オピニオン:いまなぜWebサービスか?
第3回 Webサービスは、ビジネスの変革に役立つか

渡邊 純一
日本アイオナテクノロジーズ株式会社
パートナー・ストラテジー担当ディレクター
2002/4/25


 今回は、Webサービスとビジネスの関係について考えてみる。

ITが経営に与える影響

 さて、今回のテーマは、「Webサービスは、ビジネスの変革に役立つか」である。われながら、すいぶんと大げさな、そして重いテーマを付けてしまったものだと思う。

 Webサービス・テクノロジが登場して、早くも1年か2年がたち、具体的な事例がいくつか出てきているのは確かである。しかし、現時点でWebサービスがビジネスの変革にどのように役立つものであるかを論じるには、いささか早計であるかもしれない。技術革新は、確かにヒトやビジネス行動に影響を与える。一方、ITに関連する技術進歩の中で、Webサービス・テクノロジの出現は、それほど画期的なものなのだろうか。単なる技術の1要素なりアイデアにすぎないものであるのかもしれない。あまり日の目を見ないで終わるということはないだろうか。そんな疑問も踏まえつつ、今回はそのWebサービスのビジネスに与える影響について、少し考えてみたいと思う。

ビジネスはどのように変化してきたか

 1980年代、日本は製造業を中心とした経済面での大成功を収め、「Japan as No.1」とまで賞賛され、「もはや米国に学ぶものは何もない」といえるほどのゆるぎない自信を得た。その一方で、米国は、日本の製造業における「TQC」や「カイゼン(改善)」を検証し、生産性や効率性を改善していくための日本のお家芸をひととおりスタディし、それを米国なりのやり方で理論付けしていった。

 そして1990年代、米国はITによって製造業の生産性を高める方策を実現し、それを一般ホワイト・カラーの生産性にまで波及させていった。いわゆる「IT革命」である。ビジネス・プロセス・イノベーションでは、20〜30%程度の生産性の改善ではなく、10〜20倍もの抜本的な改革を行うのだとされた。それを実現するにはITが重要なファクタであったのだ。教育水準が均質で、終身雇用を前提とした企業への忠誠心の高い、やる気満々の日本の労働者が「一致団結して、工夫しあい、汗水かいてガンバリ抜いた末の改善」を実施して築き上げた日本型「改善」スタイルは、IT革命による抜本的な改革を実現した米国の前に敗れた……。マスコミはこぞってこのような取り上げ方をしたこともあった。

 しかし2000年後半からは、米国でさえもITサービスやハイテク企業の株価は、一転してじりじりと下げ続け、IT革命はITバブルではなかったのかという認識に転じ、IT革命による米国のニュー・エコノミーは幻想であったと揶揄される(2002年春以降、米国経済は再び回復基調にあるとされるが)。

 このように、ITに対して過度に期待したり、幻滅したりしたにせよ、現在ではITが経営に及ぼす影響は少なくないとの認識が一般的である。IT自体は道具にすぎない。これをうんぬんする前に、経営の在り方、マネジメントの方向性、ビジネス・モデル、そのための戦略がきちんと決められなければならない。これは当然のことである。

ITはビジネスの武器である

 しかし、その一方で、最新のITによって何ができるのかがきちんと理解できていて、どのように経営に生かせるのかも分かっていなくてはならない。武器が変われば、戦い方も変わる。ましてや今日の日本では、“教育水準が均質で、終身雇用を前提とした企業への忠誠心の高い、やる気満々の労働者が「一致団結して、工夫しあい、汗水たらしてガンバリ抜く」”というパラダイムが激変している。良いかどうかはともかくも、グローバル化やITによるクールなビジネス改革が、広く日本でも浸透し始めたといえよう。特にインターネットの普及や、携帯電話、電子メールの発達によって、コミュニケーションの手段が高速化かつ多様化し、ビジネスの効率性を上げるうえで、ITの重要性は10年前に比べれば格段に高くなった。

 また一方で、「アイティ、アイティというが、実際にモノ作りがなければモノは存在しないし、物流が動かなければモノは運べないじゃないか。ITがメインで何ができるのか」。こう異論を唱える経営者は少なくない。まさにそのとおりである。モノ作りも、物流も取引先との情報が命である。この部分を効果的に補完するのがITである。取引先との情報交換は、まず「人間系」が肝心であるのはいうまでもなく、ITによってそのビジネス・プロセスを効果的に補完するのである。「アイティ、アイティ」という言葉の響きに、本来何のためのITであったのかという本質が置きざりにされているかのようなイメージを受ける経営者も多いのではないか?

 こうした背景に基づき、企業情報システムを検討する場合に、部分最適なアプローチではなく、可能な限り全体最適としてのITの在り方が問われ、ROI(投資効果)をどのように最大化させていくかがいま重要なテーマとなってきている。

Webサービスで可能になることは何なのか

 連載第2回「Webサービスの事例と、今後の適応分野」に続いて、ここでもう1つ事例を紹介しよう。この例はまだすべて実現されているものではなく、構想段階にあるものとお考えいただきたい。

Webサービスを活用したパソコン直販メーカーのシステム

 パソコン・メーカーA社は、専用のショッピング・サイトを開設し一般消費者がインターネット上でパソコンの購入をすることができるようにしている。何年も前から、さまざまなパソコン・メーカーがこうしたショッピング・サイトを開設しており、そこでパソコンを購入した読者も多いことと思う。

 パソコンのショッピング・サイトでは、希望のモデルを選んで見積もりを表示させ、自分の気に入った内容を注文することができる。また標準モデルに加えて、メモリの増設であるとか、ネットワーク・カードの増設であるとか、さまざまなオプションの周辺機器を選択して見積もりをさせることができる。こうしたメモリ、ネットワーク・カード、周辺機器といった製品は、パソコン・メーカーA社と取引のある周辺機器メーカーが製造している。

 パソコン・メーカーの中にはこうしたパーツの在庫をなるべく減らして、顧客からの注文に応じて必要量を各部品メーカーに発注するBTO(Build To Order)のスタイルを取っている企業もあることはすでにご存じだろう。顧客がインターネットで、周辺機器に対する注文を行ったとき、パソコン・メーカーA社は、その製品が「周辺機器メーカーからいつまでに入手できるのか」という情報を素早く得る必要がある。そして、注文した顧客に対して、各周辺機器の調達プロセスも勘案した最終製品のデリバリ・スケジュールを知らせることは、顧客満足やロイヤルティを確保するうえで、重要な要素となる。

ショッピング・サイトのWebサービス化とは

 図の(1)の部分では、パソコン・メーカーA社のショッピング・サイトのバックグラウンドで、Webサービス・インターフェイスを使って、対象部品のデリバリ・スケジュールを直接部品メーカー側に問い合わせする仕掛けを実現した。これまでであれば、パソコン・メーカーA社のシステム内部にパーツ・メーカーの個別製品に関する標準的なマスタ情報(品番、製品情報、価格、標準納期など)を持っておき、これらをシステム内部で検索すればよかった。半面、各パーツ品の情報の変更頻度は極めて高く、部品メーカーから送られてくるマスタ情報の更新処理の頻度も高い。そこでこうした情報については、部品メーカーに対してオンラインで直接に情報の問い合わせをしてしまった方が、はるかに効率が良い。

 図の(2)の部分では、パソコン・メーカーA社からの問い合わせに対して、周辺機器部品メーカー側もWebサービス・インターフェイスを介して、レスポンスを返すことを表している。最初の段階では、パソコン・メーカーA社より問い合わせられた部品デリバリ・スケジュールに対して、即座に答えを返すことができるように、製品マスタ・データベース検索システムにWebサービス・インターフェイスを付けて実現している。

 ここまでの話ならば、特にWebサービス・テクノロジの際立った特長を生かしきれているとはいい難い。既存技術でも十分に対応がつくであろう。Webサービス・テクノロジの真価が発揮されるのは、ここから先である。

 ひとくちに部品の製造スケジュールやデリバリ・スケジュールを決定するといっても、そのためには、社内のPDM(Product Data Management)やサプライチェーン系システム内の情報などのほか、さまざまな要素を加えて決定されなければならない。第1段階では、そうした要素をおおよその標準デリバリ・スケジュールという形で、製品マスタ・データベースに登録し、Webサービス・インターフェイスを使って公開したのである。

 第2段階では、図の(3)に示すように、部品メーカー社内のPDMや製品管理系システムにリアルタイムに製造スケジュールを問い合わせして、従来の静的なマスタ情報に代わるリアルタイムな情報を返せるような仕掛けをWebサービスで実現することを計画している。

 さらに第3段階では、配送スケジュールも加味する。配送は外部へ委託している。そこで同じように配送計画に従って、外部の物流会社に対して、配送プロセスを加味したデリバリ・スケジュールを問い合わせし、リアルタイムに結果を得ることが考えられる(図の(4)(5))。これも従来であれば、物流会社の標準的なデリバリ・スケジュール情報を静的に製品マスタに織り込んでいたものを、リアルタイムに委託先へWebサービスを使って問い合わせるということを計画したものである。

 ここで挙げた例についていえば、Webサービスで実現しようとしていることは次のポイントになる。

(A) 取引先に関する情報は、自社内で処理しないで、「リアルに取引先へ直接聞く」。
(B) (A)によって、自社が本来責任を持って進めるべき処理に注力する。
(C) (B)によって、社内システムはスリム化され、必要な情報は取引先のシステムとコラボレーションして進める。

 これは当たり前のことをいっていると思われるだろう。しかし、これまでの企業情報システムでは、当たり前のことができていなかったことの方が少なくない。いちいち取引先のシステムを検索しながら処理を進めるのは、処理が分散されてあまりに効率が悪くなるからである。インターネットの普及、ブロードバンド化、Webサービス・テクノロジの出現によって、マン・マシン・インターフェイスを排したシステムのコラボレーションがあってこそ、成り立つ世界である。

 またこのケースに登場したパソコン・メーカー、周辺機器メーカー、物流会社もWebサービスによるビジネス・コラボレーションを実現したことによって、このモデルをほかのさまざまな取引先に対して再利用して展開していくことが期待できる。

Webサービスがもたらすビジネスの変革

 先に、「IT自体は道具にすぎない。これをうんぬんする前に、経営の在り方、マネジメントの方向性、ビジネス・モデル、そのための戦略がきちんと決められなければならない」と書いた。ビジネスの根幹はヒトの英知によって、そして人間関係によって創造されるからである。一方で、ITの発展によってそれが使えるものであれば、ビジネスのありさまは影響を受けるだろう。コンビニエンス・ストアがよい例である。コンビニのビジネス・モデルそのものには大きな創造性が存在するが、同時にITとロジスティクスのサポートなしには成立しない。Webサービスも同様で、こうした技術が基幹技術の1つとして登場することによって、ビジネスの変革を起こすということが十分考えられる。

 整理して考えてみよう。

 まず、Webサービスが発展していった場合に何が起きるのか。SIサービス企業は、近い将来、従来的な顧客向けシステム構築受託やインテグレーション・サービス関連でのビジネスが減ってくることを覚悟しなければならないかもしれない。

 SIサービス企業の固有技術による業務システムの構築やインテグレーション・プロセスを「標準化技術」に基づいたオープンなものへと変えていかなくてはならない。SIサービス企業は、従来的なSI契約の中でデータ中心主義ないしシステム・プラットフォーム寄りのビジネス・サービスの形態が、真にプロセス中心の高度なビジネス・プラットフォーム中心主義へ移り変わっていくことを自覚するようになる。今日、すでに多くのSI企業で、SAPのようなERPシステムの導入ビジネスをサービスとして提供しているので、こうした方向性に対して、だれも違和感はないであろう。

 このような状況では、企業情報システムの標準的機能は、ビルディング・ブロック化やモジュール化されて、ほとんどがASPベンダ、もしくはグループ会社に存在し、それらを組み合わせた形で業務プロセスが存在することになる。つまり企業内の各ファンクションの「モジュール化・可換化」が進む。

 結果、企業がリソースをコア・コンピテンシに注力させるために、アウトソーシング・サービス・プロバイダから提供されるコンポーネントを利用して、業務のコラボレーションを進めるなど、IT投資への在り方が変わってくる。ITのアウトソース化自体の考え方は昔から存在していたが、個々の企業の複雑な情報処理プロセスをそのまま改善せずにアウトソース化するのと、標準化コンポーネント化した業務コラボレーションのスキームでアウトソース化されるのでは、コストが断然違うはずである。

 現在すでに間接材の調達にインターネット経由でのマーケットプレイスが利用されるなどの仕組みはあるが、今後の企業間システム連携ははるかに深く、幅広い業務にわたるに違いない。 このような枠組みをよりスムーズに実現するためには、

  • 業務連携活動をマネージ・監査する機能
  • ASP同士などのシステム間接続部分と社内シテムとの標準化
  • 経営判断のための情報をリアルタイムに集約・整理する機能
  • アウトソーシング先での基幹プロセスの遂行
  • 特定範囲でのプロセスの合意

 が不可欠であり、最初の2つを IT化する場合にWebサービス(SOAP、XML)は大きな役割を果たす。なぜならXMLは、連携のためのデータ変換、システム間接続のインターフェイス定義に特に有効であるからだ。このうちシステム間接続のインターフェイスにおいては、まさに理想的な技術としてWebサービスが登場し、この流れの大きなイネーブラとなりつつある。

eビジネスプラットフォームの条件

 これを実現するのに、具体的に必要な条件は、

  • ビジネス・プロセス・フローの定義・実行・管理の実現
  • インターネット・フレンドリで適応範囲の広い標準の接続技術の浸透
  • すべてのフローを1カ所で集約し、蓄積した情報を解析し、再利用する仕組み
  • 通信、データ、プロセスのセキュリティの確保、SLAの確立
  • 特定範囲でのプロセスの標準化(RosettaNet、ebXMLなど)

 これがすべて実現された場合、コアビジネス以外のビジネス・プロセスのアウトソース化や新商品開発などにかかる 時間・コストに対する認識が、劇的に変わる世界がくるはずである。ビジネス環境、業態の変化を切実に感じている業界(金融・製造・流通)ほど、先んじてこうした変革に対して、チャンレンジしていくべきである。上記に挙げたもののうち、最後の要素以外はすべて特定業界に依存しないホリゾンタルなソリューションであり、Webサービスをコアにした「eビジネス・プラットフォーム」と呼ばれるものの上に実現されるのではないか。実は上記のすべてを実現するための仕組みは、いち早く「Webサービス・インテグレーション」というカテゴリで提供されつつある。

 次回はいよいよ最終回。Webサービス・インテグレーションについて取り上げたい。

 

本連載コラムの予定
第1回 Webサービスは、本当にブレイクするか?      (2002年2月)
第2回 Webサービスの事例と今後考えられる適応分野   (2002年3月)
第3回 Webサービスは、ビジネスの変革に役立つか     (今回)
第4回 Webサービス・インテグレーションとそれがもたらすもの  (2002年5月)

 

筆者紹介
渡邊 純一(わたなべ じゅんいち)

1957年生まれ、東京都出身。成蹊大学経済学部経済学科卒。CRC総研(現CRCソリューションズ)に入社。アーンスト&ヤング コンサルティング(現キャップ ジェミニ アーンスト&ヤング)を経て、2000年10月にシリコンバレーのBtoBベンダの1つであるNetfish Technologies Inc. リージョナル・ディレクター。2001年5月、IONA Technologies PLCのNetfish社買収に伴い、IONAへ移籍。現在、同社日本法人(日本アイオナテクノロジーズ株式会社)、パートナー・ストラテジー担当ディレクターとしてパートナ企業開拓に携わる。著書に「実践eコラボレーション」(共著) 同文舘 2001年10月がある。
メールアドレスは junichi.watanabe@iona.com


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