プロダクト・レビュー

10万円未満の低価格IAサーバを斬る
―― デルコンピュータPowerEdge 500SC ――

1.低価格IAサーバの存在意義

デジタルアドバンテージ 島田広道
2001/10/18

初めてではない低価格IAサーバの登場

 いまから3年ほど前、当時としては非常に安価な、20万円を切るIA(インテル・アーキテクチャ)サーバが各社から相次いで発売された時期があった。しかし、その仕様は同価格帯のデスクトップPCとそう変わらず、中には「どこがサーバなんだ?」と疑問を持たざるをえないような、デスクトップPCそのままの製品も存在した。実際、市場全体から見ると、こうした安価なIAサーバは期待されたほど普及しなかった。

 さて2001年の現在、大手サーバ・ベンダ各社は10万円を切る低価格IAサーバを相次いで登場させている。その背景には、性能は着々と上がりつつも価格は下がる一方のプロセッサやハードディスクといった、PCパーツのコストパフォーマンスの向上が大きく影響している。もっとも、これは3年前でも同じことが当てはまるので、これだけでは市場に受け入れられることはないだろう。

 しかし3年前と比べると、低価格IAサーバの各パーツの絶対的な性能は大きく向上しているため、たとえ安価でもサーバとして利用できる守備範囲は3年前より広がっている。3年前の平均的なデスクトップPC(低価格IAサーバとほぼ同等の仕様となる)というと、ハードディスク容量は10Gbytes程度、プロセッサはPentium III-600MHz程度であった。それがいまやハードディスク容量は40Gbytes、プロセッサはPentium III-1GHzを超え、すでに数年前のハイエンド・サーバとほぼ同等の性能を持つ。SOHOや企業の一部署における小規模サーバなら、少なくともスペック的には、こうした低価格IAサーバでもニーズを十分カバーできるだろう。

サーバの利用形態の変化と低価格IAサーバとの関係

 もう1つ低価格IAサーバにとって追い風なのは、サーバの利用形態の変化だ。サーバの価格が高かった以前は、高機能・高性能なサーバ1台で各種のサービスを運用するのが一般的だった。そのため、負荷が増大してもサーバをリプレースすることなく対応できるよう、サーバ単体でのスケーラビリティが重視された(いわゆるスケールアップ*1)。一方現在では、一枚岩となってすべての処理を行う巨大システムを構成するのではなく、機能ごとにソフトウェアをコンポーネントとして分離・独立させ、それらを必要に応じて組み合わせてシステム全体の処理を進めるスタイルが一般化している。

*1 スケールアップ/スケールアウト、サーバの3階層モデルの詳細については、「特集:Itaniumの登場でハイエンド・サーバ市場が変わる?」を参照していただきたい。

 例えばWebソリューション向けのシステムでは、ユーザーとのインターフェイスを担当するフロントエンド(Webサーバなど)、ビジネス・ロジックなどの中間処理を担当するミッドティア(アプリケーション・サーバなど)、データベースの処理を担当するバックエンド(データベース・サーバなど)といった3階層モデルをとるのが一般的である。このうちフロントエンド層では、比較的非同期性の高い処理(ユーザーの操作に対する応答処理)を多数同時実行するという性格上、サーバ単体の処理能力を向上させるよりも、ユーザー数に合わせて複数のサーバに処理を分散(スケールアウト)させる方が効率がよいと言われている。またミッドティアでも、疎結合型のシステム(同期処理を低減させたシステム)を構築すれば、スケールアウトによる恩恵を受けやすくすることが可能だ。こうした用途による使い分けは、インターネット上のB2Cシステムばかりでなく、企業間取引(B2B)や企業内システムの構築(B2Eなど)でも採用され始めている。これまで大規模なサーバ1台ですべてをまかなっていたのを、複数台で処理を分散させる方向に動いているのだ。

1台の高性能サーバより複数台の低価格サーバ

 また、安定性や障害発生時のダウンタイムの最小化という観点から見ると、1台の高性能サーバに複数のサービスを任せるより、サービスごとにサーバを用意して分離・独立させる方がよいことが多い(管理コストは上がるかもしれないが)。例えば、ファイル/プリンタ共有やメール/Web/DNSといったインターネット関連サービスそれぞれに、そこそこの性能を持ったサーバを割り当てる、といった具合だ。これならば障害が発生しても、1つのサービスがダウンするだけで、他のサービスには影響を与えることがないし、複合的な要因に煩わされることなく、復旧作業もすみやかに行えるだろう。

 現在こうしたニーズには1Uラックマウント型サーバが応えているが、10万円を切るほど価格は低下しておらず、またラックを設置するなど初期投資額が高いため、高密度実装が重視されない小規模なシステム(大量のサーバをわずかな設置スペースに詰め込む必要性が低いシステム)にはあまり適さない。この領域には、10万円を切る低価格IAサーバが最適といえる。3年前と違って、今度の低価格IAサーバは広く普及する可能性を秘めているのではないだろうか。

PowerEdge 500SC
デルコンピュータのタワー型IAサーバのラインアップでは、最下位のエントリ向けに属するサーバである。シングルプロセッサ対応にすることや、オプションを制限することで低価格化を実現している。

 そこで本稿では、各社の低価格IAサーバの中からデルコンピュータのPowerEdge 500SCを取り上げ、低価格IAサーバの実体を明らかにする。PowerEdge 500SCは、同社のタワー型ケースのサーバで最下位となる低価格IAサーバで、Celeron-900MHz搭載の通常モデルでは6万9800円という廉価で販売されている(2001年10月中旬の直販価格)。なお、PowerEdgeシリーズのうち製品名の末尾に「SC」が付くモデルは、SOHOや中小企業などに合わせたエントリ/ワークグループ向けのサーバ「PowerEdge SC」シリーズに属している。これは、例えばSANやテープ・ライブラリなどミッドレンジ以上のサーバに必要な周辺機器のサポートを省くなど、機能を絞ってシステム構成をシンプルにすることで、価格やセットアップ/管理の手間を抑えている(SCはSimplified Computingの略)。

 ハードウェアの比較対照としては、同社のデスクトップPC「Dimension 4100」を用意してみた。デスクトップPCと比べながら、本機をサーバ・マシンたらしめているものを確認してみよう。

デスクトップPCとほとんど変わらないケース

 本機のケースは、同じデルコンピュータ製デスクトップPCであるDimension 4100と非常によく似ている。これと比較したのが下の写真である。なお、同社の最新のデスクトップPCは、Dimension 4100に代わってDimension 4200/8200になっている。

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デスクトップPCと変わらないように見えるケース内部 (拡大写真へ
左がPowerEdge 500SC、右がDimension 4100のケース内部を、左側板を外して撮影したもの。パーツの構成や配置は非常によく似ている。
 
まるごと取り外し可能な前面のドライブ・ベイ
この前面ベイは、ブロック全体をネジ1本で取り外せる。ドライブはネジで直接ベイに固定するタイプで、サーバによくあるレール式ではない(これもDimension 4100と同じ)。ドライブの交換にはやや手間のかかる方式といえる。前面アクセス可能なのは5.25インチ幅のベイ2つとフロッピードライブ専用ベイだけで、その下はの3.5インチ内蔵ハードディスク専用だ。ここには1インチ・ハイトのハードディスクを2台取り付けられるが、ディスク同士が密着してしまい発熱によるトラブルが心配だ。実質的には1台だけと考えたほうが無難だと思う。
内蔵ハードディスク・ベイは3つ
がフロッピードライブ専用ベイで、その下がデフォルト(1台目)のハードディスク・ベイである(1インチ・ハイト専用)。にもハードディスクを装着できそうだが、マニュアルにその記述はない(Dimension 4100では、ここに1台目のハードディスクが装着されていた)。このほかに3.5インチ・ハードディスク専用ベイが3つ設けられているので、ここには不要という判断だったのだろうか?見た目には、合計4台のハードディスクが搭載できそうだ。

 サーバ特有のハードウェアといえば、ホットスワップ可能なハードディスク・ベイや空冷ファン、二重化された電源ユニットなどが思いつくが、本機にはこうした機能はない。ケースやドライブ・ベイについては、本機とデスクトップPCの差はわずかだ。この点は、低価格な1Uサーバも同様である。

  関連記事
Itaniumの登場でハイエンド・サーバ市場が変わる?
 
  関連リンク 
PowerEdge 500SCの製品情報ページ
 
 
 

 INDEX
  [プロダクト・レビュー]10万円未満の低価格IAサーバを斬る
  1.低価格IAサーバの存在意義
    2.サーバ専用チップセットの採用がポイント
 
「PC Insiderのプロダクト・レビュー」


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