解説

AMDとIntelはなぜデュアルコア化を急ぐのか?

デジタルアドバンテージ
2004/11/03
解説タイトル

 Intelは、2004年9月7日から9日の3日間にわたって米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたIDF Fall 2004において、2005年中に出荷が予定されている開発コード名「Montecito(モンテシト)」で呼ばれる次世代Itanium 2プロセッサのデモを行った。Montecitoは、Intel初のデュアルコアを採用するプロセッサとなる予定である(その後、Pentium 4とIntel Xeonのデュアルコア版がリリースされる)。IDF Fall 2004とほぼ同時期にAMDも、サーバ/ワークステーション向けプロセッサ「AMD Opteron」のデュアルコア版を各所で公開した。両社とも、デュアルコアに向けた開発が順調に進んでいることをアピールしている。すでにUltraSPARC IVやPOWER5、PA-8800(PA-RISC)などのRISCプロセッサは、デュアルコアを採用しており、これまでの動作クロック競争からマルチコアによる性能向上へと向かいつつある。では、なぜ各社ともマルチコア化を進めるのか、その背景について見ていくことにしよう。デュアルコア化によって、サーバ/クライアントPCの利用モデルは大きく変わる可能性がある。

IDF Fall 2004で公開したデュアルコアを採用したItanium 2
IDF Fall 2004でCOO(最高執行責任者)のポール・オッテリーニ(Paul S. Otellini)氏がデュアルコアを採用した2005年出荷予定のItanium 2を公開した。オッテリーニ氏が左手に持っているのが、デュアルコアを採用したItanium 2だ。

 

先行するItanium 2のマルチコア化
 IDF Fall 2004でIntelは、SGIのItanium 2搭載サーバにMontecitoを載せたデモを行った。Montecitoでは、デュアルコアのマルチスレッディング技術により、OSからは4プロセッサに見えるようになる。デモでは、Montecitoを4個搭載することで、16個のプロセッサが搭載されているように見えるというものであった。

 Montecitoは、17億2000万トランジスタで実装され、24Mbytesキャッシュを搭載するという。動作クロックは明らかにされていないが、POWER5との性能競争から考えると、現行のItanium 2の同等の1.5GHz程度は維持されるだろう。となれば、デュアルコアとマルチスレッディング技術により、性能の大幅な向上が期待できる。POWER5の登場により、最速のプロセッサの地位を奪われてしまったが、Montecitoによって「最速」の座を奪還するのは間違いないだろう。

Pentium 4-4GHzキャンセルの背景

 2004年10月中旬、海外のメディアが一斉に、IntelがPentium 4-4GHzの発売を中止したことを報じた。その後、Intelもこの事実を正式に認めた。もともとPentium 4-4GHzは、2004年後半に出荷される予定であった。これはPentium 4が発表された当初からのIntelの「公約」でもあった。しかし約束は、2005年前半に伸ばされ、最終的にはキャンセルとなってしまった。インテルは、Pentium 4-4GHzをキャンセルした理由を明らかにしていないが、「現行のPentium 4の動作クロックを向上させるよりも、デュアルコア化を前倒しする方がユーザー、Intelともにメリットがある」ということのようだ。

 そもそも90nmプロセス製造自体が、当初からIntelの思惑どおりに進んでいない。90nmプロセス製造の最初の製品であるPentium 4(Prescottコア)は、2003年内に出荷の予定が遅れ、2004年2月2日にやっと正式発表されたといった具合だ。その後も、Pentium 4の高動作クロック製品が供給不足になったり、動作クロックが向上できなかったりと、とても順調といえるものではなかった。

 このように遅れなどが生じたのは、90nmプロセス製造のリーク電流(漏れ電流)がIntelの予想以上に大きかったためといわれている。リーク電流が大きなことから、その消費電力は一般的なデスクトップPCに搭載可能なレベルである125W程度に収まらず、設計変更や製造プロセスの手直しなどが必要になったというのだ。実際、Pentium 4 550/560(3.40GHz/3.60GHz)の熱設計電力(TDP)は115Wに達しており、限界の125Wに近い。Intelによれば、「製造プロセスの継続的な改善により、リーク電流は減少しており、それにともない実際のTDPも低くなっている」というが、リリースの遅れたPentium 4-3.60GHzの延長線上にあるPentium 4-4GHzが実現できないことが、上述のうわさを裏付ける。

 そもそもIntelは、当初90nmプロセス製造に自信を持っており、リーク電流(消費電力)の問題を甘く考えていたようだ。そのため、設計上、Pentium 4-4GHzどころか5GHz程度までは余裕で達成できると踏んでいたように思える。IDF Spring 2003で「90nmプロセス製造でPentium 4の動作クロックが5GHzに達する」と述べていたことからも、そのことがうかがえる。90nmプロセス製造に移行することでPentium 4は、楽に4GHzを達成すると考えていたのだろう。ところが、思った以上にリーク電流の問題は深刻で、4GHzどころか3.60GHzでさえも製造に苦労することになってしまった。

 Pentium 4-4GHzを提供するために、さらなる設計変更や製造プロセスのチューニングが必要になるのは間違いないようだ。それがPentium 4-4GHzをキャンセルする前に、出荷時期を2004年第4四半期から2005年第1四半期に延ばすと決定した理由だといわれている。これは出荷を第1四半期延期すれば、Pentium 4-4GHzの実現は可能であり、技術的に大きな障害があるわけではないことを意味する。もちろん、出荷がキャンセルされた以上、その後に技術的な障害が見つかった可能性も否定できないが、3.60GHzの出荷が順調になったことから考えても、4GHzが不可能ということはないだろう。むしろ、マーケティング的な理由からキャンセルされたと見た方がいい。

 前述のようにAMDは、AMD Opteronのデュアルコア版をすでに公開しており、2005年中ごろにも出荷が行われる予定だ。一方でIntelは、MontecitoでItanium 2がデュアルコア化を実現するものの、AMD Opteronの対抗となるIA-32系のIntel XeonやPentium 4は2005年後半から2006年前半にデュアルコア版がリリースされる計画で、AMDから半年遅れの予定となっている。Intelとしては、IA-32の64bit拡張でAMDに遅れを取り、AMDの後追いの印象を与えてしまった。その結果、IBMやHewlett-PackardがAMD Opteronの採用を積極的に行うなど、Intelがほぼ独占していたIAサーバ市場にAMDの参入を許してしまった。さらにデュアルコア化でAMDから大幅に遅れることになると、より一層のイメージ・ダウンを招くことになる。Pentium 4-4GHzを出すよりも、できるだけ早期にデュアルコア版をリリースした方がマーケティング戦略上も望ましいことが分かる。

 限られたリソース(人材、機材、予算)をどこに振り分けるのかを考えた場合、単なる動作クロックの向上でしかないPentium 4-4GHzよりも、デュアルコア化を優先させた方が効果的であるのは間違いない。4GHzを実現したとしても、ユーザーからすれば現行のPentium 4-3.60GHzから400MHzだけ動作クロックが向上しただけでインパクトはそれほど大きくない。後述のように性能向上も動作クロックの向上分程度であり、大きなジャンプ・アップは見込めない。一方で設計変更などが必要となるのならば、Pentium 4-4GHzをキャンセルして、その分のリソースをデュアルコア化に投入し、1日でも前倒しでリリースした方がいい。特に計画上でライバルであるAMDに遅れている以上、少しでも早くキャッチアップしたい、と考えてもおかしくないだろう。

マルチコア化が消費電力と性能の関係を変える

 では、なぜIntelに限らず、AMDまでもがマルチコア化を推進するのだろうか。1つには、これまで述べてきたように動作クロックの向上に伴い消費電力が大幅に上昇していることが理由として挙げられる。プロセスの微細化や新素材の導入によって動作電圧の引き下げやリーク電流の減少を目指してはいるものの、物理的な限界も見え始めている。消費電力は、動作周波数×(動作電圧)2にほぼ比例することから、動作クロック(動作周波数)が上がれば、それだけ消費電力が増えることになる。これまでは、動作クロックの引き上げとともに、製造プロセスの微細化による動作電圧の引き下げによって、消費電力の上昇を抑えてきた。しかし、製造プロセスを微細化しても、もはや動作電圧は大きく下げられなくなりつつある(「頭脳放談:第9回 銅配線にまつわるエトセトラ」参照のこと)。つまり、今後は動作クロックに比例して消費電力は上昇する一方となる可能性が高い。

 もう1つの理由として、動作クロックの向上だけではユーザーに体感できるほどの性能向上が難しくなりつつという点も挙げられる。例えば、3.60GHzから4GHzに400MHzも動作クロックを向上しても、単純計算で10%の性能向上しか実現しない。今後、基準となる動作クロックが高くなればなるほど、引き上げる動作クロックを大きくしなければ、ユーザーが体感できるほどの性能向上に結びつかなくなることを意味する。それにもかかわらず、1つ目の理由で挙げた消費電力の問題が大きく立ちふさがることになる。

 そこで、これまでのように動作クロックを向上させるのではなく、複数のプロセッサ・コアを1つのプロセッサにまとめること(マルチコア化)で、システム性能を向上させようというのが、最近のプロセッサ・ベンダの動きとなっている。製造プロセスの微細化によって、同じ大きさのダイに実装できるトランジスタ数は増やせるので、それで複数のコアを搭載しようというわけだ。

 デュアルコアが実現できれば、性能は大幅に向上できる。例えばIntel Xeonの場合、シングルプロセッサ構成とデュアルプロセッサ構成の性能比較で60%以上の向上が実現できている。デュアルコアでは、プロセッサ・コア間の通信をデュアルプロセッサ・システムに比べて高速化できることから、より高い性能向上が期待できる。つまり、動作クロックとデュアルコア化を並行に進めることで、性能のジャンプ・アップが期待できるわけだ。逆に同じ性能を維持したまま、動作クロックを下げることも可能になるため、結果として消費電力を引き下げることができるようになる(特にノートPC向けでは有効)。

Intelのマルチコアの計画
IDF Fall 2004のオッテリーニ COOのキーノート・スピーチで示したIntelのマルチコア化の予定。2005年にデスクトップPC、サーバ、ノートPC向けのそれぞれに対し、デュアルコア化を行う。2006年には、デスクトップPCでは40%以上、つまりCeleron以外はマルチコアとなる。サーバ向けでは、85%以上と、一部のエントリ・サーバ向けを除くと、ほぼすべてがデュアルコア/マルチコア化される。ノートPCでは、70%以上がデュアルコアになるとしており、デスクトップPC向けよりも積極的にデュアルコア化が図られることが分かる。

 デュアルコア化の後は、しばらく動作クロックの向上により性能を上げることになるが、コアが2つ搭載される分だけ、引き上げる動作クロックに対する効果は高くなる。将来的には、デュアルコアから4つや8つのコアを搭載したマルチコアへと進化することになるだろう。

 ただ、デュアルコアの効果は、アプリケーションによって大きく異なる。サーバのように同時に複数のトランザクションが発生するような用途では、デュアルコアによって同時に複数の処理が実行され、大幅な性能向上が見込める可能性が高い。一方、既存のクライアントPC向けのアプリケーションは、マルチスレッドに対応していないものも多く、さらにユーザーの入力やI/O待ちが多く発生し、結果としてデュアルコア化しても性能が向上しない(片方のコアが使われない)可能性もある。

マルチコア・プロセッサに対するソフウェア・ライセンスの方針は?
 マイクロソフトは2004年10月19日にマルチコア・プロセッサに対するソフトウェアのライセンスの方針を発表している(マイクロソフトの「マルチコア・プロセッサに対するライセンス方針」)。これによれば、SQL ServerやBizTalk Serverなど、これまでプロセッサ単位によるライセンス提供を行っていた製品に対して、マルチコア・プロセッサであっても、プロセッサ・コア単位ではなく、プロセッサ単位によるライセンスを行う方針であることを明らかにした。この方針は、他社にも影響を与えるのは間違いないだろう。

 特にサーバでは、シングルコアのデュアルプロセッサ構成のサーバからデュアルコアのシングルプロセッサ構成に変更することで、性能を落とさずにソフトウェアのライセンス料を引き下げられる可能性が生まれたことになる。

 ただ、これも「ニワトリと卵の関係」であり、デュアルコアが普及すれば、それに対応したアプリケーションが登場してくるだろう。インターネットがコンピュータの利用方法を大きく変えたように、デュアルコアがアプリケーションの作りを変え、その結果、コンピュータの利用モデルが変わる可能性さえある。デュアルコアやマルチコアが普及すれば、仮想化技術を利用して、1つのコンピュータ上で複数のOSをストレスなく利用することもできるだろう。こうした技術によって、コンピュータの利用モデルがどのように変わるかは分からないが、デュアルコア化が「変化」を後押しすることになるのは間違いない。記事の終わり

Intelのサーバ向けプロセッサのロードマップ
2005年にはMontecitoによってItanium 2がデュアルコア化される。続いて、2005年から2006年にかけて、Intel XeonとXeon MPがデュアルコア化されることになる。Pentium 4のデュアルコア版は、Intel Xeonよりも前にリリースされる予定だ。
 
   
  関連記事 
第9回 銅配線にまつわるエトセトラ
 
  関連リンク 
マルチコア・プロセッサに対するライセンス方針
 
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