BtoBの時代に備える(2)
eマーケットプレイスはダメなのか

平野洋一郎
インフォテリア株式会社
代表取締役社長
2001/4/18

BtoBの現状と動向

「いま『BtoB』(企業間電子商取引)に取り組まなくては、先々困るかもしれない。でも実際には、何から取り組んだらいいのか分からない」おそらく、こういった悩みを抱えていらっしゃる企業は多いことでしょう。

 現在ではさまざまな種類のBtoBシステムが構築されています。しかし、どの取引に対してそれらを導入すべきなのか、どの標準を使うべきなのか、どのeマーケットプレイスに参加すべきなのかなど、種類の多さが、かえって多くの疑問を抱かせているのかもしれません。そこで今回は、急速に多様化してきたBtoBを分かりやすく整理し、その動向を見てみましょう。

BtoBの主なモデル

 現在、インターネット技術を利用したBtoBは、以下の3つのモデルに大別できます。

  1. 取引所型 (n対n取引)
  2. 調達型 (n対1取引)
  3. 販売型 (1対n取引)

図1 BtoBは3つのモデルに分けられる

 取引所型BtoBは、インターネット上で複数の売り手企業(サプライヤー)と複数の買い手企業(バイヤー)が参加して取引を行う、n対nの構造が特徴です。

 一般に「パブリックeマーケットプレイス」と呼ばれるものはこのモデルです。特に電力、鉄鋼、石油といった素材系のオンライン取引所として提供されるものが多く、米エンロンオンラインなどがその代表例です。インターネットの普及によって可能になったモデルであり、最適なマッチングという点が分かりやすいため、多くのメディアに取り上げられて「eマーケットプレイス」という名称を広めました。

 調達型BtoBは、ある特定の企業または企業群が、自分たちの資材や消費財の調達を目的として構築するBtoBモデルで、多くのサプライヤーの参加に対して、バイヤーは特定企業(群)であるn対1の構造が特徴です。特定の企業が既存の取引先を中心に、その取引の電子化、インターネット化を図るのが代表的な例で、「プライベートeマーケットプレイス」と呼ばれることもあります。

 例えば、コビシントは、ゼネラル・モータース、フォード、ダイムラー・クライスラーが資材調達のために設立した調達型eマーケットプレイスで、その後、ルノーや日産も調達側に参加し、グローバルな調達型eマーケットプレイスとなっています。また、国内でも東京電力、中部電力、関西電力の大手電力3社が中心になって電力資材調達用のeマーケットプレイスの運用を開始し、国内のeマーケットプレイスとしては最大級のものとして注目を集めています。

 販売型BtoBは、調達型BtoBの逆で、ある特定の企業または企業群が、その商品の販売を目的として構築するサプライヤー主導型のBtoBモデルであり、営業活動そのものでもあります。

 オフィス用品や航空券などの企業内消費財を、特定のサプライヤーが複数の顧客に提供する形態が代表的で、ビズネット株式会社アスクル株式会社が企業向けにオフィス用品を提供し、即時配送のサービスとあわせて着実に実績を伸ばしている分野です。

ブラウザベースからXMLベースに進化するBtoB

 さて、ここに挙げたいずれのモデルのBtoBも、まずWebブラウザベースのサービスからスタートしました。そして最近になってXMLを導入し、コンピュータを企業間でつないで、それぞれの企業が持つデータを直接使用するように進化しつつあります。例を挙げましょう。

  1. 昨年来脚光を浴びたほとんどの取引所型モデルBtoBのサービスは、売り側も買い側もブラウザを使用して、結局は人と人がつながって取引を成立させる形でした。しかし、コマースワンなどを使用したeマーケットプレイスは、XMLによる標準化をもとに各企業のシステム同士をつなぐことが可能になってきました。

  2. 調達型モデルBtoBは、最初はWebEDIと称して、ブラウザをEDI端末に使うことで導入コストが削減できるというものでした。しかし最近では、ロゼッタネットなど取引先企業のシステムと直結して取引を行うことができるようになってきました。

  3. 販売型モデルBtoBでは、BtoCのeコマースサイトと同様の仕組みをBtoBに適用しただけの、ブラウザベースの発注から始まっています。しかし昨年半ばにはビズネットが他に先駆けてXMLによる受注も受け付け、顧客のコンピュータとの直接的な接続を可能としました。

 それではなぜ、これらの取引がブラウザ、つまりHTMLベースからXMLベースに進化してきているのでしょうか? 理由は、「XMLでは人手を介さないデータの受け渡しが可能」だからです。

 商品発注の例を考えてみましょう。ブラウザ(つまりベース技術がHTML)の場合、発注のデータはあくまでも人間がブラウザのフォームに手で入力するしかありません。取引の量が少ない場合、なんの問題も顕在化しませんが、例えば日に500件の発注処理を行うとしたらどうでしょう。社内システムにはこれらの500件の発注のための電子データが存在するにもかかわらず、それらを見ながら、またはコピー&ペーストしながら、人手で発注内容を再入力する手間が必要です。つまり、FAXの場合よりも余計に人件費と時間がかかってしまうのです。

 それに対してXMLの場合は、社内システムのデータを直接XML化してそのまま発注書にすることが可能なのです。

BtoB実現のための標準化の動き

 このようなBtoBを実現するためには、企業間でソフトウェアやシステムの共通言語、つまり「XML」が必要になってくることは前回述べました。自社内のシステムとほかの会社や組織とをインターネットを使って人手を介さずに連携させ、コスト削減およびプロセスのスピードアップを図るためにはXML技術が不可欠ということです。

 しかし、XMLは、基本的な「言語構造」を規定しているだけなので、実際の取引を行うためにはXMLを使って取引用の「言葉」を決める必要があります。その場合、それぞれの企業が別々の「言葉」を勝手に決めて喋っていたのでは、「会話」が成立しません。ですので、取引先と「言葉」の定義について合意する必要があるのです。そして、より多くの企業が同じ「言葉」を使うことで、多くの企業との取引の可能性が出、その価値は増大します。そのため、さまざまな業界や枠組みでのXMLを中心とした標準化が急速に進行しています。ここでは、BtoBを実現するための代表的な標準化の動きを簡単にご紹介しましょう。

ロゼッタネット
電気・電子機器業界の企業間取引の標準化団体として世界各国に推進団体を設立しているロゼッタネットでは、電子部品から完成品流通に至るまでのサプライチェーンにおける取引を標準化し、企業間プロセスの高速化、効率化を目指しています。米国から始まり、インテル、コンパック、シスコ、スリーコムなど大手メーカーを中心に普及しはじめています。国内では、ロゼッタネットジャパンが2000年4月に活動を開始し、NEC、ソニー、インフォテリアなど17社のボードメンバー(理事)を中心に、80社を超える企業が導入を推進しています。

cXML (Commerce XML)
cXMLは、米アリバ社によって策定された、企業内消費財(「間接材」または「MRO」(Maintenance ,Repair and Operations)とも呼ばれる)の購買および調達のための規格です。eマーケットプレイスとバイヤー/サプライヤー間のデータ交換用メッセージをXMLで規定し、米国ではすでにフォーチューン100企業のうち50社以上が導入するなど、多くの会社が適用しています。国内では、2001年度中に1万社のサプライヤーの接続を計画しているとのことです。

xCBL (XML Common Business Language)
xCBL は、米コマース・ワン社によって策定されたXMLベースの企業間電子商取引のための規格で、直接材、間接材の双方に対応しています。この規格は、米コマース・ワンが開発したものですが、彼らが提供するサービスだけでなく、他のあらゆるサービスに自由に使用できます。

ebXML (Electronic Business XML)
ebXMLは、ビジネスにおける情報交換用技術標準を作成する国際的な団体であるOASISと、国連による行政、商業、運輸のための実務と手続き簡易化センターのUN/CEFACTが共同で策定している電子商取引用のXML規格です。特定の業界に依存しないBtoBを可能とするために、XMLのスキーマ、ボキャブラリ(語彙)、通信方法、取引情報記述法などの標準を提供することを目的に、2001年5月の勧告を目指して策定作業を続けています。業界横断の期待の規格で、2002年には普及が始まるといわれています。

eマーケットプレイスはダメなのか

 ところで、昨年後半から米国発で、続々と閉鎖に追い込まれるeマーケットプレイス、といった報道が相次ぎました。代表的な例では、eマーケットプレイスの旗手とまで騒がれた生化学向けのeマーケットプレイス「ケムデックス」が2000年12月に閉鎖を発表したことなどがあり、有名サイトが軒並み閉鎖に追い込まれました。これらの多くは、前記のモデル分類でいうところの「取引所型」です。

 これらのパブリックeマーケットプレイスでは、その時々に最適な価格のマッチングを行うということが最大の売りとなっていました。われわれは、以前よりこのようなパブリックeマーケットプレイスには3つの課題があるということを指摘してきましたが、米国での動向はこの心配が現実として表れた格好となっています。その3つの課題とは、

  1. 現状、調達コスト削減のポイントは個別の価格より、調達のために必要な人材などのオーバーヘッドコストの方が大きい。現在の多くのサービスはブラウザベースの取引で、人手が減るわけではなく、マーケットプレイスに手数料を払う意味が見出せない。

  2. 余剰材をベースとしたマーケットプレイスでの取引は、計画性とスピードを向上させ無駄を削減するSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)のアプローチと矛盾する(計画の精度が上がるほどスポット調達は不要となるため)。また、計画性を上げ、特定企業と価格交渉を行う方が価格メリットが出ることも多い。

  3. 企業の信用保証(納期保証、品質保証などを含む)を行う仕組みがないか弱いため取引リスクが増大する。

 これらの課題により、パブリックeマーケットプレイスの存在の前提である「多くのバイヤーの参加」という点がクリアできず、結果的にはそのeマーケットプレイスの価値を提供できなかったために、多くのeマーケットプレイスが閉鎖に追い込まれたというわけです。

 しかし、パブリックeマーケットプレイスは、そのモデル自体が誤りというわけではありません。上記のような課題を解決していくことで、真に価値のあるパブリックeマーケットプレイスが今後構築できるようになるでしょう。そのためにはまず、XMLを使用してバックエンドとの接続を行うことで、企業内オーバーヘッドの削減も可能にし、また、取引先企業の信用保証、契約などのスキームを確立し安心して取引できるインフラの整備が必要となります。そして、まずは「調達型」「販売型」などのプライベート領域でのBtoBが普及し、結果としてそのインフラを生かした形でようやく本格的なパブリックeマーケットプレイスが普及を始めると考えています。

筆者紹介
平野洋一郎

熊本県生まれ。株式会社キャリーラボ設立にあたり熊本大学工学部中退。1983年から1986年の間、株式会社キャリーラボにて、日本語ワードプロセッサを開発し、1985年に年間ベストセラーになる。1987年から1998年まで、 ロータス株式会社にて、表計算ソフト「ロータス1-2-3」から、グループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。元ロータス株式会社戦略企画本部副本部長。1998年インフォテリア株式会社を創立し、現職に就任。


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