次期版「Orcas」以降のロードマップも

「Visual Studio」発売10周年を高らかに宣言、MS

2007/03/29

 米マイクロソフトのVisual Studio担当上級製品マネージャーであるプラシャント・スリドハラン氏は、「VSLive」カンファレンスで基調講演を行い、同社の主力ツールが10周年を迎えたことを高らかに宣言するとともに、devBiz Business Solutionsおよびその「TeamPlain Web Access」技術を買収したと話した。

 TeamPlainは、作業項目やドキュメント、レポート、ソースコントロール・レポジトリなどを管理する、マイクロソフトの「Team Foundation Server」(TFS)のWebインターフェイスとなっている。

Visual Studio次期版は「Orcas」

 スリドハラン氏は、「このたびの買収で、TFSのあらゆる要素のWebインターフェイスが整うことになる。新製品は、TFSユーザーすべてに無料でダウンロード提供する予定だ。当面はこれを『Power Tool』に実装して暫定的に出荷するが、いずれは『Orcas』の一部とすることを考えている」と述べた。Orcasは、Visual Studioの次期版のコードネームである。

 マイクロソフトで「Visual Studio Team System」の製品マネージャーを務めるマイケル・リワーシー氏によれば、「マイクロソフトがTFSの利用法を分析した」ところ、同社の「Excel」「Project」「Team Explorer」がインターフェイスとして使われていることが分かったという。「この結果をから、TeamPlainがTFSにアクセスするための優れたインターフェイスになると判断し、同技術の買収を決めた」(リワーシー氏)

 2007年はVisual Studioの発売10周年であると同時に、スリドハラン氏がマイクロソフトに入社してから10年目の年でもある。

 「マイクロソフトは1997年2月に『Visual Studio 97』をリリースした」が、当時の製品は包括的なIDE(統合開発環境)とは言えなかったと、スリドハラン氏は述べている。そこからのビジョンを念頭に置いた開発が始まったのは、同製品のバージョン6.0からだ。

 多数の新機能が盛り込まれた「『Visual Studio 2002』は、IDE構想が前面に押し出された製品だった」と、同氏は言う。しかし、開発者が同ツールセットでさまざまな作業が行えるよう新機能を追加したことで、アプリケーションの用途と複雑性が肥大し、コラボレーションに問題が生じるようになった。

Orcasのテーマは生産性とコラボレーション

 マイクロソフトはこうした諸問題を「Visual Studio 2005」で解決し、Visual Studio Team Systemでは改良のレベルを推し進め、Orcasもさらに進化させるつもりだと、同社は話している。

 「Orcasの開発では、プログラマの生産性やチームのコラボレーションに焦点を絞り、LINQ(Language Integrated Query)およびAjax(Asynchronous JavaScript and XML)などの最新かつ最高のプラットフォーム技術への対応を考慮している」(スリドハラン氏)

 スリドハラン氏は講演で、Orcasの後にリリースする予定のVisual Studio Team Systemの「Rosario」バージョンについても言及した。

 「Rosarioのテーマは組織化とコラボレーションだ。そのほか、テスターにわれわれの長年の成果を検分してもらい、品質保証と検証にも力を入れていく」(スリドハラン氏)

 さらに同氏は、マイクロソフトはOrcasおよびRosarioの提供を通して、「Team Systemツールのどの要素を(Visual Studioのプロフェッショナル版に)移植」および実装できるか、検討する意向だと述べた。例えば、ユニットテストやコードカバレッジなどの機能は、同プロフェッショナル版への移植が始まっているという。

Visual Studio利用のプロ開発者は100万人以上

 スリドハラン氏は、自ら密接に関わりを持ったという理由から、Visual Studio 2005に一番愛着を持っているそうだ。しかし、重要性では同ツールの初めての.NET版であるVisual Studio 2002が筆頭に挙げられるだろう。

 「ビル・ゲイツが同製品のデモを行った2002年2月14日は、マイクロソフトの歴史においても特に意味のある日となった。Visual Studioにとっても開発者にとっても、重大な瞬間であったといえる」(スリドハラン氏)

 Visual Studioを利用しているプロの開発者は100万人以上おり、「Visual Studio Express」のダウンロード回数は1000万回を超えているという。また、Visual Studio Team Systemユーザーの25%は「Team Suite」を使用していると、スリドハラン氏は述べている。Team Suiteは、コアソフトウェア開発チームの各メンバーに、ソフトウェア設計、開発、検証用の包括的なツールセットを提供するライフサイクルツールスイートだ。

 Visual Studio 2005のリリース以来、マイクロソフトの「MSDN」(Microsoft Developer Network)サイトの掲示板には、100万件以上の投稿が寄せられた。「われわれはすでに、400人を超えるユーザーの要望に応えてきた。透明性を追求するマイクロソフトの取り組みが機能している証拠といえるだろう」(スリドハラン氏)

Orcasは今年末までにリリース

 一方マイクロソフトは、プロ開発者を対象にした製品の新たなロードマップも明らかにした。Microsoft Developer Divisionのゼネラルマネージャー スコット・ガスリー氏が執筆したブログには、Orcasは今年末までにリリースされる予定とあった。

 今年半ばにはOrcasの第2ベータ版が提供される。Orcasは、Visual Studio Team Suiteおよび「Team Edition for Software Architects」「Team Edition for Software Developers」「Team Edition for Software Testers」「Team Foundation Server」を含むものになる。

 リワーシー氏は、Orcasには「循環的複雑度を測るコードメトリクスが搭載される」ので、「開発者はコードが複雑すぎる場合に警告を受け、簡素化する手段について指示を得られる」と説明した。また、開発者はこうした情報を参考にして、複雑でエラーを起こしやすいコードを特定し、優先的に検証することができる。

 WCF(Windows Communication Foundation)アプリケーションのプロファイラサポートも実装され、WCFベースのアプリケーションのプロファイリングが可能になることから、アプリケーションのパフォーマンスが向上すると、リワーシー氏は付け加えた。開発者がコード正確性ポリシーをカスタマイズしたり、拡張したりすることも可能だ。

 また、Webテスト検証規則やWebテストデータバインディング、ロードテスト結果管理など、検証に関する多くの機能に改良が施され、WebテストレコーダではAjaxリクエストや、JavaScriptポップアップを記録できるようになるという。

Visual Studio Team System Rosario版の特徴

 TFSでは、開発チームのメンバーが自分たちの作業結果を逐一統合し、ビルドを自動化して、なるべく早くインテグレーションエラーを発見できるように検証過程を一元化するため、継続的なインテグレーションおよびビルド改良が可能になっていると、リワーシー氏は述べた。新たな「MSBuild」は、マルチスレッド化されたビルドにも対応している。

 現時点で考えられるVisual Studio Team SystemのRosario版の特徴、機能は以下だ。

  1. 「マイクロソフト Project Server」との統合を通して行う共同優先順位付けおよびITプロジェクト管理
  2. ビジネス上の優先順位に基づき能動的にリソースの負荷分散を行うことを目的とした、複数のプロジェクトにおよぶプロジェクト管理
  3. ビジネス上の要件に対するプロジェクトの成果物を調査する完全な追跡機能、および提案された変更が及ぼす影響を迅速に分析する機能
  4. 成果物に対するプロジェクトの現状および進捗状況を開発チームメンバー全員が確認できるようにする、包括的なメトリクスおよびダッシュボード
  5. バグの迅速な特定、情報交換、優先順位付け、診断および修復を可能にする開発者およびテスター向けの新機能
  6. 開発チームおよび検証チーム双方がテスト事例を作成、編成、管理するための統合的なテスト事例管理
  7. 反復的な手作業に患わされず、ビジネスレベルの検証に集中できるよう開発者やテスターを支援する、検証自動化およびガイド機能
  8. アプリケーションが生産体制に入れるかどうか、またビジネス要件に照らした検証が完全に行われたかどうかを判断し、リリースの「GO/NO-GO」を決めるための品質メトリクス
  9. 遠隔地にいる、分散している、分断されている、アウトソースされているなどの状態にある開発チームを直ちに共通の開発プロセスに組み入れる機能
  10. プロセスの簡単なカスタマイズと、顧客側開発チームの作業を調和させるためのマイクロソフトおよびパートナーによるガイダンス
  11. マルチサーバ管理、ビルド、ソースコントロールの改良

「Visual StudioはEclipseに匹敵」

 「すばらしい10年間だった。開発者は、ものを売る相手として、あるいは製品開発の対象として最高の存在だ」(スリドハラン氏)

 オープンソース開発プラットフォーム「Eclipse」について尋ねられたスリドハラン氏は、Visual StudioはEclipseに匹敵する機能を備えるようになっており、エコシステムにおいてはVisual Studioの方が力強く、かつ活発だと話した。

 「マイクロソフトは単に製品を作っているのではなく、企業がビジネスを営むのを助けているのだ」(スリドハラン氏)

原文へのリンク

(eWEEK Darryl K. Taft)

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