ニュース解説

NVIDIAがXboxを先取りするAthlon向けチップセットを発表

元麻布春男
2001/06/13

 2001年6月4日、大手グラフィックス・チップ・ベンダのNVIDIAは、かねてより「Crush(クラッシュ)」の開発コード名で知られてきた、グラフィックス統合型チップセット「nForce」を正式に発表した(NVIDIAの「nForceに関するニュースリリース」)。このチップセットは、いわゆるノースブリッジに相当するIGP(Integrated Graphics Processor)と、サウスブリッジに相当するMCP(Media and Communications Processor)の2チップから構成されており、両チップはAMDが提唱しているHyperTransportテクノロジ(最大800Mbytes/s)というポイント・ツー・ポイント型リンクで接続される(HyperTransportについては、「元麻布春男の視点:AMDがHyperTransportを公開した理由」を参照のこと)。

nForceを構成するIGP(左)とMCP(右)
IGPには、GeForce 2 MX相当のグラフィックス・コアとPC2100に対応したメモリ・コントローラが内蔵されている。MCPは10/100BASE-TX対応のネットワーク・コントローラ(MACのみ)とドルビー・デジタルに対応したサウンド機能などを内蔵する。

nForceを構成するICPとMCPの機能

 IGPは、AthlonDuronのシステム・バス(EV6バスのFSB)に対応したホスト・インターフェイス、128bit幅あるいは64bit幅のDDR SDRAMメモリ・インターフェイス、GeForce 2 MX相当のグラフィックス・コア、HyperTransportインターフェイスを備える。IGPのEV6バスはベース・クロック100MHzと133MHzの両方に対応、DDR SDRAMメモリ・インターフェイスもベース・クロック100MHzのPC1600(DDR200)と同133MHzのPC2100(DDR266)の両方に対応しており、両者のクロックは独立して設定することが可能だ(つまりFSB 100MHzのプロセッサでも、PC2100 DIMMを使うことが可能)。

 メモリ・バス幅は、下位モデルが64bit幅(開発コード名「Crush 11」)、上位モデルが128bit幅(開発コード名「Crush 12」)となっているが、128bit幅のメモリは64bit幅の独立したメモリ・バンク2つで構成されており、プロセッサ、内蔵グラフィックス、オーディオ機能、そのほかのバスマスタ・デバイスといった、さまざまなメモリ・クライアントからのリクエストを独立して受けることができる。同社が「TwinBank Memory Architecture(ツイン・バンク・アーキテクチャ)」と呼ぶこのアーキテクチャにより、nForceは奇数枚のDIMMもサポートできるようだ。また、IGPはDASP(Dynamic Adaptive Speculative Pre-processor)と呼ぶ、プリフェッチ機能を備えた一種のキャッシュを持っており、プロセッサからのメモリ・アクセスの遅延(レイテンシ)を下げる工夫がなされている。

 一方のMCPは、Ultra DMA/100対応のATAインターフェイス、2コントローラ6ポートのUSB 1.1インターフェイス、AC'97インターフェイス、スーパーI/Oチップ用のLPCインターフェイス、PCIバス・ブリッジ、各種のネットワーク・インターフェイス(10/100BASE-TXおよびHomePNA 2.0のコントローラ)といった、一般的なサウスブリッジが備える機能に加え、強力なオーディオ・プロセッシング機能(APU)を持つことが特徴だ。APUは、DirectX 8.のオーディオ機能を完全にサポートしているだけでなく、S/PDIF入出力機能やリアルタイムでのドルビー・デジタル・エンコーディング機能を備えている。これにより、たとえばゲームのサウンドをリアルタイムでドルビー・デジタル信号に変換し、S/PDIF経由で外部のサラウンド・アンプに出力し、本格的なサラウンド・オーディオ・システムでゲームを楽しむ、といったことが可能になる。

 現時点では、このnForceの価格は明らかにされていない。また、量産時期についても、「2001年の冬には多くのデザイン・ウィン(製品の正式な採用)を獲得できるだろう」としているものの、明確な時期は示されていない。

大きな図へ
nForceのブロック図
nForceはIGPとMCPの2つのチップによって構成されている。IGPがノースブリッジ、MCPがサウスブリッジに相当する。この2つのチップ間は、800Mbytes/sのHyperTransportによって接続される。

nForceはXboxの流れを汲むチップセット

 と、以上が発表されているnForceの概要だが、nForceのアーキテクチャがマイクロソフトのゲーム専用機であるXboxのGPU(XGPU)とMedia Communications Processor(MCPX)にルーツを持つものであることは間違いない。というより、Xboxとの共通性は、NVIDIA自身が認めるところであり、それも含めたDirectX 8との高い親和性こそnForceの強みの1つだと考えられる。当然、nForceの機能は、3Dグラフィックスや3Dサラウンド・サウンドなど、ゲーム/マルチメディア方向に偏っているわけだが、果たしてnForceが、市場の半分を占めるビジネス市場に受け入れられるのかは、疑問が残るところだ。

 だが、NVIDIAがIntel製プロセッサのシステム・バス(FSB)のライセンスを持たず(にもかかわらず、Pentium IIIを用いたXbox用チップセットを作れるのは、Xboxの販売元であるマイクロソフトがライセンスを持っているからなのだろう)、少なくとも当面はAMD製プロセッサのみをサポートすることを考えれば、これも大きな問題ではないのかもしれない。現時点で、AMD製プロセッサがシェアを伸ばしているのは、主にコンシューマ向けの市場であるからだ。

 では、コンシューマ向け市場のどのあたりをnForceは狙うのか。NVIDIAが発表しているnForce関連のホワイト・ペーパー類を見ていくと、「最も高速なアーキテクチャ」「PCアーキテクチャの革命」「内部AGP 8x接続」など、高性能をうかがわせる言葉に目を奪われる。だが、こうした言葉を鵜呑みにして、nForceをハイエンド向けの製品と考えてよいのだろうか。

 nForceの持つ128bitメモリ・バスが、クライアントPC向けチップセットとしては破格(ほかにはATIのS1-370TLがあるのみ)といっても、それはあくまでもメイン・メモリとして捉えた場合の話だ。メイン・メモリに使われるDDR266メモリのベース・クロックは133MHzで、同じ128bitバスを採用するスタンドアロンのグラフィックス・アクセラレータであるGeForce 2 UltraやGeForce 3が採用する230MHzのDDRメモリとは比べようもない(XboxのようにDIMMによる実装を諦めれば、nForceのメモリ・クロックはもっと上げられるだろうが)。しかも、GeForce 3がメモリを事実上独占できるのに対し、nForceではプロセッサやほかのバスマスタ・デバイスとメモリを共有しなければならない。グラフィックス・コアが得られるメモリ帯域だけをとっても、両者には大きな違いがある。逆にいうと、たとえ128bitメモリ・バスを採用しても、内蔵グラフィックスが実際に利用可能なメモリ帯域は、nForceに搭載されているGeForce 2 MX相当のグラフィックス・コアに見合う程度なのかもしれない(GeForce 2 MXは、GeForce 2 Ultraの下位に位置付けられるメインストリーム向けの製品である)。

 もう1つ考える必要があるのは、GeForce 2シリーズとGeForce 3の機能的な違いだ。GeForce 3は、完全にプログラマブルなDirectX 8.0フル互換のグラフィックス・チップだが、GeForce 2シリーズはそうではない。メモリの帯域だけでなく、機能性を考えても、nForceをハイエンド向けのグラフィックス・チップと位置付けるのは難しそうだ。現状で考えて、nForceの性能的な位置付けは、メインストリーム級と見るのが妥当なところだろう。

  現在 2001年末(?) 将来
ハイエンドPC GeForce 3 NV25(GeForce 4?) GeForce n
メインストリームPC GeForce 2 MX GeForce 3 MX GeForce n-1 MX
グラフィックス統合チップセット nForce(GeForce 2 MX相当のグラフィックス・コア) nForce(GeForce n-2 MX相当のグラフィックス・コア)
NVIDIAのグラフィックス・コア戦略
NVIDIAのグラフィックス・コアの展開を予想したもの。「将来」のnには数字が入る。つまり、ハイエンドPC向けのグラフィックス・チップとしてGeForce nを出した時点で、メインストリームPC向けにはその1世代前のグラフィックス・コアを、グラフィックス統合チップセットでは2世代前のコアをそれぞれ採用することで開発コストの回収を行うという戦略ではないかと想像する。

 だが、nForceが出てくるのは、今年の冬だと言われている。今年の冬には、ハイエンド、メインストリームともに、それぞれ1世代新しくなる可能性がある。今年の冬にGeForce 3 MXが出るのかどうかはともかくとして、海外の一部報道によると、nForceの内蔵グラフィックス・コアがGeForce 3相当になるのは、18〜24カ月後のことだという。これが本当なら、年末ではないにせよ、いずれは表に示したような棲み分けになってしまうだろう。この場合、nForceはバリュー・セグメント向けの製品、ということになる。

nForceはバリュー・セグメント市場向けか?

 こうした棲み分けを行うメリットは、何といっても「一粒で3度おいしい」からにほかならない。まず新しいグラフィックス・コアをハイエンドのスタンドアローン・グラフィックス・チップとしてリリースし、次にそれをメインストリームに持ってきて、最後に統合型グラフィックス・チップに入れる。こうして次々に下位セグメントに移していくことで、半年単位という他社の追随を許さない開発サイクルを維持したままで、製品の寿命を延ばす(つまりは開発費の回収を容易にする)ことが可能になる。

 もし、nForceでハイエンドを狙うのであれば、nForceに統合されるグラフィックスは、Xboxと同じコア(開発コード名NV25相当)か、あるいは少なくともGeForce 3(開発コード名NV20)相当のものでなければならなかったハズだ。Xbox用のGPUがあることを考えれば、GeForce 3のグラフィックス・アーキテクチャが複雑で、チップセットに統合することが難しい、とは考えにくい(コスト的に難しい、というのはある得るが、ハイエンド市場向けなら問題にならないだろう)。

 nForceは、バリュー・セグメントからメインストリームの下あたりまでを狙ったチップセットではないか、というのが筆者の感想だ。NVIDIAがnForceで言いたかったのは、「統合グラフィックス即ローエンドではない」ということではなかろうか。

 確かにnForceでは、メイン・メモリやIGPとMCPを結ぶHyperTransportなど、既存のアーキテクチャに比べ、帯域面での優位さが強調されている。その結果、nForceが上位に位置付けられる製品のような印象を与えるが、帯域が必ずしも性能に直結しないのは、多くの人が知っているハズだ。たとえば、Intel 815とIntel 820では、Direct RDRAMを用いた後者の方がメモリ帯域が広いにもかかわらず、Intel自らがIntel 815の方が性能が優れるという文書をリリースした。ノースブリッジとサウスブリッジ間をPCIバスで接続するIntel 440BXから、2倍の帯域を持つHub LinkにしたIntel 815を搭載したPCに乗り換えても、体感できるような性能差はない。おそらく、現在DDR SDRAMが伸び悩んでいるのは、PC133 SDRAMに対して明確な性能差をつけられないからではないのかと思う。

 結局、帯域というのは、広いに越したことはないが、いたずらに広くしても効果は薄い。交通量の少ない道路を広げても、税金の無駄遣いになるだけで、渋滞の解消にならないのと同じことだ。nForceの128bit幅のメモリにしても、それが最も生きるのは内蔵グラフィックスを使った場合であり、外部AGPにグラフィックス・カードを差してしまえば、そのメモリ帯域は宝の持ち腐れになってしまうだろう。これまでのチップセットが、メイン・メモリをPC133からDDR SDRAMに変えても劇的な性能向上がなかったことがそれを示している。この状態でさらにメモリ帯域を2倍にしても劇的な変化は見込めないのは明らかだろう。もちろん内蔵グラフィックスを使った場合、話は異なってくる。

nForceがプロセッサを主役から引きずり下ろす

 これまでPCアーキテクチャを決める主役を勤めてきたのは、いうまでもなくIntelだ。Intelの基本方針は、プロセッサの高速化に伴い、ペリフェラル(周辺機器)側にあるインテリジェントなコントローラ(DSPなど)をプロセッサで肩代わりしていく、というものである。以前は、モデムやサウンド・カードには、必ずDSPのようなインテリジェント・コントローラが搭載されていた(大昔にはイーサネット・カードに80186のようなプロセッサが搭載されていたことさえあった)。現在では、こうしたコントローラは姿を消し、多くがプロセッサとソフトウェア処理にとって代わられつつある。ソフトウェア処理でカバーする範囲を広げることで、一時的にPCの性能が低下することもあったが、たゆまぬプロセッサの高性能化は、やがてそれを昔話にしてしまった。何より、こうした変化により、ペリフェラルの製造コストは大きく下がり、その結果PCの価格は劇的に下がった。ここでのドライビング・フォースは、PCの低価格化にあった、と考えてよい。

大きな写真へ
nForceを採用したMicroATXサイズのサンプル・マザーボード
AGPと2本のPCIスロットを装備している。PCIスロット横の白いスロットは、インテルのCNR(コニュニケーション・ネットワーク・ライザー:ネットワークのインターフェイス部分を装備するためのコネクタ)に相当するものと思われる。

 これに対しnForceは、プロセッサが肩代わりしてきた演算機能を、再びペリフェラル側に取り戻そう、という動きに見える(こうした基本哲学の違いが、IntelがNVIDIAに対してPentium 4などのバス・ライセンスの供与を拒んでいる理由かもしれない)。すでに、NVIDIAはGeForceシリーズで、PCの世界ではプロセッサによる処理が当たり前だったT&L処理(3Dグラフィックスにおいて、空間中の座標やレンダリング、ライティングなどを計算する処理)をグラフィックス・チップ側に奪還している。そのドライビング・フォースは、3Dグラフィックスと3Dサウンドの高性能化、高機能化にある(nForceの関連資料にも「低価格」という文字は見当たらない)。現在の停滞したゲーム市場を見ても、本当に3Dグラフィックスや3Dサウンドは万人が望むものなのか、という疑問もなくはない。が、すでに低価格競争が行き着くところまでいってしまったようにも感じられる昨今、ここらで振り子のゆり戻しがくる可能性はある。

 nForceの成功を占うには、価格や動作状況(互換性の状況)などの情報が欠かせないが、現時点では不明だ。どんなにスペックがよくても、PCIカードやAGPカードとの互換性、異なるベンダのメモリ・モジュールの混載など、現実にクリアしなければならない問題は多い(Transmetaがモバイル用プロセッサに注力している理由の1つは、こうした多様なデバイスとの互換性問題を回避するためだと筆者は思っている)。

 SGIのグラフィックス・ハードウェア部門を吸収したNVIDIAには、おそらくSGIでCobalt(SGI最初のx86ワークステーションに使われた独自開発のチップセット。統合型グラフィックスを採用した)を開発した技術者も移籍しているのではないかと思う(そうでなければ、Xboxの商談を勝ち取ることは難しかったのではないか)。そういう意味では、チップセット開発にまったく実績がないわけではないと思うものの、やはりその力は未知数だ。本当に安定したチップセットをリリースできるのか、この冬といわれるデビューを楽しみに待ちたい。記事の終わり

  関連記事(PC INSIDER内) 
AMDがHyperTransportを公開した理由
Rambus社に「敗訴」の司法判断 どうなるPentium 4のDDR SDRAMサポート

  関連リンク 
nForceに関するニュースリリース
IGPに関する製品情報ページ
MCPに関する製品情報ページ
HyperTransportがnForceで採用されたことに関するニュースリリース

「PC Insiderのニュース解説」

@IT Special

- PR -

TechTargetジャパン

System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)
- PR -

イベントカレンダー

PickUpイベント

- PR -

アクセスランキング

もっと見る

ホワイトペーパーTechTargetジャパン

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間
ソリューションFLASH