第4回 導入現場で気を付けたい「BPOE」の視点


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年8月11日


 利用環境における留意点

 基本的な話ですが、アンテナやリーダ/ライタを設置するスペースがあるか、ケーブル長や電源はどうかというハードウェアの設置に関する確認が必要です。

 続いて、対象物の項でも金属や温度の問題を説明しましたが、対象物を積載する物流機器が金属製であったり、温度が高かったりすれば、当然その影響を受けることになりますので、周辺の物品や環境に注意を払う必要があります。また、実際に利用する部屋の床、壁、天井などの素材にも注意を払う必要があります。

 対象物の項でICタグを金属に貼付すると、性能が減衰するということは申し上げましたが、アンテナを例えば金属の壁に設置する場合も減衰が生じます。

 さらに、ほかの電波の影響があります。周辺に電波を発する機器があると電波干渉が発生し性能が減衰することがありますので注意してください。

 意外に知られていないのがヒトの影響です。先ほど水分の話をしましたが、人体は水分の塊なので、人間がICタグを身に着ける場合や、人間の間近にICタグがある場合は、水分による影響があります。

 例えば、人にICタグを持たせた場合は、ダンボールに貼る場合に比べ通信距離は短くなります。人の場合に難しいのは、水分保持量の多い人(肥満の方)や部位で性能が変わってくるということです。

【人体への影響】

 特にUHF帯ですが、UHF帯の高出力型(据え置きタイプのリーダ/ライタ)の場合は、出力が約4ワットとなります。携帯電話の0.8ワット、PHSの0.1ワットに比べてかなり大きくなります。

 リーダ/ライタを利用する=読み書きをする場合には、携帯電話やPHS以上の出力となりますので、ペースメーカーやそのほかの医療機器への影響で携帯電話の利用を禁止している病院などでは読み書きを実行するような運用はできないということになりますのでご注意ください。これは、利用環境のチェック項目としては極めてベーシックな項目です。

 業務における留意点

 最後に業務での留意点です。業務で問題になるのは、

  • 通信範囲
  • ユーザーメモリの容量
  • データ書き換えの仕組み
  • 上書き追記の方法
  • レスポンスタイム
  • 読み取りができなかった場合はどうするか

などの、どちらかというとソフトウェア処理に近い部分です。

 上記の中で、フィージビリティスタディで通信範囲の確認を終えている場合に、業務で最も問題になるのはレスポンスタイムです。通信範囲にあっても対象物の移動速度が速いと、データを読み切る前に移動してしまうということがあります。また、対象物が移動せずとも、データの読み書きに時間がかかると、ユーザーにとって「とてもではないが使えない」ということがあります。

 これを回避するためには、読み書きするデータをできるだけコンパクトにするというアプローチが解です。ICタグに保存するデータ量は大きくてもよいのですが、各プロセスで読み書きするデータは極力小さくするということで対処をします。

 なお、業務によっては一括読み取りをぜひやりたいというケースもあるでしょう。一括読み取りは以前解説しましたように、対象物の大きさ、ICタグの貼付位置、移動するスピードが遅いなどの、諸条件がそろっていれば可能になる場合があります。

 いずれにしましても、第2回で解説したように対象物、利用環境と業務要件をクリアする周波数帯とハードウェアを、フィージビリティスタディの結果を踏まえて選定するのですが、今回解説したような留意点も併せて念頭に置いて検証を実施します。

 なお、現場に行く前に温度、人体への影響ならびに金属と水分の件は事前に確認するようにしましょう。現場で実際に確認するのは、金属、水分、外乱の影響という項目にとどめるように努力してください。これはもちろん自社内の環境であっても同様です。

 グローバル利用での留意点

 大企業の場合は、日本で製造した商品を海外に運んだり、海外で製造した商品を日本に持ち込んだりというグローバル環境での利用が前提となることがあります。

 このようなニーズがある場合は、利用する国ごとで利用可能な周波数帯を確認してから進めなければなりません。利用を検討している13.56MHz、2.45GHz帯、UHF帯などがそれぞれの地域で利用可能かを確認してください。

 また、UHF帯の場合は国によって使用できる周波数帯は異なります。例えば、日本では952〜954MHzですが、米国では、902〜928MHzとなっています。各国の電波法に応じたハードウェアの選定が必要になりますのでご注意ください。

 次回は、ケーススタディを紹介します。

2/2
 

Index
導入現場で気を付けたい「BPOE」の視点
  Page1
3つの視点<業務・対象物・利用環境>
対象物における留意点
Page2
利用環境における留意点
業務における留意点
グローバル利用での留意点


Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

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