IPv4アドレス枯渇の日を前に
WebプログラマのためのIPv6入門
おがわ あきみち
2011/1/31
ISP規模でのNATに関連する変化
IPv4アドレスが枯渇すると、ISPは「必要になったら新しいIPv4アドレスを申請して割り振りを受ける」ということが、これまでのようにはできなくなります。IPv4アドレスの総量がこれ以上増えなくなるのですから、ISPは、いままで割り振りを受けたIPv4アドレスを節約し、やり繰りしながら使い続けなければなりません。
その節約の手段として、ISP単位でNATが行われるようになる(=ラージスケールNAT)と予想されています。ISPが大規模なNATを行うようになると、家庭用NATと合わせ、2段階のNATが行われる環境が増えるでしょう。
この状況を、Webサーバ側でプログラムを書いたりサーバ管理を行う側の視点から見ると、ユーザーとして見える相手のIPv4アドレスのバリエーションが劇的に減る可能性があります。これは、ISPが運用するNATによって、多くのユーザーが「同じIPv4アドレス」にまとめられてしまうためです。
図2 ISP側のNATによって、多くのユーザーが1つのIPv4アドレスにまとめられてしまう可能性がある。このとき、家庭用NATと合わせて2段のNATを通過した通信になる場合がある |
アクセスログに記載される項目も変化する可能性があります。
具体的には、TCPのポート番号情報がアクセスログに追加されそうです。これは、ISPが大規模NATを開始すると、IPv4アドレスだけでは契約回線を特定できなくなるためです。NAT後のグローバルIPv4アドレスはまとめられたものであり、契約回線特定のためにはIPv4アドレスとTCPポート番号の両方が求められる状況が発生します。
このように、Webサービスを提供する側では、ユーザーの把握に関して細かいところで変化がありそうです。
■ALGやバーチャルホストの増加
ユーザー側だけではなく、サーバ側でも徐々に変化が求められるようになるでしょう。
まず、元のIPアドレスを節約しなければならないのですから、Webサーバそのものに対し、個別にIPアドレスを割り振ることが難しくなっていきます。そうなると、1つのIPアドレスで複数のサーバを仮想的に運用するようなALG(Application Level Gateway)が利用されるようになります。
いまでもバーチャルホストなどは利用されていますが、今後は、IPv4ネットワーク上でのさまざまなサーバ運用が複雑化すると同時に、それらを制御するためのプログラムの開発/テスト/デバッグにかかる工数が上昇するものと思われます。
v4、v6両方を意識しつつ環境変化への対応を
以上、Webプログラマ向けという視点で、IPv4アドレスの枯渇にともない課題になりそうな項目をいくつか紹介してみました。
昨今ではIPアドレスを全く意識せずにプログラムを書くことも可能です。例えば、マッシュアップを中心に作っている場合などは、ここで書いているような内容は意識する必要がないかもしれません。
しかし、IPv4アドレス枯渇とIPv6への移行に伴う変化は徐々に始まっています。実際に始まってみないとどうなるかは分かりませんが、IPv4とIPv6の両方を意識しつつ、IPv4アドレス枯渇に伴う環境変化への対応を求められるプログラマは多いのではないかと推測しています。
過渡期ともいえる今後数年は、十分なテスト期間を確保し、開発工数の見積もりを増やさなければならない場合もありそうだと思う今日このごろです。
【IPv6移行に際して参考となるWebサイト】 IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース
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Profile |
おがわ あきみち Geekなぺーじ 「Geekなぺーじ」という技術情報サイト、兼技術情報ブログを運営している。観賞魚飼育を趣味としており、熱帯魚関連のサイトも複数運営している。全日本剣道連盟情報小委員会委員。慶應義塾大学政策メディア研究科にて博士を取得。ソニー株式会社において、ホームネットワークにおける通信技術開発に従事した後、2007年にソニーを退職し、現在はブロガーとして活動。twitter IDは@geekpage。 |
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