[IT Summit 2002 Spring開催]
「今年、ITサービスは谷を迎える」、その課題は?

2002/4/23

 IT不況の中でも堅調な成長が予測されているITサービス市場だが、不況の波は免れず、踊り場に差し掛かる。特に、これまで同市場の多くを占めてきたハードウェアやソフトウェアの保守分野は成熟、今後5年間の年平均成長率(CAGR)は0%台となるという。

 ガートナー ジャパンは4月22日より3日間、東京・台場にて「IT Summit 2002 Spring」を開催中だ。初日の22日のテーマはITサービス。同社 データクエスト部門 ITサービス担当 主席アナリスト 山野井聡氏が、日本のITサービス市場の展望を語った。

 昨年は、折からのIT不況に追い討ちをかけるように、米国で同時多発テロ事件が発生、IT業界は決して楽な1年ではなかった。そんな中、例外とされてきたのがITサービス市場。山野井氏によると、2005年までの今後4年間、年平均成長率(CAGR)7.7%で推移する見込みという。市場規模としては、2001年は7兆8370億円で、2005年には10兆5660億円に膨らむと予測されている。ちなみに、ガートナーでは「ITサービス市場」を、ハードウェアおよびソフトウェアの保守・維持、コンサルティングや開発・統合、ITマネジメントなどのアウトソーシングなどで構成される市場と定義している。

 堅調に見えるITサービス市場だが、今年は昨年よりも苦しくなりそうだ。山野井氏によると、2002年の同市場の前年比成長率は5.9%と鈍化する見込みという。同氏はその理由を「ユーザーによるIT投資の手控え傾向、ITサービスの市場特性から、(昨年の)景気の影響を遅れて受けること」と、2つ挙げる。

 では、今後ITサービス市場はどう変化していくのか。具体的にどのセグメントが鈍化し、どのセグメントが伸びるのか。

 現在のITサービス市場は、金額の大きい順に開発・統合、製品保守サポート、ITマネジメント、ビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)、コンサルティング、教育となっている。最大規模である統合・開発は、システムインテグレーションおよび実装、アプリケーション新規開発などを含み、この市場全体の約34%を占める。次の製品保守サポートはハードウェアやソフトウェア購入に伴うサービスを指し、約25%を占める。ちなみに、開発・統合のトレンドは、既存システムの活用。ユーザー側の案件に対する峻別はさらに厳しくなりそうだ。費用対効果が見込めない案件は、延期もしくは中止になるなど新規案件は減り、既存システム統合による効果の最大化が投資のトレンドとなるという。多くの大手ベンダの収益源となっているハードウェアなどの保守に関しては、成長は見込めない。2005年には比率が20%程度にまで下がる見込みだ。

 注目すべきはITマネジメントで、2けた成長が見込めるとしている。「業務効率の向上、コスト削減というユーザーマインド、インターネットインフラの普及により24時間365日無停止型システムへの移行」(同氏)というユーザー側の理由のほか、提供側にも利便性があるという。「提供側にも、複数年での契約が可能なストック型ビジネスモデルであること、顧客の囲い込みツールとしての有効性などから、この分野を積極的に推進していくだろう」と山野井氏は説明する。ちなみに、ユーザーマインドの中で、興味深いのがeビジネスだ。1990年代後半に一世を風靡(ふうび)したeビジネスだが、eビジネス関連は減速の傾向を示している。ガートナーでは、eビジネス関連市場規模の伸び率を、2000年の48%から33%に下方修正したという。投資意欲の減退について多くのユーザーは「効果がないから、あるいは見えないから」と答えており、ここにきてブームが一段落し、ユーザーが現実的になってきたことがうかがえる。

 最後に山野井氏はITサービス企業へ対し、保守管理サービスから運用管理アウトソースへシフトすべきという提言を行った。これは、国内大手ITベンダが苦手としている分野だが、今後生き残りのためには必要な転換といえそうだ。そのためには、SEを単に量的に増加するだけでは不十分で、「従来の業種別組織ではなく、インフラ部門とソリューション別部門など大胆な組織再編成、子会社の有効活用、競合との協業・提携も視野に入れるべき」とした。また、低コストな中国やインドの企業への開発委託も検討すべきと述べた。

 山野井氏は、「市場の競争原理により、プレイヤーの淘汰と峻別が加速する」との予見とともに、「これは同時に、各社のサービス品質を向上させ、より収益性を重視した経営ノウハウを獲得する好チャンスである」としている。ITサービス市場から見たユーザーの課題としては、企業戦略とITが密に結びつくこと、すなわち、効果的なITサービスの利用により、単なるコスト削減・業務の効率化以上の効果が期待できることを認識すべきといえよう。この実践には、経営トップの理解は欠かせない。一方のベンダおよびサービスプロバイダ側だが、こちらもビジネスモデルの改革が求められている。単なる技術提供からさらに踏み込み、経営課題を解決するソリューションの提供、そしてROIを明示することができるかどうかで、今後の明暗が分かれそうだ。

(編集局 末岡洋子)

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