Web 2.0の進展

リアル世界がバーチャルに移動していく

2006/11/10

 野村総合研究所(NRI)は11月10日、ITロードマップセミナー Autumn 2006を開催した。テーマは、Web 2.0の企業情報システムへのインパクトとその活用。2006年はWeb 2.0の世界観が市場に浸透し、“Web 2.0的”と言われる企業やサービスが相次いで登場した。技術の変化と普及が、Webの利用方法に変化を起こした。

web201.jpg 野村総合研究所 上級研究員 田中達雄氏

 野村総合研究所 上級研究員 田中達雄氏は「今後、リアルな世界にあるものが、徐々にバーチャルな世界に移動していく方向にある」と予測する。Web2.0の世界観の根幹にあるのは、梅田望夫氏が指摘するように、サーバ側(「あちら側」)に蓄積されたサービスをクライアント(「こちら側」)を通じて呼び出すことで利用可能にするというもの。

 インフラ技術やユーザーインターフェイスの技術、コンテンツに付与するメタデータの技術など、Web 2.0の世界観を実現するための技術要件が次々にクリアされていくことで、Web上で行えるサービスやそれらを開発するための方法論が変化していくという仕組みが、Web 2.0の世界観を発展させている。

 Web 2.0独特の方法論の1つとして挙げられるのがマッシュアップである。マッシュアップとは音楽業界の用語で、DJが好きな曲を自在に混ぜ合わせて新しい曲にしたてること。転じて、異なるサービスを混ぜ合わせ、新しいサービスに仕立てることとして使われている。

 代表的な例では、Googleの地図情報にSOAPを介してコンテンツデータを表示できるようにするなどの使い方がある。マッシュアップの実現にはWeb技術の標準仕様化が前提である。IT業界が長年かけて行ってきたオープン・スタンダードの働きかけがWeb 2.0の世界観を現実のものにする際、大きく役立つことになったわけだ。

 このマッシュアップという方法論は現段階では、主に企業しか利用できない。巨大な構造化されたデータベース、高性能なシステムインフラ、高度なプログラミングといった要件が必要なのである。ただし、今後、軽量なメタデータが普及することで、多くのコンシューマによって、マッシュアップが容易なコンテンツが増加すると予想される。これにより、CGM(Consumer Generated Media)は今後さらにWeb上で勢力を伸ばしていくと考えられる。

 Web 2.0の世界観が企業情報システムに与える影響も甚大である。

 Web 2.0の世界観では、企業情報システムにおけるソフトウェア環境の障壁が低下することが予想される。

 これまでは、中央で統制された情報システムの管理下に従業員(ユーザー)が存在していたわけだが、Web 2.0の世界ではソフトウェアの環境は「あちら側」にあるため、ユーザー統制型のシステムになる。サーバ管理者が行ってきた作業は機械化されて「あちら側」に格納され、ユーザーはITの難しい知識を使うことなく、IT上で業務を遂行できる。つまり、ユーザー統制型のシステムでは、ユーザーの情報システム利用に必要なスキルは低くなるというわけだ。

 Web 2.0が浸透するに従い、企業は、新しい企業統制(コーポレート・ガバナンス)の方法を考え出し、施行しなくてはならなくなるだろう。従業員の仕事の仕方も変わっていく。

(@IT 谷古宇浩司)

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