解説

IDF 2003 Fallレポート
4つのTでIntelがサーバとPCを変革する

2. Intelが注力する「4つのT」とは

元麻布春男
2003/10/09

解説タイトル


革新のキーワードは「4つのT」

 このようにPrescottの不在が影を落とした今回のIDFだが、かといって話題がなかったわけではない。上述したようにエンタープライズ・プラットフォーム事業部はロードマップの更新を行ったし、PCI Expressに関連した話題も多かった。が、それらに触れる前に、まずポール・オッテリーニ社長の基調講演に登場した「4つのT」について紹介しておこう。

 「T」というのはテクノロジのことだ。4つというのは、「Centrinoモバイルテクノロジ」「Hypter-Threading(HT)テクノロジ」「LaGrande(ラグランデ)テクノロジ」「Vanderpool(バンダープール)テクノロジ」を指す。Intelは、Centrino/Pentium Mを発表するにあたり、それまでの性能一辺倒からの方針変更を打ち出し始めた。動作クロックだけを比較すると、モバイルPentium 4に対し見劣りすることになるPentium Mだが、アプリケーション・ベースの性能(特にOfficeなどの主に整数演算ベースのアプリケーション)では決して見劣りしないこと、バッテリ駆動時間まで含めた性能ではむしろ優位に立つことを主張し始めたのである。ここで示した「4つのT」は、いわばIntelがPCプラットフォームをよりよいものにするために付与する付加価値ということになる。

 ただ誤解してはならないのは、Intelは動作クロックの引き上げによる性能向上をあきらめたわけではない、ということだ。ポール・オッテリーニ社長は基調講演の後半で、4つのTのベースとなるテクノロジとしてシリコン・テクノロジ、すなわち製造技術を挙げた。そこでは今後も2年ごとに新しい製造プロセスを投入し続けることを明らかにしている。新しい微細プロセスの導入とそれによる動作クロックの引き上げは、すべてのTの基礎としてあると考えるべきだろう。

  2005年 2007年 2009年 2011年
プロセス 65nm 45nm 32nm 22nm
ゲート長 30nm 20nm 15nm 10nm
表区切り
表 Intelの製造プロセス・ロードマップ

 話を4つのTに戻すが、上述したようにモバイルPC向けプロセッサの新しいロードマップが提示されなかったこともあり、Centrinoモバイルテクノロジについては無線LANの更新が話題の中心だった。現時点では年内にIEEE 802.11a/b両対応のモジュールをリリースし、2004年初めにIEEE 802.11a/b/gに対応したモジュールをリリースする、というスケジュールが予定されている。

■デュアル・コア/マルチ・コアに向かうHTテクノロジ
 Centrinoモバイルテクノロジと並び、すでに実用化されているHTテクノロジについては、2つの新しい方針が打ち出された。HTテクノロジの延長線上の技術として、クライアント・プロセッサのデュアル・コア化と、サーバ・プロセッサのマルチ・コア化を図っていくという方針の表明だ。すでにIntelは、ハイエンドのサーバ向けプロセッサであるItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)に関して、開発コード名「Montecito(モンテシト)」で呼ばれる2005年にリリース予定のプロセッサで、デュアル・コア化することを明らかにしている。今回のIDFでは、Montecitoの次の「Tanglewood(開発コード名:タングルウッド)」でマルチ・コア化を図ることを明らかにした。何個のコアを内蔵するかについてまでは言及しなかったが、意外と基調講演のスライドで示された8個というのが現時点での真実ではないかと思う。

デュアル・コアとマルチ・コアの流れ
HTテクノロジからデュアル・コアに移行し、サーバはさらにマルチ・コアになるとしている。マルチ・コアの図では、8個のコアが一体となっている。これまでIntelのプレゼンテーションは、こういったものでも意外と正直だったので、Tanglewoodのコア数は8個かもしれない。

 一方、サーバ向けプロセッサでは、将来のIntel Xeon MPプロセッサでデュアル・コア化を図ることが明らかにされた。Intel XeonやクライアントPC向けのプロセッサでは、具体的な開発コード名は明らかにされなかったが、デュアル・コア化が図られることは上述したとおりだ。いずれのIA-32プロセッサもHTテクノロジが併用されることになるため、スレッド・レベルの並列処理能力は格段に高まることになる。

■高度なセキュリティを実現するLaGrandeテクノロジ
 次のLaGrandeテクノロジは、前回のIDFでPrescottから搭載されることが明らかにされたセキュリティ技術である。高度なセキュリティを実現するにはプロセッサだけでなく、チップセットやI/Oコントローラ(キーボード・コントローラやグラフィックス・コントローラなど)、TPM(Trusted Platform Module:暗号化機能を持つマイクロコントローラ)、OS、対応アプリケーションのすべてが揃う必要がある。より具体的には、Microsoftの次世代OS「Longhorn(開発コード名:ロングホーン)」で採用されるといわれている「Next-Generation Secure Computing Base(NGSCB)」に対応したハードウェア部分がLaGrandeテクノロジとなる(NGSCB自身は、特定のハードウェア実装を要求するものではない)。

 つまり、Longhornで高度なセキュリティを実現するには、LaGrandeテクノロジ互換である必要はなく、例えばAMDならAMDなりの実装を行えばよいということになる。逆にいうと、LaGrandeテクノロジはあくまでもIntelによるIntelのための実装であり、NGSCBをサポートするためのハードウェア仕様でもなければ、オープンな標準でもない。実際Intelは、検証作業などの理由から、少なくともLaGrandeテクノロジを立ち上げる時点において、同技術をサードパーティにライセンスする予定はないとしている。ようするに初期にLaGrandeテクノロジを利用するにはIntel製のチップセットが必要になるということだ。

 なお、LaGrandeテクノロジを実装する世代のプロセッサは、「LaGrandeテクノロジあり版」と「LaGrandeテクノロジなし版」の2種類が提供される見込みだ。これはPentium IIIのプロセッサ・シリアルナンバを実装した際に、一部の消費者団体から強烈な反発を受けたことの教訓だという。また、LaGrandeテクノロジを実装したプロセッサにおいて、BIOSセットアップなどでLaGrandeテクノロジの有効/無効を切り替えられるようにするかどうかは、まだ決まっていないということであった。この場合、LaGrandeテクノロジの選択は購入時だけということになるが、これは大企業などにおいてLaGrandeテクノロジを無効にできないことが望まれるから、ということが理由らしい。

 このLaGrandeテクノロジは、主にクライアントPC(それもビジネス・デスクトップ)を念頭に置いたセキュリティ技術だが、これは管理者による管理が行われているサーバに比べ、多くのクライアントPCが無防備な状況に置かれていることを意識したものだ。また、LaGrandeテクノロジが想定する攻撃は主にソフトウェアによるもので、例えばロジック・アナライザなどを用いた解析に対抗しようとするものではないとのことであった。

■仮想マシンを実現するVanderpoolテクノロジ
 最後のVanderpoolテクノロジは、今回のIDFで初めて出てきたものだ。Vanderpoolテクノロジとは、1台のPCをパーティショニングし、ソフトウェア的に独立した複数の仮想マシンを実行可能にしようというものだ。基調講演のデモでは、1台の仮想マシンでビデオの再生をしているかたわら、もう1台の仮想マシンでは新しいデバイス・ドライバの組み込みを行いシステムを再起動する様子が披露された。

 こうしたパーティショニングはすでにメインフレーム級のサーバでは実現しているが、これをクライアントPCでも可能にしようというのがVanderpoolテクノロジの狙いだ。ただ、そこまで一足飛びに実現されるのではなく、まずは現在の仮想マシン・ソフトウェアの「VMWare」や「VirtualPC」のような、フルスペックの環境から一部のI/O機能が制約された仮想マシンを起動するフェイズ1がまず実現し、次にすべての仮想マシンが等しくすべてのI/Oを利用可能なフェイズ2の2段階を経ることになる見込みらしい。フェイズ2の実現には、プロセッサの改良だけでなく、チップセットなどのI/O機能の改善も必要となるため時間を要するが、フェイズ1の実現は1〜2年で可能になるという。

 現在、OSを含まないクライアントPCの価格は最低で200ドルを切る水準まで下がっている。実マシンの価格がこれだけ低いのに、どうして高価な(高性能な)PCで仮想マシンを利用するのか、という疑問はあることだろう。この疑問に対してIntelは、子供のPCのように親の完全な管理下に置きたいPC、1台のノートPCの中に仕事のパーティションとプライベートのパーティションを設ける、さらには古いアプリケーションを実行するために仮想マシン内で古いOSを走らせる、といった事例を答えとして挙げている。

 LaGrandeテクノロジにしてもVanderpoolテクノロジにしても、PCの中に仮想マシンを作成する、という点では共通点のある技術だ(LaGrandeテクノロジの仮想マシンについては、「頭脳放談:第32回 プロセッサにセキュリティ機能って何なの?」)。両者には直接の関係はないにせよ、PC内における仮想マシンの並列実行ということが、将来に向けたIntelのキーワードの1つであることは間違いなさそうだ。また複数の仮想マシンというと、HTテクノロジやマルチ・コアなどとの関連性を考える人もいるかもしれないが、Vanderpoolテクノロジで作成可能な仮想マシンの数は、PC内のコアの数やアーキテクチャ・ステートの数による制約を受けない。いい換えれば仮想マシンの数を規制するのは、仮想マシンを増やすことによる性能の低下のみである。それでも、HTテクノロジやプロセッサのデュアル・コア/マルチ・コア化によりスレッド処理能力が引き上げられることと、仮想マシンのアイデアとの相性がよいことは事実だろう。加えてシリアルATAやPCI Expressといった新しいI/O技術も、こうした仮想マシンのアイデアと相性が悪いハズがない。逆に、現在のシステム単位のソフトウェア・ライセンスは仮想マシンのアイデアと相性が悪いように思われるが、Vanderpoolテクノロジが実際に登場するまでにどのような解決策がとられるのか注目されるところだ。

 次ページでは、サーバ向けプロセッサとチップセットの更新されたロードマップを見ていこう。

  関連記事 
第32回 プロセッサにセキュリティ機能って何なの?


 INDEX
  IDF 2003 Fallレポート
  4つのTでIntelがサーバとPCを変革する
    1.発表間近のPrescottが展示されなかったIDF
  2.Intelが注力する「4つのT」とは
    3.サーバもPCI Expressへ移行
    4.PCI ExpressとBTX規格がクライアントPCを変える
 
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