日本のITエンジニアは「プロジェクト管理のど素人」集団?

2004/6/12

アイ・ティ・イノベーション代表取締役 林衛氏

 ……日本のIT組織(企業)が抱える問題点は「人と管理」に集約できる。つまり、ITエンジニアの資質の問題で、コミュニケーション能力の欠如、リーダーシップ能力の不足、プレゼンテーション能力の低さという個人的なスキルの低さが、プロジェクト・マネジメントという組織の管理能力の低さを招く要因となっている。もちろん、中には優れた人材もたくさんいるだろう。しかし、日本のIT組織全体の平均的な姿は上述した個人の集積体であり、欧米のIT組織と比較すると明らかに競争力に欠けるのが実態である……。

 アジャイルプロセス協議会 定例セミナーで講演したアイ・ティ・イノベーション代表取締役 林衛氏が指摘するのはこのような、“日本人ITエンジニアのふがいなさ”であり、IT組織の“情けない”姿である。同セミナー聴講者の99%が日本人ITエンジニアであり「話が暗い方向に傾いている」と講演の途中で苦笑交じりに聴講者の様子を懸念した林氏だが、まったくの無根拠でこのような話を展開したわけではなかった。
 
 これは、アイ・ティ・イノベーションが国内のIT組織三十数社をサンプルとして行ったベンチマークデータの分析結果である。例えば、日本人ITエンジニア(約3000人)のスキル評価平均における“知識”というデータからは、「学習途中者が多く、広範囲にわたって、自己完結した判断に基づく行動がとれる人材は極めて少ない」(林氏)という分析結果が導き出せる。また、“経験”という項目の調査結果からは、「(ある行動について)できると思ってはいても、実際にこなすことができない人がほとんど」(林氏)だ。さらに、“コンピテンシー”という項目では、「コミュニケーション」や「向上心」、「リーダーシップ」などのポイントが明らかに低く、「おそらく、設計ができる、というだけで満足してしまうエンジニアが多く、マネジメントの領域にまで学習意欲が向かない人が多いのではないだろうか。そもそも、多くの企業はスタッフにマネジメントを学習させる体制を構築してはいない。これでは人材は育たない」(林氏)という状況である。

 CMMIのモデルにおいて、レベル2「管理段階」には、プロジェクト計画やプロジェクト進捗管理、外注管理(供給者契約管理)、製品品質保証といったプロセスの達成が含まれている。ソフトウェア開発の文脈で言及されることの多い“開発プロセスの適用”や“ツールを活用したモデリング”といった作業は、CMMIではレベル2をクリアした後のレベル3「定義段階」に含まれる。つまり、「プロジェクト管理やプロジェクト管理に熟達する人材の育成などは、実は基本中の基本なのであり、IT組織はまずこの分野の成熟に取り組む必要がある」と林氏はいう。アジャイル開発プロセスの適用は、このような基盤を整えたうえでの導入が望まれる。逆にいえば、プロジェクト管理に未成熟な企業では、アジャイル開発プロセスの効果的な導入は望めないということにもなる。

(編集局 谷古宇浩司)

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