製造業としてのHPはITをどう活用? 社内IT担当者に聞く

2005/7/16

 M&A、全体最適、トレーサビリティ、コンプライアンス……、企業を取り巻く環境は、厳しさを増すばかりだ。それを乗り越えるためにさまざまなIT活用が提案されるが、使いこなしも簡単ではない。そうした中、ITベンダではなく、IT活用企業としてのヒューレット・パッカードはどのような組織やガバナンスでITを経営に生かしているのだろうか。米国HPの社内IT部門の担当者であるビジネスインテリジェンス&情報インフラ ディレクターのフレデリック・スパランザニ(Frederic Spalanzani)氏と、戦略、アーキテクチャ&ビジネスインテリジェンス&情報インフラ標準 ディレクターのラウル・シューマッハー(Mr Raoul Schuhmacher)氏にその実態の一端をうかがった。


──HPの社内ITの組織やガバナンスは、どのようなスタイルなのですか?

米国HP 戦略、アーキテクチャ&ビジネスインテリジェンス&情報インフラ標準 ディレクター ラウル・シューマッハー氏。ビジネスインテリジェンス、データ統合についての戦略、アーキテクチャの責任者である
シューマッハー氏 CIOの下に「GO+IT」という組織があり、業務の組織とITの組織が一緒になったような構造になっています。1つの組織が業務とITを担当しているという点がユニークだと思います。この中に製造業としてのHPのサプライチェーンのインフラを担っているアダプティブ・インフラストラクチャ&サプライチェーンITという組織があり、われわれはその中のビジネスインテリジェンス(BI)のチームになります。

 アダプティブ・エンタープライズは、HPが提供するサービスやソリューションのメッセージですが、同時に私たち自身がアダプティブ・エンタープライズになるという取り組みを実施しています。

──アダプティブ・エンタープライズになる狙いは何ですか?

シューマッハー氏 アダプティブ・エンタープライズにおいて重要なポイントは、ITのコスト構造を変える、ということです。現状のITではメンテナンスの部分にかかるコストが非常に大きいという認識を持っています。そのメンテナンスの“コスト”を縮小して、イノベーション──システムを刷新していく“投資”にシフトしていくべく活動しています。

 コンパックとHPが合併したとき、アプリケーション・インスタンスが合計7000程度ありましたが、似たような機能を持つアプリケーションを統合・削減して現在では4000になっています。データセンターも300あったものをドラスティックに統合し、85になっています。これによってインフラに関してはかなりコスト削減効果が出ています。これがフェイズ1です。フェイズ2ではアプリケーションでは1500、データセンターは11にする計画です。またビジネスプロセスの共通化やシンプル化といった部分に着手し、現在はターゲットを決めて、それに向かって計画を立てている段階です。

──アダプティブ・エンタープライズの中で、BIはどのような役割を果たすのですか?

シューマッハー氏 1990年代の半ばぐらいにデータウェアハウスなどの流行があってBI=ビジネスインテリジェンスという言葉が使われましたが、最近はビジビリティ──例えばサプライチェーンや経営の可視化・見える化という部分で期待されている技術がBIなのだと思います。

 われわれのBIのやり方の特徴の1つは、全社の誰であっても見れば分かる1つのフレームワークを作り、それを共通言語にして全社展開するためのベースを用意していることです。

 BIアーキテクチャフレームワークは、HPのエンタープライズ・アーキテキチャ(EA)である「ダーウィン参照アーキテクチャ」の1レイヤに位置付けられるものです。6つのレイヤからなっており、基本的には社内外のさまざまなデータソースから情報統合のレイヤを通って、データウェアハウスに統合します。これによって全社レベルのきちんと整合性のとれた情報が用意されます。ここからビジネスユニットごとに使いやすいビジネス・データウェアハウス(データマート)を生成し、全従業員共通のポータルからアクセスをするという形です。

 全体最適を実現するうえで重要なのは、正確性の確保です。いかに整合性を保って正しい情報を1つ作るか、このアーキテクチャによって担保しているのです。

──そのように生み出される情報が、真にビジネスの現場が必要とする情報であることを担保する仕組みはどのようなものですか?

米国HP ビジネスインテリジェンス&情報インフラ ディレクター フレデリック・スパランザニ氏。情報活用・情報整備の責任者。HPとコンパック合併時のデータ統合についての総責任者だという
スパランザニ氏 製造業のビジネスオペレーションでは基本的に事業部が強くなる傾向があるため、どうしても分散した組織になり、全体最適をやりにくいという面があります。そういった中で、GO+ITに各事業部や地域の責任者がコアチームを作り、いかにBIの領域で全体最適を達成するのかを利害調整する仕組みを持っています。

 フレームワークとは抽象的なリファレンスモデルなので、基本的にはそれに従わなければならないものですが、それに従って対応が遅れるということがないようにしています。フレームワークがあることによって、全体最適とスピードが要求される場合の両立を図っています。

 これらの活動は最初にお話ししたとおり、アダプティブ・エンタープライズを目指すものであって、アダプティブ・エンタープライズの4つの指針、「シンプル化」「標準化」「モジュール化」「統合」に基づいて行っています。

──ビジネスプロセスとしては今後、どのような方向を目指すのですか?

スパランザニ氏 現在のBIモデルは、フェデレーテッドモデルで分散型と集中型の均衡点を見いだす形ですが、これは技術的な障壁があってのことではなく、マネジメントスタイルに合わせたアーキテクチャになっているものです。マネジメントスタイルを集中型に移行していく予定になっており、システムのアーキテクチャも集中型にしてより効果が出るような形にしていくことを考えています。

 また提供する情報も、従来はセールスやマーケティングなどの役割ごとにその場その場で作っていたようなところがありましたが、役割ベースで必要なKPIなどをきちんと定義して、標準化して用意するといったことも考えています。

 なお、日本HPでは「こうしたHP自身の取り組みと経験をベストプラクティスとして、お客さまに提供するサービスとして生かしていく」方針で、実際に米国HPのIT部門のメンバーがカスタマビジットを行い、SI部門とのコンビネーションでソリューション提供を行っているという。日本においてもM&Aの活発化、部門を超えた情報共有の必要性などが叫ばれる中、タフな情報統合を経験したHPの知見は大いに役立つに違いない。

(@IT 鈴木崇)

[関連リンク]
日本ヒューレット・パッカード

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