[Analysis]

オラクルの買収提案は誰のため?

2003/06/17

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 米オラクルによる米ピープルソフトの買収提案が、ビジネスアプリケーション業界を揺るがしている。発端はピープルソフトによる米J.D.エドワーズ買収の発表。ピープルソフトとJ.D.エドワーズが合併するとビジネスアプリケーションの市場シェアでSAPに次いで2位に躍進。現在2位のオラクルは3位に交代する。オラクルはピープルソフトとJ.D.エドワーズの合併効果をなくすため、敵対的な買収を仕掛けたとみられている。しかし、3社の抗争を尻目に漁夫の利を狙う企業もありそうだ。

 オラクルはピープルソフトの買収に成功した場合、ピープルソフトの製品開発をストップさせ、オラクル製品にピープルソフトの既存製品を取り込んでいくことを明らかにしている。ピープルソフト既存製品のサポートは行っていく方針。オラクルの会長兼CEO ラリー・エリソン(Larry Ellison)氏は「オラクルはピープルソフトの製品を新規顧客に積極的には売るわけではないが、すべてのピープルソフト製品により高度なサポートを提供する。さらに、ピープルソフト製品からの先進的な機能をOracle E-Business Suiteの将来のバージョンに取り込む」と説明している。

 しかしこれでは、オラクルにとって“競合”をなくすという効果はあるが、ピープルソフトの顧客を取り込むことは難しいのではないか。オラクルが買収に成功すると、ピープルソフト製品の利用顧客はオラクル製品に乗り換えるか、他社製品に乗り換えるかの選択を迫られることになる。ピープルソフト製品からオラクル製品へスムーズに移行できるようオラクルが十分な配慮を行えば、ピープルソフト製品の顧客がオラクル製品に移行することが期待できる。しかし、エリソン氏の言葉を見る限り、顧客の期待は裏切られるかもしれない。

 買収が成功し、かつオラクルからピープルソフト、J.D.エドワーズの顧客が逃げ出す場合、受け皿と考えられるのがSAP。SAPはピープルソフト、J.D.エドワーズ製品の顧客向けに、SAP製品への移行を促進する割安なパッケージや移行支援を予定している、と海外メディアが報じた。オラクルによる買収が成功すれば、SAPはロードマップが途切れるなど先行きに不安を感じるピープルソフト、J.D.エドワーズの顧客に、積極的に営業をかけることになるだろう。

 また、ピープルソフトへの買収提案はオラクルの主力事業となっているデータベースにも影響を与える。SAPやピープルソフト、J.D.エドワーズなど主なビジネスアプリケーション製品のバックエンドではオラクルのデータベースが稼働しているケースが多い。つまり、オラクルにとってビジネスアプリケーションベンダは、競合であると同時にデータベースの顧客、パートナーとなるのだ。ピープルソフト CEOのクレイグ・コンウェイ(Craig Conway)氏が「極悪非道」と批判したオラクルの買収提案が、データベースの顧客離れにつながらないか。漁夫の利を得るのは、データベースで競合するIBMやマイクロソフトになる可能性もある。

 オラクルにとって、データベースに並ぶ収益の柱を見つけることは長年の至上命題。同社のビジネスアプリケーションは大きな期待を受けているが現在のところ、伸び悩んでいる。企業がIT投資を凍結していることで、売り上げダウンにも見舞われた。ピープルソフト買収がオラクルを鮮やかに復活させるのか。それともライバル企業に漁夫の利を与えて終わるのか。ピープルソフトとJ.D.エドワーズがオラクルを提訴したり、ほかのアプリケーションベンダの買収が噂されるなど、顧客にとって見通しは極めて不透明といわざるを得ないだろう。

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