連載

PCの理想と現実

第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?
2. IEEE 1394の理想と現実 (1)

元麻布春男
2001/03/07

 かつてIEEE 1394といえば、PCと家電製品の垣根を越え、すべての情報機器を接続する理想のインターフェイスと考えられていたことがあった。と過去形で述べてしまったが、それは今からわずか3〜4年前の話。しかも、IEEE 1394というインターフェイスの規格自体が変質したわけではない。ただ、IEEE 1394を取り巻く環境がすっかり変ってしまったのだ。IEEE 1394が、AV機器を中心とした家電製品間を接続するインターフェイスであることに変りはないものの、PCにおけるIEEE 1394の意味はすっかり変ってしまった。PCにとってIEEE 1394は、(特に今のところ)限定された家電製品を接続するインターフェイスであるものの、PC周辺機器を接続するためのインターフェイスではもはやない。

コンシューマ向けPCにIEEE 1394の採用が増えている理由

 こう書くと、2つの反論がかえってきそうだ。1つは、「IEEE 1394を標準搭載したPCが、このところ増えているではないか」というもの。もう1つは、「国内のPC量販店に行けば、IEEE 1394に対応したPC周辺機器が豊富に売られている」というものだ。

IEEE 1394を採用するPCの例
日本IBMのコンシューマ向けPC「Aptiva」シリーズでは、標準でIEEE 1394を搭載するモデルが用意されている。写真はAptiva Eシリーズ。

 まずIEEE 1394を標準搭載したPCが増えていることだが、これがいわゆるコンシューマ向けPCに限定された現象であることを理解する必要があるだろう。たとえば日本IBMの場合、コンシューマ向けのAptivaにはIEEE 1394ポートが設けられているが、ビジネス向けクライアントPCのNetVistaにはIEEE 1394は用意されていない。コンパックでも、コンシューマ向けPCであるPresarioはIEEE 1394をサポートするが、ビジネス向けクライアントPCであるDeskproにはIEEE 1394は搭載されていないのである。もし、IEEE 1394がPC周辺機器を接続するためのものなら、USBのようにコンシューマ向け、ビジネス向けを問わず、広く採用されるハズだ。

 コンシューマ向けPCに限ってIEEE 1394の標準搭載が進んだ理由は、ビデオ編集ツールを標準搭載したWindows Meの登場と無関係ではない。結局PCにおけるIEEE 1394は、DVカムコーダー(デジタル・ビデオ・カメラ)のデータを取りこむためのインターフェイスであり、そういう意味でビデオ・キャプチャ端子と大きく変るものではない。

IEEE 1394対応のPC周辺機器の例
IEEE 1394を採用したMOドライブ。Macintoshの上位機種が標準外付けインターフェイスとしてIEEE 1394を採用していることから、MOドライブのようなMacintoshで人気のある周辺機器にはIEEE 1394に対応しているものが多い。写真はロジテックの1.3Gbytesメディア対応MOドライブ「LMO-A1300F」。

 ここでもう1つの反論について考えてみよう。確かに国内の量販店をのぞいてみると、IEEE 1394に対応したPC周辺機器が豊富に販売されている。パッと目に付くだけでも、CD-R/RWドライブ、ハードディスク、DVD-RAMドライブ、MOドライブ、スマートメディアやコンパクトフラッシュなどのメモリ・カード・リーダーといったストレージ・デバイスがある。だが、これはおそらく日本に限定された現象だろう。筆者は全世界の量販店を回ったことがあるわけではないが、少なくとも米国の量販店でIEEE 1394に対応したストレージ・デバイスが山と積まれているのを見たことはない。店の中を隅々まで探せば、何かしらあるかもしれない(特にMacintoshも扱っている量販店であれば)が、日本のようにさまざまなストレージ・デバイスが売られているようなことはない。

 もちろん、日本以外の国では、「外付のストレージ・デバイス」という製品ジャンルそのものがポピュラーでないことも理由としてはあるだろう。米国の場合、販売店の多くが店の前に駐車場を持ち、持ち込まれたPCに対するストレージ・デバイスの取り付けサービスをしてくれることもあり、ストレージを外付にしようというユーザーをあまり見かけない。地域によっては、そうしたPC販売店が近所にないユーザーもいると思うのだが、そういうユーザーも高価な外付けデバイスより、自ら内蔵デバイスを取りつける方を選ぶようだ。これは、ずっと前からセルフ方式のガソリンスタンドが主流であることからもうかがえるような、米国の国民性かもしれない。だが筆者の乏しい経験から言って、シンガポールやドイツのPCショップでも、外付けストレージの大量販売を見かけた記憶はない。外付けストレージというのは、かなり日本限定の現象だと思われる。ましてや、IEEE 1394に対応したPC周辺機器というのは、全世界的にみれば決してポピュラーではない。

外付けデバイスの必要性

 こう言ってしまうと、じゃぁそもそも、IEEE 1394に限らず、外部インターフェイスそのものが不要なのではないか、という議論になってしまうかもしれない。これはある意味で真であり、またある意味で偽でもある。おそらく、ハードディスク(特にシステムの起動を行うもの)やCD-ROM/DVD-ROMドライブといった、標準装備されるストレージについて、外部インターフェイスによる接続性は不可欠なものではない。むしろ、ページ・ファイルを置いたドライブが突発的に取り外される危険性などを考えると、システムのブート・デバイスは取り外しのできない内蔵デバイスであるべき、という考え方が成り立つかもしれない。ハードディスクやCD-ROM/DVD-ROMドライブなど標準搭載デバイスに関しては、外部インターフェイスはいらない、ということは限りなく真に近い。

 しかし、だからといって外付けストレージがまったく不要なわけではない。筆者が最も有望だと考える外付けストレージ・デバイスは、デジタル・カメラとMP3プレイヤーである。これらのデバイスは、伝統的なストレージ・デバイスの枠からは外れるが、PCから見るとストレージ・クラスのデバイスだ。USB 2.0で最も恩恵を受けるのは、これらのデバイスであり、カラースキャナ/プリンタもUSB 2.0対応へ向かうのではないかと思っている。そして、これらのデバイスの多くが現時点でサポートしているのは、必ずしも転送レート的には十分ではないUSB 1.1であり、IEEE 1394に対応したものはごくわずかである、ということだ。

なぜIEEE 1394内蔵デバイスがないのか

 さて、ここでもう1つ考えなければならないのは、普及が進んでいる日本でさえIEEE 1394は「外付け」のインターフェイスとしてしか使われていないということだろう。オプションという意味合いの強い外付けデバイスに対し、内蔵デバイスは標準搭載デバイスであり、必須の色合いが濃い。コンシューマ向けPCのみとはいえ、PCが標準実装する以上、IEEE 1394を内部のストレージ・インターフェイスとして使っても構わないハズだ。少なくとも、インターフェイスの実装コストとしての上乗せはない。

 にもかかわらず、IEEE 1394を実装したPCであっても、内部にIEEE 1394に対応したデバイスを内蔵した例はほとんどない。特に内蔵デバイスの主流であるストレージ・デバイスにIEEE 1394を使ったPCなど、聞いたことがない。それも当然、IEEE 1394にネイティブで対応したストレージ・デバイスなど存在しないからだ。上で取り上げたIEEE 1394対応の外付けストレージは、内蔵するデバイスそのものはATA/ATAPI対応で、そこにNative Bridge(ネイティブ・ブリッジ)とかTail Gate(テイル・ゲート)とか呼ばれる、ATA/ATAPIとIEEE 1394を変換するチップを用いて、インターフェイスを変換しているものばかりだ。ATA/ATAPIが外付けには使えないため、このような措置をとっているのであり、最初からPCに内蔵するのなら、ストレートにATA/ATAPIを使った方が、性能でもコストでも有利だ。

内蔵デバイスはATA/ATAPIに

 冒頭で「かつて」と呼んだ3〜4年前、ATA/ATAPIの最大データ転送速度は、16.7Mbytes/s(PIOモード4およびMultiword DMAモード2)にすぎなかった。ところが、1997年夏に製品として登場したUltra ATA/33(正式規格としては1998年のATA/ATAPI-4だが、ATA/ATAPIの分野では正式規格より実製品が先行するのがすっかり一般的になっている)が33Mbytes/sの最大データ転送速度を実現したのを皮切りに、Ultra ATA/66(最大データ転送速度66Mbytes/s)、Ultra ATA/100(同100Mbytes/s)と、ATA/ATAPIの最大データ転送速度は向上を続けてきている。この間、IEEE 1394に対応した「製品」の最大データ転送速度は400Mbits/sで足踏みを続けている(P1394bについては後に触れる)。

 また、以前はIEEE 1394がマルチメディア向きのスペックを備えていることが喧伝されていたが、ATA/ATAPI-6にはほぼ確実にマルチメディア・コマンドが追加される。マルチメディア・コマンド実行時の性能や効率で、どちらに分があるのか、差があるのかないのかは分からないが、IEEE 1394にはネイティブ・インターフェイスとしてまったく量産実績がないのに対し、ATA/ATAPIには膨大な量産実績と、大量販売のベースとなる基盤がある。価格競争力という点で、勝負にならないことは言うまでもない。この価格競争力を武器に、PCばかりか、AV機器にもATA/ATAPIのドライブが使われる、と考える方が素直だろう。

 
  関連リンク
コンシューマ向けデスクトップPC「Aptiva」シリーズの製品情報ページ
ビジネス・クライアントPC「NetVista」の製品情報ページ
コンシューマ向けPC「Presario」シリーズの製品情報ページ
ビジネス向けクライアントPC「Deskpro」シリーズの製品情報ページ
 

 INDEX

  [連載]PCの理想と現実
  第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?
  IEEE 1394の理想と現実(1)
    IEEE 1394の理想と現実(2)
    コラム:iLINKが持つ互換性の問題
    コラム:次世代P1394bは家電にも向かない
 
「連載:PCの理想と現実」

 


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