[Analysis]

使って分かったAndroidとiPhoneの違い

2009/06/29

android.gif

 5月末から6月にかけて、米国出張で2週間ほどAndroid端末を使う機会があった。使ってみると、同世代のスマートフォンとして競争相手であるiPhoneとの違いにいくつか気付いた。ここでは、私が気付いた両者の違いをざっくり主観を交えてまとめてみたい。

 Android端末とiPhoneは、ケータイ、あるいはスマートフォンという文脈で考えれば、違いより、むしろ似ているところのほうが多い。両者とも、主にPC向けとして進化したモダンなOSとWebブラウザを搭載していて、タッチパネルを生かしたUIも同様だ。アプリケーションプラットフォームが開放されており、個人でもアプリ開発が可能という点も同じだ。Windows MobileやSymbian OSでも個人開発者によるアプリ開発は不可能ではなかったが、SDKの入手のしやすさや取っつきやすさ、ポータル的なマーケットの有無など違いは大きかった。iPhone向けアプリケーションが、このプラットフォームの成功の一因であることは誰もが認めることだろうし、現在、Android向けにも着々とアプリケーションが登場し始めている。

使ってみた2台のAndroid端末

 私が使ったAndroid端末は2つ。1つは日本で入手したHTC製の「Google Android Dev Phone」、通称Dev Phone 1だ。これはT-Mobileが初のAndroid端末として2008年末に販売を始めたT-Mobile G1とハードウェア的に同じもの。今回、これに現地で契約したT-MobileのSIMカードを挿して使った。契約したのは1カ月限定の定額プリペイド方式というべきもので、約6000円の定額でデータ通信も可能というものだ。もう1つの端末は、サンフランシスコで開催された開発者向けイベント「Google I/O」で配布された、やはりHTC製の開発者向け端末で、Dev Phone 2とも呼ばれるもの。これはハードウェア的には「HTC Magic」として市販されているものと同等で、日本のNTTドコモから販売予定の端末も、これと同じものだ。

tmobile.jpg SIMカードはT-Mobileの1カ月限定プランのものを利用。データ通信は定額で可能
g1.jpg 今回使ったAndroid端末の「Google Android Dev Phone」
g2.jpg サンフランシスコで行われたGoogle I/Oで、グーグルは参加者全員にAndroid端末とSIMカードのセットを配布した。これはNTTドコモから販売予定の端末とハードウェア的には同等のものと思われる

 余談だが、私が端末を使ったのはサンフランシスコ市内。サンフランシスコの中心部と、やや中心から離れたミッション地区と呼ばれている辺りで端末を使っていた。高速道路で少し市街から出たり、地下鉄の駅構内に入ると3G接続からEDGE接続にフォールバックするのは当然として、中心街でもときどき3Gの電波が入らずにEDGE接続となってしまうことがあった。3Gに関しては東京とは比較にならない電波状況の悪さだった。T-Mobileは、もともと評判は良くないようだが、全米で10位にランクインする人口密度とエリアの狭さでこの状態。ほかの都市や田舎町は推して知るべしだろうか。

最大の違いは端末乗り換えの容易さ

 2台のAndroid端末を使ってすぐに気付いたiPhoneとの違いは、SIMカードを挿してアカウントを設定すれば、すぐに過去に使ったAndroid端末と同じ環境が再現できるという移行の容易さだ。

 実は先にDev Phone 1のほうで有料アプリケーションを試しに購入していたのだが、このアプリケーションが2台目のHTC Magicのほうではどうなるのだろうかと一瞬、不安になったのだが、当たり前のように「購入済み」と表示されてダウンロード可能となった。購入アプリケーションはアカウントに紐付いているため、二重に購入する必要はない。

 アドレス帳にしても、AndroidではGmail側のものが使えるというだけなので、アドレス帳の移行という発想自体がない。プライマリはクラウド上にあって、アカウントを設定すれば、すぐにいつも通りのアドレス帳が使える。標準のカレンダーはGoogle Calendarと同期しているため、新端末を使い始めたとたんに画面上部のノーティフィケーション(Windowsのバルーンメッセージのようなシステム上の通知メッセージ集約エリア)にGoogle Calendarで入力済みの今日の予定が表示されて驚くといった具合だ。

notification1.jpg ノーティフィケーションの例。新着メールや予定表示、ダウンロード処理の終了などアプリケーションが出すメッセージは上部のバーに集約される
notification.jpg ノーティフィケーションは指で引きずり出して中身を確認できる

 実は私はGmail上のアドレス帳はあまり活用していなかった。むしろ、「Gmailのアドレス帳に、電話番号や住所なんか誰が入れるのだろうか?」と疑問に思っていた口だ。ところがAndroid端末を使うようになって電話番号を入れ始めると、急に「クラウド上のアドレス帳」が充実してきて、まじめにアドレス帳管理でもやってみようかという気になるのだった。

 端末移行の容易さでは、アカウントを設定するだけですべて完了するというシンプルさのAndroid端末の利便性は圧倒的だ。撮影した写真や動画を常にSDカードに落とすか、ネットにアップロード・送信するという使い方をしていれば、端末上にしか存在しないデータがなく、いきなり端末が故障しても実費以上の精神的苦痛がなさそう、というのもうれしい。これはデフォルトで対応するクラウドサービスの魅力や普及度の差というべきかもしれないが、“Google Phone”と呼ばれることもあるAndroidの面目躍如、といったところだ。

 もっとも、こうした端末移行時のデータ移行については、iPhoneでも似たようなところがあって、特にMobileMeやGoogle Syncを使いこなしている人であれば、同じことが可能だ。PC上のiTunesを経由すれば、アドレス帳の移行もクラウドサービスなしに実行できる。しかし、そもそも年額9800円のMobileMeを使っている人は少数派だし、サービス内容を評価する声もほとんど聞かない。シンプルさと実サービスの実績を考えると「Android端末+グーグルのサービス」のほうが説得力がある。

 Android端末はグーグルのサービスを使うためのものという印象が強い。中心にあるのはGmail、Google Calendar、Picasa、YouTubeといったサービス群で、それらを、たまたまモバイル端末で使っているだけというイメージだ。だから、端末の乗り換えに際して「データ移行」という面倒な作業は発生しない使い方が実現しやすい。

 一方で、さすがにこれほどグーグルに依存していいものかと考えなくもない。ちょっと驚くのはAndroid端末には、いったん紐付けたアカウントを消去したり、あるいは変更する機能がないことだ(少なくとも表面上見えない)。Gmailのメールデータはもちろん、アドレス帳もCSV、vCard、Outlook形式などでエクスポートできるためロックインの心配はないのだが、少し違和感も覚える。

【訂正】上記記述は誤りでした。アカウントの紐付けの解除は可能です。ホーム→設定→アプリケーション設定→アプリケーションの管理からGmailやGoogle Appsを選択して「データを消去」を選択することでリセットすれば、再び別アカウントが設定できます。訂正してお詫びいたします。

 Android端末は、少なくとも今のところは良くも悪くもGoogle Phoneだ。グーグル並みの有力SaaSベンダが、自社サービスをデフォルトにしてカスタマイズしたAndroid端末を市場に出すとは考えづらい。このため、Android端末はオープンプラットフォームと言いながら、事実上はGoogleプラットフォームにとどまっている。

OSアップデートでも“母艦”が不要のAndroid

 iPhoneを含めて、これまでPDAやスマートフォンと呼ばれる端末の多くは、データをバックアップしたり、ネットワークからアップデートバイナリを取ってくるPC、いわゆる“母艦”を必要とすることが多かった。この点でもiPhoneとAndroid端末の印象はかなり違う。

 iPhoneはPCにインストールしたiTunesの存在が前提であるのに対して、AndroidはPCとは無関係だ。SDKを入れて開発をするのでもない限り、PCと接続してシンクロする必要はないし、OSのアップデートすらネットワーク経由で大きなバイナリが落ちてくる。

update.jpg OSアップデート中の画面。PCなしでダウンロードが可能で、再起動すればアップデートは完了する

 2台のAndroid端末を使っていて、これまで数度のOSアップデートがあったが(1.0系から1.5系という大きなものも含む)、ともにWi-Fi環境でダウンロードして再起動すれば最新OSという状態だ。これはiTunesでOSのバイナリをダウンロードしてPC経由でアップデートするiPhoneよりも楽だ。モバイル端末がちょっとしたPC並みのパワーや通信能力を持とうという時代に、OSのアップデートぐらいでPCの存在を必要とするというiPhoneのモデルは時代遅れではないかと思う。もっともこの辺りは、どのぐらいの頻度でデバイスをPCに接続するかによって印象は違うのかもしれない。

UIの滑らかさはiPhoneが数段、格上

 Android端末とiPhoneを比較するとき難しいのは、「Android端末」が指すものが複数あることだ。今後は提供ベンダも入り乱れてくるだろう。

 Android自体はOSやアプリケーション実行環境を含むソフトウェアプラットフォームを指している言葉に過ぎず、マイクロソフトのWindowsのような存在であるのに対して、iPhoneはOSとデバイスが完全に統合され、1社からのみ提供されているという違いがある。AndroidではApp Storeですら、この先、グーグル以外がホスティングするサービスが登場する可能性がある。

 このため、例えば市場に出始めたAndroid端末の外観デザインやキーボードの感触、カメラの画素数がどうだというのは本質的な議論ではない。時間が経てば進化する各種デバイスの機能にしても、iPhoneでもAndroidでも似たようなもの。目の前の端末で比較しても大して意味があるように思えない。Webブラウザも同じWebKitベースだから、一方のJavaScriptが3倍高速になれば他方も同程度高速化するだけだ(iPhoneは3.0で、Androidは1.5で、それぞれJavaScriptエンジンにSquirrelFishを使ったWebKitに移行したため、ベンチマーク性能では2〜3倍程度速くなっている)。

 ただ、そうは言いながらも、一般論としてはユーザーインターフェイスの洗練度や使い心地では、iPhoneが数段格上だというのは言えると思う。

 画面デザインはiPhoneの圧勝だ。UIの基本パーツがAndroidは非常に味気ない。各アプリケーションでメニューボタンを押して出てくるアイコンは標準ではモノクロの「とりあえず作った」というものだ。アプリから標準利用できるタブやリスト表示、ドロップダウンリストの見た目も同様で、標準UIパーツを使ったアプリケーションは、たとえ実用性に問題がなくても見ていてちょっと悲しい感じだ。もっともこれは端末メーカーやアプリケーション側で自由にカラフルなものに置き換えられるので、今後に期待というところだろうか。iPhoneが頭のてっぺんからつま先にまで意識を行き渡らせたダンサーだとしたら、Androidは大味なアクロバット芸人といえるかもしれない。見た目のデザインについては非常に荒削りだ。

adtrid.png オープンソースで開発されているToDo管理ソフト「Astrid」の画面。メジャーなToDo管理サービスのRemember The Milkとシンクロできるなど機能的には申し分ないのだが、画面デザインは実に味気ない
buddymob.jpg TwitterクライアントにもなるBuddymobの画面。アイコン類のデザインは比較的洗練されている。メニューのアイコンもカラーになっていて、がんばれば少しは何とかなるようだ

 UIの完成度もiPhoneが数段上という印象だ。例えばWebブラウザ。読み込みや表示速度に大きな差は感じられないが、指で画面を触ったときの反応が全然違う。iPhoneが指にピタッと張り付くように機敏にユーザー操作に反応するのに対して、Androidはどこかモッサリとしか反応しない。特に読み込み中の操作に対する反応の悪さはiPhoneに慣れた私にはつらいものがある。これはWebブラウザで特に違いが大きく感じられるが、ほかのアプリケーションについても言えることだ。iPhoneのアプリケーションではスクロールが指に張り付く心地よさがある。具体的に何が違うのかは分からないがソフトウェアキーボードもiPhoneのほうが誤入力が少なく使いやすく感じる(ついでに書くと、iPhoneの日本語フリック入力は素晴らしい発明だと思う)。

 もちろん使っていて問題のないレベルだが、Android端末では処理がスムーズなところとそうでないところがあるために、「ボタンを押したつもり」「画面をスライドさせたつもり」といったときにうまく操作ができずにイライラすることが多い。画面上部のノーティフィケーションを指で下にズルリと引き出す操作も、よく失敗する。クリックすべき領域が狭いからうまくポイントできていないのか、ドラッグ判定のタイミングが厳しすぎるのか分からないが、ともかくよく誤操作してしまう。もちろんiPhoneでも、スライドスイッチの状態を一発でうまく反転できないなど同様のイライラはあるが、Androidほどではない。

 Webブラウザで1つページを戻る操作は、Androidの場合、システム全体で「戻る」操作を指示するための、本体下部にある物理的なボタンを押すことになる。慣れればいいことかもしれないが、Webブラウザを画面上でタッチ操作しているときに、遠く離れた場所にあるボタンを押せというのは少し無理があるように感じられる。これは各アプリでメニューを表示するのが物理ボタンであるのも同様だ。もしかしたら2台の異なる端末を使っていたから余計に混乱したのかもしれない。Android端末ではホームボタンやメニューボタンの配置についてデザインガイドがないのか、同じようにボタンが4つ並んではいても端末によって順番が違うという、ある意味では信じられない緩さがあるのだ。

 iPhoneのWebブラウザでダブルタップして部分拡大できる機能は、必要な個所をズームアップさせ、見終わったら(読み終わったら)また戻すにという優れた機能だが、こうした機能の有無やズームの滑らかさもユーザー体験に大きな違いをもたらしている。Androidにはページ全体を縮小表示して一部を拡大するUIもあるが、応答の悪さと相まってiPhoneのユーザー体験には及ばない。

webkit.jpg AndroidのWebブラウザはマルチウィンドウを切り替えて使えるが、応答性が悪く、使い勝手は今一歩

 ただ、皮肉な話だが、iPhoneもAndroidもWebブラウザは不安定で遅いので、それほどヘビーにWebブラウザを使い続けることはない。むしろ、別アプリ(特に最近はTwitter)からURLを叩いて1つだけWebページを開き、すぐにまたアプリケーションに戻るということが多い。こうした使い方で将来性を感じるのはAndroidのほうだ。

アプリ連携はAndroidのほうが先進的

 Twitterの価値は人々がつぶやきに含めるURLリンクにこそあるという人もいるぐらい、Twitterはリンクメディアとして使い勝手の良いサービスに成長してきている。自分と興味が似ている人が面白いと紹介するWebページは、自分にも面白い可能性が高いからだ。公式・非公式のメディア系ボットは、次々と最新情報のリンクをつぶやいてくれるので、RSSリーダーに近い機能も提供してくれる。

 Twitterクライアントで比較すると、AndroidとiPhoneの違いが際だつ。

 iPhoneはアプリケーション連携機能が非常に弱い。というよりも、各アプリケーションは事実上個別の領域に閉じこめられていて、ほかのアプリケーションと連携することがない。コピー&ペースト機能ですら、最近になってやっと対応したほどだ。

 これに対してAndroidはアプリケーションプラットフォームとして、ある面ではWindowsのようなPC系OSすら超える環境を提供できている。

 iPhone上のTwitterアプリでは、ユーザーがWebページのリンクをクリックすると、外部Webブラウザを起動するか、内部でWebブラウザモジュールを呼び出すかどちらかの動作を行う。前者の方法は遅い上にアプリケーションの切り替えが発生するため、最近は後者の方法を使うことが多いようだ。いずれにしてもプログラマがWebブラウザを呼び出す形となる。

 一方、同じUIを実現するAndroid流の方法はインテントと呼ばれるメッセージをシステム上で発行する方法だ。インテントは、アプリケーション間でやり取りされるメッセージで“処理依頼書”のようなものだ。明示的に処理を依頼するアプリケーションを指定したり、あるいは特に指定せずにインテントを発行すると、それを処理すべきアプリケーションが起動する。Twitterクライアントの例だと、URLを含むインテントを出せばWebブラウザが起動してWebページを表示する。同様に動画再生のインテントを発行すればプレイヤーが起動するなど、がっちりアプリを作り込まなくても、必要なアプリ同士が緩やかに連携するようになっている。

 TwitterクライアントのTwidroidは、このインテントの仕組みをうまく使って、他のアプリケーションに対してTwitter機能を提供している。例えば、Twidroidの存在をまったく知らない「AK Notepad」というメモアプリケーションがある。このメモアプリケーションにある「Share」ボタンを押すと、メール送信のインテントが発行される。このインテントをTwidroidやGmail、SMSなどがキャッチして、ユーザーに選択リストを表示する。ユーザーがTwidroidを選ぶと、メモの内容をそのままTwitterに投げることができる。メモアプリケーションのAK Notepadは起動がやけに速いこと以外は特徴のないシンプルなアプリケーションだが、インテントの仕組みがあるため、事実上メール送信やTwitter対応までできてしまっていることになる。

twit01.jpg AK Notepadという簡単なメモアプリケーションでテキストを入力。メニューボタンから「Share」を指定すると……。
twit02.jpg メール送信のインテントが生成されて、これに対応するアプリケーションが反応。リストアップされる。ここでTwitterクライアントのTwidroidを選択すると……。
twit03.jpg テキストがペーストされて送信ボタンで実際にTwitterにテキストを送信できる。ポイントはAK NotepadとTwidroidの2つが互いに明示的に連携することを前提として開発されているわけではないところ

 同様の例として「Share video」のインテントもあるようだ。Android 1.5から動画撮影とYouTubeへの直接アップロード機能が搭載されたが、Share videoのインテントに対してはGmail、SMS、YouTubeアップローダの3つが反応する。ここに新たにビデオ共有サイトのアップローダやビデオ編集アプリを追加するのは容易だろう。

 カメラについても同様だ。カメラアプリから写真を選択して「Share picture」を選択すると、Gmail、SMS、Picasa、PicSay(画像編集アプリ)、Twidroidなどがリストアップされる。例えばカメラアプリから写真編集アプリのPicSayに写真を渡し、そこで加工作業をして、さらにそこからTwitroid経由でTwitterにポスト(実際には写真サイトへのアップロードと、それへのリンクのTwitterへのポスト)、という連携プレーがインテントを使って自然に可能なのだ(もちろんユーザーはインテントという言葉を知る必要はない)。

Androidにはアプリ間のデータ連携の仕組みも

 もう1つ、Androidにはアプリ連携の仕組みとして「コンテントプロバイダ」と呼ぶ機能もある。これは各アプリケーションがSQLiteでストレージに保持したデータを、ほかのアプリケーションから利用できるように公開する仕組みだ。ほかのアプリケーションはSQLで、こうしたデータにアクセスできる。例えばアドレス帳は、コンタクト情報のコンテントプロバイダとなっていて、ほかのアプリケーションから(ユーザーの承認に基づいて)利用できる。これはWindowsではWinFSという名称で開発されてきて、Windows Vistaに搭載されるはずだった機能と似ている。つまり、ディレクトリ構造しかないフラットなファイルシステムではなく、ユーザーのデータをメタ情報で構造化した形で保持し、再利用をやりやすくするという発想だ。WinFSは開発がストップしているが、Androidには、こうした先進的な仕組みも入っている。

 コンテントプロバイダは、Android 1.5から入ったライブ・フォルダと呼ぶ新しい機能にも流用されている。ライブ・フォルダは、特定のコンテントプロバイダの情報をリアルタイムに表示するフォルダだ。アプリケーションを起動せずに、デスクトップ上から手早くアプリケーションが持っているデータの一覧を取得できる。例えばRSSリーダーであれば最新のニュースを表示できる。私はサンフランシスコ滞在中、人気ソーシャルブックマークサイトのdigg.comをライブ・フォルダとして設定してみたが、確かに起動が速く(というよりもフォルダなので一瞬で開く)、空き時間にちょっと何かを眺めるUIとしては可能性があるかな、と感じた。

 ライブ・フォルダもそうだが、水平方向に3画面分あるデスクトップ領域を自分の好きにカスタマイズできるというのも、iPhoneと比べたときのAndroidの魅力だ。iPhoneがメニューアイコンを並べるだけなのに対して、検索ウィンドウや時計、写真、付せん紙メモ、フォルダなどのウィジェットをデスクトップ上に配置できる。壁紙も好きに設定できる。端的に言えばPC的だ。

digg.jpg ライブ・フォルダの例。Android 1.5で入った新機能だが、実際にはコンテントプロバイダに対するクエリを定義したビューでRSSリーダーのように最新情報一覧の表示に使える。アプリ起動より軽いのが特徴だ
desktop.jpg デスクトップにアイコンやフォルダ、ウィジェットを配置できる。赤いのは付せん紙でクリックすると文字が読める。写真立て的なウィジェットもある

 ウィジェットについて書いたのでついでに触れておくと、Android 1.5で標準搭載の検索ウィジェットは音声認識エンジン対応だ。ちょっとした検索は音声でできるし、誰かに電話をするといったタスクも音声で行える。私が試した端末は英語対応だけだが、「san francisco bridge」とか「how to juggle 5 balls」、「html 5」といった単語の羅列を一発で認識してくれて少し驚いた。

 インテントやコンテントプロバイダの仕組みなど、個別にアプリケーションを作り込む必要があるiPhoneに比べて、Androidプラットフォームはアプリケーションの機能やコンテンツの共有・連携の仕組みが進んでいると言えるだろう。

やっぱり便利なマルチタスク

 複数のアプリケーションが協調したり、陰に陽に同時に動くのもiPhoneにないAndroidのアプリケーション環境の特徴だ。

 TwitterクライアントとWebブラウザのようにインテントによるアプリ連携で気付くのはマルチタスク処理のスムーズさだ。Androidアプリは別アプリに画面を奪われても動き続けることができるため、複数のアプリケーションを起動した場合でも、それらの切り替えが瞬時で行える。PC用OSのように明示的なタスク切り替えができないので、操作として「戻る」ボタンを押して元のアプリケーションに戻ったり、ホーム画面経由で再起動のようにアイコンをクリックする形になる場合も多いが、iPhoneのように1つのアプリケーションを起動すると必ずそれ以外がすべて終了するというモデルより、はるかに快適だ。例えばメモアプリを1度起動してからWebブラウザやメールを使い、またメモアプリに戻っても、これらの切り替えはほとんど一瞬でできる。メモリ搭載量や使うアプリケーションにもよるのだろうが、数個のアプリケーションぐらいならメモリに載って稼働したままのようだ。

 例がTwitterばかりで恐縮だが、Twitterクライアントなどは常時起動しっぱなしにできる。iPhoneだと、例えばちょっとスケジュールやメールをチェックするといった作業でも、必ずアプリケーションの終了、メールアプリの起動・終了、元のアプリケーションの再起動が必要で、かなり煩雑な上に時間がかかる。Twitterのタイムラインを見ているときに端末がプルルとふるえてメール着信に気付いても、もしかしたら単に@ITからのお知らせメールかもしれず、なかなか終了→起動→終了→起動という操作をする気になれない。Androidは、こうしたアプリ切り替えが軽快なのがiPhoneと比べた大きなアドバンテージだ。iPhone 3GSになって動作が目に見えて高速になったとはいえ、同時起動アプリが1つまでという制限は厳しい。Androidに比べると複数アプリを切り替えながら使うのは、かなり苦痛だ。

バックグラウンド処理も一度使うと手放せない

 バックグラウンド処理(Androidでは画面を持たないアプリケーションをサービスと呼ぶ。処理の優先順位が低い)も、iPhoneにないAndroidプラットフォームの魅力的な機能の1つだ。例えば、Android Marketでアプリケーションを選択してインストールすると、このダウンロードタスクはサービスとして実行される。ダウンロードは背後で適宜進行するので、それは放っておいて、別のアプリを探すなど、すぐに別作業に移れる。複数のダウンロード処理を順次バックグラウンド処理とすることもできるし、すでにダウンロードが終わったアプリを起動することも可能だ。

bg.jpg 実行中のダウンロード処理はバックグラウンドで行われる。これはノーティフィケーションを引きずり出した状態なので画面を占有しているように見えるが、実際には画面上部のバーにアイコンとしてダウンロード処理中を示すアイコンが表示されるだけ

 たいていのサービスは、ノーティフィケーションに何らかのメッセージを表示することで処理の終了などをユーザーに知らせる。ダウンロード終了は、画面上部から指でスライドして出せるウィンドウに1つのメッセージとして収まる。これをクリックすると実際にアプリが起動して、作業を続行できる。

 実際にやってみて分かったのは、YouTubeへの動画のアップロード処理など、時間がかかる処理がバックグラウンドだとありがたいということだ。街を歩きながら撮影した30秒ほどの動画を、そのまま歩きながら3G接続でYouTubeにアップロードしてみたのだが、これが結構時間がかかる。しかし、アップロードタスクとしてノーティフィケーションのところに収まったのだけ確認してポケットに入れてしまえば、カフェに着く頃にはアップロードが終わっているという気軽さだ。もちろんアップロード処理中に、ほかの作業を続けることもできる。

 Twitterクライアントもバックグラウンドで走りっぱなしにしておくと、適宜ノーティフィケーションに最新のタイムラインが表示される。表示面積の問題から実用性には疑問があるが、これもiPhoneにない使い勝手を実現している。

 ところで、Gmailもそうだが、Androidのサービスのような仕組みがあって何でもかんでもWebサービスに対してポーリングするとバッテリの消耗が激しいようだ(ちなみにドコモのAndroid端末ではGmailはプッシュ対応のようだ。私はiPhoneでの経験から10分とか15分置きのポーリングで困ることはないと思っているが)。利用頻度や利用アプリなど条件がそろっていないので比較は難しいが、私が使ったごく主観的な印象ではDev Phone 1もDev Phone 2も、iPhone 3Gの6〜8割程度のバッテリの持ちとう印象だった。Google I/OでAndroid向けアプリケーション開発で心がけるべき3つのことというテーマのセッションで「バッテリ、バッテリ、バッテリ」と唱えていた理由も分かる気がする。現在、モバイル端末になだれ込みつつある開発者の多くは、サーバやPC向けで開発していてバッテリやネットワーク帯域のことをあまり気にせずに済んできた人も多いだろう。組み込み開発者が聞いたら卒倒するような作りのアプリケーションも多いのではないか。ただ、AndroidはふつうのUSBケーブルでUSB充電が可能なので、利用する環境やライフスタイルによっては、バッテリ持続時間はあまり困らないのではないかと思う。

改めて気付くWebサービスの汎用性

 サンフランシスコ滞在中にAndroid端末を使っていて改めて驚いたのは、Webサービスの普遍性だ。

 ある日の夕方、待ち合わせに向けて市街中心部のユニオン・スクエアの近辺を歩いていると、ポケットの中でポーンと端末が鳴った。メールかTwitterのタイムラインのまとめ更新だろうと思って端末を開くと、それは知り合いのライターからの「お久しぶりです」というメッセージだった。一瞬、何が起こったか分からず、サンフランシスコに来ているのかと聞いたらそうではなく、東京にいるという。つまり早朝の東京から、夕方のサンフランシスコの私に向かってメッセージが飛んできていたのだ。それはGtalkを使った呼びかけだった。

 私がほとんどGtalkを使わないからということもあるが、突然の呼びかけに驚いた。タイプして返信してみると、ほとんどリアルタイムで問題なくチャットができる。先方は、むしろ私がサンフランシスコでAndroid端末を使って返信していることに驚いていた。

gtalk.jpg 結構本気やり取り中のGtalkの使用例。日本語入力ができなくて寂しいが、ふつうに東京とサンフランシスコの間でリアルタイムチャットができた

 もちろん日本のケータイ端末でもローミングを使えば、海外に出たときにメールも届くかもしれないが、改めてインターネットやWebサービスの普遍性と、その強力さを感じずにいられない。Webサービスであれば、端末の種類やキャリアは関係がない。

 米国では今でもまだSMSが重要なメッセージ送受信手段で、これがキャリアの大きな収入源になっているという(だからデータ定額であっても利用するSMSメッセージ数によってオプション料金が大きく追加される)。その歴史的事情は十分に分かるが、Gtalkを使ってみると、これまでいかにモバイル端末がキャリアや国境という壁で閉じこめられてきたがハッキリと分かる。もはやSMSなどまったく不要ではないかと思う。

Android Marketは何でもあり?

 さて、私が気になったのはAndroid Marketだ。日々、Android関連情報サイトから流れてくる新着アプリ情報を見ているのだが、記述を見ていると、量は多いが、まだ「作ってみた」というレベルのものが多い印象だ。今のところ一部のゲームのように最初から完成度の高いものをのぞくと、細々とした小物ツール類やマッシュアップ的アプリが多いように思う。古き良きWindows(DOS)時代のフリーウェア、シェアウェア文化に近いものを感じている。

 少し怖いのは、Android Marketには、ほとんど誰でもアプリを登録できること。グーグルによるアプリの審査はなく、ユーザーは自衛手段として開発者に関する情報から信頼性を確認するのと、インストール時にそのアプリが端末のどのデバイス、どのデータにアクセスするのかを確認した上で、少しでも怪しいと思ったらインストールを中断するぐらいしかない。ユーザーが明示的に許可しない操作は禁止されているから大丈夫だろうと思って「ネットワーク接続」と「コンタクトリスト情報へのアクセス」を許可したアプリが、コンタクト情報を盗み取って悪用する可能性もある。

market01.jpg Android Marketでダウンロードしたものに限らず、アプリケーションのインストール時には、それがどういうリソースにアクセスするかが表示され、ユーザーに確認を促す。アプリケーション開発者はユーザーの許可がないリソースにはアクセスできない

 今のところ大きな問題は発生していないようだが、将来的には優れたアプリが実は裏でユーザーの情報を収集してマネタイズしていた、ということが起こってもおかしくない。各アプリには電子署名が施されていて、ある程度は開発者をトラックできるようだし、利用者からの通報システムもあるが、iPhoneの厳しい審査と比べると、ほとんど「何でもありの自己責任」という印象もある。決定的にシステムを壊されたり乗っ取られるようなPC上のマルウェアに相当するものを作るのはパーミッションで厳密に保護されているため難しいかもしれないが、情報が盗まれる可能性は否定できない。

 ただ、これは善し悪しだ。審査にはどうしても恣意性が残るからだ。App Storeではアップルのコントロールが強く、一部のアプリケーションが配布できない状態にある。例えば私のiPhone 3Gでは、最新の3.0にアップグレードしても動画撮影ができない。jailbreakと呼ばれる利用許諾違反の強行手段を使えば可能なのだからハードウェア的にできない理由はない。動画アプリケーションを提供したい開発者と、使いたいユーザーがいるのは間違いないのだが、事実上禁じられている状態だ。動画撮影をしたかったらiPhone 3GSに買い替える必要がある。動画アプリケーションと同様に、例えばモバイル用Webブラウザの「Opera Mini」もiPhone上にはない。プラットフォームのオープン性についてiPhoneには疑問符が付く。

 アプリケーションの開発・実行環境にしても、AndroidはPCに近く、よりオープンだ。Eclipseのプラグインとして提供されているSDKを入れれば、誰でもアプリケーションが書ける。開発環境はWindows、Mac OS X、Linuxのどれでもいい。作成したアプリケーションは、PC同様にメールで誰かに渡すこともできるし、Webサイトに置いてもいい。一方、iPhoneはMac OS Xでしか開発環境を用意できないし、配布に関してもApp Storeへの登録が必須と制限がきつい。

 これまでキャリアが主導してきたモバイル端末向けアプリケーション開発・配布の仕組みに比べると、App Storeは非常に自由度が高いが、Android Market(あるいはAndroid端末)は、さらに自由度が高いといえそうだ。

有料ソフトを購入してみた

 ともあれ、ものは試しとAndroid Marketでよく売れているアプリケーションの1つ、「PicSay Pro」を買ってみた。購入は端末とは無関係にGoogle Checkoutというクレジットカード決済サービスに転送されて、そちら側で行うという方式だった(Android Marketの扱いが日本で発売予定のNTTドコモのAndroid端末でどうなるか分からない)。ちなみに現在、Android Marketは無料アプリの割合が多いほか、ToDo管理の「Astrid」など、オープンソースで開発しているアプリケーションも目に付く。

market02.jpg Android Marketで有料アプリを購入すると、Google Checkoutというクレジットカード決済サービスへリダイレクトされた。購入は問題なく終了

 PicSay Proの1.99ユーロ(約260円)という値段は手頃だし、ダウンロード数が多く、ユーザーの評価も高いので購入してみた。吹き出しやスタンプ的なビットマップ張り付け、階調、色調調整など基本的な画像編集ソフトという感じだが、タッチUIをうまく使っていて非常に使いやすい。例えば張り付けた絵を回転、拡大させて任意の場所に配置するような操作は、直感的に指1本でできて便利だ。写真をメールに添付するようなケースでは楽しく使えるかもしれない。加工済みの写真をその場でメールに添付したり、Picasaにアップロードしたり、Twitterクライアント経由でポストしたりできるのが便利だ。

picsay.jpg 購入した有料アプリのPicSay Pro。ビットマップを張り付けたり、色調を変えたり、吹き出しを付けたりといった簡単な加工ができる。吹き出しアプリにポインタが2つあって、吹き出しの位置調整が指だけで直感的にできるなど、操作性はなかなか

メール環境に見るiPhoneとAndroidの違い

 画像編集ソフトから写真をメールに直接添付してみると、iPhoneのメール環境に制限が多いことに改めて気付く。iPhoneでは、そもそもメールソフトからの添付ができず、いったんアルバムを表示して、そこから1枚選んで添付することしかできない。2枚目の添付もできないなど妙な制限もある。iPhoneでは写真編集ソフトは人気ジャンルで、私もトイカメラ的効果が簡単に施せるアプリケーション「CameraKit」を使っているが、こうしたアプリケーションの多くはメール機能を内蔵していない。編集ソフトでできることは加工とアルバムへの保存だけ。つまり、写真を撮影して、加工、その後にメールするとなると、ちょっと操作が面倒だ。2枚以上を送るとなると、考えただけでも面倒すぎてくじけそうになる。

 ちなみに私は家族がauの端末を使っていたため、受信可能画像サイズの問題からiPhoneで撮影した写真はそのまま送れず、いったん画面キャプチャする(これでリサイズできる)という操作を手動で行っていた。カメラアプリに撮影画像サイズの指定すらないのはiPhoneの欠陥だと思う。無駄な機能を徹底して省くことの美徳やポリシーは結構だが、せめてメニューの奥の方に詳細設定を隠しておいてくれればいいように思うのだが、どうだろうか。

 iPhoneはアップルの思想(とジョブズの魂)がこもった“作品”で、その完成度や統一感には素晴らしいものがある。しかし一方で、そこここで不自由さやポリシーの押しつけが気になることがある。逆にAndroidは、作品としての完成度はiPhoneに劣るものの、そうした不自由さが感じられない。PCユーザーが「まあ普通はそう動作するだろうな、そういう設定項目(機能)があるだろうな」と感じる素直な動作をする場面が多いように思うのだ。もちろん、PCもケータイもほとんど使ったことがない初心者ユーザーであれば、徹底して選択肢を排除したiPhoneのほうが使いやすく感じるのかもしれないとは想像する。アプリ起動のアニメーションにしても、もたもたするだけと感じる私のようなユーザーがいる一方、何が起こっているか分かりやすくて安心だという初心者もいるだろう。また、Androidアプリの実体とも言える「Activity」クラスの状態遷移は複雑で、いったいどのアプリが起動状態なのか分からないときがある。それは開発者以外は気にする必要がないといえば、その通りだが、PCのようなメモリ読み込み、初期化、終了というアプリケーションのライフサイクルが染みついている人は、明示的に終了できないことが気になるかもしれない。この点でも「自分は理解して使っている」という感覚を容易に与えてくれるiPhoneのほうが優れているという議論は可能だろう。

 長々とAndroidとiPhoneの違いについて書いてきた。ハードウェア的にもOS的にも、両者は似たところが多い。しかしアプリケーションの開発・実行・配布環境として見ると、かなりの違いがある。特に今後Android端末の種類が増えたり、Android対応アプリが増えてくれば、その差はより鮮明になってくるだろう。そうしたとき、両端末からユーザーが受ける印象は、かなり異なるものになりそうだ。

(@IT 西村賢)

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