パワポの牙城に食い込めるか

ジャスト渾身のプレゼンソフト「Agree」を試してみた

2007/03/14

 ジャストシステムから、初めてのプレゼンテーションソフト「Agree 2007」が2月9日に発売された。3月9日からはオフィススイート「JUST Suite 2007」も発売された。同社のWebページではAgree 2007を力を入れて宣伝しているが、「一太郎2007」のおまけではないのか? と思えなくもない。圧倒的な強さのPowerPointのシェアに食い込むことができるか、Agree 2007の実力のほどを試してみた。

agree01.jpg プレゼンテーション作成ソフト「Agree 2007」(税別7800円)。ダウンロード版は税別6000円。メールソフト「Shuriken Pro4 /R.2」の体験版を同梱する。対応OSはWindows 2000/XP/Vista

基本操作はPowerPointと同じで迷わず使える

 画面レイアウトは、左にアウトライン/スライドタブ、右に操作ウィンドウを配置するPowerPoint 2003でも、おなじみの構成。メニュー項目やノートの位置まで同じだ。PowerPointユーザーでも即作業に取りかかれるのはうれしいところだが、この程度はOffice互換ソフトでは当たり前。ツールボタンは「一太郎2007」と共通したインターフェイスを採用しており、メニューの文言も統一されている。「一太郎2007」のユーザーなら違和感なく操作できる。ちなみに、無料で使えるオープンソースの「OpenOffice.org」の「Impress」は、「アウトライン」や「ノート」が別の場所にあるが、Agree 2007はアウトラインタブがPowerPointと同じくスライドタブの横に配置されているなど、一見しただけではそっくりだ。

agree02.png 画面の構成はPowerPointとほぼ同じ(クリックで拡大)
agree03.png 上がAgree 2007、下がPowerPoint 2003のツールバー(クリックで拡大)。Agree 2007のツールバーだけにあるのは、時間や行間の調節ボタン。PowerPoint 2003だけにあるのは「アクセス許可」「すべて展開」ボタンなど

ぴたっと寄り添うガイド線に惚れた

 実際にスライドを作成し始め、オブジェクトを動かすと、縦横に何本ものラインが表示された。これは「ガイド線」で、オブジェクトの位置決めを補助してくれるものだ。オブジェクトがPowerPointのように滑らかに動かず、カクカクと移動すると思ったら、ほかのオブジェクトやスライドの端に合わせるように調整されていたのだ。少々マウスの操作がずれてもガイド線に沿って垂直・水平に動かせ、位置をぴったりと決められる。

 スライドの右クリックメニューから「グリッド・ガイド」でガイド線の設定画面が開く。位置合わせやガイドの表示を無効にすれば、滑らかに移動できるようになる。個人的にはオブジェクトがほかのオブジェクトやガイド線に張り付くように動くのは便利に感じられた。微調整に手間をかけずにスライドを仕上げたいなら重宝するだろう。

agree04.png オブジェクトをドラッグすると、6本のガイド線が表示される(クリックで拡大)
agree05.png 「グリッド・ガイド」の初期設定画面。「ガイド線を表示」にチェックし、ラインを表示してみたが、これはかえって邪魔になった。移動時だけ表示する初期設定がお勧めだ

多種多様な素材を収録したのは魅力的

 レイアウトやデザインは、操作ウィンドウから選ぶ。Agree 2007は101種類のデザインテンプレートと約980種類のイラスト・部品を収録している。Office互換ソフトは、テンプレートやクリップアートの収録点数が少ないことがネックだったが、これだけそろっていれば十分だ。PowerPointのクリップアートも読み込めるので、素材集を持っているなら活用することも可能だ。ちなみに、PowerPoint 2003のデザインテンプレートは31種類だが、Office Onlineから自由に追加できる。

 レイアウトとデザインはどちらも単に一覧表示されているだけなので、やや使いにくい。PowerPoint 2003のレイアウトはカテゴリごとに分類されており、デザインには最近利用したテンプレートなどが表示されている。とはいえ、慣れてしまえば気にならなくなるレベルだ。

 カラーパターンを指定できる「カラーセット」も大量に用意されている。PowerPoint 2003の「配色」は最大16種類、OpenOfficeのImpressは、そもそもカラーセットに対応していないので、この点はAgree 2007に大満足。

agree06.png 左がAgree 2007、右がPowerPoint 2003の操作ウィンドウ(クリックで拡大)

独自機能に掘り出し物を2つ見つけた

 プレゼンの資料とはいえ、たまには長文を書くこともある。そんなときは、画像やグラフなど、ほかのオブジェクトとのバランスで見栄えの調整に手間取るもの。そんなとき、PowerPoint 2003にはないAgreeオリジナルのツールボタンの本領発揮だ。「字間を広げる/狭める」と「行間を広げる/狭める」で、微妙なレイアウトの調節ができる。操作が手軽で大きな効果が得られる、うれしい機能だ。ちなみに、PowerPoint 2007には字間の調節ボタンが追加され、死角はない。

agree07.png 字間を広げる/狭めるボタンをクリックするごとに、20%ずつ変化し、最大±40%の範囲で調節できる(クリックで拡大)

 もう1つ、Agree独自の機能で便利なのが多数のスライドの中から目的の1枚を探すようなときのインターフェイスだ。スライドショーでプレゼンを終えた後に質問を受け、すでに表示したスライドを探すことがある。そんなとき、右クリックのジャンプメニューからスライドを探すのが普通だが、タイトルだけなので内容が把握しにくい。一方、Agree 2007なら画面右端にマウスを寄せるだけ。スライドのサムネイルが表示されるので、目当てのスライドをクリックすれば一瞬で切り替えられるのだ。

agree08.png スライドショー実行時に、サムネイルを表示できるのは便利。ただ、マルチディスプレイで、左側のディスプレイに表示しているときは、画面の境界ぎりぎりにマウスポインタを動かす必要があった

 そのほか、文字の位置をそろえられるルーラーを用意していたり、プレゼン資料でアピール力のある18種類のフォントを同梱している。日本語入力ソフトを長年開発してきたジャストシステムらしいこだわりが感じられる。

厳密な互換性を求めていないなら「買い」

 ジャストシステムはPowerPoint 2003と互換性があるとしているが、実際にさまざまなPowerPointのファイルを開いたところ、表示にずれが発生することがあった。テキストボックスの位置がずれたり、余計な改行が発生するケースも見受けられ、矢印の図が大幅にずれたり、表示されないこともあった。同時にImpressでも同じファイルを開いてみたが、表示のずれはAgree 2007よりも少なく、レイアウトの互換性はImpressのほうが高いようだ。

 また、画面の切り替え効果は問題ないが、アニメーションは正常に動作しないことがあった。特にオブジェクトを移動するアニメーションは苦手で、とびとびに再生されたり、表示速度が変わったりした。Agreeで作成したアニメーションをPowerPoint 2003で再生したときも思い通りに動かないことがあった。たとえばフリーハンドでオブジェクトの移動軌跡を指定した場合など、まったく動かないことがあるのだ。

(*注)
Agreeのアップデートモジュールをインストールすると、アニメーションの互換性が一部改善されます。
2007.02.09公開アップデートモジュール
http://www3.justsystem.co.jp/download/agree/up/win/070209.html

 Agreeは、プレゼンソフトがなくても再生できる「プレゼンテーションパック」や、IRMサーバを使用して利用者を制限できる「アクセス許可」などの機能もサポートしていない。大きく進化したPowerPoint 2007の「リボン」インターフェイスや豊富な表現が可能な「SmartArt」などについても、Agreeは対抗する機能を備えていない。

総合力ではPowerPoint優位。価格差をどう考えるか

 Agree 2007は、PowerPointよりもむしろ使い勝手が良い部分も多く見受けられるが、やはり総合力でPowerPointを超えるというのは無理そうだ。逆に、いま指摘したような機能を使わず、「とりあえずひと通りのプレゼン資料が作れればいい」というユーザーには不満なく使えるだろう。豊富なテンプレートやイラストがあるので、素材に困ることもない。マイクロソフトのOffice Onlineのように、ジャストシステムがAgree用の素材を公開してくれれば、さらにメリットが高まるだろう。

 ちなみに、“Agree”とは、「賛成する」「同意する」という意味。プレゼンテーションに同意してもらうという意図は分かるが、「アグリー」というのは、いまひとつ格好良くないと思うのだが……、まあ、これは好みだろう。

 量販店での実売価格は、「PowerPoint 2007」は2万8000円前後、「PowerPoint 2003」は2万5000円前後。「Agree 2007」は7280円前後と格段に差がある。それどころか、「一太郎2007」や表計算ソフト「三四郎2007」をはじめとする多数のソフトをパッケージしたオフィススイート「JUST Suite 2007」が、PowerPoint1本分の2万5000円で買えてしまう。

 会社では支給されたPowerPointを使っていても、自宅用に自腹で買うには高すぎる。Agree 2007は、アニメーションをばりばり使ったスライドを多く扱かったり、少しでもレイアウトが崩れたらトラブルになるというような人でもない限り、PowerPointとの互換性も合格レベルといっていい。コストの差を考えれば、買ってもよいと十分に感じられる仕上がりだ。

(ライター 柳谷智宣)

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