元麻布春男の視点
Pentium 4-2.40GHzに見るIntelの強さの源泉

元麻布春男
2002/04/12

 2002年4月3日、Intelは現時点で最高の動作クロックとなるPentium 4-2.40GHzを発表した(インテルの「Pentium 4-2.40GHzに関するニュースリリース」)。同社は年内にもPentium 4の動作クロックを3GHzの大台に乗せることを公式に表明しており、これで目標まであと600MHzに迫ったことになる。おそらく年末にかけて、小刻みにクロックを上げながら、この600MHzを埋めていくものと思われる。すでに2002年2月末に開催されたインテルの開発者向けカンファレンス「IDF Spring 2002」では3.0GHz動作のPentium 4プロセッサを搭載したシステムのデモを行っているし、2.60GHz動作に関してはHewlett-PackardのコンセプトPCといったサンプルが国内にも存在する。キーノート・スピートなどのデモでは、すでに4GHzのPentium 4を搭載したPCまで見せているが、これが一般的なものと同等の構成かどうかは分からない。ただ、もはや3.0GHzまでのリリースに関して技術的な障害はなく、歩留まり/数量とマーケティングだけが問題、ということのようだ。

Pentium 4-2.40GHzで何が変わったのか

 今回発表されたPentium 4-2.40GHzは、すでに販売されているPentium 4の動作クロックを引き上げただけのもの。通常、こうした発表の場合、正直いってプレスリリースも新味に欠けることが多い。しかし、今回のPentium 4-2.40GHzのプレスリリースでは、Intelの製造体制に関する情報のアップデートが含まれていた。まず、それを列挙しておこう。

  1. Pentium 4 2.40GHzプロセッサは、Intelの新しい0.13μmプロセス技術と300mmウエハを採用
  2. 製造プロセスを最適化することでダイ・サイズを10%縮小
  3. 現在5カ所の製造施設で0.13μmプロセスを導入しており、うち1カ所が300mmウエハを採用(残りは200mmウエハ)
  4. 0.13μmプロセス、300mmウエハ、10%のダイ・サイズ縮小を合わせると、ウエハ1枚あたりから得られるPentium 4プロセッサの数は、最初のWillametteコアのPentium 4(0.18μmプロセス、200mmウエハ)の5倍

 以上が、プレスリリースで書かれていることだが、ストレートに読むと勘違いしそうな記述も含まれている。例えば、これまでのNorthwoodコアに比べて10%シュリンクされたダイを用いたPentium 4-2.40GHzプロセッサは、すべて0.13μmプロセスを用いた300mmウエハで製造されており、その工場はいまのところ1カ所しかない、という具合だ。しかし、これは正しくない。

 Intelが300mmウエハと0.13μmプロセスの組み合せによりプロセッサの量産を始めたことは事実だが、Pentium 4-2.40GHzがこの組み合せでなければ作れないということではないし、実際にほとんどは200mmウエハで製造されている。また、ダイ・サイズの10%縮小は、300mmウエハに限らず、200mmウエハでの量産にも適用されるといった具合だ。さらに、どうやら現時点で流通しているプロセッサ(Pentium 4-2.40GHzを含む)は、この10%縮小されたダイによるものはないようだ。つまり、現時点で流通しているプロセッサは、おそらくこれまで販売されてきたNorthwoodコアのPentium 4とまったく同じダイによるもの、ということになる。

 それにしても、0.13μmプロセスに移行してからも、ダイ・サイズの縮小を続け、生産性の向上に努めている姿勢には感心する。ダイ・サイズが小さくなるということは、それだけ1枚のウエハから製造できるプロセッサの数が増えることであり、当然ながら生産性が向上することになる。こうしたたゆまない努力(?)にIntelの強さの秘密の一端があるのかもしれない。

Intelの半導体工場の展開戦略

 Intelがこれまでに明らかにしている情報によると、現時点で300mmウエハを採用可能な製造施設は米国オレゴン州ヒルズボロにあるD1Cしかない(「元麻布春男の視点:ヒミツ主義に包まれたIntelのプロセッサ製造拠点を暴く」参照)。名称が「D」で始まる製造施設は、純粋な量産施設ではなく、開発(Development)目的を持った施設だ。しかし、ここでいう開発は、新しい製造技術やプロセッサの研究・開発ではなく、量産技術の開発を指す(純粋な研究用にはRP1と呼ばれる施設がヒルズボロにある。RPはResearch and Pathfinderの略)。Intelは、半導体の量産技術について、コピー・エグザクトリィ(寸分違わずコピーする)という戦略を採用している。おそらく、D1Cで量産をしばらく行い、その中から得られた経験をD1Cの製造ラインにフィードバックしながら完成度を高め、「コピー」の原型を完成させるものと思われる。完成した原型は、2002年内に稼動を開始するニューメキシコ州リオランチョのFab 11Xにコピーされるハズだ。公表されている情報では、300mmウエハと0.13μmプロセスによりプロセッサの量産を行う予定になっている製造施設はほかにない。

大きな図へ
Intelの製造工場
半導体の組み立て工場を含む製造工場。世界中に工場を持っていることが分かる。中国には上海に組み立て/検査工場を持つが、半導体の製造工場の建設は考えていないという。

 Fab 11Xへのコピーが完了すると、D1Cの役割は次世代の90nmプロセス(300mmウエハ)の量産技術の確立に変わる。この時点で、コピーの原型の役割はD1CからFab 11Xが担うことになるが、実際にFab 11Xの量産技術がほかの製造施設にコピーされるかどうかは、経済情勢や、次の90nmプロセスの立ち上がり時期などによるのだろう(現時点では予定がない)。が、300mmウエハを用いた量産の本命は90nm世代で、D1CおよびFab 11Xによる0.13μmプロセスにおける300mmウエハでの量産は、それに備えた準備なのかもしれない。慎重なIntelが、90nmという新しい製造プロセスを、それまで使ったことがないサイズのウエハでスタートさせるとは思えないからだ。逆にFab 11Xは、最上位のプロセッサが90nmプロセスへ移行した後も、0.13μmプロセスでは最も生産性の高い工場として、安価なCeleronの量産を受け持てばいい。

 D1Cにおける90nmプロセスの量産技術開発が完成すると、今度はD1Cがそのまま量産工場になると考えられる。リソグラフィ(露光装置)*1や検査装置などの半導体製造設備は、2〜3世代くらいしか使えないことが多く、D1Cにある設備(0.13μmと90nmの2世代の開発に用いたもの)をそのまま量産に用いた方が合理的であるからだ。過去にもD1AがFab 15に、D1BがFab 20にそれぞれ転換されており、D1CもFab 2xという名称の量産工場になるのではないかと予想している。D1Cの90nmプロセス量産技術は、アイルランドのレイクスリップに建設中のFab 24にまずコピーされる可能性が高いが、おりからのIT不況により完成が延期されている、という話も聞く。また、この時点でD1Cに代わる量産技術開発用の製造施設としてD1D(ヒルズボロ)が運用を開始するハズだ(すでに着工済み)。

*1 シリコン・ウエハに回路パターンを焼き付ける装置または過程。紫外線で回路が描かれたマスクをレンズで縮小投影することで、ウエハ上に回路を印刷する。これにエッチングなどの処理を加えることで、ウエハ上に回路が形成される。この回路を縮小投影する能力によって、回路の線幅が決まってくる。

 これに関連して、プレスリリースがいう0.13μmプロセスを用いた5カ所の製造施設には、フラッシュメモリなどIAプロセッサ以外の製造施設も含まれていると予想している。現時点で0.13μmプロセスを用いたIAプロセッサの量産施設は、D1C(オレゴン州ヒルズボロ)、Fab 20(オレゴン州ヒルズボロ)、Fab 22(アリゾナ州チャンドラー)の3カ所だと思われる。

 このようにIntelは、開発施設と量産施設を巧みにローテーションさせながら、世代交代を進めており、これも同社の高いコスト競争力の1つになっている。しかし、こうした大規模なローテーションは、Intelが世界最大の半導体メーカーだからできることであり、誰もが真似できるものではない。最先端の300mmウエハの量産工場を1つ作るだけでも数10億ドルが必要だとされているのに、それを複数作ってローテーションさせる、というのは、大半の半導体メーカーにとってけた外れの運営方法だ。どうすれば他社はIntelに対抗できるのか。それよりまず、対抗していく気構えがあるのかどうか、半導体事業で生き残ることの難しさを痛感する。記事の終わり

ファブ名称 場所 製造機能 竣工年 用途 プロセス技術 ウエハ・サイズ 2002年末時点での計画
D1C オレゴン州ヒルズボロ 製造 1999年 ロジック 0.13μm 300mm 90nmプロセス
D1D(計画中の開発用) オレゴン州ヒルズボロ 製造 2003年*2 ロジック開発 300mm 建設中
D2 カリフォルニア州サンタクララ 製造 1988年 ロジック/フラッシュメモリ開発 0.13μm/0.18μm 200mm 0.13μmプロセス(フラッシュメモリ)
Fab 7 ニューメキシコ州リオ・ランチョ 製造 1980年 フラッシュメモリ 0.35μm 150mm 閉鎖予定
Fab 8 エルサレム(イスラエル) 製造 1985年 ロジック/フラッシュメモリ 0.35μm/0.50μm/ 0.70μm/1.0μm 150mm 変更なし
Fab 10/14 レイクスリップ(アイルランド) 製造 1993年/1998年 ロジック 0.18μm/0.25μm 200mm 変更なし
Fab 11 ニューメキシコ州リオ・ランチョ 製造 1993年 ロジック/フラッシュメモリ 0.18μm/0.25μm 200mm 0.13μmプロセス(フラッシュメモリ)
Fab 11X ニューメキシコ州リオ・ランチョ 製造 2002年*2 ロジック 0.13μm 300mm 稼働開始予定
Fab 12 アリゾナ州チャンドラー 製造 1996年 ロジック 0.18μm 200mm 変更なし
Fab 15 オレゴン州ヒルズボロ 製造 1992年 ロジック/フラッシュメモリ 0.25μm/0.35μm 200mm 0.18μm/0.13μmプロセス(フラッシュメモリ)
Fab 17 マサチューセッツ州ハドソン 製造 1994年 ロジック 0.28μm/0.25μm/ 0.50μm 200mm 0.13μmプロセス
Fab 18 キルヤトガト(イスラエル) 製造 1999年 ロジック 0.18μm 200mm 変更なし
Fab 20 オレゴン州ヒルズボロ 製造 1996年 ロジック 0.13μm 200mm 変更なし
Fab 22 アリゾナ州チャンドラー 製造 2001年 ロジック 0.13μm 200mm 変更なし
Fab 23 コロラド州コロラドスプリング 製造 2001年 フラッシュメモリ 0.18μm 200mm 0.13μmプロセス
Fab 24(計画中) レイクスリップ(アイルランド) 製造 2004年*2 ロジック 300mm 建設中
  
ATD アリゾナ州チャンドラー 組み立て/テスト 1999年 パッケージ開発 変更なし
PD1 上海(中国) 組み立て/テスト 1997年 フラッシュメモリ 150mm /200mm 変更なし
PD2 上海(中国) 組み立て/テスト 2001年 ロジック 150mm /200mm 変更なし
CR1 サンノゼ(コスタリカ) 組み立て/テスト 1997年 ロジック 200mm 2003年に300mm
CR3 サンノゼ(コスタリカ) 組み立て/テスト 1999年 ロジック 200mm 2003年に300mm
PG6 ペナン(マレーシア) 組み立て/テスト 1988年 ロジック/通信向け製品 150mm /200mm 変更なし
PG7 ペナン(マレーシア) 組み立て/テスト 1994年 ロジック/通信向け製品 150mm /200mm 変更なし
PG8 ペナン(マレーシア) 組み立て/テスト 1997年 ロジック 200mm 300mm
CV1 カビテ(フィリピン) 組み立て/テスト 1997年 ロジック 200mm 300mm
CV2 カビテ(フィリピン) 組み立て/テスト 1998年 フラッシュメモリ 150mm /200mm 変更なし
MN1/MN2 マニラ(フィリピン) 組み立て/テスト 1979年/1995年 フラッシュメモリ 150mm /200mm 変更なし
KM1/KM2 クリム(マレーシア) ボード製造、組み立て/テスト 1996年/1997年 ロジック、コンピュータ・ボード 200mm ボード設計センターを拡張
SMTD オレゴン州ヒルズボロ ボード製造 1978年 マザーボード ボード技術を拡充
DTM ワシントン州デュポン システム製造 1996年 システム製品/アクセサリ 変更なし
Intelが公開したFabの一覧
*2 変更の可能性あり
 
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第13回 300mmウエハは2倍お得
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  関連リンク 
Pentium 4-2.40GHzに関するニュースリリース
Intel 300mm Program BriefingENGLISHPDF
 
「元麻布春男の視点」


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