優秀な技術者が集うのは?

本当は楽しいIT業界――すてきなテクノロジ・ベンチャーの作り方

2008/03/07

 朝9時に出社するエンジニア、就業時間の50%を好きなことに当てられるエンジニア。サイボウズグループの中には2タイプのエンジニアがいる。前者はサイボウズ本体、後者はサイボウズ・ラボ。いずれもエンジニアの創造性を保ち、モチベーションを維持するために最適と考えた方法だ。テクノロジ・ベンチャー企業がエンジニアの能力を生かすことができず、優秀なエンジニアが会社を去っていく――こんな事態を避けて「すてなテクノロジ・ベンチャー」を作るにはどうすればいいのだろうか。連載『本当は楽しいIT業界』の第2回記事をお送りする(第1回はこちら)。

 サイボウズは近年の日本の技術系ベンチャー企業の中で数少ない成功企業だ。2007年にはIBMやマイクロソフトという長い歴史を持つ世界企業を押しのけて、グループウェアの中堅・中小企業市場でシェアトップを獲得した。設立10年目での快挙だった。サイボウズの強さの1つはほぼ完全に内製を行っていることだろう。同社の人事本部 マネージャー 森岡貴和氏は「作りたいものを作っているのが基本。ソフトを作る人が社内にいないとビジネスが回っていかない」と語る。

tech01.jpg サイボウズの人事本部 マネージャー 森岡貴和氏

 エンジニアの創造力を新しい製品、サービスに生かすために最大限の自由を与える。一部のテクノロジ・ベンチャーの中にはこのような考えもある。完全フレックスタイム制の採用などもそうだ。しかし、サイボウズで製品開発を担当する開発本部のプロダクト開発グループ 丹羽純平氏によると「出社時間はみんな同じ9時」。前後1時間の時差出勤は認めているが、基本は全員が同じ時間に机につき、開発を始める。「9時18時でみんなが働いたほうが効率的。裁量を与えすぎるといつ誰が会社に来るか分からなくなる」(森岡氏)との考えからだ。エンジニアは1人でコーディングをする時間もあるが、チームでミーティングをしたり、顧客を回ることもある。フレックス制を求める声はもちろん社内であるが、「結果的には時間をうまく使える」(森岡氏)として9時出社を続けている。

コミュニティを社内に作るグーグル

 エンジニアのモチベーションを維持して、その能力を最大限生かし、企業の競争力を向上させるには。テクノロジ企業の多くはこの課題に悩んでいる。比較的流動性が高いエンジニアの職種では、優秀なエンジニアが会社を選ぶ。

tech02.jpg べリングポイントのディレクター 森井茂夫氏

 コンサルティングファーム、べリングポイントのディレクター 森井茂夫氏は「エンジニアという人はスキルアップをしたいという基本的な欲求がある。(その要求に応えるには)何が一番いいかというと優秀な仲間と仕事をすること」と語る。

 このエンジニアの特性を理解し、社内の仕組みを作り上げているのが米グーグルだ。グーグルは「エンジニアは自分たちの属するコミュニティに対してよく働くという基本的な特徴」(森井氏)を生かして、社内に多数のコミュニティを作り上げている。現在のグーグルはオープンソースのコミュニティの集合体に近い。エンジニアはそのコミュニティの中で評価されるために一生懸命に働き、アイデアを出す。その結果がグーグルの競争力を向上させる。

 単に社内のコミュニティを醸成するだけならどの企業でもできる。グーグルが面白いのはそのコミュニティ間に競争原理を持ち込んでいる点だ。森井氏によると、グーグル内ではエンジニアがどの開発プロジェクトに関わるかは本人の自由。しかし、そのプロジェクトやコミュニティから抜けるのも自由だ。プロジェクトやコミュニティのリーダーが信頼できなかったり、プロジェクトの将来が危ういようでは、どんどんエンジニアが抜けていってしまう。

 立ち行かなくなったプロジェクトやコミュニティのリーダーは社内に居づらくなり、優秀で人を引き付けるエンジニアだけが残る。森井氏は「グーグルはそのような雰囲気を作るのがうまい」と評価する。そのうえで、「日本人エンジニアのモチベーションが下がる要因の1つは『何でこんな(能力のない)人と一緒に仕事をしないといけないのか』ということ。言葉は悪いが、適した人材を残して、合わない人材はよそに行ってもらう仕組みを作ることが、日本のソフトハウスには必要」と語る。

のほほんとしていられない

 優秀なエンジニアが何人いても単なる“お仲間”では意味がない。技術者としての誇りをかけてお互いが競争するような雰囲気作りが大切だ。社員同士が戦う緊張感の漂う職場。ワークスアプリケーションズは企業理念をエンジニアに植え付けることで実現しようとしている。ワークスアプリケーションズも国産のパッケージソフトウェアを開発するベンダ。SAPやOracleなどの海外製品を向こうにまわし、ワークスアプリケーションズの業務アプリケーション「COMPANY」は高いシェアを誇っている。ワークスアプリケーションズが求めるエンジニアは「自ら問題を発見して、自らがその力で前例にとらわれずに解決していく」という人材。ワークスはこのような人材をクリティカルワーカーと呼んでいて、採用時からクリティカルワーカーかどうかを問う。

tech03.jpg ワークスアプリケーションズのヒューマンキャピタルサポート グループ マネジャーの小河原政信氏

 ワークスアプリケーションズのヒューマンキャピタルサポート グループ マネジャーの小河原政信氏は「当社のいまの命題は優秀な人を採ること。中にいる社員もいい意味でのほほんとはしていられない。どんどん優秀な人が外から入ってくる。案件、開発の中で切磋琢磨する。好循環サイクルができている」と語る。まだまだ成長期の同社にあって製品開発の失敗は成長鈍化に直結する。「いい加減な人材にやってほしくはない。少なくともいまは当社は優秀な人材がぶつかり合いながら、とことん考え抜いて作る」

 ワークスアプリケーションズのいまの基本方針は優秀な人材は数の限度を設けずに「すべて採る」(小河原氏)ということ。そのためにはIT業界の外からも人材を求める。同社はIT未経験者を対象にした採用活動「問題解決能力発掘プログラム」を実施している。IT業務は未経験でも、“地頭”のよい若手を募集し、5カ月の特訓で同社のコンサルタントや研究開発エンジニアに育て上げる。小河原氏は「IT業界を志望する人がその代の優秀な人ばかりとは限らない。優秀とはロジカルに問題解決ができる能力。優秀な人は、どの業界にもいる。しかし、そのような人がその業界で能力を生かしきらずに30代になってしまうともったいない。そういう人たちがフルに能力を発揮できる場を提供する」と語る。

一緒に働く人が評価する

 評価と、その評価に見合う給与もエンジニアのモチベーションを維持し、よい仕事をするうえで欠かせない要素だ。多くのテクノロジ・ベンチャーは評価の重要性をもちろん分かっているが、理想と現実で悩んでいる。森井氏は「アウトプット、成果で見るという企業は多いが、実際の運用を見ると判断基準が不明だったり、評価するマネジャーの能力が不足し、実際の運用を見ると年功と同じということが多い」と現状を説明する。「絶対的な給与金額では米国と比べると明らかに低い」(同氏)といわれる日本のエンジニア。評価まで納得できないとまるで働く気がなくなるだろう。

 ITエンジニアの業務評価が難しいのは「ソフトウェア業界はプロジェクトごとに動く」から。たとえ、上司であっても本人がどのように働いて、プロジェクトに貢献したかは分からない。森井氏は「では、誰がその人の業務が分かるかというと一緒にやっている人」として、同僚が評価する仕組みが必要と訴える。さらに重要なのは評価の結果を本人にフィードバックすることという。グーグルをはじめ、「外資系の企業はそれがきちんとできている」。

 すてきなテクノロジ・ベンチャーを作るうえでは人材の育成も欠かせない。会社設立時は優秀な人がわっと集まっても、人を育てないといずれ競争力が低下する。しかし、多くのIT企業では収益率の低さもあり、基本的に放置状態。もちろん、グーグルのように優秀な人が多ければ基本は放置でいいのだろう。だが、「日本のソフトウェア会社の多くは未経験者が量的に多い。そこで放置をするとどうしようもなくなる」と森岡氏は指摘する。そして多くのIT企業はどうしようもなくなっている。森岡氏は現場のプロジェクトマネジャーとは別に、人材育成に責任を持つマネジャーを置くべきと語った。

 日本のテクノロジ・ベンチャーが生きていく道はどこにあるのか。森井氏は「日本のソフトウェア会社も自分の会社がどちらに行くのかを考えないといけない。グーグルのように世界を目指す路線で行くのか。言葉は悪いが普通の人を集めて、普通のことをやっていく会社になるのか。どちらを選ぶかでやり方も変わってくる。もちろん、普通のソフトウェア会社をやっていくのも悪くない」と話した。

(@IT 垣内郁栄)

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