リッチクライアントベンダ・インタビュー(15)
韓国の“UX専門企業”「TOBESOFT」とは?

吉田育代
2011/8/5
技術者とデザイナーで業務アプリのあるべき姿を考え、韓国で“UX専門企業”というポジションを獲得したTOBESOFTとは?
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 韓国TOBESOFTXPLATFORMは、業務に役立つリッチ・インターネット・アプリケーションを実現させるために誕生した、企業向けユーザーインタフェース開発プラットフォーム。スマートフォン環境に強く、ワンソース・マルチユース開発を可能とするとともに、操作性の高いユーザーインタフェース提供により劇的な業務効率向上を目指す。

 スマートフォンに業務アプリを

 最近、企業情報システムの世界で、BYODという合言葉が登場し始めているという。BYODとは、Bring Your Own Deviceの頭文字だ。その意味は、組織に所属するワーカーが自費で購入するスマートフォン所有率が高まっているのを受けて、企業がそのスマートフォンに対してアプリケーションを提供するというもの。これにより、さらなる業務効率の向上を目指すのが狙いだ。

 これまで、モバイル環境に対しての業務支援システム提供といえば、企業にとってはノートPCが前提だった。しかし、これは今ひとつ機動性に欠ける。電車で移動している途中に、取引先や会社から電話を受け、駅の片隅に駆け寄ってノートPCを開いている営業マンの姿を見たりするが、あれはあまり格好いいものではない。それがこうなるとしたらどうだろう。持っているスマートフォンでさっと納期照会システムにアクセスできてその場で取引先に返事ができる。そうなれば、取引先にとっても、営業マンにとっても、スムーズに仕事が進められることになる。

 しかし、ここで1つ問題がある。例えば、その納期照会システムをスマートフォンに展開するとしたら、営業マンの持っている端末は会社の支給したものではないから、各人でOSも異なり、個別開発が必要になる。そのため、企業にとっては、求められるコストや期間、人材リソースが何倍にも膨らむ。ゆえに今まではちゅうちょしてきた。それを解決する方法が出現している。韓国からやって来たTOBESOFTが提案するXPLATFORMおよびこれをインフラとしたワンソース・マルチユース開発がそれだ。

図1 ワンソース・マルチユース開発
TOBESOFT 日本支社長 崔彰桓氏

 また、このプラットフォームで開発する業務アプリケーションは、操作性の高いユーザーインタフェースを提供、業務効率を向上するとしている。それを同社は、REA(Rich Enterprise Application)と称している。これは、ここしばらく提唱されながらもなかなか日本には定着しないRIA(Rich Internet Application)に対して真に実用性のあるRIAという意味合いで名付けたものだ。TOBESOFT 日本支社長 崔彰桓氏は次のように語る。

 「『XPLATFORM』徹底的に企業の立場に立ち、業務に役立つRIAを実現させるために誕生しました。これは最高の企業ユーザーエクスペリエンスを実現するREA (Rich Enterprise Application)向けユーザーインタフェース開発プラットフォームです」

 リッチ・エンタープライズ・アプリケーションとは

 それでは、そのXPLATFROMとは具体的にはどういうものなのか。これは、RAD開発ツール UXStudioとこれによって開発されたWebアプリケーションを表示するランタイムブラウザから構成される(図1)。

図2 XPLATFORMの概念図

 UXStudio自体の開発はJavaScriptで行うが、内部にObjective-CやJavaへのコード翻訳機能を持ち、一度の開発でWindows、iOS、Androidといった各OSへの展開が可能になる。つまり、開発技術者はJavaScriptにさえ通じていれば、他の言語を習得しなくても、スマートフォンを視野に入れたさまざまなモバイル端末へ業務アプリケーションを提供できる。また、UXStudioはオブジェクト指向プログラミングを採用、CPU占有率の低いエディターで、業務用ウィジェットをはじめ、多様なデザインアプリケーションを素早く開発できるという。

 専用のランタイムブラウザが必要なのか、とがっかりしたかもしれない。TOBESOFTによれば、XPLATFORMの持つ高いユーザーインタフェース能力をフルに発揮させるなら、これを利用するのが一番だという。しかし、企業によっては専用のランタイム環境を配布するのが困難な場合がある。そうしたケースに備えて、XPLATFORMはXPLATFORM AJAX Compiler Engineを搭載しており、ここでWebアプリケーションをAjaxで動くWebアプリケーションに変換、それはInternet ExplorerやFirefoxなどさまざまなブラウザ上で稼働することができる。ただし、機能性はランタイムブラウザに比べると稼働スピードなど性能は若干落ちる(図3)。

図3 ランタイムバージョンとAjaxバージョン

 また、“マルチユースといっても、PCやタブレットPC、スマートフォンでは画面サイズが大きく異なるため、同じアプリケーションを提供してもレイアウトが崩れてしまう”と懸念される向きは多いだろう。それを解決するために、同社はマルチレイアウト機能を新しく開発した。これは、異なる画面サイズに対して提供するアプリケーションを、ロジックはそのままに、レイアウトだけをドロップ&ドラッグ的な操作で変更できるという機能である。端末によって画面の一部を非表示にしたりすることも可能だ(画面1)。

画面1 ロジックを変更することなく端末によってレイアウトを編集できるマルチレイアウト機能

 さらに、PCの画面をカードサイズの大きさに分割してスマートフォンで分けて見せる“カード”という機能も加わる。

 ネイティブアプリの中でWebコンテンツを見せられる

 前項で同社のプラットフォームで開発するWebアプリケーションは、操作性の高いユーザーインタフェースで業務効率を向上すると書いたが、一方で開発効率をも向上可能であるという。それが“ハイブリッド・アプリケーション”であるからだ。“ハイブリッド・アプリケーション”とは何か。これは、ネイティブ・アプリケーションとWebアプリケーションのいいとこ取りをしたアプリケーションという意味だ。

 スマートフォン上で、見掛けはiアプリやAndroidアプリのように見せながら、コンテンツには既存のWebアプリケーション用に用意したデータを活用できる。その上でスマートフォンの持つGPSなどハードウェア機能を活用したアプリケーションを開発できるため、非常に高いレベルでの業務支援が可能だということだ。

 例えば韓国では、生命保険の設計書作成にスマートフォンが使われている。日本でも顧客担当者がノートPCを使って見込み顧客にヒヤリングしながらインタラクティブに設計書を作ることは行われているが、それがすでに、かの地ではスマートフォンなのである。しかも、日本ではまだまだ紙信仰があり、最後の出力は紙で行うという傾向があるが、韓国は極力紙をなくす方向で進んでおり、スマートフォンの台頭がそれに拍車を掛けている状況のようだ。

 便利になるなら、導入して考えよう

 ただ一つ気になるのは、セキュリティである。スマートフォンはコンパクトである分だけ、ノートPCより紛失や盗難の可能性が高くなる。日本の企業がスマートフォンの業務活用に今ひとつ積極的になれないのは、端末が多様であるのと同時に、紛失や盗難による情報漏えいを恐れるからである。その点に関して、崔支社長に韓国企業がどう対応しているのか聞いたところ、“非常にセキュリティが厳しくて導入にちゅうちょするところもあるが、一般的には、便利になるならとにかく導入してみようという企業が多い”という答えが返ってきた。現状、ID・パスワード管理以上の特別なセキュリティは特に施していないようだ。

 「変化に敏感で、走りながら考えるのが韓国人。始める前にあれこれ考え出したら動けません。これが組み込み分野だったら、走りながら考えているのでは人の命に関わるので危険過ぎますが、業務アプリケーション分野はそれとは異なります。われわれは、何か問題が起こったら、そこで具体的な対策を練ることにして、とにかく前へ、と考えます」

 韓国ではREA分野で圧倒的な市場シェアを確立

 後先になったが、TOBESOFTのプロフィールについてもう少し紹介しておこう。同社は今年で創立11年目を迎える韓国のIT企業である。REAを提唱、普及し、今や同国では取引先はサムソングループ、LGグループ、SKテレコムなど、1100社を超え圧倒的なシェアを誇る。2008年にはイノベーティブな業績を発揮した企業への国家表彰で、「新ソフト部門大統領大賞」を受賞している。日本へは2年半前に上陸。野村総合研究所や日立ソリューションズ、クレスコなどを取引先としている。

 業務アプリにデザインは贅沢?

 デザイン的に優れた豊かなユーザーインタフェースを提供して、ユーザーの業務効率を向上する、とTOBESOFTは訴求する。日本でもその取り組みがこれまで行われてこなかったわけではない。ただ、ITの世界では、伝統的にシステム開発の手綱を握るのは技術者であり、技術者集団であるシステム・インテグレーション企業だった。そのため、システムに関してデザイン的にクオリティを向上しようとすると、デザイナーやデザイン企業と協業するしかなかったのだが、それは結果的に開発コストを押し上げることになる。顧客向けに提供するならともかく、社内で利用する業務アプリケーションになると、その付加価値は認められにくかった。“機能的には要件を満たしているのだから、社員には我慢して使ってもらいなさい”というわけだ。

 また、多少使いにくくても、人間というものは繰り返し使っていると慣れるのである。その慣れは、習慣になってしまうと恐ろしく高い効率でこなすことができる。下手にクリック数を少なくする改善をするより、そのままの方が速いぐらいなのだ。

 最新の環境、技術に合わせてアプリも進化しないと

 “デザイン的な考慮は高く付く”“今のままでユーザーは十分慣れている”という2つの理由で、社内利用の業務アプリケーションでデザインを考えるのは贅沢、と考えてきた。崔日本支社長は、これに対して次のように反論する。

 「確かに、2年半前に日本に来たときは、“デザインは贅沢”とよくいわれました。しかし、業務効率を上げるために最良の動線というものは必ず存在します。30年前にメインフレームで開発したときは、その画面で良かったのかもしれないですが、今は環境も大きく異なって技術革新も進んでいるのですから、業務アプリケーションもそれを享受できるよう進化させた方がいいと思います。

 コストという点では、弊社はXPLATFORMを販売するだけでなく、社内にユーザーインタフェースを考える専任のデザイナーを擁しており、顧客の業務アプリケーションについて、さまざまなユーザーインタフェースのアイデアを出します。できるだけ画面遷移を発生させないよう1つの画面で処理できるようにしたり、ユーザーがよく使う複数の画面をパターンとして記憶させられるようにしたり、それはやはり技術者の発想からは出てこないアイデアです。われわれは、顧客企業の業務効率向上をデザイナーと技術者で考える組織体制を備えたユーザーエクスペリエンス専門企業で、しかも1つの組織内で完結しているので開発コストを押し上げることもありません」

画面2 ユーザーが頻繁に使うアプリをポートレット化してメインアプリの周囲に配した例。のアイデアはデザイナーが出した

 実際、韓国企業のコールセンター・アプリケーションで採用された例では、画面の操作性が向上することで単位時間当たりのオペレーターのコール処理率が向上した。日本でもエンドユーザーがアクセスする請求関連アプリケーションで本番稼働が始まっており、採用企業自ら顧客に対して“使い勝手が良く、便利になります”と顧客に強くアピールしているという。

 業務アプリケーションが、“提供すればそれでいい”という時代はもう終わりを迎えつつあるのかもしれない。これが企業活動とユーザーを助けるために生み出されるのだとしたら、ユーザーが日常使う端末に、使われ方をよく考えて提供しないと、せっかくコストをかけて生み出す意味が半減するのではないだろうか。

著者プロフィール 大阪市出身。関西大学社会学部卒。百貨店、広告制作プロダクションを経て、IT分野のライターに。企業情報システムに関する著書多数。ブログ「水の泡にぞ似たりける」も更新中


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