IT Market Trend

第14回 問われる情報システム産業の構造(前編)
――日本はメインフレーム大国のままでいいのか?――

1. メインフレーム大国の現状

ガートナー・ジャパン株式会社
データクエスト アナリスト部門サーバシステム担当シニアアナリスト

亦賀忠明
2002/07/13


 2001年まで比較的堅調に推移していた日本国内のサーバ市場であるが、ここへ来て景気低迷の影響が出始めてきた。2002年の1〜3月の出荷は、台数ベースでも金額ベースでも前年同期比マイナスという厳しい状況になってきている。2000年のITバブルと2001年のITに対する過度の悲観論。ITをめぐる議論はまさにジェットコースター状態である。いったいITはどうなってしまうのかという声さえも巷から聞こえてくる。

 これまでIT市場の牽引役を担っていた米国ベンダはITバブル崩壊の影響を大きく受けた。これら米国ベンダには若干復調の兆しも見られるが、まだまだ本調子には至っていない。現在、米国ベンダはITバブルの後遺症を引きずっており、彼らからこれまでのようなマーケティング・メッセージを期待することは難しくなっている状況である。

 さて、このような状況で日本国内のサーバ市場を活性化するためにはどのようなアプローチがあるだろうか。当然、これまでと同様、米国からのメッセージに頼るというやり方もあるだろう。しかし、これが上記のようなことから期待できないいま、まずは日本国内の現状をしっかり見つめ、この構造を見直すことで将来を展望すべきではないか、というのが筆者の基本的なスタンスである。

日本はメインフレーム大国である

 オープン化という言葉が登場して久しい。「ダウンサイジング」という言葉が登場したのは10年以上も昔のことである。それから世の中は大きく変わった。確かに、PCサーバもRISC/UNIXサーバも導入が進み、一見すると日本のオープン化は進んだように思える。すでにメインフレームというハードウェアを見たこともない、関心もないというエンジニアも多くいることだろう。中小型メインフレームの急激な減少から、業界関係者のほとんどが、この市場は死んだと思っているかもしれない。

 しかし、これはあまり話題に上らないことであるが、日本ではメインフレームがまだ全サーバ市場における売上の30%以上も占めているのである。そのほかの地域がおおむね10〜15%程度となっているのに対して、日本のメインフレーム比率は2倍以上となっているのだ。

サーバの総売上に占めるメインフレーム売上の割合(売上金額ベース)

 この結果、日本は世界の中で最もメインフレームを出荷し続けている国となっている。

2001年世界メインフレーム市場地域別シェア(出荷台数ベース)
 
2001年世界メインフレーム市場地域別シェア(出荷金額ベース)

 米国やヨーロッパでは、ドットコム・ブームやERP(Enterprise Resource Planning)*1などによる基幹系システムの見直しが進み、1999年までに多くのメインフレームがUNIXサーバに置き換わっていった。結果として、多くのベンダがメインフレーム事業から撤退している。いまでも世界的にメインフレームを出荷し続けているのは、IBMとUnisysの2社のみである。

*1 経理や生産管理、販売管理、人事管理といった企業の基幹業務をリアルタイムにコンピュータ・システムを利用して行うこと。ERPを実現するソフトウェア(ERPパッケージという)には、SAPのR/3やSSA Global TechnologiesのBPCSなどが有名。
 
世界メインフレーム市場規模の推移
 
世界メインフレーム市場地域別シェアの推移

 日本国内では、メインフレームをいまでも出荷しているベンダのほとんどが、UNIXサーバやPCサーバを併せて販売、出荷している。これらのベンダにおいても、確かにオープン・サーバの比率が高まっているものの、メインフレーム出荷金額も依然として多いことから、逆にこれをなんとしても死守しようとする動きが、いまでもある。

 数年前であれば、確かにUNIXサーバやPCサーバで基幹系というと疑問符が付く状況であったが、いまやこれらのオープン・サーバでも、メインフレームと同等の信頼性を保つことが可能になっている。さらに、コストパフォーマンスの観点ではオープン系の方が断然有利な状況にもある。

 問題はこのようなオープン・サーバが、メインフレームとの信頼性比較の観点で、まだまだメインフレームの代替とはなり得ないというようなところで議論が止まってしまっていることにある。

なぜオープン化が遅れたのか

 では、なぜ日本でメインフレームからオープン・サーバへの移行が遅れているのか、考察してみよう。主な理由として以下の2点が考えられる。

1)メインフレーム・ベンダの存在
 日本でメインフレームの比率が高い理由の1つは、諸外国に比べて、メインフレーム・ベンダ(メインフレーマ)の数が多いことが挙げられる。

 米国では、Amdahl(アムダール:富士通の米国子会社)やHDS(Hitachi Data Systems:日立データシステムズ)はIBM互換機ビジネスから事実上撤退する方向にある。ヨーロッパでは、IBM、Fujitsu Siemens Computers(富士通・シーメンス・コンピューターズ)、Bull(ブル)、Unisysといった多くのベンダがおり、日本と状況は似ている。しかし、純粋にヨーロッパのベンダはBullの1社だけである。そのためか、サーバ全体に占めるメインフレーム売上の割合は16%と、日本のおおよそ半分である。

 一方、日本には、富士通、日本IBM、日立製作所、日本電気、日本ユニシスといったメインフレーム・ベンダがおり、各ベンダにとってメインフレームはソフトウェアを含めて、いまでも重要な収益源となっている。

 オープン化が進み難いのは、これらのベンダがメインフレーム・ビジネスを止められないことにある。各メインフレーム・ベンダは、オープンへの移行の必要性は感じているものの、メインフレーム・ビジネスからの撤退は死活問題になると考えているようだ。売上が減ったとはいえ、いまでも全サーバの30%以上の売上を持つメインフレーム・ビジネスを急に止める理由はベンダ側にはない。このようなことから、メインフレーム・ベンダは、メインフレームの収益を温存するために、ユーザーに対しメインフレームからオープンへの移行話をあえて持って行こうとはしない。つまり、このような収益構造がいまでも有効であるため、メインフレーム・ベンダは基幹系システムのオープン移行には基本的には慎重になっている。

 ユーザー側からオープン・システムにしたいという要望が出されたときには、何とか対応を考えるというのがメインフレーム・ベンダの基本的なスタンスである。結局こうしたベンダは、自社の収益にマイナスとなるという理由から、オープン・サーバによる基幹系システムのフル・サポートというようなメッセージを、積極的に表に出すことはない。またそうだからこそ、これらのベンダによる「オープン・サーバにより基幹系システムの体制を強化する」という話にも、いま一歩迫力に欠けるというのが現状である。

2)ユーザーの視点
 一方、オープンへの移行はユーザーにとってもリスクが伴う。上記のようなベンダの姿勢であればなおさらである。このような状況では、ユーザーがたとえオープン・システムのメリットを理解したとしても、あえてオープン移行へとは踏み切れないだろう。仮にオープンにしてシステムが止まってしまったら、責任問題になりかねないという危惧がユーザーの情報システム部門にある。また、基幹系システムをオープン・サーバに全面移行するには膨大なコストがかかることも事実であり、昨今のユーザー企業の置かれている経営状況を考えれば、移行にちゅうちょするユーザーの姿勢も確かに納得がいくところである。

 このようなことから、いまでも稼働しているメインフレーム・システムの多くは事実上の塩漬け状態にある。こうした状況では、いつまでもメインフレームからオープン・システムへの移行は行えないし、いつか訪れるかもしれないメインフレームの終えんに対応することもできない(メインフレームが終えんすることはないかもしれないが)。そこで、次ページではメインフレームに頼り続ける危険性について論じていきたいと思う。 

 
     
 
 INDEX
  第14回 問われる情報システム産業の構造
  1. メインフレーム大国の現状
    2. メインフレームに頼る危険性
 
「連載:IT Market Trend」

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