[ガートナー特別寄稿]
独自の自律型コンピューティング戦略を発表したマイクロソフト

ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2003/3/21

 「今日の典型的情報システム組織では、その予算の70%が既存システムの保守のために使用されており、新規案件に割り当てられる予算は30%にすぎない。情報システムのインフラから複雑性を排除して保守コストを削減し、予算の45%を新規案件に利用できるようにすることで、企業のビジネスのアジリティ(俊敏性)を大幅に向上できる」――ここまで聞くと、IBMかサンかHPのプレゼンテーションの冒頭のように聞こえるかもしれないが、これは先日行われたアナリスト向け戦略説明会におけるマイクロソフト幹部の発言である。

 今までの感覚で言うと、マイクロソフトとデータセンター運用は、あまり縁のない存在だったように思えるだろう。同社は、個々の製品レベルでは、さまざまなウィザード機能やGUIを駆使した管理機能を提供することで使いやすさを追求してきたが、複雑なデータセンター環境の運用という点では、ほかのシステム管理ソフトウェア・ベンダやユーザーに負担(とビジネス機会)を任せてきたからである。

 しかし、3月13日、マイクロソフトはシステムの複雑性を解消し、運用管理を飛躍的に効率化するための戦略であるDSI(Dynamic System Initiative)を発表した。

 この戦略は、前々回「PBCS:ガートナーが考える自律型コンピューティングのビジョン」で述べたガートナーの自律型コンピューティング・ビジョンであるPBCS(ポリシー・ベース・コンピューティング・システム)に相当するものであるといえる。ちなみに、ガートナーでは用語を変更し、今後PBCSではなくRTI(リアルタイム・インフラストラクチャ)という用語を使用していく予定である。無用な混乱を避けるためにも世の中に定着しつつある用語の変更はあまりしたくないのだが、PBCSという言葉ではイメージがわきにくいという顧客からの声に応えたものである。

 周知のようにRTIの領域ではすでに多くのベンダが戦略を表明しているが、マイクロソフトはどのような差別化要素を提供できるのだろうか?

 同社の強みはなんといっても、OS、ミドルウェア、開発ツール、そして、一部の上位アプリケーションによる統合されたソフトウェア製品群を擁していることである。統合されたソフトウェア・スタックの存在は他社製品との競争を排しがちであるという点で、ビジネス・プラクティス上の批判を浴びることはあるが、インフラ管理の単純化という点でユーザーにメリットを与えられるのは確かである。実際、ソフトウェア・スタックを統合化し、もともと複数の製品から成っていた機能をバンドルして提供するのは、マイクロソフトに限らず、オラクルなどのほかのソフトウェア・ベンダも推進している戦略である。さらに、サンマイクロシステムズも2月25日に発表した「プロジェクト・オリオン」で、マイクロソフト型のソフトウェア提供モデルを目指している。

 DSIは、OSだけではなく、ソフトウェア・スタック全体を対象とし、さらに、実行環境だけでなく、開発環境をも包含している点に大きな特色がある。真にインフラ管理の負荷削減を行いつつ、サービスレベルを向上したいのであれば、運用を後付けで考えていては駄目であり、アプリケーション設計開発の段階から運用要件を見込んでおかなければならないからである。より具体的に言えば、SDM(System Deifinition Model)と呼ばれるXMLベースのリポジトリをベースにソフトウェアのライフサイクルの全域にわたる保守負荷の低減を目指している点に、DSIの最大の特徴がある。

 他社のRTI戦略と同様、DSIはその完成に10年レンジの期間を要する長期的なビジョンである。現時点で具体化している要素の1つが、2月19日に発表されたコネクティクスからのテクノロジの買収である。コネクティクスの製品は、マッキントッシュ上でPCアプリケーションを実行するためのエミュレータとして広く認識されているが、より重要なのはソフトウェア区画分割(バーチャル・マシン)技術の方である。

 前々回にも述べたように、コンピュータ資源の仮想化は、RTI実現の第一歩である。そして、サーバ資源の仮想化の第一歩は、サーバの区画分割機能、つまり、1台の物理的なサーバを複数の仮想サーバとして運用できる点である(一方、複数台の物理的サーバを1つの仮想サーバとして運用する機能も重要だが、その実現にはさらに時間を要することになるだろう)。Wintelの世界では、ユニシスやIBMのハイエンドIAサーバで、すでにハードウェア的な区画分割機能がサポートされており、VMwareの製品によるソフトウェア区画分割機能も使用され始めている。今回、マイクロソフトがソフトウェア区画分割の機能を入手したことで、Wintelサーバの区画分割機能が、UNIXサーバと互角に競合していく下地が整ったと言える(逆に、VMware社のビジネスに与える影響は少なくないだろう)。

 プラットフォームベンダが性能と機能の豊富さだけで競い合う時代は終わりつつある。ベンダの差別化要素が、ユーザーのインフラ管理の課題解決へと向かうことは必然的な流れである。今回のマイクロソフトによるRTI戦略の発表は、業界全体が自律型コンピューティングへ向かうメガトレンドを、さらに加速することになるだろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 栗原氏からの寄稿である。

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