第5回
スラップ&シップでRFID張り付け要求に対応する
伊東 英輝
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
Fusion Middleware技術部
RFID&EDAグループ
シニアマネージャー
2006年2月2日
業界標準のEPCを使う
RFIDに書き込むIDには、小売業者の指示によりEPC(Electronic Product Code)を使うことが多いようです。EPCは、EPCglobalが定めた国際標準規格であり、参加企業ごとにシリアル管理できるコードとして使用できます。
EPCは目的に応じてコード体系が定められており、SSCC、SGTIN、GRAIなどがあります。例えば、SGTINは個品に、SSCCはパレットに、GRAIは再利用可能な資産に付けます。EPCには各企業に割り当てられるマネージャ番号があり、EPCを使ってシリアル管理したい企業はEPCglobalに加入する必要があります。日本では、(財)流通開発センターが窓口になります。
【関連リンク】 財団法人流通開発センター |
国際標準規格であるEPCを使うことによって、サプライヤとリテール間のクローズシステムではなく、他システムでも応用できる可能性が広がります。
スラップ&シップを実現するためのポイント
スラップ&シップはRFIDタグを張ることが目的ですが、それ以外にも次の機能が必要です。
- マスターデータ管理
- EPC発行
- RFIDラベル印刷
- タグ情報関連付け
- 出荷確認
●マスターデータ管理
RFIDラベルを印刷するには、さまざまなマスターデータを管理しなければなりません。企業コード、製品コード、資産コード、シリアル管理項目、ラベルプリンタに印刷するフォーマットなどを事前に定義し、データベース上で管理します。
製品や資産に関係する情報は、既存システムの情報を活用することもあります。商品管理データベースから必要なデータを抽出し、スラップ&シップアプリケーションにインポートしてマスターデータを管理します。
●EPC発行
EPCglobalが定める「Tag Data Standard」仕様に基づきコード変換し、SSCCやSGTINなどのEPCを作成します。
データ変換は、仕様書を参照すれば理解できますが、図例に示すSGTIN-96仕様のように物流過程で使用するフィルタリング値の決定やシリアル番号の採番は各企業の判断に委ねられます。正しく運用するためには、企業ごとにEPC作成・管理のための標準規定が必要です。小売業者からガイドラインが提出されている場合は、自社のルールをそれに適合させることも必要です。
【関連リンク】 EPCタグを付けられた物品の交換に関わる技術の標準仕様 |
●RFIDラベル印刷
RFIDミドルウェアやプリンタベンダが提供しているソフトウェアを使用しRFIDラベルの印刷命令を出します。スタンドアロンの単体印刷アプリケーションを使うのが簡単ですが、データの一元管理や健全性を考慮するならシステム側とデータを同期させることが必要です。
また、ラベルデザインと印刷データを独立させることで管理性が向上します。プリンタベンダが提供するラベルデザインツールを活用して、ラベルをWYSIWYG(What You See Is What You Get)で確認し、そのフォーマットをプリンタに登録することができます。その後、システム側からデータを送信することでプリンタが自動的にフォーマットとデータを融合させてRFIDラベルを印刷します。
ラベルの張り付け作業は自動張り付け機器を使うことも可能ですが、実際には手動で張り付けているケースが多いようです。手動で張り付ける場合、どのタイミングでRFIDラベルを張り付けるかも議論となります。
また、事前にRFIDラベルを印刷しておいて必要なときに張り付けるケースと必要に応じて印刷して張り付けるケースがあります。事前印刷のメリットは、印刷プロセスと実運用プロセスを分離することによって印刷(速度や場所など)に縛られないオペレーションを実現できることです。
一方、必要なときに張り付けるケースのメリットは、個品に記録されているバーコード情報などと同期してコードを発行することができることです。この場合は印刷指示とプリンタ配置の最適場所や印刷時間を含んだ全体最適化も検討する必要があります。
プリンタの可用性と運用性も十分に検討し、単一障害ポイントを発生させないなど、プリンタ回りは十分に考慮して設計する必要があります。
●タグ情報関連付け
対象物と情報の関連付けはRFIDシステムを構築するうえで非常に重要です。関連付けは親子階層の組み合わせになります。
第4回では、輸送単位→コンテナ→パレット、かご車→プラコン、折コン(折り畳みコンテナ)→個装(ケース)の階層を紹介しました。例えば、パレットや折コンにはSSCCを、ケースにはSGTINを適用し、SSCCを親、SGTINを子にした階層を形成します。親子だけでなく孫までの階層もあり、これらをデータベース上で関連付けして管理することが重要です。
関連付けするタイミングも議論となります。RFID Gen2タグを使用すれば一括で読み取れると思われがちですが、実際には読み取れない場合があることや、読み取りたくないタグも読んでしまう場合があります。
自動読み取りが完ぺきでない場合はエラーハンドリングのオペレーションが必要になります。それ以外にもベルトコンベアの速度と調和してタイミングを図ったり、読み取り時間を区切るためにフォトセンサーを入れたり、フォークリフト作業者が読み取るタイミングをリモコンで指示したりするなど個々の現場に合わせたガイドラインが必要となります。
これらの課題についてはマテハン(マテリアルハンドリング)、センサー、PLCデバイスと連携できるRFIDミドルウェア層で対応することができます。
国内の配送センターや倉庫の現状を見ると、ゲート型リーダ/ライタよりもハンドヘルド型リーダ/ライタでオペレーションをするのが現実的なケースも多くなると思います。Gen2対応したハンドヘルドデバイスも市場に出てきたので今後マーケットが活性化してくると思われます。
●出荷確認
小売業者に配送する前に、張られたタグが正しく読み取れ、関連付けが正しいかを検証します。データベース内に格納されている関連付けデータと実際の読み込みデータが正しいかを確認し、正しく出荷されることを確認する機能です。
最終的には、関連付け情報を事前出荷通知(ASN:Advanced Shipping Notice)に含めて小売業者に送信します。小売業者側の受け取りではASNを基に入荷検品を行います。
スラップ&シップに必要なソフトウェア
RFIDラベルを張り付けることで効率化が注目されている一方、実際のスラップ&シップのオペレーションを考えてみると検討すべき課題は少なくないことが分かっていただけたと思います。
スラップ&シップに必要なソフトウェアをまとめると以下のとおりです。
- デバイスを制御するRFIDミドルウェア
- 関連付けやマスターデータを管理するデータベース
- オペレーションに必要なスラップ&シップアプリケーション
スモールスタートで始めた先には業界標準技術を採用したシステム間の連携が重要となります。企業間情報交換を促進するための標準化としてEPC Information Services(EPCIS)が期待されています。次回はEPCISについて説明します。
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Index | |
スラップ&シップでRFID張り付け要求に対応する | |
Page1 RFID張り付け要求がある背景 スラップ&シップの意味 |
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Page2 業界標準のEPCを使う スラップ&シップを実現するためのポイント スラップ&シップに必要なソフトウェア |
Profile |
伊東 英輝(いとう ひでき) 日本オラクル株式会社 システム製品統括本部 Fusion Middleware技術部 RFID&EDAグループ シニアマネージャー RFID/EPC製品のプロダクトマネージャーを担当。US本社の製品開発プロセスに参画しパートナーと顧客への製品技術支援がミッション。 同社グローバルバーチャル組織「RFID and Sensor Business Team」のメンバーとして、また、同社アジア研究開発センターとの連携により、グローバルの成功事例を国内と海外に展開。EPCglobal Industry Action Groupに参画し国際標準化を推進。 |
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