特別企画:ストレージ・ネットワーキング・トレンドレポート【前編】

マルチベンダ環境のストレージを相互運用させる「SMI-S」とは?

SNIA日本支部会長
日立製作所 和田健一
2004/8/6


   1. ストレージ業界、今年のトレンドは?

SNW Spring 2004レポート概要

 2000年秋にスタートし、1年に2回のペースで開催されているストレージ・ネットワーキング・ワールド(SNW:Storage Networking World)。今年の春のイベントの模様をストレージ業界のトレンドレポートとして紹介したい。

 米国アリゾナ州フェニックスにて4月5〜8日の4日間にわたり開催された。参加者は合計2470名、うちエンドユーザーは816名であった。最近のSNWはエンドユーザーのソリューションに焦点を当てており、このこともあって、エンドユーザーの参加が年々増えてきている。

 イベントでは、基調講演、ゼネラルセッション、ケーススタディ、チュートリアルなどからなる講演と、115を超えるベンダ・メディアの出展、30社が参加したインターオペラビリティおよびソリューションデモが実施された。

 基調講演、チュートリアルやユーザーケーススタディなどを除いた講演テーマを分類すると以下のようになった。

講演テーマ 講演数
バックアップ・リカバリ  
9
TCO/ROI
(Total Cost of Ownership:データ処理、ストレージアクセス、ファイルサービスなど特定の機能の総合的なコスト/Return Of Investment:投資対効果)
8
セキュリティ 7
ILM(Information Lifecycle Management:情報ライフサイクルマネジメント) 6
法規制/コンプライアンス 5
ストレージ管理 5
IPストレージ 4
グリッド 2
NAS 2

 上のデータを参考にトレンドを紹介したい。大きな流れとしては、製品ベースというより、管理・効果といった言葉が目立つことから分かるように、ストレージ業界もより“ソリューション志向”になっているといえる。ストレージインフラストラクチャを顧客ニーズに適合させようという挑戦である。ソリューション志向へのストレージ業界の提案については後述することにとして、まずは全体から私が感じた「6つのトレンド」を次に挙げたい。

6つのトレンド

 「6つのトレンド」は以下に示す通り。ストレージ業界に限らず、IT業界全般でも同じようなテーマがキーワードになっているのは興味深い。

(1)ディスク to ディスクへの期待が高い
(2)ストレージ投資のTCO/ROI評価の議論が活発
(3)セキュリティはストレージネットワーキングの重要なキーとなっている
(4)IPストレージは普及しつつある
(5)ストレージ管理標準「SMI-S」が着実に進展
(6)ILMがホットスポット

(1)ディスク to ディスクへの期待が高い
 バックアップについては、目新しいキーワードはないが、依然としてユーザーの一番目の関心事である。ATA※1/SATA※2を搭載したディスクの登場により、バックアップリストア時間の短縮や運用の高信頼化を目指したディスク to ディスクへの期待が高まっている。一方、相変わらず低コストや寿命の点でテープには一日の長があり、テープとディスクは使い分けられる方向である。

※1 ATA(AT Attachment):ANSIによって標準化されたIDEの正式な規格(@IT用語解説:ATA
※2 SATA(Serial ATA) :ATAをシリアル転送方式に変更したもの(@IT用語解説:SATA

(2)ストレージ投資のTCO/ROI評価の議論が活発
 ストレージ投資に関しても、経営の視点から投資を厳しく評価する傾向にある。今年のSNWでは、事例としてビジネス継続、DAS(Direct Attached Storage:従来までのサーバ直結型のストレージ)からSAN(Storage Area Network:参照:用語解説) へのマイグレーション、データライフサイクル管理、リムーバブルストレージを取り上げ、投資したコストと改善されたビジネスリスクやTCOを定量的に算出し、その効果を論じている。

(3)セキュリティはストレージネットワーキングの重要なキーとなっている
 セキュリティは、SMI-SやIPストレージなど多くのストレージネットワーキングにおいていまやもっとも重要なテーマとなっている。SNIA(Storage Networking Industry Association:ストレージネットワーキングの普及促進活動を行う非営利団体)は、技術的側面ではSMI-Sにセキュリティをどう取り込むかの検討と、教育的側面ではデータセンタなどのベストプラクティスの紹介活動を活発に行っている。

(4)IPストレージは普及しつつある
 IPストレージは、普及の兆しが見えている。SNIAでは、SMI-S(Storage Management Initiative Specification)でのiSCSI(参照:用語解説)サポートなどの技術的検討や普及シナリオを検討している。

 図1はSNIAが提唱するIPストレージの適する領域を示している。

図1 IPストレージの適する領域(出典:SNIA IP Storage Forum SNW Spring 2004)

 上の図が示すIPストレージが適する領域を要約すると以下となる。

・ IPストレージソリューションは既存のFC-SANの拡張・補完として利用可能
・ 純IP-SANソリューションは価格面で有利な環境を提供可能
・ ストレージ統合、簡単化したデータプロテクション、ディザスタリカバリ、改善されたデータ管理が主な用途

(5)ストレージ管理標準「SMI-S」が着実に進展
 SMI-Sは、この4月に大きな節目を迎えた。これについては次に詳述する。

(6)ILM(Information Lifecycle Management)がホットスポット
 ILMはまず定義論が盛んである。本レポートの後編で詳述する。

   2. ストレージ管理標準「SMI-S」とは何か?

管理コストの低減のために

 ストレージ容量は、「18カ月で2倍」のムーアの法則を超え、「12カ月で2倍」のペースで容量が増加するといわれている。幸運なことに技術革新も激しく、MB当たりの単価も劇的に下がっている。従って、容量が増えてもストレージのコストの増加をある程度抑えることが可能となっている。

 しかし、ストレージ管理コストは、このようなコスト低下の要因が見当たらず、結果として、図2に示すように、ストレージ管理コストがストレージ取得コストを上回る状況となっている。

図2 ストレージ管理はなぜ必要か(出典:SNIA SNW Spring '04 SAN Management Tutorial)


 この図からも、いまやストレージ管理コストの低減が課題となっていることを伺い知ることができるだろう。

管理コストがふくらんでしまう要因

 では、管理コストがかさむ原因から見てみよう。異なるベンダの製品の混在するストレージネットワーキングでの従来のストレージ管理は図3のような構成になっている。

図3 従来のストレージ管理(出典:SNIA SNW Spring '04 SAN Management Tutorial)

 各ベンダのデバイスは、ベンダ固有の方法で管理情報がモデル化されている。また、管理対象であるデバイスと管理アプリケーション間の管理情報の受け渡しは独自のインターフェイスを使っている。

 従って、デバイスごとに提供される専用の管理アプリケーションを使って、ユーザーは個別に管理せざるを得ない。また、個別の管理アプリケーションの開発はベンダにとっても大きな負担となり、管理アプリケーションの開発が新しいデバイスのSANへの組み込みへのあい路となる可能性も高くなりつつある。

管理コストを劇的に削減させるSMI-S

 これに対して、SNIAでは、SMI-Sを使った新しいストレージ管理の実現を推進している。図4がSMI-Sを使ったストレージ管理を示している。

図4 SMI-Sを利用したストレージ管理(出典:SNIA SNW Spring '04 SAN Management Tutorial)

 オブジェクト指向管理モデル(CIM※4)やネットワークデバイスのWebベースの管理仕様(WBEM※5)技術を用いて、各ベンダの管理情報のモデルを統一する。さらに、管理アプリケーションと各デバイスとの間もSLP※3やHTTPの標準方式を採用して統一する。それらを統一させるプラットフォームになるのが、SMI-Sインターフェイスである。

 CIMWBEMは、標準化組織のDMTF※6において、ヘテロジニアスな環境管理に向けて開発されたオブジェクト指向のデータモデルである。

※3 SLP(Service location Protocol) :TCP/IPネットワーク上のサービスの検索や、クライアントの自動設定などを可能にするためのプロトコル
※4 CIM(Common Information Model) :DMTFによって管理されているプラットフォームやOSに依存しないコンピュータのオブジェクト指向管理モデル
※5 WBEM(Web-Based Enterprise Management):ネットワーク上のデバイスをWebベースで管理するための仕様(@IT用語解説:WBEM
※6 DMTF(Distributed Management Task Force):コンピュータシステムとエンタープライズ環境の管理の標準化を行う組織(@IT用語解説:DMTF) 
 

 SMI-Sの価値とは何か? まず、エンドユーザーの視点では、複数のベンダから採用することが可能となるので、1つのベンダのロックインから解放されることが挙げられる。また、いろいろなデバイスへの対応も迅速にでき、管理コストが低減できる。ベンダ側から見ると、開発が合理化され、迅速にマーケットに対応でき、市場全体が拡大される期待が持てる。

SMI-Sの相互運用実証実験と仕様策定

 SNIAでは、SMI-Sの仕様策定に当たり、次の目標を立てた。

・ OSや言語に依存しない
・ デバイスに組み込み可能
・ 既存の標準技術(CIM、WBEM、SLP等)を利用
・ 将来の拡張や技術の移行に柔軟に対応可能

 SMI-Sはこのような目標の下に策定された。既存のストレージ製品をSMI-S対応へ移行する方法もすでに確立しているので、導入済みのストレージ製品についても、今後出荷される管理アプリケーションにて運用管理可能である。従って、SMI-Sに準拠した製品の出荷を待って、ストレージ製品を買い控える必要はない。

 SMI-Sバージョン1.0は2003年第2四半期に公開され、2003年第3四半期からは仕様に関するSNIAの適合テストプログラム(SNIA-CTP)が開始された。本年4月には、初めてのSNIA-CTP適合製品を発表した。そこでは、14社、108の製品が合格したことが公表された。標準化済みの管理インターフェイスを使用して開発された製品を顧客が初めて購入可能となった点で、これはストレージ業界にとっても大きなターニングポイントを通過したといえる。

 本年4月開催されたSNWでは、これらSNIA-CTP適合製品をベースにインターオペラビリティラボ(相互運用実証実験)を披露した。ここでは、いくつかのソリューションをデモしたが、このうちSMI-Sを用いたストレージ管理ソリューションについて簡単に紹介する。

図5 デモシステム構成(ストレージ管理ソリューション)

 システムでは、CIMクライアントと呼ばれる管理コンソールに加え、管理対象のデバイスの管理情報を制御するCIMプロバイダが必要である。図5に示すように、複数ベンダのCIMクライアントやCIMプロバイダが接続していることが大きな特徴である。

 今回のデモでは、アクティブ管理(設定系)の進歩とインディケーションと呼ばれる、障害や構成変更などの非同期通知に特徴があった。デモ当日ぎりぎりまでデバッグし、デモシナリオを作っていた。それは、当日披露したデモシナリオは模造紙に手書きで記述されていたことでも分かる。

 デモシナリオの例として「X社のCIMプロバイダが構成を通知すると、Y社のCIMクライアントがこの構成を表示」「A社のCIMクライアントがB社デバイスの構成変更指示を通知し、変更後の構成をC社のCIMクライアントが表示」があった。このようにマルチベンダ環境で具体的管理の例を見せていた。

 また、今回のデモから管理対象としてHBA(Host Bus Adaptor)が追加され、真のエンドツーエンドの管理へ大きく一歩を踏み出している。

日本版「インターオペラビリティラボ」を実施

 なお、日本でもこのようなインターオペラビリティラボを実施している。

 昨年11月のStorage Networking World Tokyo 2003において、SNIA日本支部は、2003年10月米国オーランドで行われたSNIAによるデモの「日本版」という位置付けで同様のデモを実施した(写真1)。

写真1 日本でのインターオペラビリティラボ(SMI-S)

 ファイバチャネルスイッチ5種、ストレージ装置8種を用いたSAN環境を構築した。米国のデモには参加していない3社のストレージ装置が参加しており、このデモは日本で相互運用性の範囲を拡張したという点で米国SNIAからも評価されている。

 なお、日本での次回のインターオペラビリティラボは来年1月開催予定のStorage Networking World Tokyoで予定されている。

 SNIAでは、2005年末までに、SMI-Sがすべてのストレージ新製品に採用されることも目標にしている。また、SMI-Sの仕様の拡張も継続的に行う予定である。

 また、SNIAでは、SMI-Sの教育にも力を入れている。米国ではSNIAのテクノロジセンタを活用して教育している。現在教育プログラムとして3コースを用意している。基礎コースとしてCIM&WBEM、中級としてSMIデベロッパー、上級がSMIデベロッパーである。SNIA日本支部では、この教育の日本国内での実施を検討している。

以上、今年春SNWレポートとして、ネットワーク業界の6つのトレンドとストレージ管理の次世代標準となる「SMI-S」についてお伝えした。後編では、ストレージを包括したIT資産の管理ソリューションの手引きとして、SNIAが位置づける「情報ライフサイクルマネジメント(ILM)についてご説明したい。また同時にストレージ資産に対する日米のユーザーの違いについても述べる。→後編へ

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