最適ネットワーク機器選択術

コラム
10BASE/100BASE以外のLAN規格

河部 拓
2000/05/26

 周知のとおり、10BASE-Tと100BASE-TXは広く普及しており、すでにさまざまな場面で利用されている。このほかにも1000BASE-T/Xや無線LANなど、イーサネットをベースとした規格が普及の兆しを見せている。ここでは、これらの新しいネットワーク規格について簡単に説明しよう。

100BASEのさらに10倍の伝送速度を実現した1000BASE-T/X

 1000BASE-T/Xは、伝送速度を1000Mbits/sにまで引き上げた、現在規格が定まっているイーサネットの中では最も高速なもので、「Gigabit Ethernet」とも呼ばれる。伝送メディアとして、光ファイバやシールド付きツイスト ペア ケーブル(STP)を使用するIEEE802.3z(1000BASE-X)が1998年6月に標準化され、一年遅れて1999年6月にUTPを使用するIEEE802.3ab(1000BASE-T)が標準化された(1000BASE-T/Xの詳細は、Master of Networkフォーラム特別企画 最新ネットワークケーブル事情」参照のこと)。

 1000BASEは、これまでのイーサネットで培われてきた技術と、ファイバチャネルから移行された技術が融合されたものとなっている。ファイバチャネルは、本来サーバ機器とストレージ機器を高速に結ぶ光ファイバを使ったシリアル インターフェイスであるが、このうちデータの符号化/復号化に関する技術とメディア インターフェイスに関する部分が、光インターフェイスを使用する1000BASE-SX/LX(後述)でも生かされている。また、イーサネット由来のものとして、CSMA/CD方式やフレーム形式などはそのままの形で引き継がれている。従来のイーサネットとの相違点としては、「キャリア拡張」と呼ばれるフレーム形式への拡張仕様と、その結果によるコリジョン ドメイン長の変更がある。1000BASEでは、伝送クロックが100BASEの10倍になっているので、そのままではコリジョン ドメインがわずか25mになってしまう。これを避けるために、データの長さが512bytesより短い場合には、キャリア拡張と呼ばれるダミーのデータを付加して、フレームの長さが最低でも512bytes分になるように調整する。このフレーム長の拡張処理をキャリア拡張と呼ぶ。この結果、コリジョン ドメインは200mとなった。ただし、全二重通信を行う限りはコリジョンは起こり得ない。

 現在のところ1000BASEは、主に企業ネットワークやキャンパス ネットワークのバックボーンとして使われ始めたところだ。以下で、簡単に各1000BASEの規格について紹介する。

■1000BASE-T

 伝送メディアに100BASE-TXと同じ、カテゴリ5のUTPを使用する。UTPケーブル中の4対のワイヤのうち、1対あたり250Mbits/sの伝送速度を実現し、4対全部を使用することで1Gbits/sec分の速度を得ている。ただし、伝送距離は100mと短い。敷設済のケーブルがそのまま利用でき、スイッチなどの機器も光インターフェイスのものより大幅に安価なことから、今後広く普及すると見込まれている。ただし、対応機器は1999年から出荷が始まったばかりで、相互接続性にはまだ問題が残っている。また、非常に高クロックでの伝送になるため、ケーブルの品質に敏感であるなど、いくつかの問題点もある。そのため、ケーブルのシールドを強化し、品質を高めたケーブル規格の「カテゴリ5U」を使用することが推奨されている。

■1000BASE-SX/LX

 伝送メディアとして光ファイバを使用する規格で、使用される光の波長と光ファイバの種類の違いによって、伝送距離が550mまでのSXと、3000mまでのLXの2種類がある。また、異種ベンダ間での接続互換性がないベンダ独自の規格として、伝送距離を30〜40km程度まで延長した製品も登場している。SX/LXの仕様の違いを表「1000BASE-SXとLXの違い」に示す。

規格名 1000BASE-SX 1000BASE-LX
使用波長 850nm 1300nm
使用媒体 MMF MMF SMF
伝送距離 550m 550m 3000m
1000BASE-SXと1000BASE-LXの比較
MMF: マルチモード ファイバ/SMF: シングルモード ファイバ

 1000BASE-SX/LXで使用される光ファイバという伝送メディアは、これまでもATM(Asynchronous Transfer Mode)やFDDI(Fiber Distributed Data Interface)といったほかのネットワーク技術で一般的に使われてきたものだ。これらは、企業のバックボーンなどで使われていたため、普通のPCユーザーにはあまりなじみがないものかもしれない。光ファイバの構造は、光の伝わるコアとその周囲のクラッドと呼ばれる部分の二層から構成されているが、コアの直径によりシングルモード ファイバ(SMF:Single-mode Fiber)とマルチモード ファイバ(MMF:Multi-mode Fiber)の2つの種類が存在する。マルチモード ファイバではコア直径が50μmのものと62.5μmのもの、シングルモードでは9μmのものが一般的である。現在はシングルモード ファイバが主流ではあるが、かつてシングルモード ファイバの製造が技術的に困難だったころは、マルチモードファイバが多く利用されていた。マルチモード ファイバは、長距離伝送には不向きであるが、今でもフロア内配線などの限定した用途であれば、十分に利用可能だ。すでにFDDIなどで敷設した配線を活かすことも可能である。光ファイバの接続用コネクタとしては、ATM用機器では広く採用されているFCといわれる形状のコネクタが使われる。

■1000BASE-CX

 伝送メディアとしてシールド付きツイストペア ケーブル(STP)を使用する規格。伝送距離は25mとごく短距離であり、スイッチやルータといった機器を設置するラック内での配線を想定している。ただし、現在市販されている機器では、ほとんど使われていない。

IEEE802.11準拠無線LAN

 無線LANは、IEEEで「IEEE802.11」として、当初は伝送速度1〜2Mbits/sの規格から標準化が始まった。現在も規格の拡張が行われており、1999年9月には高速無線LAN規格のIEEE802.11b(最大11Mbits/s)とIEEE802.11a(最大54Mbits/s)の仕様が固まった。現在、IEEE802.11bに対応した機器が相次いで発売されている。また、IEEE802.11aも今後製品が登場してくると思われる。無線LANは、ケーブルに縛られない端末移動が目的の1つであり、販売されているインターフェイスのほとんどがノートPCを前提としたものである。

 IEEE802.11で定める各規格を表「無線LANの各規格」にまとめる。ただし、無線LANの通信速度はあくまで最大値であり、イーサネットに代表される有線LANのように、規格どおりの速度が維持されるわけではないことに注意していただきたい。無線LANでは通信時のエラー発生率が一定以上にならないように、電波状況に応じて通信速度を順次下げていく(この動作をフォール バックと呼ぶ)。たとえば、通信速度が最大11Mbits/sの製品では、電波状況が悪化すると5.5Mbits/s、2Mbits/s、1Mbits/sといった具合にエラー発生率が減るように速度を下げる。無線LANの構築時には、常に最大の通信速度を維持できるような環境、たとえば後述するアクセス ポイントの設置場所などの検討が重要になる。

 なお、モデムやISDN接続のためのTA(ターミナル アダプタ)とPC間の通信を32〜64kbits/sで無線化するといった製品も販売されている。しかし、これらの製品は、PHSにおけるデータ通信テクノロジ(PIAFS)を応用し、SOHOや家庭内での利用を前提としたものであり、前出の無線LANとは土台となる技術がまったく異なるものだ。

■ネットワークの形式

 IEEE802.11では、ネットワークの構成方法として「インディペンデント方式」と「インフラストラクチャ方式」の2つを定めている。 まず、インディペンデント方式(アドホック形式と呼ばれる場合もある)だが、これは小規模なLAN、あるいは一時的なLANを構成するときに適した方法だ。この方式では無線LANに参加する各PCは、互いに直接通信を行う。

インディペンデント方式

 もう一方のインフラストラクチャ方式は、無線の基地局の役割をする「アクセスポイント」と呼ばれる機器を中心として、LANを構成する方式だ。本格的なLANを構築するためには、一般的にはこちらの方式を使用する。各PC間の通信は、インディペンデント方式とは異なり、すべてアクセスポイントが仲介することになる。ひとつのアクセス ポイントがカバーする通信範囲は「セル」と呼ばれるが、セルの大きさは半径50〜150メートル程度とされている。ただし、オフィスや家庭内の壁や障害物(家具など)の位置によって、電波の伝播状態は大きく変化するため、数値はあくまでも参考程度と考えたほうがよいだろう。

インフラストラクチャ方式

 インフラストラクチャ方式では、アクセスポイント同士をイーサネットなどの有線LANで接続することで、隣り合ったセルを連結してサービスエリアを拡大することもできる。これにより、PCはサービスエリア内にいるかぎり、通信を続けたままセルの間を自由に行き来できるようになる。PCは受信する電波の強さを監視し、通信相手となるアクセスポイントを自動的に切り替えるが、この自動切り替え機能は「ローミング」と呼ばれる。

■無線LANの基本はCSMA/CA方式

 無線LANでは、空間を飛び交う電波を利用して通信をするわけだが、メディアを共有するという意味ではイーサネットと同じである。したがって、メディアの競合をうまく調停する仕組みが必要となる。そこで、IEEE802.11ではCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)と呼ばれる仕組みを採用している。これはイーサネットのCSMA/CDとよく似たものであるが、無線LANでは、イーサネットのように衝突の発生が検出できないので、あらかじめ衝突を防ぐため「Collision Avoidance(コリジョン アボイダンス)」と呼ぶ仕組みが導入されている。

 データを送信する機器が、送信前に、ほかの機器が送信をしていないかを確認するところまではイーサネットと同じである。しかし、CSMA/CA方式では、空きを確認後、送信を開始する前にランダムな時間だけ待機し、再度ほかの機器による通信がないことを確認したうえで送信を始める。このランダムな待機時間によって、各機器間の通信が衝突する確率を少なくするのである。加えて受信側の機器では、データを無事受け取ることができると、送信側にACK(Acknowledgeの略:承認)と呼ばれる送達確認信号を送り返すことで、1回の通信が完了する。送信側では一定時間内にACKを受け取ることができなかった場合には、送信中に障害が発生したものと判断して、再度同じデータを送信する。

 さらにIEEE802.11では、アクセス制御のために「ポーリング方式」と「RTS/CTS(Request to Send/Clear to Send)方式」の2つのオプションが定められている。ポーリング方式は、アクセス ポイントが通信を行う機器の順番を集中管理する方法である。一方、RTS/CTS方式は、通信に先立って、各機器がアクセス ポイントに対して通信時間の予約をする方法である。ともに送信時の衝突を排除するための手段であるが、製品によってはこれらのオプションが搭載されてない場合もある。

標準化規格名 概要
IEEE802.11 1997年6月に標準化された規格。伝送速度は最大2Mbits/s。周波数帯域として2.4GHz帯を使用する。また、波長850〜950nmの赤外線を利用する伝送速度が最大2Mbits/sの方式も定められているが、こちらはほとんど普及していない。IEEE802.11準拠とされていた製品でも相互接続性が十分でないのが実情である。
IEEE802.11a 1999年9月に新たに追加された規格。伝送速度は最大54Mbits/s。周波数帯域は5GHz帯と、IEEE802.11/802.11bとは異なる帯域を使用する。製品化は2000年度からと見られている。ただし、当初の製品の通信速度は、規格上の最大である54Mbits/sではなく、20Mbits/s程度のものになる模様。
IEEE802.11b 1999年9月にIEEE802.11aと同時に追加された規格。伝送速度は最大で11Mbits/s。IEEE802.11と同じく2.4GHzの周波数帯を利用する。現在製品化されているのは、この規格によるものがほとんどである。1999年の標準化に先だってWECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)という業界団体が発足しており、本規格を「Wi-Fi(ワイファイ)」と呼ぶことなどが決められている。これまでIEEE802.11準拠の製品間では相互接続性が保証されていなかったが、IEEE802.11b準拠の製品については、今後WECAによって各製品の検証がなされ、相互接続性が確認されることになっている。またIEEE802.11a準拠製品についてもWECAが検証を進める予定だ。
無線LANの各規格

 

関連記事
特別企画 最新ネットワークケーブル事情

 
     
 INDEX
  [特集]最適ネットワーク機器選択術
  1. イントロダクション
  2. イーサネットの基礎の基礎
    2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある
      コラム:IEEE802の各種規格
    2-2. イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン
    2-3. 現在の主流、100BASE-TXを知る
    コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格
  3.
    3-1. デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適
      コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード
    3-2. 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント
    3-3. 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする
      コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い
    3-4. ノートPC用にはPCカードから選ぶ
    3-5. 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか?
    3-6. PCカードならケーブルの接続方式がポイント
    3-7. イーサネット ケーブル直結方式は便利か?
      コラム:USBによるイーサネット接続
    3-8. デバイス ドライバは重要な選択ポイント
    3-9. もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ
      コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び
  4.
    4-1. ハブ/スイッチの種類と機能
    4-2. ハブ/スイッチ選択の基礎知識
      コラム:そのほかのネットワーク機器
    4-3. ハブ/スイッチ選択のポイント

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