解説

IDF 2003 Fallレポート
4つのTでIntelがサーバとPCを変革する

4. PCI ExpressとBTX規格がクライアントPCを変える

元麻布春男
2003/10/09

解説タイトル


製品が見えてきたPCI Express

 2004年にリリースされるチップセットの主要機能の1つであるPCI Expressだが、技術的な基本については、過去のIDFやPCI SIGのデベロッパ・フォーラムなどですでに発表されているとおりだ。今回のIDFでのアップデートは、PCカードの後継となるカード・フォームファクタの正式名称が「Express Card」に決まったこと、モバイル用のLow Power仕様が検討されていること、そして何より実際に動いているデモがあったこと、の3点だ。

 Express Cardは、ホストとのインターフェイスにPCI Express(x1)とUSB 2.0を併用する新しい拡張カードのフォームファクタである。基本となるのは幅34mmのカードだが、幅54mmのカードも規定される。幅54mmのカードは変則的な形をしているが、MicroDriveなどの1.8インチ・ハードディスクが入るように、ということで日本のベンダから強いリクエストがあったものだといわれている。この変則的な形でも明らかなように、幅54mmに対応したスロットで幅34mmのカードを利用することが考えられている。Express CardはノートPCでの採用(PCカードの置き換え)を目指しているのはもちろんだが、省スペース型を中心にデスクトップPCへの普及も考えている。歴史的にPCの拡張には、パーツが剥き出しの拡張カードが使われてきたが、Express Cardがその前例を覆すことができるのか注目される。

大きな図へ
幅34mmのカード規格
現行のPCカードに比べて、幅で20mm、長さで10mmほど小型化されている。
 
大きな図へ
幅54mmのカード規格
幅を現行のPCカードと同じ54mmとした規格。幅54mmのカード・スロットに、幅34mmのカードを差すことが可能なようにになっている。

 モバイル用途についてはLow Power(低電圧)の拡張仕様が設定される見込みだ。当初はモバイルPCでPCI Expressベースのグラフィックス機能を実現することを目標とする。0.8Vの動作電圧を0.4V前後まで引き下げると同時に、20インチある最大線路長を6インチ以下に短縮するなどして、高性能と省電力のバランスを図る。コネクタも1つあるいは、なしになる可能性が高いようだ。

 NoconaをベースとしたシステムでPCI Expressのデモが行われたのは上述のとおりである。IntelがPCI Expressに対応したチップセットと、そこで動くグラフィックス・カード(ATI Technologies製)の動作デモを公開したのは今回が初めてだ。デモに使われていたのはデュアルプロセッサ対応のサーバ向けチップセットであるLindenhurstベースのものと、ワークステーション向けチップセットであるTumwaterベースの2種類だ。Lindenhurstについては、DDR-II-400メモリを採用したシステムのデモもあったが、中身を見せていたのはなぜかDDRメモリを用いたものだけであった。

大きな写真へ
展示会場でデモされていたLindenhurstベースのシステム
Tumwaterのシステムではグラフィックス用にx16のPCI Expressスロットがあった位置が空きパターンになっている(写真の赤矢印の先)。

 展示会でデモされていたシステムは、例えばTumwaterチップセットのマザーボードなのにオンボードにRage XLベースのグラフィックスを備えるなど、いかにもプロトタイプといったものであった。最終的な拡張スロットの構成は、Lindenhurstがx8のPCI Expressを3本、Tumwaterがx16のPCI Expressを1本にx8のPCI Expressを1本、加えてPCI-Xのスロットといったものになりそうだ。x1のPCI Expressを汎用の拡張スロットに採用するデスクトップPCに比べI/O能力が拡張されていることが分かる。

新しいマザーボード規格「BTX規格」とは

 このPCI Expressに関連して登場するのが新しいマザーボード規格である「BTX規格」だ。Balanced Technology eXtendedの略であるBTX規格は、現在利用されているATXを置き換える次世代のフォームファクタ標準となる。以前はBigWaterという開発コード名で呼ばれていた。PCI Expressでなくても(既存のPCIでも)BTXのマザーボードを作ることは可能だろうが、BTXを生み出すモチベーションとして、PCI Expressによりボード設計の自由度が増した点があったことは間違いない。

 BTX規格で最も大きく変わる部分は、拡張スロットの位置だ。これまで拡張スロットはPCを前から見て左側にあったが、BTXでは右側となる。拡張スロットは最大で7本をサポートすることになっており、7本の拡張スロットをサポートするフォームファクタがBTX、4本の拡張スロットをサポートするのがMicro BTX、拡張スロット1本のみがPico BTXとされる(図で白線により区切られているのがそれぞれのフォームファクタの境界線)。

大きな図へ
BTX規格のマザーボード形状
マザーボードの大きさと拡張性の違いにより、BTX、Micro BTX、Pico BTXの3種類が規定されている。

 拡張スロットを右側に移した最大の理由は、1つの冷却ファンでプロセッサ、チップセット、グラフィックス・チップ、電圧レギュレータという、発熱量の多いコンポーネントをまかなうことにある。1つの大型ファンで、これらを冷却しようというわけだ。

大きな図へ
BTX規格による冷却風の流れ
BTX規格では、1つの大型ファンで冷却を行うことを想定している。これは、静音性の実現に効果的だ。

 これを横から見たのが下図だが、マザーボードの下側にも冷却風を通そうという考えである(このためマザーボードの取り付け高が、ATXの0.25インチから0.4インチへと増大している)。写真で見ると大型の冷却ファンと白いダクトがよく目立つ。

大きな図へ
BTX規格のマザーボードの取り付けを横から見たところ
少々分かりにくいが、ATX規格に比べてマザーボードの取り付け位置が高く、マザーボード下側にも冷却風を通す工夫を行っている。
 
展示会場にあったBTX規格のコンセプト・マシン
Intel 875Pチップセット・ベースであった。白いダクトの中のファンで、主要なコンポーネントすべてを冷却する。マザーボードの取り付け方法が変わっている点にも注目だ。

 大型のヒートシンク、冷却ファン、ダクトといった重量物を支えるため、また取り付け高が増したマザーボードのたわみを防止するため、BTX規格ではSRM(Support and Retention Module)と呼ばれる金属製のプレートが用いられる。重量物をマザーボードではなく、SRMに固定することでマザーボードに対する重量負荷をなくすと同時に、下からマザーボードを支えることでたわむことも防止する。また、加重をシャシーの中央からシャシーの端に移すことで、シャシーのたわみも防ぐことができる。なお、SRMはシャシーにネジ止めするのではなく、クリップ・オン式に(摩擦力で)取り付けることになっている。

大きな図へ
SRMの形状
SRMは、剛性を持たせるためか、複雑な形状を採用している。これにより、マザーボードのたわみなどを防止する。
 
大きな図へ
SRMを利用したマザーボードの取り付け
サーマル・モジュールの下にある緑色の線がマザーボード、さらにその下にある青緑色の線がSRMである。

 BTX規格そのものは、マザーボードの物理的インターフェイス(マザーボードの大きさ、取り付け用ネジの位置など)、電気的インターフェイス(現行のATX 2.01と同じ)の標準であり、例えば電源ユニットの細かい仕様(シリアルATA対応の電源コネクタを用意するかなど)については触れられていない。つまり、ATX 12Vコネクタを備えたATX電源であれば、基本的にBTXのマザーボードと組み合わせることが可能だ。実際、比較的大型のタワーケースでは、BTX規格になっても、ATX電源が使われ続けると考えられている。その一方で、新しく刊行されるデザイン・ガイドでは容積が6〜10リットルの省スペース型ケース用のウルトラ・スモール電源、同じく10〜15リットル・クラス向けのスモール電源が定義される予定だ。スロット1本のマザーボード・フォームファクタの規定に始まって、冷却ファンの集約、小型電源の規定など、システムを静かで小型なものにしていこうという狙いをBTX規格から見て取れる。通常フォームファクタの切り替えは時間がかかるため、現在のATXのようにBTXが普及するには数年を要するだろうが、まず省スペース型のビジネスPCから普及がスタートするのではないかと考えられる。

EFIでBIOSも過去のものに

 BTX規格は、拡張スロットの位置という、PC/XT以来のレガシーを消し去ろうとしているが、もっとPCの機能に直結したレガシーを排除しようという動きが今回のIDFで明らかにされた。現行のBIOSに代えて、新しいEFIに準拠したファームウェアを搭載しようという動きだ。EFI(Extensible Firmware Interface)は、レガシー・フリーのプラットフォームとして出発したIPFプラットフォームで採用されているファームウェア・インターフェイスの標準である。これをIA-32の世界にも持ち込もうというものだ。

 ただしIPFと違って長い歴史を持つIA-32の世界では、既存の拡張ROM BIOS付きのカードとの互換性や、既存のシステムBIOSを想定したOSとの互換性をいきなり破棄するわけにはいかない。そこで、既存のBIOSとの互換性を残しつつ、EFIに移行するための新しいファームウェアの枠組み(EFIフレームワーク)が、Tiano(ティアノ)という開発コード名で開発されてきた。今回のIDFではTianoがIntel Platform Innovation Framework for EFIという形で正式発表された。

 EFIフレームワークに準拠したファームウェアは32bitフラットのメモリ空間の利用を前提にしているため、既存のBIOS(MS-DOSを前提としたBIOS)と異なり1Mbytes以下のアドレスを取り合ったり、OSでは利用できないコード(BIOSルーチン)に労力を払ったりする必要はなくなる。EFIに準拠したファームウェアのルーチンは、近代的なOSのドライバから呼び出して利用することが可能だ。

 IPFで使われているEFIを利用したことのある方なら、EFIのインターフェイスがMS-DOSのようなコマンドライン・ベースのものであることをご存知だろう。広く普及させるにはこれが障害となりそうだが、名前の通り拡張性に富んだEFIなら、ユーザー・インターフェイスのプログラムを用意することで、どのようなユーザー・インターフェイスにすることもできる。本格的な普及期の前には、もっと使いやすいものになるハズだ。Intelでは今後2〜3年で同社のリファレンス・ボードをEFIフレームワークに準拠したものに変更する予定で、2007年までには「BIOS」といえばEFIフレームワークに準拠したものを指すようにしていきたい、と述べている。

 以上が今回のIDFにおけるPC関連の主なトピックだ。ほかにもWiMAX(IEEE 802.16aを用いたラストワンマイル・ソリューション)やUWBなどの通信関連のトピックもあり、パッと見には主役(90nmプロセス製造のプロセッサ)の欠席を感じさせないものだった。次回は2004年2月に場所をサンフランシスコ(San Francisco)に移しての開催となるが、おそらくこの時点では90nmプロセス製造のプロセッサは出荷済みのハズだ。次として、どんな話題が用意されるのか、いまから楽しみだ。記事の終わり

 

 INDEX
  IDF 2003 Fallレポート
  4つのTでIntelがサーバとPCを変革する
    1.発表間近のPrescottが展示されなかったIDF
    2.Intelが注力する「4つのT」とは
    3.サーバもPCI Expressへ移行
  4.PCI ExpressとBTX規格がクライアントPCを変える
 
目次ページへ  「System Insiderの解説」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間