他業界に学ぶ打開策は

ソフトウェア産業は成熟産業となるのか

2007/09/12

 IT業界が成熟産業化し、高い成長率が保てなくなると指摘されている。コモディティ化が進んだハードウェア事業はすでに成熟しているといっていいだろう。ソフトウェア事業は一般的にハードウェア事業と比較して収益率が高いとされてきたが、その高い収益率を今後も保てるかは定かではない。ソフトウェア産業が成熟産業になる――そんな未来がやってくる。

juas01.jpg マイクロソフトの代表執行役 兼 COO 兼ゼネラルビジネス担当の樋口泰行氏

 マイクロソフトの代表執行役 兼 COO 兼ゼネラルビジネス担当の樋口泰行氏は、9月12日に開催された「ITガバナンス 2007」(主催:日本情報システム・ユーザー協会《JUAS》)で、アサヒビールの常務取締役 本山和夫氏と対談した。ビール業界は若者の飲酒離れや人口減少で、成長が鈍化しつつある成熟産業。そして樋口氏はマイクロソフトの入社前、同様に成熟産業といわれる小売業のダイエーで社長を務めていた。

 樋口氏はハードウェア事業について「PCの普及率が高まると同時に、携帯電話が進化し、それで十分という人が多くなった」と指摘した。さらにソフトウェア業界、特に既存のパッケージソフトウェアのベンダはSaaSという「新たなチャレンジ」(樋口氏)に直面していると訴えた。

 樋口氏はマイクロソフトの競合として特にグーグルを挙げて、「あらゆるものをフリーで提供し、寡占を前提としたビジネスモデルを採っている。マイクロソフトだけでなく、グーグルを脅威に感じる人はたくさんいる」と話した。検索や無料、広告などこれまでのソフトウェア会社が重視してこなかった戦略を次々と採るグーグルに、マイクロソフトをはじめとする旧来のソフトウェア産業が、否応なく低成長に押しやられる。樋口氏はこのような危機感がある。

打開には「基本動作しかない」

juas02.jpg アサヒビールの常務取締役 本山和夫氏。対談の司会はガートナージャパンの松原榮一氏が務めた

 ビール業界はIT業界よりもずっと早い段階で成熟し、その課題に直面してきた。アサヒビールも「限られたパイの中でシェアを取り合ってきた」(本山氏)。同社は1987年の「アサヒスーパードライ」の発売でシェアを高めたが、ブームが終わった1992年ごろには踊り場を迎えた。ダイエーも同じだ。日本の小売業は人口の増加や都市の拡大に合わせて戦後に急成長した。しかし、いまや人口は縮小傾向にある。つまりこれ以上のパイの広がりは期待できないということだ。

 成熟した中で問題をどう打開するか。樋口氏と本山氏の意見は一致した。「基本動作しかない」。ダイエーは不採算となっていた小売以外の事業を売却し、商品の質を高めることを徹底した。アサヒビールは本山氏が指揮して物流を改革。鮮度の高いビールを顧客に届けるために在庫の削減に取り組んだ。ダイエーには「成功体験でおごりや高ぶりの雰囲気が残っていた」といい、改革への抵抗勢力となる社員もいた。

大波はそうそう来ない

 ダイエーではなかなかものがいえない雰囲気があったという。樋口氏は多くの会議に出席し、現場を見て、意見を交わすことで説得していったという。アサヒビールでも改革に消極的な社員はもちろんいたが、本山氏は「仲良し集団ではパワーは生まれない」と考え、議論を巻き起こすことで物流改革への全社的なモチベーションを高めていった。「基本動作に徹するのが重要。毎日の改善がやがて改革に結びつく」(本山氏)

 ソフトウェア業界ではグーグルの成功などもあり、「イノベーションでホームランを狙う」(樋口氏)という企業も多い。確かに革新的なサービスを開発し、一夜で大成功を収める企業が今後も現れるだろう。しかし、そのためには外部環境のタイミングにも恵まれる必要がある。「インターネットのような大きな波はそうそう来ない」(樋口氏)中で、企業はどう成長すればいいのか。樋口氏は「当たり前のことをきちんとやる」と話し、基本動作の重要性を繰り返し訴えた。

(@IT 垣内郁栄)

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