オフショア開発成功者が語る、成功のための3つのポイント

2006/6/22

 「本社は、留学していた米国国家技術標準局(NIST)のようにしたかった」と語ったのは、中国最大規模のソフトウェア開発グループである東軟集団(Neusoft)の総裁(CEO)劉積仁氏。同氏がそう夢描いた本社は現在、中国東北地方の瀋陽中心部から車で15分程度のところに立地し、50万平方メートルの敷地内にオフィス棟のほか、社員寮やゴルフ練習場、ダンスホールなどを備え、シリコンバレーのIT企業のオフィスを想起させるものに発展した。

■5億人の社会保障システムと2億台の携帯電話を支えるシステムを構築

 東軟集団は、劉氏が中国の東北大学教授時代に創業したソフトウェア開発会社。創業時には日本のアルパインが協力し、現在も協力関係が続いている。現在、社員数は8000名を超え、2005年の売り上げは28億人民元。大連など中国3カ所に大学を持ち、毎年数千名がそこから就職してくるという。売り上げの内訳は、国内向けソリューションが70%弱、医療機器分野が18%、国外向けのアウトソーシング事業が13%程度だという。

東軟集団(Neusoft) CEO 劉積仁氏。33才で東北大学教授となり、その後東軟集団を設立。現在はグループ8000人を率いる

 国内向けソリューションは、中国の社会保険制度の料金計算バックエンドシステムや、中国移動(チャイナモバイル)の課金システム構築、タバコの流通システムなどを手広く手掛けている。中国の携帯電話の普及台数は約4億台で、そのうちの半数近く約2億台の携帯電話の課金システムに東軟集団のソフトウェアシステムが使われているという。社会保険制度も7年前に制度が整備されたばかりで、現在の加入者は2億人程度だが、将来的には5億人程度が加入する見込みだ。医療機器分野では、CTスキャンなどをハードウェアとソフトウェアを共に制作しており、すでに中国国内で3000以上の病院から受注しているという。

 国外アウトソーシングでは、アルパインや東芝ソリューションなどを中心にオフショア開発やBPO(ビジネス プロセス アウトソーシング)を請け負っている。劉氏にオフショア開発において、同社が今後注力していきたい分野を聞いたところ、「やはり組み込み開発分野だ。今後、カメラや携帯電話、情報家電など組み込み開発の需要は増えていくだろう。それらの受け皿となるべく取り組んでいく」と語った。

■付属の大学の組み込み開発学部を開設し、組み込み技術者を4000人育成へ

 組み込み開発への取り組みの中でも注力しているのが、組み込み開発技術者の育成だ。劉氏は日本における組み込み開発需要の高まりによって、日本で組み込み開発者の不足状態が起きると予測し、その人的リソース供給源となる考えを示した。

 すでに取り組みは行っており、東軟集団の大学では組み込み開発学部を開設し、2000人の生徒が在席している。これらの卒業生が入社することで、現在日本企業向けの組み込み開発を行っている1500人の技術者を、将来的には4000名体制にまで増やしたいとした。

 また、劉氏は日中の政治関係については、「ここ2〜3年で悪化してきており、いまが一番悪い時期ではないか。しかし、昔から日中の関係は“政冷経熱(政治は冷え込んでいるが、経済関係は熱い状態)”といい、日本向けの組み込み開発はこの3年間で2〜3倍に増えている」と説明した。

■オフショア開発成功のための3つのポイント

 文化の違いなどから、中国オフショア開発を失敗する日系企業は多い。そんな中、アルパインや東芝ソリューションを中心にパートナーシップを強化している劉氏にオフショア開発のポイントを聞いたところ、同氏は3つのポイントを挙げた。

 1つ目は「社員が相手の企業文化を理解すること」だという。「国も企業も異なれば、その習慣は大きく変わる」という信念の下、東軟集団ではオフショア発注元企業をできる限り理解しようとする。例えば、同社の大学ではアルパインや東芝ソリューションのコースがある。このコースは、両社の企業文化などを勉強し、さらには両社に派遣されてOJTで社風なども学ぶ。

 2つ目は信頼。同社では社員同士の交流による信頼関係の構築はもちろんのこと、トップ同士も交流して意思の疎通を図る。実際、劉氏は毎月日本を訪問してパートナー企業を回り、各企業トップとコミュニケーションを取っているという。これにより、「まるで1つの会社になったかのような連帯感が生まれてくる」(劉氏)という。

 3つ目は責任感だ。この責任感を同氏は「オフショア開発では、ソフトウェアを納品するエンドユーザーがいるはずだ。そのエンドユーザーの立場に立って開発することが、品質の向上に役立つはずだ」と説明する。このような信念に基づいた開発を行うことで日本企業の信頼を得て、10数年に渡る協力関係を築いてきた。

 最後に劉氏は今後の目標について、「業務的には、IBMやNTTデータのようなサービスを提供している会社。顧客満足度の高い会社にしたい」と語った。

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東軟集団(Neusoft)

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