ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート

いまの日本は「ソーシャル」が何か分かっていない


ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート

五味明子
2012/7/6

コンプガチャはクリエイティブじゃない


comcept CEO/コンセプタを務める稲船敬二氏「いくら『世界に挑む』と威勢良く口にしても、ビジネスだけでは無理。世界に挑戦するならクリエイティブへのリスペクトを忘れずに」

 「いまの日本のゲーム業界はバランスがすごく悪い。クリエイティブな人材は決してソーシャルゲームに行きたがらない。ビジネスとクリエイティブのバランスが取れていないから、日本のゲームは世界に勝てなくなった。僕は、この状況をすごく危惧している」(稲船氏)

 数々のヒット作で世界的にも有名なゲームクリエーターで、現在は自身で立ち上げたcomcept のCEO/コンセプタを務める稲船敬二氏。「成長するソーシャルエンターテイメントのこれから」と題したセッションでは、スライドを一切使わず、日本のゲーム業界に対する考えを切に訴えた。

 カプコンに23年勤務した後、2010年にcomcept を設立した稲船氏は、「ロックマン」「鬼武者」など大ヒットゲームをいくつも手がけてきた人物。「ずっとコンソールゲーム(家庭用ゲーム機)に携わってきたが、ソーシャルゲームを含め、新しいゲームの世界を作りたくて会社を立ち上げた。あまり好きな言葉じゃないけど、“ゲーミフィケーション”的な考え方でいろいろなことをやってみたい」と語る。

「もうかればいい」というソーシャルゲームの姿勢が嫌だ

 このセッションの前日まで米国で行われたゲームショウ「Electronic Entertainment Expo(E3) 2012」に参加していた稲船氏だが、「E3でも感じたけど、日本のゲーム業界は元気がない。ここ5年くらい、世界のゲームにまったく勝てない。それはソーシャルゲームも同じ」と指摘する。

 かつては世界一と称された日本のゲームは、なぜそんなに弱くなったのか。稲船氏はその最大の原因として「ビジネスとクリエイティブ(ゲーム性)のバランスの悪さ」にあると説く。

 「日本は、どうしてもビジネスに偏りがち。特に、ソーシャルゲームはビジネスの人間ばかりで、クリエイティブが行きたがらない。だから、コンソールにクリエイティブが集中する。『もうかればいいというソーシャルゲームの姿勢が嫌だ』と話すクリエーターは多い」(稲船氏)

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 そのバランスの悪さが顕著に現れたのが“コンプガチャ”だと稲船氏は言う。「コンプガチャなんて、まったくクリエイティブな話じゃない。ビジネスでいかにもうけるかばかりを考えるから、あんなことになった。「だましているわけじゃないから」とユーザーの気持ちを高ぶらせることばかりに集中して、クリエイティビティがない」と厳しく指摘する。

 「『こういうゲームを作ればもうかるから』と方程式を渡されて、その通りにゲームを作る。いまはそれでもうかるかもしれないけれど、ユーザーも規制も世の中も変わっていく。もしその方程式が崩れたら、どう対応するのか。ビジネスだけでは無理で、クリエイティブの能力が絶対に必要」(稲船氏)

ドラゴンクエストは、めちゃくちゃ“ソーシャル”なゲーム

 では、ソーシャルゲームがクリエイティブを取り込むには何をすべきなのか。稲船氏はまず、ソーシャルの捉え方を再考すべきだとする。

 「ソーシャルというのはデジタル上のつながりだけじゃない。例えば、ドラゴンクエスト。あれは、めちゃくちゃソーシャルなゲーム。発売近くなると、友達全員がドラクエの話をして、会話がそれで成立する。ドラクエを軸に皆がつながっていく。これが本来のソーシャルであり、アナログ的な面白さが、そこにある。デジタルだけのつながりをソーシャルと見ていてはダメ」

日本と異なり、海外はコンソールからソーシャルへとクリエイティブな人材が流入している

 海外のユーザーやクリエーターとも触れる機会の多い稲船氏は、「海外の方が考え方が柔らかい。日本人は、どうしても多面的に物事を見るのが苦手。ソーシャルゲームに対しても、コンソールをやっていた人間が何の戸惑いもなく、『ソーシャルで成功したいから』と飛び込んでいく。だから業界が元気になる」と指摘する。

 「ソーシャルゲームの人はクリエイティブを取り込む努力をしてほしい」と稲船氏は繰り返し強調する。「それができれば、日本のソーシャルゲームは新しい形が見えてくるはず。いくら『世界に挑む』と威勢良く口にしても、ビジネスだけでは無理。世界に挑戦するならクリエイティブへのリスペクトを忘れずに」と訴える。

日本発のソーシャルゲームが世界に出ていってほしい

 稲船氏は、いまでも海外に行くと「ロックマンを作った人」としてユーザーやクリエータから声を掛けられるという。子供のころに熱中したゲームの作者、自分をゲームの世界に駆り立てた稲船敬二への尊敬の念がそこには込められているのだろう。「これこそがソーシャルであり、ビジネスにもつながる導線となる」と、稲船氏。

 逆に言えば、クリエイティブがなければ、そのつながりは希薄なものにしかなりえず、ちょっとした世の中の変化ですぐに崩れてしまう。それは決して“ソーシャル”なゲームではない。

 最後に「10年、20年前に日本のゲームが世界に出ていったように、日本発のソーシャルゲームが世界に出ていってほしい」と結んだ稲船氏。そのために必要なのは、やはりクリエイティブを呼び込む施策。ビジネステクニックだけではなく、そのゲームに触れた人の心にずっと残るようなクリエイティブのチカラが、いまの日本のソーシャルゲームに必要とされているのではないだろうか。

 なお稲船氏は、後述のパネルディスカッション「第3部 … ジャパナイズ・ソーシャルメディアのこれから」にも参加している。興味を持った方は、ぜひ参照してほしい。

企業は“コミュニティ”で消費者と社会をつなげ


エイベック研究所 代表取締役 武田隆氏
「消費者と社会をつなぐこと、それが企業のソーシャルにおける役割」

 ソーシャルメディアのブームを受けて、マーケティングにも生かそうと、Facebookにファンページを作ったり、Twitterの公式アカウントから定期的に情報をつぶやく企業が増えつつある。ソーシャルをうまく活用し、売上増など具体的な効果を得ている企業がある一方で、ソーシャルとの付き合い方に戸惑っている企業もまた多い。

 この差はどこから生じるのか。ソーシャルメディアコンサル事業で多くの採用実績を誇るエイベック研究所の代表取締役 武田隆氏によるセッション「つながることが価値になる - インターネットが実現する心あたたまる関係と収益化」から、その答えを探ってみたい。

自社サイトにソーシャルを

 武田氏は、まず「企業ソーシャルのあり方として「既存のソーシャルメディアに乗っかるのではなく、自社サイトにソーシャルを組み込み、徐々に外部に拡大していく」ことを基本にすべきだ」と語る。

 例えばTwitterの場合、宣伝のつぶやきがタイムライン上に現れるのは、一般ユーザーから見れば「居酒屋で談笑しているときに、いきなり広告屋に割り込まれたような感じ」(武田氏)であり、好印象を残すことは少ないという。

 だが、企業サイト内に仮にコミュニティサイトを設け、消費者同士の交流を深めてもらおうとしても「場所だけ開放しても、コミュニティは絶対に盛り上がらない」と武田氏。

クチコミリーダー的な存在が重要

 まず、コミュニティサイトを立ち上げる際は、参加人数よりも似たような属性の消費者による“同質性の密度”を高める方が重要で、そのうえで運営スタッフなどがクチコミリーダー的な存在(ファシリテータ)となって積極的に発言し、場を引っ張るようにすると成功しやすいという。

 例えば、花王は小さな子供を持つ主婦(妊娠中含む)を対象に、赤ちゃんの誕生月ごと(6月誕生予定、2月生まれの1歳児など)にサークルを立ち上げ、正しく同質性を高めた交流を実現している。そして、サークルごとにサンプル商品配布対象者を選んだり、その感想を直接収集することで、商品サイトに反映している。

 花王では、消費者から直接お礼の言葉をもらうことが増えたという。武田氏は「『ありがとう』という言葉は企業にとって、すごく新鮮な言葉。これまでは消費者の声=クレームだった。ソーシャルは定性的なデータが伝わりにくかった従来のマーケティングを変える力を持っている。消費者の口から『ありがとう』という言葉が出てくるとき、企業と消費者の間には有機的なつながりが生まれている」と語る。

“深い声”を引き出すには

 エイベック研究所では「MROC(エムロック)」というオンラインリサーチの結果を企業向けに提供するサービスを行っている。ここでは企業の望む属性のモニターを集め、ソーシャルなコミュニティを形成し、リサーチを行うのだが、「通常の調査結果からは出てこない、“深い声”を引き出す」ことに成功しているという。

 ここでのポイントは「自然なままでいること」だと武田氏。無理やりに回答を迫るのでなく、投げられた質問に対する誰かの回答に、モニター間で自然発生的に意見を交わしたりすることで、それぞれの回答がブラッシュアップされ、質問者の意図を超えた期待以上の調査結果を得ることができる。質問→誘発→掘り下げ→発見というプロセスに添い、数日かけて蓄積することでモニター自身の中で醸成された“深い声”が得られるのだ。

『社会に参加した』という充実感

 ちなみに「このようなスタイルの調査に再び参加したいか」という質問に96%のモニターが「Yes」と答えているという。「人は尋ねられないと答えられないことがある。発言を繰り返すうちに、深い発言が表出されることに喜びを覚える人も多い。また、こうした調査を通して『社会に参加した』という充実感を得られる」と、武田氏。

企業コミュニティは、コミュニティから直接利益を上げるのではなく、コミュニティで得た消費者の声を社会に還元した後に利益を上げられると考えるべき(武田氏の講演資料より)

 武田氏は、あるカラオケマシンメーカーの担当者が、ソーシャルを通じた消費者とのコミュニケーションに接して、「私たちのカラオケマシンって、本当に歌われていたんですね」とつぶやいたのが忘れられないという。

 流れ作業的なマーケティングをしているうちに、自社の製品が消費者にどう使われているのか、そんな当たり前のことすら分からなくなってきている。それくらい企業と消費者の距離は離れてしまっていたのだ。

 「かつて福沢諭吉は『society』を“社会”ではなく“人間交際”と翻訳した。その通り、ソーシャルとは人と社会活動をつなげる存在であり、それがソーシャルの魅力でもある。企業コミュニティも同じ。人と社会活動をつなげる存在であってほしい」と最後に語った武田氏。

福沢諭吉は『society』を“人間交際”と訳していた。まるで現在のソーシャル時代を予測していたかのようだ(武田氏の講演資料より)

 自社製品に消費者を一方的にひもづけるのではなく、消費者と社会をコミュニティでつなげられる企業こそが、ソーシャルの“勝ち組”になる時代がやってきたのかもしれない。

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 INDEX
ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート
いまの日本は「ソーシャル」が何か分かっていない
  Page1
コンプガチャ、炎上など問題点が多い「ソーシャル」
コンシューマライゼーションが生み出す“うねり”
  Page2
Facebookを見て「通信キャリアも変わらなくちゃ」
O2O―オンラインとオフラインの融合を現実にするNFC
  Page3
コンプガチャはクリエイティブじゃない
企業は“コミュニティ”で消費者と社会をつなげ
  Page4
ソーシャルで変わっていくテレビの役割
  Page5
ブランディング、運用、ビッグデータ分析、キュレーション
われわれの「ソーシャル」はまだ始まったばかりだ!


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