連載

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−基礎から学ぶPCアーキテクチャ入門−

第10回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(4)〜Pentium IIで始まった本格的P6時代
2. Pentium IIから生まれた低価格PC向けプロセッサ「Celeron」

元麻布春男
2002/12/11


低価格PC向けブランド「Celeron」の誕生

 この最初のPentium IIは、開発コード名を「Klamath(クラマス)」といい、0.35μmのCMOSプロセスで製造された。これに続いた開発コード名「Deschutes(デシューツ)」は、Klamathを0.25μmプロセス製造に変更したもので、特に目新しい機能はない。強いていえば、FSBが66MHzから100MHzに引き上げられたことと、キャッシング可能なメモリ容量が512Mbytesまでという制限が撤廃されたことくらいだ。むしろ、チップセットに対してAGPやUSBのサポートが加わったこと、メモリが非同期のEDO DRAMからSDRAMに切り替わったことなどの方を特筆すべきだろう。中でもDeschutesの世代に登場したチップセット「Intel 440BX」は、性能と安定性のバランスから長きにわたって使われることとなった。この2002年においても、サーバの一部でIntel 440BXが、ノートPCの一部でIntel 440BXあるいはそこから派生したIntel 440ZXといったチップセットが採用されているくらいだ。

 KlamathにしてもDeschutesにしても、特に大きなトラブルはなく、量産も順調だったが、まったく問題がなかったわけではない。それは、折から勃興した低価格PCの波だ。1997年にリリースされたAMDの「AMD-K6」は、インターネット・ブームがもたらした1000ドルPC、500ドルPCに幅広く使われることになった。だが、この時点において、IntelにはAMD-K6に対抗可能なプロセッサがなかった。そこでIntelは、P6マイクロアーキテクチャに基づく低価格プロセッサ・ラインとして、新たなブランド「Celeron」を1998年4月15日に投入することになる。しかし、開発コード名「Covington(コビントン)」で呼ばれた最初のCeleronは、2次キャッシュをまったく持たない(Deschutesの外部2次キャッシュを省略したような)プロセッサとなってしまった。また、パッケージもPentium IIの外装を外した基板だけの、いかにも低価格PC向けプロセッサという形状になった。

低価格PC向けプロセッサとして企画された「Celeron」
当初は、Pentium IIの2次キャッシュを省略したものであったが、その後に128Kbytesの2次キャッシュをプロセッサ・コアに同梱したものとなった。写真はSlot 1対応のものと、その後のPentium III世代に投入されたSocket 370対応のCeleron。

 この直前までIntelは、P6マイクロアーキテクチャが、2次キャッシュ・バスをプロセッサのシステム・バス(FSB)から分離した利点を強調し、そうでないプロセッサを「死の谷」とやゆしていた。ところが、2次キャッシュのないプロセッサを自らリリースしては、それも台無しになってしまう。だが、この時点のIntelは、そんなことをいっていられないほど、急速に立ち上がってきた低価格PC市場に対して危機感を抱いていたのである。

 Covingtonから4カ月後、1998年8月25日に登場してきた開発コード名「Mendocino(メンドシーノ)」で呼ばれた2世代目のCeleronは、ようやく2次キャッシュをサポートすることになった。しかも、この時点ではPentium IIにも搭載されていなかったオンダイの2次キャッシュである。この時点のPentium IIの外付け2次キャッシュは容量512Kbytesであった。Celeronに内蔵された2次キャッシュは、容量が128Kbytesと小さいことなど、スペック・ダウンしている要素もあった。しかし、プロセッサと同じ動作クロックの2次キャッシュであることに違いはない。デスクトップPC用のメインストリーム・プロセッサ(Pentium II/III系列のプロセッサ)にオンダイ2次キャッシュが加わるのは、Mendocinoから6カ月もたった1999年3月2日の「Pentium III」の登場を待たなければならない。

そしてPentium IIIへ

 オンダイ2次キャッシュが採用されるより早く、メインストリーム・プロセッサはPentium IIからPentium IIIへと名前を変えることになる。Pentium IIとPentium IIIの差を端的にいってしまえば、SSE(Streaming SIMD Extensions)とPSN(Processor Serial Number)の有無およびFSB 133MHz対応、ということになる。逆にいえば、SSEとPSNを利用しなければ、FSB 100MHzのPentium IIIは、Pentium IIとほとんど変わらない。

 発表前、SSEはプロセッサの開発コード名「Katmai(カトマイ)」を取って、KNI(Katmai New Instruction)と呼ばれていた。さらに発表当時は、「Internet Streaming SIMD Extensions(インターネット・ストリーミングSIMD拡張命令)」という長ったらしい名前を付けられていた。最近はIntelの公式文書においても、単にSSEと書かれることが多くなっているが、当時は省略せず記述するのが習わしだった。いわゆるネットバブルが最高潮に達しつつある時期でもあり、何にでも「Internet」や「e」といった冠詞(?)が付けられた時代でもある。

 SSEの実体は、70余りの追加命令で、いわゆるSIMD命令(1つのインストラクションで複数のデータを扱うことが可能な命令)が中核をなす。SIMD命令という点ではMMX命令をさらに拡張した形だが、MMX命令が整数データのみを扱うことが可能だったのに対し、SSEでは浮動小数点データを扱う命令が加えられている。用途としては、オーディオ/ビデオ・データのエンコーディングならびにデコーディング、音声認識といったものが想定されている。

 一方のPSNは、プライバシー保護の観点から、導入前からその是非が問われていた、いわくつきの機能である。結局Intelは、PSNの有効/無効をBIOSで設定可能にしたうえ、初期設定を無効とすることで出荷にこぎつけることになる。と同時に、将来のプロセッサではPSNをサポートしないことにしてしまったため、ほとんど何の役にも立たない機能となってしまった。セキュリティの観点から、Microsoftが提唱している「Palladium(パラデュウム)」やIntelが開発中の「LaGrande(ラグランデ)」が、ハードウェアによって暗号鍵などの実装を検討していると聞くと、PSNは早すぎた機能だったといえるかもしれない。

 MMX命令などの前例どおり、SSEもPentium IIIが発表された時点では、対応したアプリケーションもほとんどなく、ユーザーにとってのインパクトはほとんどなかった。従って、KatmaiコアによるPentium IIIは、少し速くなったPentium II程度の受け止められ方だったように思う。Intelは、SSEに対応したWebブラウザのプラグインをCD-ROMで配布するサービス(Intel Web Outfitter Service)まで展開したのだが、あまり話題にならずに終わってしまった。

 次回は、Pentium IIIからPentium 4までの歴史について解説していくことにしよう。記事の終わり


 INDEX
  第10回 PCのエンジン「プロセッサ」の歴史(4)〜Pentium IIで始まった本格的P6時代
    1.Pentium Proの欠点を克服した「Pentium II」
  2.Pentium IIから生まれた低価格PC向けプロセッサ「Celeron」
 
 「System Insiderの連載」


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