ニュース解説

メモリ業界を二分するRambus裁判の行方

山崎俊一
2001/04/12

 米国バージニア州リッチモンドの連邦地裁で、次世代メモリにかかわる裁判が開かれている。原告はDirect Rambusで知られるRambus社で、「SDRAMの特許侵害案件」と言えば、「またか」と思う人も多いはず。日本の大手メモリ・ベンダも軒並み特許侵害といわれ、和解したばかりだ。

 今度の相手はドイツの半導体ベンダInfineon Technologies。その成り行きは、DDR SDRAMの普及だけではなく、DDR SDRAMを採用するMicrosoft Xboxや、Direct RDRAMを採用するPentium 4の動向への影響も懸念されている。

リッチモンド法廷大騒乱

 審理は始まる前から紛糾し、開廷が2001年4月10日まで延期される騒ぎにまでなった(開廷されたといっても、すぐに決着がつくわけではない)。この影響か、Rambus社の株価は2001年3月14〜16日の間に30ドル台から15ドル台へ急落してしまった。そのため、「訴訟の勝敗にかかわらず窮地に立つだろう」といったうわさも業界では飛んでいた。

 Rambus社はRICO法(組織犯罪の影響下にある団体及び腐敗団体に関する法律)を持ち出し、有罪なら実刑、刑務所行きという、この業界では聞いたこともない争いになっている。まるで、マフィアの裁判のようだ。

 ところが、この嫌疑は4月6日に却下され、逆にRambus社が不法にJEDEC審議内容を入手していたとの疑いが浮上している。4月9日には、開廷は再度延期 (4月17日)と決定、ますます原告側不利がささやかれている。

Rambusがメモリ・ベンダを訴える理由

 Rambus社は、工場も販売機能も持たないIPカンパニー(知的所有権を商品とする会社)である。技術と設計をメーカーにライセンスすることで売り上げを得ている。同社最大の資産であるDirect Rambusは、要するに秀才タイプで技術のセンスがよい(よすぎて困ると言う話さえある)。次世代の高速メモリ仕様としてIntelも支持している。Pentium 4用のメイン・メモリとして、その発表当初から現在に至るまでDirect RDRAMのみがサポートされている(*1)ことからも、IntelのDirect RDRAMに対する姿勢がうかがえる(関連記事:「元麻布春男の視点:Pentium 4のメモリはやはりDirect RDRAM」)。そのほか、Direct RDRAMはPlayStation 2などのゲーム専用機でも採用されており、Sun Microsystemsが開発しているJavaプロセッサ「MAJC(マジェック)」での採用も予定されているようだ(NINTENDO64もRDRAMを採用している)。

*1 2001年2月に開催されたIDF(インテル主催のハードウェア技術者向けのカンファレンス)でIntelは、2001年中にPentium 4のSDRAM対応チップセットを出荷することを明らかにしている。ただしこの際にも、将来的にPentium 4の主流となるメイン・メモリは、やはりDirect RDRAMである、という見解も併せて示した。

 これだけ聞くと、Direct Rambusは順風満帆のようだ。しかし一方で、Micron TechnologyとVIA Technologiesの後押しにより、急速にDDR SDRAMが台頭してきたことから話がややこしくなった(実際は、水面下でIBMが大規模研究開発をすすめ、そのIPを各社に提供した)。そのうえ、Direct RDRAMの立ち上げ時のつまずきが尾を引いている(このあたりの事情については、「ニュース解説:動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus」「頭脳放談:第6回 DRAM戦国時代の勝者は?」を参照のこと)。Rambus社はDDR SDRAMを含むすべてのSDRAMについて、知的所有権を主張している。これは同社が1990年前後に出願し1999年〜2000年前後に成立した米国特許(*2)がその根拠という。しかも同社は、DDR SDRAMのライセンス料をDirect Rambusよりも高く設定している。これはライセンス料収入が目的ではなく、そうすることでDirect Rambusの普及を加速させることが目的だという。

*2 日立製作所に対しRambus社が主張したSDRAM特許権

U.S. Patent Nos.
 5,915,105: Integrated circuit I/O using a high performance bus interface
 5,953,263: Synchronous memory device having a programmable register and method of controlling same
 5,954,804: Synchronous memory device having an internal register
 5,995,443: Synchronous memory device
Civil Action No. 00-029 :HITACHI, LTD.'S ANSWER TO COMPLAINT FOR PATENT INFRINGEMENT より抜粋

騒動の争点

 こうしたRambus社の主張に対し、真っ向から反対しているのが、Micron Technology、Infineon Technologies、Hyundai Electronicsの3社だ。その最大の理由は、「Rambus社が主張するSDRAM関連特許は、業界共有の資産であり、独占すべきものではない」というもの。これに対しRambus社側は「この特許は正当に取得したものであり、株主の権利を守る義務がある(つまり、特許権を行使して特許料収入を得る必要がある)」と主張する。

 いうまでもなく、SDRAMはPCの主流メモリだ。その仕様はJEDEC各社による業界合意だった(当時は標準化されておらず、そのため後追いでIntelがコマンド統一などを行って、現在のPC100仕様が出来上がっている)。SDRAMにDDR(ダブル・データ・レート)技術を追加したDDR SDRAMもその延長上にあるというのが業界の一般的な理解だ。なお、JEDEC(正式にはJEDEC Solid State Technology Association。旧称 Joint Electron Device Engineering Council)とは、EIA傘下の半導体技術標準化団体。Rambus社は、一時期(1992年〜1996年)このJEDECのメンバーであり、その時期にSDRAMの仕様が論議されていたことが、今回の騒動の発端であることは明らかだ。

 ただし、このSDRAM開発過程こそが一連の訴訟の焦点であり、前出、RICO法告発も、1992年当時のSiemens Semiconductors(現Infineon Technologies)社内資料をめぐるものだった。部分公開されたその資料には、JEDECでの討議記録も含まれている。

 その討議によれば、最初はIBMによる極めてシンプルなクロック設計と、極めて複雑なRambus社の構成案を出発点として、SDRAMの仕様の検討が始まった。同期制御や低電圧インターフェイスといった現在のSDRAMに近い構成案を示したのは、日本電気だったという。この討議はパブリック・ドメインとして公開を前提としており、Rambus社も了解していた。Rambus社の複雑な制御プロトコル案は採用されなかった、といった内容が伝えられている。細部はともかく、おおよそこのような経緯でJEDECのSDRAM素案がまとまり、一方のRambus社の提案は結局採用されず、こちらはその後のDirect Rambusに活かされたものと思われる。

 つまり、SDRAMはRambus社が提案した知見を利用したといえば、そうかもしれないが、Rambus社がいなくてもSDRAMのようなものは生まれていただろうし、逆にRambus社がJEDECから得た知見もないとはいえない(この点も論議の1つになっている)。こうした経緯から、JEDECメンバーのHyundai Electronicsは、Rambus社の抜け駆け的特許取得は無効と訴えている。またMicron Technologyは、標準化努力に対する背信行為として、独占禁止法違反で告発している。いずれにしても、Direct RambusにRambus社独自の知見が含まれ、それが特許に該当することは誰も否定していない。が、それがSDRAM全般に適用できるものかどうか、今回、初めて司法の判断が下されることになる。

裁判の行方

 公判に話を戻すと、担当判事のロバート・ペイン(Robert Payne)氏という人は、どうやら半導体技術が分かる人らしい(少なくとも本人自身はそう思っている)。公表されたRambus社資料によると、Rambus社は合計57件の特許について侵害を告訴している。ところが、ペイン判事は特許権の対象範囲を厳密に解釈し、審理対象をわずか8件に絞り込んでいる。Rambus社側は、いきなり出鼻をくじかれた形だ。

 また、ペイン判事が双方に配布したメモによると、たとえばDDRクロックというのは、「第1の外部クロックと第2の外部クロックの組み合わせが、バス上の全デバイスに対するタイミングを規定する」ものと解釈し、Rambus社の主張(タイミング情報を備えた2つの独立したクロック)を認めていない。

 明らかにペイン判事は、Direct RDRAMのクロックがClkToMaster(×2)とClkFromMaster(×2)の2方向の信号線で構成されており、DDR SDRAMのクロックと同列には扱えないと考えているらしい。

大きな図へ
Direct RDRAMの信号線
図のようにDirect RDRAMのクロックは、ClkFromMasterとClkToMasterの2方向の信号線で構成されており、単一のクロック信号線で同期を取るDDR SDRAMとは同列に扱えない可能性がある。

 ほかにも、読み出し/書き込みリクエスト(RDRAMではコマンドのプロトコル)、「IC:Integrated circuit」やメモリ・バスなどについて厳密な解釈、定義を試みている。つまり、Rambus社の特許に含まれる独創性、先進性を認めたうえで、だからこそ必然的に、特許名目の「 同期型メモリ(Synchronous Memory)」すべてに該当する普遍的技術との境界を探ろうとしているように思える。特許の対象範囲をできるだけ広げ、SDRAMすべてを含めたいRambus社側の苦戦は必至で、たとえこの裁判に勝訴して、個別特許の有効範囲を確定できた場合も、逆にSDRAM全般にわたる包括ライセンス契約の法的根拠は脆弱化するかもしれない。すでに、エルピーダメモリは契約の見直しを求めているという。

Direct RDRAMのブロック図
図のようにDirect RDRAMは、2つのメモリ・バンクをまたいでセンス・アンプが配置されるなど、既存のDRAMとは異なった構成を採用している。こうした独自性が、今回の裁判ではアダになる可能性も出てきた。

 今の時点で、この裁判の結果を予測することは難しい(なにしろ、まだ開廷もしていない)。もしRambus社が勝訴した場合、Infineon Technologiesには特許料の支払い義務が生じる。が、Infineon Technologiesは別にRambus社の特許侵害を訴えており、引き下がる構えはまったくない。Rambus社はドイツでも訴訟しているが、これも開廷が延期になっている。影でIBM、Philips、Siemensが手を組んでいるとRambus社は非難している。

 一方でJEDECは、さらに次世代のメモリ仕様であるDDR-IIの策定作業を進めている。IntelはADT(Advanced DRAM Technology)を組織し、Infineon Technologies、日本電気、Micron Technology、Samsung Electronics、Hyndai Electronicsの5社と共同で次世代メモリの開発を進めようとしている。2倍速Rambusと期待されたQRSL(Quad Rambus Signaling Level)版はその視野になく、一挙にバンド幅6Gbytes/s以上の転送速度を目指すようだ。Rambus社に残された時間は、そう長くない。

 ところが、こういった現状を書いている間に、また流れが変わってしまった。5月連休前後から、Direct RDRAMもDDR SDRAMもそれぞれに市場を拡大し、低価格化を行うらしい。というより、これ以上は待てないIntelが走り出す。Pentium 4もAMDのAthlonも低価格化が必至になってきた。具体的に数字がつかめたら、またレポートしたい。記事の終わり

ニュース発表日 合意したベンダ名 合意内容
2000年6月16日 東芝 SDRAM、DDR SDRAMとそのコントローラに関する特許ライセンス契約を締結
2000年6月23日 日立製作所 SDRAMとDDR SDRAMおよびそのコントローラに関する特許ライセンス契約を締結
2000年7月28日 沖電気工業 SDRAMとDDR SDRAMおよびそのコントローラに関する特許ライセンス契約を締結
2000年9月13日 日本電気 次世代Direct RDRAM技術を含むライセンス契約を締結
2000年11月1日 Samsung Electronics SDRAMとDDR SDRAMおよびそのコントローラの特許ライセンス契約を締結
2000年11月2日 エルピーダメモリ SDRAMとDDR SDRAMに関する特許ライセンス契約を締結
2001年1月2日 三菱電機 SDRAMとDDR SDRAMの特許ライセンス提供で合意
2001年3月13日 松下電器産業 SDRAMとDDR SDRAMのコントローラに関する特許ライセンスで合意
RambusからSDRAMとDDR SDRAMに関する特許ライセンスで合意したベンダ一覧
 
  関連記事(PC Insider内)
Pentium 4のメモリはやはりDirect RDRAM
動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus
第6回 DRAM戦国時代の勝者は?

  関連リンク
Direct RDRAMの技術解説PDF
 
  更新履歴
【2001/04/14】 「Direct RDRAMのブロック図」を追加しました。
 
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