リッチクライアントベンダ・インタビュー(10)

「Adobeとしては、
AIRでWebブラウザは作らない」


@IT編集部
2008/10/31

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 主要なRIAリッチクライアント・ベンダのエバンジェリストたちに、リッチクライアントの未来、マーケティング戦略、テクノロジ動向などについてインタビューを行っていくシリーズ。第10回はFlash/Adobe AIRの第一人者に話を伺った。

 先月末、Adobe AIR(以下、AIR)のエバンジェリストで米Adobe Systemsのプラットフォームチーム デベロッパーリレーションズ担当 プリンシパルプロダクトマネージャーのMike Chambers(マイク・チェンバース)氏と、プラットフォームエバンジェリストでFlex開発に従事しているRyan Stewart(ライアン・スチュワート)氏が来日し、@IT編集部ではFlash/AIRについてインタビューする機会を得た。

笑顔で撮影に応じてくれたライアン・スチュワート氏(左)とマイク・チェンバース氏(右)
笑顔で撮影に応じてくれたライアン・スチュワート氏(左)とマイク・チェンバース氏(右)

――マイク・チェンバース氏のこれまでの経歴と現在の業務・役割について教えてください。

マイク・チェンバース氏(以下、チェンバース):私は、現在Adobe SystemsでFlashのプラットフォームに関するプリンシパルプロダクトマネージャーという役職をもらっている。一番大きな役割は基本的に開発者たちと常に接触を保ち続けるということだ。つまり、開発者たちが何を考え、何を求め、何に情熱を傾けているのかをAdobe Systemsとして理解することだ。また、それだけではなく逆に開発者たちに、Adobe Systemsがいま何をしていて、なぜそんなことをしていて、基にあるビジョンは何なのかを理解してもらう役割もある。最初は米Macromediaに入社していて、そのころから含めて約8年Flashランタイム向けアプリケーションの構築に取り組んでいる。

――米Adobe Systemsでは、現在のAIRの開発チームは何人ぐらいの体制で動いているのでしょうか?

チェンバース:具体的な数字は分からないが結構大人数で動いていて、AIR自体がさまざまな技術を駆使しているので、いろいろなチームにまたがって広がりつつある。AIRのチームも単体で存在するが、Flash PlayerやFlex、FlexBuilderDreamweaver、さらにオープンソースのWebKitのチームにまでまたがっている。

 

Flash/AIRの現在と今後

――現在のAIRのバージョンが1.1ですが、今後の方向性やロードマップについて教えてください。

チェンバース:AIR 1.1は1.0に比べて少し改良を加えたものだ。AIRの今後としては、より頻繁に細かいリリースを行うことを、実は一番の戦略としている。というのも、開発者やユーザーたちの要求にすぐに応えることができるというのを示したいからだ。次の大きなリリースに関しては現在も作業中で、バージョン1.5のリリースだ。1.5では、よりリッチなアプリケーションを構築でき、表現力が向上する。それに加え、もちろんAIR自体のパフォーマンスや安定性を向上し、新しく5カ国語に対応する。

――表現力が向上するというのは具体的にどのようなものでしょうか?

チェンバース:AIRの持つ利点は「Flash Playerの下で開発ができる」ということだ。それは、開発者やデザイナ、そしてAdobe Systems自体にも大きな利点となっているのだが、一番のキモとなっている。そのFlash Playerのバージョン10は、いままでで最も野心的なリリースと位置付けている。なぜかというと、表現力がこれまでと一線を画すからだ。その表現力がAIR 1.5でも享受できるのは大きい。また、最近発表した「Adobe Creative Suite 4(以下、CS4)」のツール群を使うことによって、設計/デザインという観点からもAIR 1.5、さらに表現力を上げることができる。CS4によって初めて、デザイナたちも表現力豊かなコンテンツを、Webブラウザだけでなくデスクトップでも作ることができる。

――では、1.5以降についてはいかがでしょうか?

チェンバース:私たちが考える現在のトレンドは、かなりのことがモバイルでも実現できるということだ。そのため、AIRがモバイルの世界にどのように適用できるかをかなり長い時間を費やして調査している。

――モバイルというと、やはりiPhoneAndroidにFlash PlayerやAIRを搭載することを視野に入れているのでしょうか?

チェンバース:Flash PlayerがいままでWebの世界に何をもたらしたかを思い起こしていただきたい。Flash Playerは開発者やデザイナがプラットフォーム/OSを問わず、“アプリケーション・エクスペリエンス”というものをWebブラウザ上で展開する手助けになったと自負している。そして、それはデスクトップでもAIRでお手伝いできると思っている。さらに、それをモバイルでも同じ形で実現したい。どのプラットフォームでという具体的なお話はできないが、液晶画面があるところならどこでもFlash Player/AIRをお届けしたいと思っている。

――モバイルに関連して、Open Screen Project(以下、OSP)とAIRの関連性について教えてください。

チェンバース:OSPは20社が一堂に会して数カ月前に発足した。その目標としては、コンテンツ開発者やデザイナがPCやモバイル、テレビなどを問わず、さまざまなスクリーン(液晶画面搭載端末)/プラットフォームでFlash PlayerやAIRのコンテンツを実際に作成して展開できるようにしていくことだ。現在の段階では、モバイルの実行環境はFlash Player/Flash Liteで、それを広めるためにさまざまな試みをしてきた。具体的にいうと、SWFのスペックやFLV(Flash動画)に対するライセンス制約の撤廃、AMF(Action Message Format)やFlash Castプロトコル、通信関係のデバイスのプロトコルのオープン化などがFlash PlayerとAIRの両方で当てはまる。さらに、Flash PlayerやAIRの次期バージョンアップで実行環境をデバイスにポーティングするためのSDKやAPIを無償で公開することを約束している。ただ、Flash技術搭載のモバイル端末は全世界で8億台を超えているので、これらの取り組みはAIRよりもFlash Playerの方がインパクトが大きいだろう。Flash Playerに比べAIRはまだ少し歴史が浅いが、これから時間をかければ、AIRもFlash Playerと同じぐらいの影響力を持てると思っている。

 

Flash Player普及率97%の要因とは?

――確かに、Flash Playerは非常に高いPC普及率を示していますね。

チェンバース:Flash Player 9のPC普及率は現在97%で、半年前にリリースしたバージョン9.0.115でも、81%という数字となっている。

――その普及率の要因は何が考えられますか?

チェンバース:一番大きな理由は、コンテンツだろう。当然ながら、コンテンツというのは開発者やデザイナが作るものだが、その数が増えて、その質が高まれば高まるほど、多くの人がそれを見たいと思うようになり、それによってより多くのFlash Playerがインストールされるという“プラスのサイクル”が続いてきたのだろうと思う。最近は、そのサイクルがさらに加速していると感じている。その理由はWeb上の動画で、Web上の動画の視聴の90%以上がFlash Playerで行われているという数字もある。

――それはやはり、YouTubeのような動画視聴/共有サイトができたのが大きかったのでしょうか?

チェンバース:確かに、動画視聴/共有サイトも大きな要因だと思うが、それだけが理由ではない。その奥にある背景としては、ブロードバンドの普及があるし、Flash Playerの普遍性やユビキタス性によって、Web上での動画の視聴がWebの一部となったことが挙げられる。Flash Playerがいままでと違ったユーザー・エクスペリエンスを実現したのだ。

YouTubeの使用例
YouTubeの使用例

――では、AIR実行環境の普及はまだまだこれからだと思いますが、Flash Player普及のノウハウの中でもどの点を応用させればいいとお考えですか?

チェンバース:AIR実行環境の普及のためにまず私たちが行ったこととしては、ユーザーがFlash Player経由でAIR実行環境をインストールできるようにした。AIR実行環境では、インストール体験としてもFlash Playerと違和感がないものにしている。

――AIR実行環境の普及には、Flash Playerのようにコンテンツも重要ですか?

チェンバース:100%そうだと思う。コンテンツがなければ、いまのFlash Playerはあり得なかった。Flash Playerが革新を続けられた要因としては、常に市場で何が求められ、何が使えるのかを調査してFlash Playerに採用してきたからだ。それが最初はアニメーションで、次に高度なスクリプティング、そして最近では動画が使えるようになってきている。そういった革新は、開発者やデザイナが次はどんなコンテンツを作ろうかといった動きにつながり、その結果多くのユーザーが見て活用する。

 

「Adobeとしては、AIRでWebブラウザは作らない」

――では、AIRでコンテンツを活用するためのアプリケーションとしてAdobe Media Player(以下、AMP)があると思いますが、現在の利用状況はどれくらいでしょうか?

チェンバース:AMPは利用する人によって異なると思う。例えば、コンテンツ提供者だったら、自分の持つ動画コンテンツを一定のブランドの下でチャンネルとして公開できる。もっと個人的な体験をユーザーとともに作っていきたい場合は、Webブラウザとして使うこともできる。ユーザーには、Flash動画をWeb上からデスクトップに持ってきて見たいときに使ってもらう。採用率については私たちは満足している。コンテンツ提供者としては、米ではCBSがパートナーとなっていて、今後はユーザーやコンテンツ提供者と協業しながら、必要とされる機能を追加していきたい。

AMPの使用例
AMPの使用例

――いまWebブラウザというお話が出ました。現在、Internet ExplorerFirefoxSafariOperaGoogle ChromeなどさまざまなWebブラウザが出回っていますが、もしもAIRのキラーコンテンツとしてWebブラウザを作るとしたら、Adobe Systemsとしてどういった特徴的機能を搭載しますか?

チェンバース:AIRのゴールは、Web開発者がデスクトップのスキルを十分に活用することだ。もちろん、AIRはWebKitを搭載しているので、AIRアプリケーションの1つとしてWebブラウザを作ることは可能だが、Adobe SystemsとしてはWebブラウザの作成を目標としてはいない。また現在の市場状況を見ても、ユーザーが現在あるWebブラウザとは別の新しいものを求めているとは思わないが、Flashのコミュニティは非常にクリエイティブな集団が集まっているので、データ間のナビゲートの仕方をどうするべきかなどWebブラウザの可能性について話しているかもしれない。

――分かりました。では、また答えにくい質問かもしれませんが、WPF/SilverlightやGoogle Chrome/GearsMozilla PrizmCurl Nitroなどオフライン/デスクトップ系に関する他社技術や、HTML 5などの中で注目しているものはありますか?

チェンバース:RIAというアイデアそのものは、私たちAdobe SystemsそしてMacromediaがパイオニアとして、4、5年前にFlash Playerで初めて作り出したコンセプトだ。現在RIA周辺では非常に多くのエキサイティングなことが起きているが、これは私たちが当時掲げたビジョンが正しかったことの裏付けになっていると思う。だから、私が一番興味があるのは、現在のRIA/Webブラウザ周辺でいろいろなことが起きているという事実自体かもね。ほかにも、WebブラウザのJavaScript/ActionScriptの実行環境が非常に改善され、SpiderMonkeyTamarinV8 JavaScript Engineなどが出現したことには注目している。Adobe Systemsとしては、こういった動きをサポートして貢献するためにFlash Playerのコアな部分を公開している。公開したことによってFirefoxが改善され(※編集部注1)、彼らの方でもっと高度なスクリプティングを実現している。Flash PlayerはWebブラウザ上で実行されるので、Webブラウザにどんどん改善が施されることはFlash Playerにとってもプラスだと思っている。

編集部注1:Adobe SystemsがAVM(ActionScript Virtual Machine)のソースコードを公開したことによって、Mozilla FoundationがTamarinという新しいオープンソースプロジェクトを作った。その成果として、Firefox 3.1のJavaScriptエンジンである「SpiderMonkey」上にTamarinが統合される
 

Adobe Max 2008の見どころと日本人への期待

――最後に、これが一番答えにくい質問だと思いますが、今年の「Adobe Max」で一番の目玉となるのは、どの分野ですか?

編集部注2:「Adobe Max」はAdobe Systemsが毎年世界中で開くイベント。例年Adobe Systemsの新製品や新戦略、今後のロードマップなど重要な発表が行われている(参考:Officeやファイル共有も!? 米のAdobe Max2007総評

チェンバース:(笑)確かに答えにくいが、今年のAdobe Maxでは私たちは大きく3つのテーマを掲げている。それは、「モバイル」、「クラウド」上でのクライアントアプリケーション/サービス、アプリケーション/コンテンツの「ソーシャル化」だ。ほかにも、先ほど話したCS4のツール群を使ったセッションやハンズオンを予定している。今回の滞在中に日本のFlexユーザー会(Flex User Group)の方々とCS4について話したが非常に好評だったし、デザイナの方々も非常に期待しているようだ。最近は、米でのAdobe Maxにも多くの日本人の開発者やデザイナが参加していると認識しているので、CS4周りの情報についても楽しみにしてほしい。私たちとしても、世界中の開発者やデザイナとお話しできるので、今年のAdobe Maxも楽しみにしている。

――日本人のお話が出ましたが、日本人の開発者やデザイナについてひと言メッセージをいただけますか?

チェンバース:私は今回で5回目の来日だが常にいえるのは、“すごいもの”“かっこいいもの”はいつも日本発信ということだ。通常「かっこいい」というと、「視覚的にかっこいい」と、とらえられがちだが、それは決して「視覚的に」という意味ではない。日本の方々には、そのすごいことを続けてほしいし、私たちの技術でできることの境界線をどんどん押し広げてほしいと思っている。

――ちなみに、日本で“かっこいい”と思ったのは、例えばどんなことでしょうか?

チェンバース:それは、オープンソースのいろいろなActionScriptライブラリを作っている「Spark project」だ。19歳の開発者が作ったものだと聞いている。

ライアン・スチュワート氏:私は今回の来日で、FlexアプリケーションをRuby on Railsとつないで統合するというオープンソースのプロジェクトを日本人開発者が行っていると聞いて、非常に興味を持った。日本のコミュニティの方々は私たちのFlash/Flexといった技術と、もっと広く使われているJavaPHPといった技術をうまく統合する力を持っていると思っている。今後は、その力をAIRに対しても発揮してほしい。


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