ブロードコム、無線IP電話向けの新チップのメリットは

2004/10/20

 ネットワーク機器やモバイル機器向け半導体チップのベンダであるブロードコムは10月18日、無線IP電話向けのチップセットを発表した。同社のIEEE 802.11gの無線LANチップ「BCM4318 Airforce One 54gチップ」と携帯VoIPクライアント用のチップ「Broadcom BCM1160モバイルVoIPプロセッサ」で構成したチップセット。併せてブロードコムはチップセットのユーザー向けにソフトウェア開発キット「BCM91160 Wi-Fi電話キット」を提供することも発表した。

ブロードコムが発表した無線IP電話向けのチップセット

 BCM1160は、高集積化と低消費電力が求められるワイヤレス携帯端末のニーズに対応するために設計されたVoIP専用プロセッサ。

 モバイルVoIPプロセッサには、ARMベースのCPU、直付マイクロフォンおよび高出力スピーカ・インターフェイスを持つアナログ音声コーデック、1.3メガピクセル・カメラ・インターフェイス、26万2000色カラー液晶ディスプレイ、およびUSBを1チップ上に集結させている。

 BCM4318は、ノートPCやPDAなどやアクセスポイント製品向けのチップ。BCM4318は、IEEE 802.11b、IEEE 802.11g、IEEE 802.11a/gに対応。マルチメディアデータの転送の通信品質を保証する「Wi-Fi Multimedia」や、無線LANのセキュリティ規格である「Wi-Fi Protected Acceess」(WPA)、「WPA2」に準拠している

 BCM4318は、2.4GHz帯の電波を用いる無線LANシステムで、IEEE 802.11a/gベースバンド・プロセッサ、MAC(Medium Access Controller)などのコンポーネントを1つのシリコン・チップに統合した。また、ブロードコム独自の技術として、「SSID」などの専門用語を知らない層でも、「好きな球団は」「好きな色は」といった個人を限定する質問に答えることで認証できる「SecureEZSetup」機能や、ワイヤレス・ルータからの距離が離れても持続して通信が可能となる「SmartRadio」機能を搭載した。

 「BCM91160 Wi-Fi VoIP電話レファレンス・デザイン」は、チップセットを利用してワイヤレスIP電話端末を開発するベンダ向けに提供するサポート・パッケージ・キット。BCM91160には、BCM1160上で実行されるVoIPソフト「xChange VoIPソフトウェア」、SIP(Session Initiation Protocol)コール・シグナリング・スタック、BCM4318を制御するドライバーソフト「WLAN OneDriver」、および開発に必要な開発ツール群を含み、LinuxOSベースのボードをサポートするパッケージ、技術文書を含む。

 BCM1160はすでに量産出荷しているが、BCM4318は11月中に量産出荷の予定だという。BCM1160とBCM4318のチップセットの価格は、サンプル出荷段階で31ドル。

 この新しいチップセットに関して、米ブロードコム VoIP製品担当テクニカル・マーケティング・マネージャー マシュー・ドーナム(Matthew Donham)氏に、さらに詳しく話を聞いた。


――VoIP/無線LANチップセットのユーザーメリットを教えてください。

ブロードコム VoIP製品担当テクニカル・マーケティング・マネージャー マシュー・ドーナム氏

ドーナム氏 まず、開発コストが安くなることです。開発で必要となる周辺のコンポーネントを1つのチップ上に取り込んでくることによって、絶対的なチップの数を減らすことができます。製品数が減ることによる信頼性やインベントリの処理が向上します。

 また、チップセットでは、技術的に消費電力の低下と帯域(ダイナミックレンジ)の拡張を実現しています。消費電力低下を具体的に説明すると、新チップを搭載した無線LAN携帯電話は待ち受け時間100時間、4時間の通話が可能になるでしょう。

――開発キットの想定ユーザーは?

ドーナム氏 開発キットには、ソフトウェア、ユーザーでの開発手本となるアプリケーションのサンプルやソースコードが含まれています。これは、携帯IP電話の仕様を策定するであろうサービスプロバイダーとシステムベンダの両方で利用されるでしょう。開発に必要となる基本のソフトウェアやツールはわれわれが提供し、その上に顧客がさまざまな付加価値を付け、製品の差別化を図っていくということです。両者の要求はそれぞれ違いますが、われわれは両方のニーズを理解した上で、ニーズを満たす新製品を発表できたと考えています

――ブロードコムがチップ開発における競合との優位性はどこにあるのでしょうか。

ドーナム氏 われわれの優位性は、ユーザーに提供するすべてのハードウェア、ソフトウェアのすべてを自社内で開発できる点だと思います。それによりハードウェアのコストを抑えることができ、ソフトウェアのアップデートなどのメンテナンスも直接サポートできます。この2点がブロードコムが市場に受け入れられてきた要因です。

 また、優秀な技術者の存在も挙げられます。IEEEでの新規格の策定などに参加しており、それにより自社の製品にもいち早く新しい規格に対応させることができます。

――ワイヤレスクライアントのスタンダードとして標準化が進められている「802.11e」や、次世代のワイヤレス規格「802.11n」への取り組みを教えてください。

ドーナム氏 ブロードコムの次の新製品は、今年12月にリリース予定です。それまでに802.11eが標準化されていれば、新製品に802.11eの新機能が追加されるでしょう。すでにチップセットを購入されたユーザーは、ソフトウェア・アップデートで802.11eに対応させることができます。ブロードコムでは、802.11eをワイヤレスクライアントのセキュリティやサービス品質を向上させる標準として評価しています。

 また、802.11nについては2005年ごろに標準化されると思いますが、残念ながらまだお話しできる時期ではありません。

(編集局 富嶋典子)

[関連リンク]
米ブロードコムの発表資料

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