テンプスタッフが技術者の起業支援、「目的はIPOでなく……」

2004/3/3

 テンプスタッフ・テクノロジーは起業を目指すITエンジニアを支援するファンド制度「Vコラボレーション」を3月1日に開始したと3月2日に発表した。ITエンジニアに対して資金提供、営業支援などを行う。既存の起業ファンドが投資先企業の株式公開益を目的にするのと異なり、「投資先企業と協力することで、テンプスタッフ・テクノロジーが顧客企業に高度なサービスを提供できるようになるのが目的」とテンプスタッフ・テクノロジー 代表取締役 水田正道氏は説明した。

テンプスタッフ・テクノロジー 代表取締役 水田正道氏

 テンプスタッフ・テクノロジーは、メーカーやシステム・インテグレータなどの顧客企業が受託したプロジェクトに対して、社員または準社員のITエンジニアを派遣するのが現在の主な事業。しかし、顧客企業からテンプスタッフ・テクノロジーに対しては、システム設計・構築などの上流工程も含めてアウトソーシング、業務委託をしたいという要望があるという。テンプスタッフ・テクノロジーではその要望にこたえるために抱えているITエンジニアに対して上流工程の教育を行おうとしたが、育成の時間、環境がなく断念。ITエンジニア向けの起業ファンドを設立することで上流工程を担当できる企業を短期間に育て上げ「プロジェクトのすべてをテンプスタッフ・テクノロジーの中で完結させるようにする」(同社 取締役テクニカルソリューション事業部長 藤崎貴司氏)のが目的だ。

 起業を目指すITエンジニアは公募する。書類選考、新会社の経営計画、面談など1〜2カ月の審査を経て投資するITエンジニアを決定。設立対象の事業分野は(1)携帯電話やデジタル家電の組み込みシステムに利用する制御系アプリケーションの設計・開発、(2)ネットワークインフラの設計・構築、(3)コンタクトセンター、データベースの構築・運用、(4)Webサイト、イントラネットの構築。ITエンジニア選考のポイントは過去に担当したプロジェクトの実績、技術力、ノウハウなどだが、テンプスタッフ・テクノロジー側の目的を考えると上流工程を中心に手がけるITエンジニアが選考の中心になるだろう。

 テンプスタッフ・テクノロジーは投資先企業に対して資本金として1000万円、運転資金として追加で最大4000万円を投資する。起業するITエンジニアも新会社に出資し、リスクを負う。テンプスタッフ・テクノロジーは投資先企業の株式の66.7%以上を保有する。テンプスタッフ・テクノロジーは受注したプロジェクト案件を投資先企業に優先的に委託し、協力してプロジェクト全体の構築・開発を行う。もちろん、ITエンジニアの派遣も低価格で実施する。テンプスタッフ・テクノロジーは資本金、運転資金のサポートのほかに、リース契約、オフィス賃貸契約の連帯保証、債務保証を行う。会社設立時の各種手続きを代行、経理・総務・人事のバックオフィス業務のアウトソーシングも低価格で引き受ける。

 投資先企業にはいくつかの制約があり、テンプスタッフ・テクノロジーと協力してプロジェクトを遂行する制度になっている。投資先企業はテンプスタッフ・テクノロジーが受託した案件を年間に一定額以上を受託することが求められる。「ファンドはIPOによるキャピタルゲインが狙いではない。テンプスタッフ・テクノロジーとの協業が成立しないと、当社にうまみがない」(同社 取締役サポート本部長 石黒智幸氏)のがその理由。そのため投資先企業がテンプスタッフ・テクノロジー以外の企業と直接に取り引きする場合は、事前にテンプスタッフ・テクノロジーに通知する必要がある。「投資先企業がテンプスタッフ・テクノロジーを通さないでビジネスを行うことが、テンプスタッフ・テクノロジーのメリットにならない場合もある」(石黒氏)。投資先企業の役員は過半数をテンプスタッフ・テクノロジーが選任。業務提携や新規事業の開始など経営上の意思決定はテンプスタッフ・テクノロジーの承認を事前に得ること、定例の経営報告などは、ほかの起業ファンドと同じ。

 テンプスタッフ・テクノロジーは2005年度までに5社に投資し、5億円の売り上げを目標としている。「2004年度だけでも3〜4社を立ち上げたい」(藤崎氏)と意気込んでいるが、思い通りに優秀なITエンジニアが集まるかは疑問もある。会社設立の5年後にテンプスタッフ・テクノロジーが保有する株式を代表者に売却(売却後もテンプスタッフ・テクノロジーが33.4%以上の株式を保有)するのが原則だが、それまでの制約が厳しいように思える。テンプスタッフ・テクノロジーの関連会社としては発展しても、広い顧客企業のすそ野を持つ自立した企業になれるか、という懸念だ。

 本当に実力があり顧客が付いているITエンジニアなら、ファンドに頼ることなく起業したり、個人事業主としてやっていけるのではないか。水田氏は「自分でやっていける人ならこのファンドは必要ない」としながらも「実力があっても資金や勇気がなく、2の足を踏んでいる人が多い」と述べ、ITエンジニア発掘に注力する考えを強調した。

(編集局 垣内郁栄)

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