蔵元でしか味わえなかった生酒をRFIDで家庭に届けたい

2006/3/10

 鮮度が命の生酒を確実に消費者の手元まで流通させるために、配送中の温度状況をRFIDタグでリアルタイムに追跡する実証実験が3月27日から4月10日にかけて実施される。実験に参加するNTTデータ、トッパン・フォームズ、日本アクセス、日野自動車が中心となり、蔵元の吉乃川と末廣酒造、スーパーマーケットのマルエツが協力する。

 実験は大きく2つに分かれている。まず、3月27日から29日にかけて温度センサー付きアクティブタグ(電池を内蔵するタグ)を利用した物流実験が行われ、その後、3月30日から4月10日まで消費者の受容性の検証を行う店舗内実験(場所はマルエツ立川青葉町店)が行われる。

 検証項目は5つだ。RFIDタグによる情報提供に対する消費者の受容性の検証、RFIDタグ利用による物流の効率化、品質向上の検証、トラッキングデータの有効活用の検証、温度センサー付きRFIDタグの有効性の検証、ハイブリッド型トラックに搭載できる移動式電気冷蔵庫(E-CRB)の技術検証である。

温度センサー付きアクティブタグが付けられたダンボール

 実験ではアクティブタグとパッシブタグ(電池を内蔵しないタグ)を組み合わせて利用する。この実験のために開発した温度センサー付きアクティブタグを商品が箱詰めされるダンボールの内部と外部に取り付ける。300MHz帯電波を利用していて10メートルという長距離通信が可能。5秒間隔で温度状況を近くのアクセスポイントに送信する。トラックで輸送中の場合は、さらに携帯無線でデータセンターに情報が発信される。

 既存の温度センサー付きタグの場合、温度状況をタグ内部のメモリに保存しておき、商品が流通センターや店舗に到着した時点で輸送中の温度状況が分かる仕組みだ。タグを開発したトッパン・フォームズの取締役 情報メディア統括本部担当 宇高恵一氏によれば、小型化や省エネ化(従来の5分の1)を実現したという。また、タグの単価も5000円程度と既存タグの3分の1になった。電池交換なしで1年間の利用が可能だ。

 一方、商品には13.56MHz帯の電波を使用するシール型のパッシブタグを張り付け、消費者が店舗内に設置するキオスク端末で蔵元からのメッセージやおいしい飲み方、温度履歴情報などを取得することができる。これらのデータはすべてデータセンター側で管理しており、シール型のタグの中には商品の個別IDしか記録されていない。

商品の陳列例。ボトルキャップの下にシール型のパッシブタグを張り付ける

 NTTデータのビジネスソリューション事業本部 システムソリューションビジネスユニット CRMサービスユニット長の吉川明夫氏は、「商品の個別IDが分かりデータセンターの情報とひも付ける仕組みには、バーコードや商品そのものに製品番号を振るなどの方法もあり、それがRFIDタグである必要はないかもしれない。しかし、消費者がキオスク端末を利用して情報を得る場合、RFIDタグであれば商品を近づけるだけで誰でも簡単に利用できる。この点がバーコードなどの既存の方法にないメリットとなる」と語る。

 なお、吉川氏はRFIDタグを使ったサービスの実用化について、「現時点では、RFIDタグをすべての商品に張り付けるにはコストが掛かりすぎるので現実的ではない。技術的には利用可能なものもあるが、RFIDタグを何のために利用するのかに依存する部分が大きく、費用対効果を考えながら成熟していく」と分析する。

 生酒は、もろみを搾ったあとに一切の加熱処理をしないので、酵母や火落菌が生きている。温度の変化や時間の経過によって品質が劣化し味覚が損なわれてしまうため、蔵元の近所でしか味わうことができない。会津若松の蔵元、末廣酒造の代表を務める新城基行氏は「日本酒作りはまさに温度管理がすべて。ワインにはワインクーラーが必要という意識がいき渡っているのに、生酒はその域まで達しておらず、温度を厳重に管理した流通の仕組みがないので、市場が限られていた」と話し、今回の実験を歓迎した。

(@IT 岡田大助)

[関連リンク]
NTTデータの発表資料
末廣酒造
吉乃川

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