解説

IP SANに普及の兆し?

デジタルアドバンテージ 小林 章彦
2005/05/14
解説タイトル

 2003年2月11日に標準化団体のIETF(Internet Engineering Task Force)が「iSCSI」を標準規格として策定してから2年、やっとiSCSI対応SANストレージに普及の兆しが見え始めている。iSCSIは、「IP SAN」とも呼ばれ、その名のとおり、接続インターフェイスとしてIPネットワーク(イーサネット)を利用するSAN(Storage Area Network)である。IP SANは、後述のように導入コストが安く済むため、エントリ向けを中心に普及し、SAN市場全体を拡大することが期待されている。IP SANのメリットとデメリット、用途などについて整理しよう。

IP SANのメリットは導入コストの安さ

 IP SANの最大のメリットは、安価なイーサネットをストレージ・ネットワークの接続インターフェイスに利用できる点にある。これまでSANの接続インターフェイスは、ファイバ・チャネルが標準であった。ファイバ・チャネルを利用するこれまでのSANでは、ファイバ・チャネル・ホスト・アダプタ(HBA)やこれに対応したスイッチなどが必要になる。例えば、メジャーブランドの1つであるブロケード コミュニケーションズ システムズのエントリ向け2Gbits/s対応のファイバ・チャネル・スイッチ(8ポート)「SilkWorm 3200」の価格は263万2000円である(最近では、100万円程度のファイバ・チャネル・スイッチも登場し始めているが)。HBAにしても、2Gbits/s対応のもので10万円前後となっている。3台のサーバのストレージを統合することを考えると、接続インターフェイスを用意するだけで、約300万円が必要になる。エントリ・クラスのSANストレージが200万円もせずに購入できることを考えると、接続インターフェイスに同額以上が必要になるのでは、導入の敷居が高い。

 一方IP SANならば、ギガビット・イーサネット・スイッチを用意すればよい。すでに多くのサーバは、ギガビット・イーサネットのポートを2個装備しており、片側をLAN、片側をIP SANといった具合に利用すれば、新たにギガビット・イーサネット・カードをインストールする必要さえない(インストールするにしても、数千円から2万円程度で購入可能)。マイクロソフトは、Windows 2000 SP4、Windows XP、Windows Server 2003向けにiSCSIソフトウェア・イニシエータ(iSCSIのコマンドを発行する側のプログラム)を提供しており、一般的なイーサネット・インターフェイスでiSCSIを利用することが可能になっている(マイクロソフトの「iSCSIソフトウェア・イニシエータのダウンロード・ページ」)。ギガビット・イーサネット・スイッチにしても、8ポートで1万円から高くても10万円程度で購入できる。IP SANを構築するための接続インターフェイスのコストは、高くても10万円程度と、ファイバ・チャネルのおよそ30分の1で済む。IP SANでは、このようにこれまでのSANに比べて導入コストが大幅に下がることが大きなメリットとなる。

IP SANの接続構成
図のようにサーバとSANストレージをイーサネットで接続すればよい。サーバには、2ポートのイーサネットを用意し、片側をIP SAN、もう片側をLANにそれぞれ接続することになる。

 さらにIP SANのメリットとして、LANだけでなく、WANによるサーバとSANストレージの接続が可能になることも挙げられる。ファイバ・チャネルでは、10kmまでに接続距離が制限されるが、IPネットワークを利用するIP SANならば距離の制限はない。もちろん信頼性や安定性、セキュリティといった面で、専用線を利用するなどの工夫が必要になるが、遠隔拠点のバックアップを本社のSANストレージに直接保存するといった運用が可能になる。

 またサーバ側からはDAS(Direct Attached Storage)と同様、ストレージ・デバイスとして認識され、ブロック転送による書き込み/読み出しが可能である。これにより、ブロック転送が要求されるデータベースなど、DASに対応するすべてのアプリケーションが利用できる。

コラム
IP SANストレージとNAS

 同じイーサネット接続のストレージということで、IP SANストレージとNASが混同されることがある。しかしIP SANストレージはあくまでもSANストレージであり、サーバ側からは直接ハードディスクが接続されるように見える。一方、NASはファイル・サーバ・アプライアンスであり、サーバ/クライアントからはネットワーク接続されたファイル・サーバと認識される。単純化すれば、Windows OSのマイコンピュータの下にディスクとして認識されるのがSANストレージ、マイネットワークの下にファイル共有サーバ(ネットワーク・ドライブ)として認識されるのがNAS、ということになる。

 SANストレージは、OSからはDAS(内蔵ディスクやSCSI接続された外部ディスク)と同等に見え、ブロック転送によるデータの読み書きが可能だ。そのため、既存のすべてのアプリケーションは、SANを意識することなく利用できる。データベースなど、独自のファイル・システムを採用し、そこでのデータのブロック転送が要求される用途においても、SANストレージは利用可能だ。NASは、ファイル・アクセス・プロトコル(NFSやCIFSなど)でファイルの読み書きを行う。そのため、独自ファイル・システムでのブロック転送を要求するような、ほとんどのデータベースは利用できない。このようにSANストレージとNASは、異なる目的を持った製品なのである。

 一方、IP SANのデメリットとしては、ファイバ・チャネル接続に比べて性能面で劣ることが挙げられる。現在、一般的なファイバ・チャネルのデータ転送速度は2Gbits/sで、4Gbits/sの製品も登場している。ギガビット・イーサネットのほうは、その名のとおり1Gbits/sであるから、単純に2倍から4倍の帯域を持つことになる。またIP SANでは、TCP/IPによるオーバーヘッドがあるので、実際にはさらに帯域の差が開くことになる。つまり、ハードディスクの性能がボトルネックになるような用途では、スループットの高いファイバ・チャネルでSANを構築した方がよいわけだ。しかし、部署内のファイル・サーバの統合など、それほど性能要件が厳しくない用途ならば、IP SANでも十分な性能が確保できるとストレージ・ベンダは述べている。このIP SANの帯域も、10Gbイーサネットなどが採用されるようになれば、ファイバ・チャネルと十分に対抗できるまでになるだろう。

 またIP SANでは、SCSIコマンドをIP化するための処理がサーバ側に必要になるため、その負荷がプロセッサにかかるという欠点もある。この点は、iSCSI対応のイーサネット・アダプタ(iSCSI HBA)を利用することで、アダプタ上でその処理を負担(オフロード)することも可能だ。ただこの点も、最近のサーバに搭載されるプロセッサの処理性能が向上していることから、iSCSI HBAを利用しなくても、十分に処理が可能になっている。将来、10Gbイーサネットなどのさらに幅広い帯域へと移行した際にも、デュアルコア化などによってプロセッサの性能は大幅に向上しているので、iSCSIソフトウェア・イニシエータで十分に対応できると思われる。さらにインテルでは、2005年3月1日に「インテル I/O アクセレレーション・テクノロジ(I/OAT)」と呼ぶ、TCP/IPの処理性能を向上させる技術を発表している。I/OATは、近い将来のインテル・プラットフォーム・サーバの標準機能になるとしており、30%程度の通信速度の向上が可能になると述べている。こうした技術によって、今後ともiSCSI HBAなどの特殊なインターフェイスをインストールすることなく(追加コストが必要なく)、IP SANを利用することができるだろう。

中小企業を中心にIP SANは普及する?

 比較的導入コストが安いIP SANは、現在SANが利用されていない中小企業や大企業の部署を中心に普及することが期待されている。多くのベンダは、IP SANストレージとして、シリアルATAディスクを採用した低価格モデルをラインアップしている。IP SANの登場によって、中小企業であっても導入可能なレベルにまでシステム価格は下がってきている。

 中小企業だけではなく大企業の部門レベルでも、SANの導入メリットである「ストレージ統合」や「バックアップ統合」は求められている。簡単に「ストレージ統合」と「バックアップ統合」のメリットについても触れておこう。

■SANによるストレージ統合
 現在、多くのサーバが内蔵または外付けでディスクを接続している。こうした状態では、あるサーバではディスク容量が不足し、あるサーバでは余裕があるという状態が生じやすい。メール・サーバやデータベース・サーバ、ファイル・サーバといったように用途ごとにサーバを次々と導入したような場合、こうしたディスク容量のミスマッチが起こりがちだ。SANストレージを導入することで、サーバとディスクを分離し、すべてのサーバでディスクを共有すれば、こうしたディスク空き容量のミスマッチは起きなくなり、ディスクの利用効率は大幅に向上する。ディスクの割り当ては、SANストレージに付属する管理ツールで容易に行えるので、状況に合わせて、ダイナミックに割り当てを変更するといった運用も可能になる。

■SANによるバックアップ統合
 ストレージ統合を行うことで、バックアップの統合も可能になる。DASでは、各サーバに接続したテープ・ドライブなどでバックアップを行う必要があった。場合によっては、テープの交換作業を行わなければならず、数台のサーバのバックアップを取るだけでも大変な作業となっていた。SANにテープ・ドライブなどを接続することで、SANストレージに保存されているデータを集中してバックアップを取ることができる。バックアップ作業は、SANで実行されることになるので、LANにはトラフィックが流れない(こうしたバックアップ方式を「LANフリー・バックアップ」と呼ぶ)。またSANストレージの中には、スナップショット(ファイル・システムにおける特定の瞬間のイメージ・データ)を取ることが可能なユーティリティが付属しており、そのスナップショットをサーバを介さずにバックアップできる製品もある。

 このようにSANは、企業規模によらず幅広いメリットを提供する。複数台のサーバを稼働させているなら、SAN導入を検討する価値がある。しかしこれまでは、SANの構築コストが高いため、なかなか導入が進まなかった。これが、IP SANとシリアルATAディスクを採用した比較的安価なSANストレージの登場によって、コストパフォーマンスが大幅に向上した。さらにIP SANが普及すれば、SANストレージの低価格化は進むだろう。そろそろIP SANの導入を検討し始めてもいい時期かもしれない。記事の終わり

  関連リンク
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