企業の成長を横断的に支援する「SAP xApps」とは何だ?

2004/2/26

 SAPジャパンは2月25日、新製品「SAP クロスアプリケーション」(SAP xApps)の製品概要および出荷開始を発表した。xAppsは、企業の吸収・合併に伴うリスク管理や実行計画を支援する「SAP xApp Mergers and Acquisition」や、新製品開発プロセスを支援する「SAP xApp Product Definition」など、いくつかのファミリ製品から成り立つアプリケーション群の総称。従来のERP/SCM/CRM製品とはまったく異なり、会計や人事などタテ割の個別業務ではなく、プロジェクトや企業合併といった一段上の視点で既存システムを統合し、実業務を支援する。今回出荷されるのは、研究開発やエンジニアリングなどのプロジェクト業務を統合的に支援する「SAP xApp Resource and Program Management 2.0」(SAP xRPM)だ。

SAPジャパン バイスプレジデント マーケティング・ソリューション統括本部長 玉木一郎氏

 SAP xRPMには、社内の人的リソースの配分や予算管理、ポートフォリオ管理、コラボレーション機能が装備されている。例えばプロジェクトに必要なスキル・人材についてはバックエンドの人事システムから情報を取得してプロジェクト参加への申請・承認をしたり、または会計システム内のデータを基に予実管理を行ったりといったことが可能。R/3や既存システムとxAppsとの連携には、統合アプリケーション・プラットフォームである「SAP NetWeaver」を利用する。NetWeaverでどのシステムからどのデータをどんなタイミングで取得するのかを定義・管理し、実際の業務プロセスはxAppsで動かす。これにより、R/3やレガシーアプリケーション内の必要な情報を必要なタイミングで取得し、業務遂行につなげることができるわけだ。

 「これまでのITの適用範囲は、個別のバックエンド業務プロセスの効率化に限られていた。しかし企業が成長するためには、プロジェクトや経営戦略立案のように、部門や業務を横断するアドホックなミッションを積み重ねていく必要がある。SAPはすでに個別業務についてはSAP R/3という製品でベスト・プラクティスを提供しており、これを基に企業の成長に必要な横断型業務を支援するアプリケーションを“ネクスト・プラクティス”という形で提供する」(SAPジャパン バイスプレジデント マーケティング・ソリューション統括本部長 玉木一郎氏)。

 玉木氏によると、xApps開発の背景には「定型的なバックエンド業務のプロセスはITで効率化されたが、業務横断的なプロジェクトやビジネス戦略立案といった、戦略にかかわる非定型業務は支援し切れていない」という問題があったという。しかし経営者側から見ると、最も必要としているのはこうした戦略部分を支援するITだ。そうかといって、その都度新しいアプリケーションを導入するわけにはいかない。そこでSAPが出した答えは、昨年発表した「エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ」(ESA)だ。ESAとはエンタープライズシステムの統合基盤を作るためのブループリントであり、具体的には、既存のITやR/3などのERPパッケージをWebサービスやJ2EEベースの統合プラットフォームで連携させ、企業のニーズに合わせて必要な機能を組み合わせるという技術やコンセプトを指す。ESAテクノロジにより、「成長戦略に必要な非定型業務の支援」と「TCO削減」が可能になるという。これを具現化する基盤製品がNetWeaverであり、さらに非定型業務を支援するベスト・プラクティスのアプリケーションとしてxAppsを提供するに至ったわけだ。

SAP Labs xApps担当バイスプレジデントのウド・ワイベル氏

 ちなみにxAppsは従来のmySAPライセンスに含まれず、別価格となる。SAP xRPMのモデル価格は100ユーザーで4000〜5000万円。100ユーザー以上で利用する場合、1ユーザーごとのライセンス料が発生する。

 今後同社では、2004年第1四半期から順次xAppsシリーズ製品を出荷していく予定。本製品の発表に先立ち来日したSAP Labs xApps担当バイスプレジデントのウド・ワイベル(Udo Waibel)氏は、「ワールドワイドではパートナーと提携し、SAP1社だけでは開発し切れないさまざまなxAppsシリーズ製品をリリースしており、日本でも同様のビジネスを推進していきたいと思う」と語った。

 xAppsから見ると、従来のR/3がカバーしていた基幹業務部分は完全に“バックエンド”の仕組みとして機能することになる。この点についてワイベル氏は、「ある意味、従来のERP製品がブラックボックス化されてしまうという指摘は当たっていると思う。しかしR/3が提供するベスト・プラクティスは、今後も当然進化し続ける。xAppsはそのベスト・プラクティスを横断的にまたぎ、次の戦略につなげるための攻めのアプリケーションであり、両者は今後も共存していく」と断言。「会計や人事など従来のタテ割業務のベスト・プラクティスから、横断的で非定型な戦略業務を支援するネクスト・プラクティスへ」、SAPが示したのはERPの次世代の潮流なのかもしれない。

(編集局 岩崎史絵)

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