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連載:コンバージェンス項目解説(3)

適用直前、セグメント会計の再点検をしよう

伊藤久明
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/11/26

セグメント情報等の開示に関する新しい会計基準の適用が迫っている。新基準では、企業の経営者が意思決定に用いている情報そのものが開示される。基準適用直前に再点検をしてみよう(→記事要約<Page 3>へ)

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 管理会計プロセスについては、その管理要件が毎年変わるためにシステム化が十分に進んでおらず、「Microsoft Excel」などのスプレッドシートを用いて処理が行われている場合も少なくない。システムの利用者であるユーザー自らが業務システムを構築し運用に直接携わる、いわゆるEnd User Computing(EUC)については、特に以下の点に注意が必要である(監査・保証実務委員会報告第82号 財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い 9.(3)3スプレッドシートが使用されている場合)。

  • マクロ・計算式等が検証されていること
  • 検証が適切になされていない場合、手計算で確かめる等の代替的な手段がとられていること
  • アクセス制御、変更管理、バックアップ等の対応について検証していること

2.作成スケジュールの検討

検討テーマ
対応
財務会計数値と管理会計数値の作成スケジュールが乖離(かいり)している
管理会計数値に基づき作成される「セグメント情報」のスケジュールを、財務会計に関わるスケジュールと整合させる

 

3.適用初年度の対応

検討テーマ
対応
(a)新セグメント会計基準に準拠して作成した前年度のセグメント情報、または(b)旧セグメント会計基準に準拠して作成した当年度のセグメント情報が必要(基準36項)
(a)と(b)のどちらを作成するかを決めるとともに、決算の繁忙期を避けて準備する

 

(a)は、前年度のデータを新セグメント会計基準に基づく管理単位で作成するため、前年度と当年度で管理単位が同じであれば、比較的対応は容易であろう。ただし、新セグメント会計基準の適用を機にグループ会社も含めてセグメントの管理単位を見直し、グループ経営管理の仕組みを構築したような場合には、前年度のデータの作成については検討をしておく必要があるだろう。このため、新しい基準の下での管理単位を、当年度から運用して準備しておくことも考えられる。

 これに対して(b)は、当年度の情報を旧セグメント会計基準に準拠して作成するため、データ保持の点では問題は少ないが、決算時に、新セグメント会計基準に基づく当年度のセグメント情報と、(b)の2つのセグメント情報を作成することになり、決算発表の早期化が強く要請される昨今においては、選択しづらいオプションであるといえる。その点(a)は、すでに存在している前年度のデータを用いるため、決算前に準備ができる。

 従って、データ保持の問題がないのであれば原則通り(a)を採用するのがよい。やむをえず(b)を採る場合は、決算スケジュールを十分に検討して、遅れることなくかつ誤りなくセグメント情報を作成できるように事前の入念な準備が必要である。

(3)組織

1.作業分担の検討

検討テーマ
対応
財務会計数値と管理会計数値の作成部署が分かれている(財務会計は経理部、管理会計は経営企画部など)
連結財務祖表とセグメント情報との間で差異が生じる場合は、差異調整の把握・作表部署を決める


 財務会計は経理部門、管理会計は経営企画部門のように、担当が分かれている企業は少なくない。例えば、四半期及び年度の対外公表の決算は経理部が、各月の月次連結は経営企画部が行うといった具合である。

 このような場合で、財務会計と管理会計とで差異が生じる場合は、どちらの部署がどのように差異調整表を作成するかを決める必要がある。また、生じていた差異を解消した場合は、それぞれの部署で処理を行う必要性が薄れるので今後どちらで処理するか、場合によっては組織の役割の見直しも含めて検討することになる。

開示要請を管理体制整備の契機に

 セグメント別の管理ができていない企業にとって新セグメント会計基準の適用は脅威だが、本来、多角化した企業において、そのセグメントごとの意思決定に必要な情報は不可欠のはずである。開示の要請を、企業がグループベースのセグメント別管理体制を整備する契機にして、それを適切な開示につなげるといった前向きな取り組みが必要だと考える。


筆者プロフィール

伊藤 久明(いとう ひさあき)
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
ファイナンス&アカウンティング シニア マネージャー 公認会計士

大手監査法人を経て、朝日アーサーアンダーセン株式会社(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)に入社。連結決算システム・グループ経営管理システムの導入、決算早期化、ソフトウェアの原価管理制度の構築、会計基準のコンバージェンス対応、IFRS対応等のプロジェクトに従事。著書に「スピード決算マネジメント」(共著、生産性出版)など。

要約

 2010年度からのセグメント情報等の開示に関する新しい会計基準の適用が迫っている。新基準では、企業の経営者が意思決定に用いている情報そのものが開示され、開示のみを目的とした情報を作成することは要求すべきでないとされている。このように、企業は、実際には管理していないのに開示のためだけに数字を作るのでなく、実際に意思決定に用いている情報を開示することが求められる。

 新セグメント会計基準の適用に備えてまず検討すべきことは、報告セグメントがどのようになるかであろう。多くの企業にとっては、現在開示しているセグメントと同じ区分で開示したいと思うかもしれない。そのため、現在のセグメント開示の下で、日本標準産業分類などを参考にして、社内の管理単位と関係なくセグメント情報を開示している場合は、社内の管理単位に基づき報告セグメントを検討しなおす必要がある。

 また従来、企業の財務会計と管理会計の仕組みは、それぞれ外部公表用と社内管理用といった具合に、目的に応じてすみ分けられてきたと思われるが、管理会計数値が外部公表に利用されるようになると、管理会計の仕組みも開示に耐えられるようなルール・プロセスが必要になる。

 財務会計は経理部門、管理会計は経営企画部門のように、担当が分かれている企業は少なくない。たとえば、四半期及び年度の対外公表の決算は経理部が、各月の月次連結は経営企画部が行うといった具合である。

 このような場合で、財務会計と管理会計とで差異が生じる場合は、どちらの部署がどのように差異調整表を作成するかを決める必要がある。また、生じていた差異を解消した場合は、それぞれの部署で処理を行う必要性が薄れるので今後どちらで処理するか、場合によっては組織の役割の見直しも含めて検討することになる。

 セグメント別の管理ができていない企業にとって新セグメント会計基準の適用は脅威だが、本来、多角化した企業において、そのセグメントごとの意思決定に必要な情報は不可欠のはずである。開示の要請を、企業がグループベースのセグメント別管理体制を整備する契機にして、それを適切な開示につなげるといった前向きな取り組みが必要だと考える。

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