今から分かるICタグ 基礎編

2003/9/11

 ゴマ粒大のICチップを利用した無線ICタグ(Radio Frequency Identification、RFID)がIT業界から高い注目を集めている。2003年に入り標準化の作業も本格化し、IT業界とユーザー企業団体との実証実験も相次いで始まった。一方で、さまざまな課題も浮かんでいる。ICタグの技術や利用シーン、アプリケーション、そして普及までの課題を3回に分けてレポートする。

次世代バーコードとして期待

日立製作所が9月2日に発表した無線ICタグ「ミューチップ」。0.4ミリ角サイズにアンテナも内蔵した

 そもそもICタグとはどのような技術で成り立っているのか。ICタグは1ミリ以下のICチップを搭載したタグ(荷札)のこと。ICには情報を保存することができ、搭載したアンテナを通じてリーダやライタで情報を読み書きすることができる。ほとんどのICタグはバッテリを搭載せず、リーダ/ライタが発する電波を受信し、電磁誘導などの仕組みで電流を発生させる。バッテリを搭載しないことで、小型化を実現し、商品などに貼り付けることができるようになった。バッテリを搭載し、より複雑なアプリケーションを利用できるようにしているICタグもある。

 ICタグは商品などに付けられるいるバーコードの次世代版として紹介されることが多い。ICタグとバーコードとの違いは保存できる情報量。バーコードが数十けたの情報を保存するのに対して、ICタグはチップのメモリ容量にもよるが、数千けた以上の情報を保存できるとされている。また、ICタグは情報を読ませるだけでなく、書き換えることも可能。もちろん繰り返し使えることができ、さまざまな応用が考えられている。

 想定されているICタグを使った将来のサービスを紹介しよう。例えばスーパーマーケットでは、商品の1つ1つにバーコードの代わりとしてICタグが付いている。顧客が野菜を手に取り、カートに入れると、カートのディスプレイに野菜の生産地や出荷者、出荷日、お勧めのレシピが表示される。同時に野菜棚に設置されたリーダが、棚から野菜がなくなったことを感知。スーパーマーケットのバッグエンドシステムに連絡される。バッグエンドシステムはSCMシステムを通じて、スーパーマーケットの本部に対して在庫を補充するよう通知する。カートをいっぱいにした顧客はレジカウンターに並ぶが、顧客がたくさんいてもほとんど待つ必要はない。なぜならICタグは同時に複数のICタグをリーダに読ませることが可能だからだ。顧客はカートに商品を詰め込んだままでICタグのリーダが付けられたゲートをくぐるだけでいい。自動的に購入商品が計算され、顧客のクレジットカードから代金が引き落とされる。もちろん、購入した商品のリストや金額は、重要な顧客情報としてCRMシステムを通じてスーパーマーケットのデータベースに保存。今後のマーケティングの材料として分析されることになる。

 紹介したような利用イメージは、ICタグがこれから順調に普及した場合のケースで、実際にこのように利用できるようになるとは限らない。しかし、われわれはすでにICタグに非常によく似たシステムを頻繁に利用している。JR東日本が展開しているICカード乗車券の「Suica」だ。SuicaはICカードを利用した乗車券システム。ICカードに前もって運賃をチャージしておくことができ、改札ではリーダに対してICカードをかざすだけで入出ができる。運賃はチャージした金額から自動的に引き落とされる。チャージした運賃が少なくなれば、再び入金し、繰り返し使うことができる。Suicaはソニーが開発したICカード技術「FeliCa」を利用。Suicaに電子マネー機能を追加し、一般店舗で利用できるようにする計画もある。ちなみにJR西日本もICカード乗車券「ICOCA」(イコカ)を今秋にも京阪神で導入する予定となっている。これらのICカード乗車券は、形状が札型になっていないだけで、基本的な仕組みはICタグと同じだ。

村井純、坂村健が日本代表に

 国内の実証実験で利用されているICタグの周波数は主に3種類。最も利用されているは13.56Mhzの周波数帯。Suicaも13.56Mhzを利用している。13.56Mhzの通信距離は1メートルまでで、ノイズやほかの無線との混線が少ないとされている。135KhzのICタグも利用されているが、この周波数の通信距離も1メートル未満。2.45Ghzを利用したICタグは、2メートルまで通信が可能とされていて、流通現場などの検証実験で利用されている。日本では携帯電話の電波となるため使用が許可されていないUHF帯を使えばICタグの通信距離は、7メートル程度まで伸びるとされている。欧米での実証試験では主にUHF帯が使われている。

 国内で活動しているICタグ関連の団体は2つある。1つは1999年に設立され、世界で100社程度が参加している米オートIDセンター。米ウォールマートやドイツのメトロ、フランスのカルフールなど小売店大手や、ジレット、ペプシが参加していて、流通などサプライチェーンの効率化にICタグが利用できないか、技術開発や実証実験を続けている。国内企業では、大日本印刷、キヤノン、三井物産、凸版印刷、NTT、NTTコムウェア、オムロン、日本ユニシスなどが参加している。IBMやサン・マイクロシステムズ、SAPなども加わっている。今年1月には慶応大学の村井純教授を代表に日本支部を開設した。低コストを考え、読み取り専用のICタグを利用していくことを計画している。

 もう1つは国内企業が中心となって開設したユビキタスIDセンター。代表は東京大学の坂村健教授。200社以上が参加している。大日本印刷や日本ユニシスなどのようにオートIDセンターに参加している企業も加わる。ユビキタスIDセンターの特徴は、ICタグにさまざまな機能を持たせようとしていること。読み取り専用のICタグだけでなく、読み書きができたり、プロセッサを搭載し、より高度な利用ができるICタグを開発しようとしている。利用についても流通に限定せず、ユビキタス・コンピューティングを実現するさまざまなアプリケーションを開発する考え。

 オートIDセンター、ユビキタスIDセンターともICタグの標準規格作りを進めている。一部には2団体の規格争いなども指摘されたが、参加企業が一部重なっていて、企業は2つの団体のいいとこ取りを狙っているともいえる。両団体に参加する日本ユニシスでは「目指すシステムの全体像はほぼ同じ」としていて、「両センターに参画し、貢献していく」としている。

経済効果は最大31兆円

 ICタグの市場規模はどの程度まで成長するのか。総務省の「ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会」が今年8月18日に発表した中間報告では、その経済波及効果を2010年で最大31兆円と算出している。ただ、31兆円まで成長するのは、「技術課題の解決、タグの低コスト化等が実現し、利活用分野の拡大により普及が大きく促進される場合」という条件が付く。「未解決課題はあるものの、普及するために十分な環境が整い、一定の普及が促進された場合」では17兆円の市場規模にしかならない。さらに「技術・標準化、セキュリティ等の課題が解決されず、普及が効果的に促進されなかった場合」は9兆円と期待されるほどには市場が成長しない、と予測。いずれにしても2007年前後から経済波及効果が拡大すると研究会は見ている。

 中間報告ではICタグの活用シーンとして、医薬品や患者にICタグを付けて安全を管理する医療・薬品分野、産地や賞味期限、流通経路などを記録したICタグをさまざまな食品に貼付し、トレーサビリティを実現する食品分野などを想定している。

(垣内郁栄)

今だから分かるICタグ
今から分かるICタグ〜基礎編(本記事)
今から分かるICタグ〜実証実験から学べ
今から分かるICタグ〜課題克服は可能か

[関連リンク]
日立製作所の発表資料
オートIDセンター
ユビキタスIDセンター
総務省の発表資料

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