第3回 オムロン製13.56MHz帯リーダ/ライタを知る


西村 泰洋
富士通株式会社
ビジネスインキュベーション本部
開発部
担当課長
2007年10月5日


 1枚読み取り2種、複数読み取り2種の4アクセスメソッド

 ここまでハードウェア中心に解説をしましたが、ここからはソフトウェア処理について解説します。

 V720リーダ/ライタは、近傍型非接触ICの仕様を定めたISO/IEC 15693に準拠しており、4バイトバウンダリのRFIDタグについて動作保証をしています。オムロンでは、この4バイトのメモリブロックを「ページ」と呼んでいます(4バイト=1ページ)。

 なお、13.56MHz帯のRFIDタグ市場では、フィリップスセミコンダクターズ(現NXPセミコンダクターズ)製のI.CODEチップ(通称、I.CODE)が大きなシェアを持っています。オムロン製品においても、I.CODEチップを搭載したRFIDタグを推奨タグにしています。

 次に、モードとアクセスメソッドについて解説していきます。

 V720シリーズでは、上位機種からのコマンド発行によって読み取り・書き込みなどの動作を行うモードを「オンラインモード」と呼びます。また、読み取り範囲にRFIDタグが入ったら自動的に読み取り・書き込みするモードを「オフラインモード」と呼びます。

 筆者は、アクセスメソッドは大きくは、RFIDタグの1枚読み取りと複数読み取りの2種類があると申し上げてきました(RFIDシステム導入バイブル 第3回参照)。

 これはさまざまなメーカーの共通項に当たる考え方です。その中でもオムロンは、1枚読み取りで2種類、複数読み取りで2種類の計4種類というアクセスメソッドを最も細かく定義しているメーカーです。

 1枚読み取りのアクセスメソッドは、アンテナの交信範囲内にある1個のRFIDタグにアクセスする方法を「シングルアクセス」、アンテナの交信範囲内に1つずつ順番に入ってくるRFIDタグを順次、読み取り・書き込みをするものを「FIFO(First In First Out)アクセス」と呼んでいます。会計システムになじみの深い方は「先入先出法」を思い浮かべるかもしれません。実に興味深いネーミングだと思います。

 これに対して、複数のRFIDタグを同時に読み取り・書き込みする場合を「マルチアクセス」、複数タグのうち指定したRFIDタグのデータ読み取り・書き込みをする場合を「セレクティブアクセス」と呼んでいます。

 セレクティブアクセスは、ISO/IEC 15693の読み取りの仕方に大きく関わっています。ISO/IEC 15693では、最初にUIDを読み取り、そのUIDを指定してユーザーメモリ領域を読み取ります。セレクティブアクセスは、この手法を利用してUID指定のRFIDタグのみ交信を行うアクセスメソッドです。

 このように、モードやアクセスメソッドは、前回のモトローラ製品と比較してもメーカー各社の違いが出て、実に興味深いものです。

 ACKを使った特徴のあるコマンド制御

 V720シリーズにおけるコマンド制御の特徴的な部分を解説します。

 PCなどの上位機種からコマンドを送信して、リーダ/ライタの動作を指示すると、その実行結果はレスポンスとして返ってきます。この一連の流れをコマンド・レスポンスと呼びますが、V720のプログラミングのためには、これを押さえておかなければなりません。

 例えば、1枚のRFIDタグと交信する場合は、1回のコマンドで1つのレスポンスが発生します。また、複数のRFIDタグと交信する場合は、複数のレスポンスが返ってくるということです。

 V720シリーズでは、通信システムの基本であるACK制御が可能です。ACKとは、Acknowledgementの略で、受信や着信を意味します。ACKはデータを正常に受け付けたことを通知する、送信先ノードから送信元ノードへの正常確認の返事です。ACK機能のサポートもオムロン製品の特徴の1つです。

 V720におけるACKの使い方の例としましては、一定時間内にACKがなければリトライをして、再度実行結果を返させるケースなどが挙げられます。上位機種のコマンド発行に対してリーダ/ライタがその処理結果を返したときに、そのレスポンスを上位機種が受け取ったかどうかをACKで確認するのです。

 V720では、受信側が送信データを正しく受信できなかったことを送信元に返すNACK機能も用意されています。ACKとNACKを利用することで緻密なプログラムが可能となりますし、読み取りができなかった場合の原因分析にも役立ちます。さらに、前述しました4つのLEDの表示状態も併せて確認することで、より細かい分析もできます。

 このほか、上位機種とリーダ/ライタ間の伝送速度を4段階で設定できます。

 また、V720シリーズのマニュアルには、ハードウェア、ソフトウェアの解説だけでなく、参考情報として交信時間(レスポンスタイム)の算出方法や実測値例などが掲載されています。さらに、エラー時のチェックフロー、通信範囲、対象物による性能の減衰など、ハードウェア、ソフトウェア、運用に関する必要最小限な情報が盛り込まれています。

◆ ◇ ◆

 次回は、V720シリーズのプログラミングを、付属する制御コマンドを利用しながら解説をします。なお、オムロンのグループ会社であるオムロンソフトウェアからV720用の開発支援キットが提供されています。しかし、この連載ではV720の特徴をより深く理解していただくために、これを利用しないこととしました。

2/2
 

Index
オムロン製13.56MHz帯リーダ/ライタを知る
  Page1
現在のRFIDシステムの立ち位置はどこか
日本のRFIDリーダ/ライタのパイオニア、オムロン
V720S-BC5C1のハードウェア概要
Page2
1枚読み取り2種、複数読み取り2種の4アクセスメソッド
ACKを使った特徴のあるコマンド制御

Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ビジネスインキュベーション本部
開発部
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

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