5分……は無理でも15分で絶対に分かるSIMロック

SIMロック解除をめぐる議論を読み解く

山崎潤一郎
2010/6/23

SIMロック解除に向けた布石、インセンティブ廃止

 では、端末インセンティブをユーザー目線で見るとどうなるのでしょうか。ユーザー間で不公平が生じているのではないかという疑問がありました。

 端末の買い替えサイクルは平均2年とされています。オペレーターも2年でインセンティブを回収するように料金プランを設計しているといわれていました。しかし、それでは頻繁に端末を変更(機種変更)する人と、2年を過ぎて長く使い続ける人との間では、不公平が生じることになります。頻繁に買い替える人には、未回収のまま新たなインセンティブが支払われ、長く使い続ける人は、自分が受けたインセンティブ以上の金額を支払い続けることになるからです。

 この不公平は、携帯電話のヘビーユーザーとライトユーザー間でも生じます。通信料にインセンティブが上乗せされているのであれば、たくさん通信を行い料金をたくさん支払う人からは、インセンティブ分を早期に回収できるはずです。その一方でライトユーザーから回収するのには時間がかかるはずです。

 さらにいうなら、端末間でも不公平が生じるとされています。ハイエンドで高額な機種のユーザーからも、ローエンドで安価な機種のユーザーからも同じ額のインセンティブを回収しているとするなら、それは妙な話です。このように、携帯電話におけるインセンティブ商法が、端末の正確な価格を覆い隠していることに大きな問題があったのです。

 本来であれば、「端末はいくらで、通信料はいくらなのか」を、しっかりと「分離」してユーザーに示さなければならないはずです。しかし、その部分にふたをしたまま、端末が高機能・高額化していくなかで、ユーザーは、おしなべて高価になった端末をインセンティブとの差額を払いつつ購入し、かつ月々の通信料も高いという状況に、漠然とした不満を募らせるようになってきました。インセンティブ補助のない本来の端末代金とインセンティブ回収分抜きの通信料がしっかりと明示されていれば、そんなユーザーの不満もやわらぐでしょう。

 それでもなおインセンティブが必要というのであれば、「買いやすくするためにこの端末には○○円の補助を出します。その代わり、月々の通信料に○○円上乗せして請求するので、2年間は解約しないでくださいね」と明示すればよいだけの話です。

インセンティブと分離プラン

 それを実現しようとして総務省の指導の下、2007年度に登場したのが「分離プラン」とばれる新料金制度なのです。分離プランでは、端末の代金は割賦払いとして明示され、通信の基本料は下がりました。SIMロック解除がオープン化政策の本丸とするなら、この分離プランは、外堀攻略作戦と呼べるものなのです。ただし、分離プラン導入後もSBMの「新スーパーボーナス」のように実質的なインセンティブ商法が併存していることは付け加えておきます。

SIMロックを続ける意味はあるの?

 モバイルビジネス研究会で「結論を得る」と約束した2010年がやって来ました。折しも1月、「iPad」発表の席でアップルのCEO、スティーブ・ジョブズが、「iPad 3G models are unlocked」(iPad 3GはSIMロックしない)といった趣旨の発言を行ったことも手伝い、SIMロック解除議論がにわかに沸騰し始めたのです。

 ちなみにiPhoneの場合、一部の例外を除き、日本や米国をはじめ各国で原則的にSIMロックが施された形で販売されているので、今回、人気のApple製品がSIMロック解除で販売されることへの期待感はいやが応でも高まりました。もし、ここ日本でiPad 3GのSIMロックが解除された状態で販売されたら、W-CDMA方式を搭載するこの端末では、NTTドコモ、SBM、日本通信(MVNOとしてNTTドコモのインフラを使用)の各社SIMが使えることになり、ユーザーの選択肢はぐんと広がります。Appleの発表を受けてNTTドコモや日本通信の幹部が相次いで「対応SIMを出す」と明言したのはそのためです。

 しかし、結果はご存じのとおり、日本で販売されるiPad 3Gには、SBMのSIMロックが施され残念な結果に終わりました(海外ではSIMロックはないそうですが……)。これでSIMロック議論は下火になってしまうのでしょうか。いえ、そんなことはありません。下火にしてはいけないのです。

 そもそも、SIMロックに関する結論が2010年まで先送りされた理由は、2010年には解除に向けた環境が整うから、でした。その理由の1つは、今年後半からサービスが開始される次世代の携帯電話規格「LTE」(Long Term Evolution)です。

 現在日本では、NTTドコモ、SBM、イー・モバイルが、通信方式にW-CDMA方式を採用し、auのみがCDMA2000を採用しています。方式が分断されているためにSIMロックを解除しても端末の互換性がないため、ユーザーが混乱するなど弊害が指摘されていました。見送りの理由もそこにあります。

 しかし、次世代携帯電話では主要3社がLTEを採用することを決めています。これにより、少なくとも通信方式による垣根は取り払われることになり、先の分離プランと併せてSIMロックを温存する意味は薄れます。まさに環境が整い始めているのです。

SIMロック解除でオープンな競争環境を構築

 ただ、SIMロックが解除されても、一足飛びにその効果が表れるとは限りません。実は、SIMロック解除に抵抗する人々は以下に説明するような“理由”で「解除しても意味がない」と主張します。

 まず、広帯域が求められるデータ通信機能はLTEへ移行しても、音声通話は現行の3G規格がしばらくは併存するため、オペレーター間の方式の違いはがしばらくは残るとされています。また、高度化したコンテンツやサービスがSIMロック解除効果の足かせになる可能性もあります。「SIMロックが抱える問題点」で説明したように、各社は端末の機能と深く連携した通信サービスを提供しています。例えば、SBMから購入した端末にNTTドコモのSIMを刺しても、端末にその機能が備わっていないため、ドコモが提供するすべてのサービスを利用できないといわれています。できるのは、「せいぜい通話とSMSくらいなもの」という向きもあります。

 そもそも、SIMを差し替えてまで複数のオペレーターや端末を相互に利用したり乗り換えたりするユーザーがどれだけいるのか、また、SIMロックでユーザーが囲い込まれているからこそ、各オペレーターは、ユーザーに対し手厚いサービスやサポートを提供できる、という主張です。

 しかし、それは、現在の垂直統合型モデルを前提とした視野の狭い議論にすぎないのではないでしょうか。オペレーター乗り換え後にコンテンツやサービスが使えなくなるというのであれば、サービスやコンテンツのレイヤをほかのオペレーターからも使えるようにすればよいだけの話です。

 例えば、iモードメールがそうでしょう。他社の通信ネットワークからiモードサーバにアクセス可能にすることなど、技術的に容易なことです。固定のインターネットの世界では、メールアドレスを維持するためだけに、回線契約とは別のプロバイダーに月々数百円の料金を払っている人はたくさんいます。それと同じ考え方で、NTTドコモから他社に乗り換えても、iモードメールが使いたい人は、別料金を払ってiモードメールを使えるようにすればよいのです。

 ほかのコンテンツやサービスについても同様のことがいえます。携帯電話ビジネスをオープンにするためにSIMロック解除を議論しているにもかかわらず、現在の垂直統合型モデルの死守を前提に“解除”を否定していたのでは、あまりに本末転倒であり、多様なビジネスの可能性を奪うことになります。

垂直統合から水平分業へ(クリックすると拡大します)

 公開ヒアリングの直後、原口総務大臣は、「内藤副大臣から嬉しい報告。大きな歯車がここでも動き出しました」とTwitterでつぶやいています

 総務省は、4月2日の公開ヒアリングの結果などを踏まえ、6月末にSIMロック解除の方向性を示したガイドラインを公表する予定です(6月23日までは「「SIMロック解除に関するガイドライン」(案)」が公開されパブリックコメントを募集中)。携帯電話ビジネスの世界で、まさに、SIMロック解除という“大きな歯車”が動こうとしているのです。

  山崎潤一郎

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライター稼業もこなす蟹座のO型。iPhoneアプリでメロトロンを再現した「Manetron」、ハモンドオルガンを再現した「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、『ケータイ料金は半額になる!』(講談社)、『iPhoneアプリで週末起業』(中経出版)がある。 TwitterID: yamasaki9999

SIMロック解除をめぐる議論を読み解く
  SIMって何? どんな成り立ちがあるの?
SIMロックってどんなもの?
SIMロックが抱える問題点
SIMロック解除に向けた布石、インセンティブ廃止
SIMロックを続ける意味はあるの?
SIMロック解除でオープンな競争環境を構築
「Master of IP Network総合インデックス」
→「ものになるモノ、ならないモノ」連載各回の解説


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