解説

今後の10年を占う新Pentium 4プラットフォームを考察する

2.新チップセットで強化された機能

元麻布春男
2004/07/29
解説タイトル

DDR2 533/400を新たにサポートしたチップセット

 Intel 925X/915P/915Gは、PCI Expressのほか、新しいメモリもサポートされている。これまで使われてきたDDR400/333に加えて、新たにDDR2 533/400もサポートされるようになった。それぞれDIMMとして提供可能な帯域をもとに、モジュールとしての名称は、PC2 4300 DIMM、PC2 3200 DIMMとなる。DDR2メモリはフェッチ・サイズを増やす(2から4)ことで、チップ外部とのデータ転送レートを落とすことなくDRAMコアの動作クロックを引き下げたものだ。動作電圧の低電圧化(2.5Vから1.8V)と合わせて、DDRより半分近く消費電力を引き下げることができるため、高密度サーバやノートPC分野でも使いやすいものとなっている。

 現時点ではDDR2メモリの実売価格がDDRの2倍ほどしているため、普及はこれからというところだ。しかし低消費電力化に加え、800MHz当たりまで動作クロックを引き上げることが予定されており、今後主流になると見られている。なお、同じチップセット・コアを利用するため、技術的にはIntel 925X、Intel 915P/GのすべてがDDR2とDDRの両方をサポートできると思われるが、市場での位置付けからか、Intel 925XではDDR2メモリだけを正式対応としている。

 今回発表されたIntel 925X/915P/915Gは、これまで同様、2チャネルのメモリ・バスをサポートする。チャネルあたりのバス幅が64bitなのもこれまでどおりだが、デュアル・チャネル・モード(2チャネルを合成し128bitのメモリ・バスとして動作するモード)で動作するための条件が緩和されている。これまでの800番台のチップセットでは、デュアル・チャネル・モードで動作させるには、2つのバスにそれぞれ実装されるメモリ・モジュールが同一でなければならなかった。それに対して900番台のチップセットでは、2つのバスのメモリ実装量が同じならデュアル・チャネル・モードで動作する。例えば、片側のメモリ・チャネルに256MbytesのDIMMを2枚、もう片側に512MbytesのDIMMを1枚実装した場合、800番台のチップセットではシングル・チャネル・モードとなった(64bit幅のメモリ・バスに合計1Gbytesのメモリが実装された状態)。これに対し、900番台のチップセットならデュアル・チャネル・モード(128bit幅のメモリ・バスに合計1Gbytesのメモリが実装された状態)で動作する。Intelでは、これをFlex Memoryテクノロジと呼んでいる。

強化された内蔵グラフィックス機能

 Intel 915Gのみがサポートするのが、Intel Graphics Media Accelerator 900(GMA900)と呼ばれる内蔵グラフィックス・コアだ。これまでのグラフィックス・コアがDirectX 7.1のサポートにとどまっていたのに対し、GMA900ではDirectX 9のShader Model 2.0をサポート(Vertex Shaderはソフトウェアで対応)するなど、3Dグラフィックス機能が劇的に向上した。さらに以下のような機能強化も行われている。

  • コア・クロックの引き上げ(Intel 856Gの266MHzに対し333MHz)
  • ピクセル・パイプラインの増設(1本から4本)
  • グラフィックス・メモリに割り当て可能なメモリ容量の増大(最大224Mbytes)
  • メモリ・デバイスとしてDDR2 533が利用可能

 これらによって、大幅な性能向上が実現しているはずだ。こうした改良で最新の3Dゲームに適応できるかどうかはともかく、Longhornで採用されるといわれるDirectXベースのユーザー・インターフェイス(開発コード名:Avalon)には十分対応可能な内容になっているものと思われる。3Dグラフィックス以外にも、独立した2台のディスプレイへの出力のサポート、最大解像度(QXGA)時のリフレッシュ・レート向上などの機能面での改良も施されている。このGMA900を含め、Intel 915GチップセットはIntelのステーブル・イメージ・プラットフォーム・プログラム(SIPP)の対象となっている(SIPPについては、「解説:SIPPはクライアントPC導入におけるTCO削減の切り札になるのか?」を参照のこと)。

Intel 845G Intel 865G Intel 915G
対応するDirectXバージョン DirectX 7.1 DirectX 7.1 DirectX 9
対応するOpenGLバージョン Ver. 1.2 Ver. 1.3 Ver. 1.4
グラフィックス・コア・クロック 200MHz 266MHz 333MHz
Pixelパイプライン数 1本 1本 4本
最大グラフィックス・メモリ 64Mbytes 64Mbytes 224Mbytes
対応メモリ・デバイス(最大) DDR266 デュアルDDR400 デュアルDDR2 533
メモリ帯域 2.1Gbytes/s 6.4Gbytes/s 8.5Gbytes/s
内蔵RAMDAC 350MHz 350MHz 400MHz
表区切り
改良されたグラフィックス・コア

ICHに搭載された新機能

 Intel 925X/915P/915GのMCHとICHの接続に使われるのが、DMI(Direct Media Interface)と呼ばれるインターフェイスだ。当初の構想ではIntelはチップセット間の接続にもPCI Expressを使うとしていたが、最終的には標準規格であるPCI Expressに代わって、Intelの独自規格であるDMIを使うことにした。DMIはPCI Expressをベースに、省電力管理用などIntel独自のコマンドを追加したものだ。汎用のPCI Expressを避けたのは他社製チップセットとの混用や、リバース・エンジニアリングの防止といった理由が考えられるが、OEMからの賛同は得ているとIntelでは述べている。いずれにしても今回発表されたチップセットではx4相当の帯域(2.0Gbytes/s)をサポートしたDMIが用いられており、これまでのHubLinkの266Mbytes/sに比べ大幅に帯域が向上している。

 Intel 925X/915P/915Gに組み合わされるICHチップとして用意されるのは、ICH6/ICH6R/ICH6W/ICH6RWの4種類である。共通のチップセット・コアで、PCIバスとx1のPCI Express(4ポート)を備える(実際にはオンボード・デバイスの種類などにより、すべてが拡張スロットとして利用できるとは限らない)。型番末尾のアルファベットのうち「R」はソフトウェアRAID機能(マトリックス・ストレージ・テクノロジ)のサポートを、「W」は無線LAN技術であるワイヤレス・コネクト・テクノロジのサポートを意味する。

Intel 925X/915P/915Gのブロック図
MCHとICHの間は、独自インターフィスのDMIで接続される。ICH6は、4ポートのシリアルATA、4スロットのPCI Express x1、8ポートのUSB 2.0など、豊富な拡張性をサポートする。図中のPCI ExpressとUSB 2.0、シリアルATAの帯域は、スロットまたはポート単位を示している。
 
Intel 925X採用マザーボードの拡張スロット部分
このマザーボードは、PCI Express x16が1本、PCI Express x1が2本、PCIが4本の合計7本の拡張スロットを持つ。チップセットが内蔵する機能が多いことから、これだけの拡張スロットは必要とされることはほとんどないだろう。

 「マトリックス・ストレージ・テクノロジ」は2台のハードディスクに、信頼性を高めるRAID 1ボリューム(ミラーリング・ペア)と、性能を高めるRAID 0ボリューム(ストライピング・ペア)を両方同時に設定可能とするものだ。ネイティブ・コマンド・キューイング(NCQ)*1のようなシリアルATA IIで加えられた拡張をサポートしたAHCI(Advanced Host Controller Interface:シリアルATA用ホストコントローラの標準規格)もサポートされる。マトリックス・ストレージ・テクノロジをサポートしないICH6やICH6Wも含め、ICH6ファミリは4ポートのシリアルATAポートを内蔵しており、ATAPIデバイスのサポートと合わせ、ハードディスク以外のシリアルATAデバイスの登場を促している(ほかに1チャネルのパラレルATAもサポートする)。

*1 複数の命令に対して、実行順序を最適化することで、内部処理の高速化を実現する機能。
 
マトリックス・ストレージ・テクノロジによるRAID構成
図のように2台のシリアルATAディスクに対して、RAID 1とRAID 0が構築可能である。OSをRAID 1ボリュームにインストールし、信頼性を高める一方で、データをRAID 0ボリュームに保存するようにして性能を高めるといった使い方が可能になる。

 ワイヤレス・コネクト・テクノロジは、ウィザード形式のユーティリティにより、PCを無線LANのアクセス・ポイントにもクライアントにも設定可能とする技術である。ただしチップセット(ICH6W/ICH6RW)には物理層が内蔵されておらず、別途Intel PRO/Wireless 2225BGなどが必要となる。

 ICH6ファミリに共通するもう1つの特徴は、これまで使われてきたAC'97に代わる新しいサウンド技術「ハイ・ディフィニション・オーディオ(HDオーディオ)」のサポートだ。HDオーディオでは、これまでのAC'97では対応できない高度なオーディオ(32bit量子化、192kHzサンプリング、最大8チャネルのマルチチャンネル・オーディオ)に対応すると同時に、DMAエンジンのアーキテクチャを統一するなどして、用いるCODECチップにかかわらず、共通のバス・クラス・ドライバによるサポートを可能にした。Microsoftは、HDオーディオを次世代のオーディオ技術(Unified Audio Architecture)のリファレンス・プラットフォームとして採用しており、ドライバの提供を行っている。また、将来のホーム・サーバ用途を意識して、CDとDVDを同時に再生し、それぞれ別の場所に出力する、といったことも可能になる予定だ。

新しいプラットフォームのリスクとメリット

 以上のようにIntelの発表した新しいPentium 4プラットフォームは、プロセッサのパッケージが変更されただけにとどまらず、さまざまな新しい技術をサポートする。特にPCI Expressは、その発展形を含めると、今後10年近い寿命を持つ基礎技術になる可能性を秘めている。Intelが将来のサーバ向けメモリとして取り組んでいるFB-DIMM(Fully Buffered DIMM)も、そのインターフェイスの基本はPCI Expressである。ただ、こうした新しい技術をふんだんに盛り込んだがために、新しい3種類のチップセットは、ドライバ・サポートがWindows 2000 SP4以降/Windows XP SP1以降に限定される。何らかの理由により古いOSを使わざるを得ないユーザーは気を付ける必要がある。

 また新技術を多用し、プラットフォームの変更幅が大きいことは、プラットフォームとしての立ち上りの悪さに影響している可能性もある。ヒートシンクなどが流用できないだけでなく、新しいDDR2メモリのバイト単価は、現時点でDDR400メモリの2倍近いため、普及の足を引っ張っている。初期において、ICH6ファミリの一部に製造上の不具合が発見され、リコールされたことも、一部のユーザーには不安に映っているかもしれない。残念ながらこうした問題は、まったく新しいプラットフォームを立ち上げる際は、程度の大小はあれ、避けられない側面がある。PCI ExpressにしてもDDR2メモリにしても、現時点において代替となり得るもの(対抗する規格や標準)はほかにない。時間の問題はあれ、ある時点でプラットフォームとして急速に立ち上がってくるのではないかと考えられる。クライアントPCの導入においては、このようなリスクと新しいプラットフォームによって得られるメリット(性能や将来性)などを比べた方がよいだろう。記事の終わり

Intel 925X搭載のIntel純正のマザーボード「D925XCV」
ATXフォームファクタを採用したマザーボード。現時点でIntelのラインアップに新しいBTXフォームファクタを採用したものはないが、近い将来登場するものと思われる。
 
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SIPPはクライアントPC導入におけるTCO削減の切り札になるのか?
 
 

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  [解説] 今後の10年を占う新Pentium 4プラットフォームを考察する
    1.PCI Expressをサポートした初のチップセット
  2.新チップセットで強化された機能
 
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