近未来の百貨店像を探る―化粧品とRFIDの親和性


柏木 恵子
2007年2月7日
早い段階から小売業におけるRFID活用の実証実験に取り組んできた三越。3回目となる実験では、化粧品にRFIDタグを貼付して消費者の受容度を検証しようとしている(編集部)

 化粧品ほど潤沢なバリエーションが消費者に望まれる商品はなかなか見当たらない。2007年1月27日から2月12日にかけて、約3500点の商品、テスター(店頭に置いてある試用見本)、サンプル(顧客に配る試供品)にRFIDタグを貼付して、化粧品サプライチェーンにおけるRFIDの有効性や消費者の利便性向上を検証する「百貨店における電子タグ活用拡大実証実験(フューチャーストア実証実験)」が行われている。

 実験は、三越と資生堂、富士通の3社が協力して、三越銀座店および名古屋栄店の資生堂のカウンセリング化粧品売り場など実施された。この実験は、日本百貨店協会が経済産業省平成18年度「電子タグ活用による流通・物流の効率化実証実験(PDF)」として受託したプロジェクトの一環である。

 三越では、2004年10月に実施したRFIDを使った婦人靴の入荷検品や棚卸し、在庫管理に関する実証実験(2005年4月に実運用を開始)のほか、2006年1月にもブランドジーンズを使ったフューチャーストア実証実験(2006年9月に実運用を開始)を行っている。今回の化粧品を対象とした実験は、百貨店業界では初めての取り組みになるとのことだ。

 なぜ化粧品がRFID実証実験に選ばれたのか

 実証実験の旗振り役である経済産業省は、RFIDタグを次世代のコードキャリアと位置付け、流通や物流の効率化に役立つものとして導入に前向きであり、2003年(平成15年度)から各種の実証実験を行っている。今年度は、小売りだけでなくメーカーも含めたサプライチェーン全体のコストダウンとともに、店舗での販売活動の支援や購買者に対する新しいサービスの創出などを視野に入れた実験を行っていくという意向がある。

 また、実験は化粧品という華やかな分野で行われるが、それを支える技術の面でも着実な動きがある。日本はRFIDの先進国として国際的な標準化団体であるEPCglobalの評価も高く、海外からの視察もたくさん訪れている。経済産業省商務情報政策局商務流通グループ流通・物流政策室の水野良彦室長補佐は「成功事例をどんどん出していきたい」と語り、実験結果をEPCglobalにも報告する予定だ。

 一方、三越側ではこれまでのRFID実証実験の結果から、 「百貨店の売り場にとって、RFIDは非常に有効だ」という手応えを感じており、 婦人靴で7店舗、インポートデニムで9店舗の実運用が始まっている。今後、導入店舗をさらに拡大させる予定だ。

 三越百貨店事業本部商品統括部商品システム推進担当ゼネラルマネージャーの西田雅一氏は、「検品が容易になるなどの物流メリットは当然のことながら、それに加えて“お客さまをお待たせしない”“欠品をなくす”といった、お客さま寄りの観点での実効性が大切だ」と語る。また、「今回の実験では、RFIDタグというバーコードとは異なる新しい道具をどう使いこなしていくかについて、最も接客密度の高い化粧品というアイテムで進化させたい」と考えているそうだ。

 商品や実験ブースを提供した資生堂の草島則男デパート部長は、今回の実験を「サービス向上と次世代型サービスモデルの模索」と語り、「昨今は化粧品の購入時における情報収集のスタイルが変化していることから、カウンセリング販売に新たなITツールがどのような効果を及ぼすか期待している」と述べた。

 今回の実験システムの開発は富士通が担当し、RFIDタグは凸版印刷が、リーダ/ライタはセントラルエンジニアリングが提供する。富士通コンサルティング事業本部プリンシパルコンサルタントの大根田秀雄氏は、「いままでは業務改革に利用されることの多かったRFIDを、消費者自身が活用するシーンまで拡張したことで、新しい利用シーンが創出できるのではないか」と語る。

 7種類の実証実験に意欲的に取り組む

 実験では、資生堂の化粧品ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」の商品、テスター、サンプルにRFIDタグを取り付ける。消費者が、RFIDタグを活用したサービスを受けられる環境を提供し、消費者視点での有効性を確かめるのが目的だ。

 実験の効果として、

  • 消費者へのより詳しい商品情報の提供や、接客サービスの充実による顧客満足度の向上と関連商品の購買促進
  • 在庫管理業務の効率化、販売スペースの有効活用による生産性の向上
  • 商品分析力の向上による品ぞろえ強化
  • 電子タグ利用に対する消費者の意識向上

が期待されている。

 フューチャーストアの実証実験としては、「マルチサンプルディスプレイ」「テスター需要予測システム」「eカウンセリング」「ソースタギング・SCMシステム」「電子タグ@ホーム」の5項目が行われる。さらに、協賛実験として、「コスメインフォメーション」「仮想リアルタイムメイクアップシステム」も実施される。

 商品の消費行動の仮説として、ローランド・ホールが提唱した「AIDMA(アイドマ)の法則」というプロセスモデルがある。これを化粧品の消費プロセスに当てはめると、「ブランドを決める(Attention)」「商品を選ぶ(Interest)」「商品を試す(Desire)」「カウンセリングを受ける(Memory)」「使い方を確かめ使用する(Action)」となる。今回の実験も、このプロセスに合わせたRFIDタグの活用法を取り入れている。

化粧品におけるAIDMAモデルと各実験の関連(画像をクリックすると拡大します)

 
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Index
近未来の百貨店像を探る―化粧品とRFIDの親和性
Page1
なぜ化粧品がRFID実証実験に選ばれたのか
7種類の実証実験に意欲的に取り組む
 
  Page2
化粧品フューチャーストアをバーチャル体験
  Page3
化粧品フューチャーストアをバーチャル体験(続き)
製配販一体のソースタギングで世界の先頭を走る日本の百貨店


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