいちである。もっともオンライン・ソフトウェアなどを使うことで、使い勝手はかなり改善される。このあたりは、もう少しマイクロソフトにがんばってもらいたいところだ。いまやどんなPDAであっても、Outlookと同期できるのは当たり前で、PDA上のスケジュール・ソフトウェアなどの使い勝手が、製品の印象を決めてしまう部分もある。実際、解像度が低いPalmなどとあまり変わらないPocket Outlookのスケジュール表示などを見ると、少々がっかりしてしまう。せっかく、iPAQのような高性能で、物欲をそそるハードウェアが登場したのだから、ソフトウェアの使い勝手の向上、充実を望みたい。記事の終わり

  関連リンク 
iPAQの製品紹介ページ
iPAQ対応Linuxのダウンロード・ページ
iPAQ発表に関するニュースリリース
iPAQのオプション紹介ページ
iPAQ用WL100ドライバのダウンロード・ページ
Prismチップセットの情報ページ
 
「連載:Mobile Insider」

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