第3回 OさんはいかにしてRFIDプロフェッショナルとなったのか


西村 泰洋
富士通株式会社
ビジネスインキュベーション本部
開発部
RFIDビジネス
担当課長
2007年4月9日


 難問にOさんを実戦投入

 私の頭の中に浮かんだのはOさんでした。これまでも人材育成を進める際に、厳しい環境での実証実験やフィージビリティスタディを経験した人材は急成長していたことから、この案件にOさんを投入し、正しい手法を学んでもらうのに良い機会と考えました。

 なぜならば、実証実験に入る前のヒアリングで、お客さまから「先行ベンダが現場で何度か実証実験をするも全く鋼板が読めなかった」と聞きました。同時に、先行ベンダが事前にサンプルの鋼板を借りていないということを知りました。そこで私は、「やれることをすべてやって読めなかったのではない」と確信し、可能性はそれほど低くはないかもしれないと思ったのです。

 Oさんに与えた最初の指示は、以下のステップで実証実験に取り組むことでした。

  1. 現場見学後、サンプルの鋼板(小さく切ったもの)を複数枚借り出し、電波暗室でさまざまなRFIDタグを貼付して読み取りテストを行う
  2. 次にお客さまの現場の環境に近い、屋外の場所で同様のテストを行う
  3. お客さまに、1、2の結果を報告する

 ここでOさんに理解してほしかったのは、いきなりお客さま先でテストをしないということです。さまざまな影響を考えなければいけない利用環境のケースでは、よほどの経験がないと、いきなり訪問した現場で確実に100%の読み取りをするのは困難だからです。

 本件の対象物は金属で、利用環境は屋外で周囲に金属製の機器も多いことから、金属、水分、湿度などの影響を大きく受けます。そのような環境でいきなりテストをしてもいい結果は出ません。それ故、まずは対象物のみで性能測定をします。

 また、いきなりお客さま先でテストをするよりも事前に“練習”をした方が手順自体にも間違いが起こりません。コストと時間が許すのであれば、できるだけこのようなやり方をした方がいいでしょう。

 お客さまへの報告から改善へ

 Oさんはプロジェクトリーダーと一緒に1、2を実行しましたが、お客さまの満足が得られる読み取りの結果が出ませんでした。しかし、報告する日時は決まっていたことから、結果をまとめ、お客さまへの報告をしました。

 このとき、Oさんはお客さまとさまざまな討議をして、より深く現実の業務プロセスを理解しました。その結果、事前テストで利用していたリーダ/ライタから別のタイプに変更した方がいいと考えたのです。

 新たなリーダ/ライタを使って同様のテストを重ねた結果、ほぼ100%の読み取りができるようになりました。Oさんとプロジェクトリーダーは、読み取りができたという結果をお客さまに報告し、いよいよお客さまの現場での実証実験に臨むことになりました。

 その結果、予想どおり、ほぼ100%の読み取り率を達成しました。“ほぼ”の理由は、

  • RFIDタグは、おおむね定まった位置に貼付する必要があること(これを決めておかないとRFIDタグの貼付位置自体が分からなくなるため)
  • リーダ/ライタをRFIDタグに当てる際に、1回で読めないときは、リーダ/ライタを動かしながらスキャンする必要があること

によります。このレベルであれば、実運用に入るときに少し気を付ければ問題ありません。結果的に業務は劇的に変わるはずです。バーコードではバーコードシールが見えにくくなるとどうにもならないので、このようなケースであればRFIDタグの方が適しています。

 Oさんが実証実験を成功させた要因

 ここでOさんの成功要因について考えてみましょう。

  • 基礎知識の習得
  • お客さまとのコミュニケーションから有益なヒントが得られた
  • 正しいステップで実証実験を行った
  • プロジェクトリーダーとチームワークを取れた
  • 自ら考えていろいろ試し、さまざまなテストケースを分析し、RFIDシステムの最適化を図った

 このような要因が考えられますが、私は最後に挙げた「自ら考えていろいろ試していくこと」が、RFIDシステムプロフェショナルには不可欠と考えています。Oさんはこの困難な実証実験以降、急成長し、RFIDプロフェショナルとして後輩の育成ができるレベルにまでなっています。

 今回、Oさんの成長のプロセスを解説しました。ご承知のように、さまざまな現場でフィージビリティスタディやRFIDシステムの最適化作業を行ったり、業務運用のためにRFIDシステムの導入を進めたりすることは、現場に深く入り込むことから、決して格好のいいアクティビティではありません。

 おそらく、かなり近い将来に、一般のシステムエンジニアがRFID関連製品を簡単に利用する日が来ると思われます。しかし、現時点ではまだまだ“RFIDシステムプロフェッショナル”によるさまざまな支援が必要です。RFIDシステムプロフェッショナルの仕事とは、RFIDという新しい技術を世の中に適用していくものであり、現在はそのような人材が必要とされる時期でもあります。

 読者の皆さんにもRFIDシステムに一層の興味を持っていただき、一緒にこの新しい技術の適用を進めていただきたいと考えております。RFIDシステムは、実は難しいものではなく、誰もがOさんのようになれます。

◆ ◇ ◆

 今回のOさんの成長物語をもちまして、「RFIDプロフェッショナル育成バイブル」は終了となります。以前に連載していた「RFIDシステム導入バイブル」と並読していただくことで、皆さんもRFIDシステムを十分使いこなせるレベルになったのではないかと思います。

 今後、機会があれば、RFIDシステムのプログラミングについて解説していきたいと考えています。3カ月の間、ご愛読ありがとうございました。

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Index
OさんはいかにしてRFIDプロフェッショナルとなったのか
  Page1
第3のキーファクター:現場対応力
Oさんの最初の2週間
ある鉄鋼関連企業での実証実験
Page2
難問にOさんを実戦投入
お客さまへの報告から改善へ
Oさんが実証実験を成功させた要因

Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ビジネスインキュベーション本部
開発部
RFIDビジネス
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

RFIDプロフェッショナル養成バイブル 連載インデックス


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